◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

53 / 89
うん。僕は君のそういう所が好きだよ

 珱嗄と6人の婚約者候補は以前からの知り合いであった。

 

 月氷会を創設した関係も有り、珱嗄は黒神家の分家全てにある種の交流を持っている。とはいってもほんの少し程だが。

 だが、それでも珱嗄と7つの分家の関係は随分と深い繋がりになっていた。更に言えば、珱嗄は幾つかの分家の後継者である子供に名前を付けた事もあるのだ。所謂名付け親。

 という事は、珱嗄は知っているのだ。この場に居る彼ら6人が黒神めだかの婚約者候補『では無い』事を。

 

 影武者、代替品、代理人。言い様によっては色々と言えるが、珱嗄達とめだか達が会見した時点では、所謂本物が来るまでの代理人が当てはまる。

 そして、現在でいうならその役目は影武者に変化する。何故なら、

 

「最後にスキルを数えるスキル【指折り確認(カウントアップ)】。刀剣系スキル×100、格闘系スキル×100、魔法系スキル×100、精神系スキル×100、生物系スキル×100、ボス系スキル×100。結構使ったね、どっちが勝ってもおかしくない名勝負ばかりだったぜ」

 

 安心院なじみによってその7人全員が地に沈む形になってしまったからだ。本人の代わりに倒される役目、とくれば影武者が何よりもピッタリ当て嵌まるだろう。

 ちなみに、珱嗄は元々めだかの側だ。つまり、影武者7名がやられていく様を特になんの干渉もなく、特になんの感傷もなく、特に興味もない様子で観賞していた。

 そしてかの言彦には対して効かなかったスキル弾幕は、しっかり影武者全員を圧倒的に叩きのめしたのだった。

 

「で、そこの変態スク水幼女ちゃん。あの子達はまだ来て無い訳?」

 

「兎洞武器子ですよ、泉ヶ仙珱嗄様。ええ、実は全員寝坊で遅刻です」

 

 珱嗄の言葉に武器子は些か謙遜した様な、敬服している様な態度でそう返した。どうやら創設後に放置したとはいえ、月氷会創設者に対しては中々に尊敬心を持っている様だ。

 と言っても、珱嗄がそれで月氷会に味方するという訳ではない。武器子もそれは分かっているし、珱嗄の性格と実力も同じ様に月氷会の中では伝わっているのだ。寧ろ、敵対しない様にするのが一番ベストな方針であると考えている。

 

「なるほど……えーと、俺が名前を付けたのは……生煮、もぐら、かけがえの三人だったか……三人とも同じ様な由来なんだよね……」

 

 生煮、もぐら、かけがえ、この三人は未だに登場していないが、珱嗄が名前を付けた今回の婚約者候補の内の三人だ。そしてその三人の名前を由来を記すなら、こうだ。

 

 

 見に行った時、まだ生のまま煮えていないコンビニのおでんを食べていたから、生煮。

 

 

 生まれた日に珱嗄がモグラを見たから、もぐら。

 

 

 会った時着なれていない洋服のボタンを掛け違えていたから、かけがえ。

 

 

 本当にどうでもいい由来の下名付けられているのだ。こんな由来で名前を付けられた三人の婚約者達にはとてもじゃないが同情を隠せない。とはいえ、それでも珱嗄は名付け親、三人の幼子達はそんな珱嗄に良く懐いた。遊んでとせがみ、構ってとぐずり、珱嗄が帰ろうとすれば泣いて引き止める。そんな子だった。

 

 珱嗄の前では、黒神という闇に関わる分家の子としては異常に、随分と平凡かつ普通な子供だった。

 

「……あとは喪々と常套、遂だったか。面白い子であればいいんだけど」

 

「まぁ……そこそこ楽しめるメンツではあると思いますよ?」

 

「えーと、話を遮るようで悪いんだけど、少し状況を説明してくれないかな? 珱嗄?」

 

 そこへ割りこんできたのは先程まで影武者6人を叩きのめしていた安心院なじみ。武器子と珱嗄があたかも知り合いであるかのように会話し、幾らか珱嗄が武器子の上司であるかのような雰囲気が少し疑問だったのだ。

 更に言えば、そんな雰囲気でも珱嗄が他の女性(スク水ロリ)を話しているのを見て少し邪魔したくなったのも割り込んだ理由に入っている。

 

 存外、安心院なじみという人間は恋に一途でありながらも少しばかり独占欲が強い様だ。また、初恋は実らないというジンクス的な話を鍋島猫美から聞いた帯刀靱負からなじみは聞いていたので、そのせいも有ってかその独占欲は表に出るようになっている。

 

「なじみか。ああ……ん? とりあえず甲板に本物来たみたいだし全員そっち送ってから話そうか」

 

 珱嗄はそう言うと、スキルでなじみ以外の全員を甲板に送った。部屋に静まり返る沈黙が、二人を包みこんだ。

 

「さて、話そうか。実は月氷会って俺が創った組織だったんだよね」

 

「え?」

 

「ほら、めだかちゃんが来るまでの話で俺がちょっと前に何かしてたでしょって話が上がったじゃないか? その答えがコレだよ。俺はお前が目的に夢中になってた時期に月氷会を創ってたんだよ」

 

 珱嗄の台詞に、なじみは眉間を抑える様にして短く息を吐いた。そして少し呆れた後、ふと笑って珱嗄に笑い掛けてこう言った。

 

「相変わらず馬鹿だねぇ珱嗄は」

 

「40億年位昔から分かってただろう? 生粋の娯楽主義者の珱嗄さんだぜ? 馬鹿で結構、その方が面白い」

 

「うん。僕は君のそういう所が好きだよ」

 

 なじみはそう言って、珱嗄にくるりと背を向けた。そして、そのまま先に行くと言って【腑罪証明(アリバイブロック)】を使用し、めだか達を追う様に甲板へと転移していった。

 その際なじみの長い髪の間から垣間見えた耳が、真っ赤に染まっているのが珱嗄には見えた。読者視点で言うのなら、別に恋愛的な意味では無いが珱嗄に向けて好きと言った事が恥ずかしかったのだろう。

 

 だが、なじみという人物に対して、珱嗄は何処までも鈍感だ。故に、

 

 

「耳真っ赤だったな……風邪……船酔い……うーん、スキルで解決しそうだなぁ……まぁアイツの耳なんて普段髪で隠れてんだし、元々かもしれない。気にするまでもないか」

 

 

 珱嗄はただ、そう呟くばかり。

 

 そしてそのまま部屋の中で1分程ボーっとした後、なじみ同様に甲板へとスキルで転移するのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 珱嗄が転移した時、甲板に居たのは黒神めだかと本物の婚約者達と武器子だけ。首を傾げる珱嗄であるが、その視線は本物の婚約者の内の一人、桃園喪々に向けられていた。まるで園児の様な容姿をしているがその雰囲気はその場にいる婚約者候補全員よりも大人びている。というか、その場にいる婚約者候補は全員―――

 

 ―――女だった。

 

 いやまぁそんな事はどうでもいいのだが、珱嗄の視線はその桃園喪々の手元にあった。転移していったなじみ含む球磨川、ダブル不知火、鶴喰鴎のカードがその手に握られていたのだ。ちなみに、不知火半纏に関しては参加者ではないがなじみの後ろに常に居ることから付いて来ていたのだ。

 

「……ああなるほど、久々に見たから忘れてたぜ。そういうことか、納得納得、面白いねぇ。言葉(スタイル)遣いか。便利だよねアレ」

 

「む、貴様も黒神めだか側の人間か?」

 

「ああそうだよ。随分と捻くれた方向に成長したみたいじゃないか、喪々ちゃん」

 

「その名で吾輩を呼ぶ、という事は貴様が泉ヶ仙珱嗄であるか。なるほど、確かに面妖な人材である」

 

 桃園はそう言って舌を出す。血色の良い赤い舌には『名』という文字が刻まれていた。珱嗄はソレを見てまたゆらりと笑う。そして同じ様に舌をべろっと出した。その舌の上には別に文字が刻まれている訳ではない。

 

「その『名札』に全員封印した訳だ? いやはや、恐ろしい力だね」

 

「その割にあまり驚いてはいないようだな」

 

 珱嗄はその言葉に、ふと笑って視線を動かした。その先は、婚約者候補一人一人に向けられている。黒神家の鶴喰を除いた6つの分家それぞれの代表。

 

 贄波、叶野、潜木、寿、桃園、杠。この六家の代表である彼女達をそれぞれ見ていた。

 

「贄波生煮、叶野遂、潜木もぐら、寿常套、桃園喪々、杠かけがえ……鶴喰鴎も合わせて感想を持つなら……全体的に皆面白い人間に育ったんだねぇ。うん、とても捻くれた性格だぜ」

 

「いや、珱嗄さん。今まで黙って聞いてたけど私が全然話に付いていけてないぞ?」

 

「めだかちゃんは黙ってればいいんだよ。どうせなんも出来ずに全員人質に取られたんだろ? 俺の来る1分足らずで」

 

「ぐ……」

 

「まぁ別に俺は何もしないよ。これはめだかちゃんの戦いだし、ぶっちゃけお前がこの中の誰と結婚しても良いし。んじゃ、頑張ってね」

 

 珱嗄はそう言って、欠伸を一つ漏らした。先程までのゆらゆらとして雰囲気は何処へ行ったのか、興味が失せたかのように踵を返し、ぷつっと消えた。そして桃園喪々の手の中に名札として収まった。

 だが、桃園はそれに吃驚したような表情を浮かべたが、すぐに先程と同じ表情に戻り、呆然とする黒神めだかと話を続けたのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ―――封印組の様子

 

 

 

「おや、珱嗄も来たのかい?」

 

「まぁ、封印ってのがどんなものか気になってね」

 

「『あれー?』『珱嗄さんと安心院さんがいる』」

 

「面倒だから球磨川君と半纏、半袖ちゃんも此処に呼んだぜ」

 

「………」

 

「あひゃひゃ☆封印されててもやりたい放題ですね」

 

「私としては珱嗄さんに会うのは始めてなんだけどね」

 

「まぁいいだろ。さて、物語上この中の誰かが一人くらい外に出て追ってくるであろう善吉君の手助けをしないといけないだろ? という訳で、ダウトで負けた奴が外に出る。おk?」

 

『OK』

 

 珱嗄達封印組は、案外余裕だった。そしてこの時、桃園喪々のポケットに入った名札は一枚になっており、その柄はこの場の全員が円になってカードゲームをしている様子になっているのだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。