◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
結局、黒神めだかによって集められたメンバーは以下の4人。
泉ヶ仙珱嗄 報酬:観光
安心院なじみ 報酬:暇潰し
球磨川禊 報酬:めだかの裸エプロン
不知火半袖 報酬:満漢全席
珱嗄の報酬は最初、世界の半分という事だったが、些か用意し難い報酬なので、最終的に漆黒宴そのものへの観光を報酬とする事で納得することになった。
漆黒宴の会場は何処だか知らないが、この4人と黒神めだか、鶴喰鴎の6人が今回の漆黒宴における黒神めだか陣営の出場者である。
そして、その4人を前にして当事者である鶴喰鴎が抱いた感想は、
「(オールジョーカー!? おっとなげねー!)」
これに尽きる。それもその筈、1京ものスキルを保有する人外、安心院なじみ。人類最弱にして最凶の過負荷、球磨川禊、人吉善吉の親友にして脅威のスキルを持つ女、不知火半袖。そして最後に、前の三人が霞んで見える程の最強のカード、世界最強の娯楽主義者、泉ヶ仙珱嗄がいるのだ。寧ろやり過ぎと言っても過言では無い。
そして現在、この6人は漆黒宴の会場である空母ブラック、通称黒船と呼ばれる船の上にやって来ていた。月氷会のメンバー、兎洞武器子のコレクションの中でも最大の一品らしい。コレクションと名付けられているのなら他にも色々と品々があるのだろうが、珱嗄としては特に興味もなかった。
「(……気配が7つ。でもこれは違うな……『あの子達』じゃない)」
珱嗄はそう思い、船の上から動かない。そうしているとめだか達は船の中に入って行き、珱嗄は置いていかれた。安心院なじみすら気付かなかった珱嗄を置き去りにした事実。
それほどまでに、珱嗄は気配を消していたのだ。海の上だからか冷たい風が吹き荒ぶ中、珱嗄は着物を揺らしてゆらりと笑った。そして少しだけ空を見上げた後、めだか達を追って船の中へと入って行った。
◇
「『それにしても』『めだかちゃん本当に御令嬢だったんだね』『七人の婚約者とか』『妬ましいなぁ』」
船内の通路を全員で通る中、雑談というか状況確認というか、そんな会話が繰り広げられていた。球磨川禊のそんな台詞はとても軽快な口調だったが、それでもめだかのテンションはあくまで真剣だ。
「貴様となら明日にだって結婚してやるよ球磨川。だが今日はどうしても気が進まん理由があるのだ」
「理由? まだ家に帰りたくないからじゃないのかい?」
めだかの言葉に反応したのは安心院なじみ。現在はどこか別の制服を着ているが、いつも通り何処か余裕のある表情を浮かべながら歩く様はやはり別次元の雰囲気を感じさせた。
そしてその言葉に対してめだかは、
「いやまぁそれもあるのだが、私は漆黒宴自体気に入らないのだ。本家や分家だのを引っ掻きまわすだけの醜い宴など、二度と開催出来ぬ様にしてやる」
と言った。漆黒宴に対して多少の知識しか持たないこの場にいない珱嗄を除いた5人は何気に意気込んでいた。やはりというか、黒神めだかに魅せられたという面では似通っているのだろう。安心院なじみは別だが、めだかの事はある程度認めているようだ。
「三年前の出席者は私の父を含めて全員亡くなったんだっけ……」
「そう。だがまぁなんにせよ、まずは勝たねばならない。黒神めだかの新たな婚約者達に勝たねばな」
黒神めだかはそう言って、眉をキリッと吊り上げた。あくまでも自分の将来の為、そしてこの先の黒神の未来の為に戦いに来たのだ。あまり気楽な気持ちで挑める戦いでは無いのだろう。
そして、黒神めだかは辿り着いた部屋の中に入る。すると、その中には合計『7人』の人間がいた。が、それだけならばまだいい、だがその中に居た7人を見て全員が驚愕した。
何故なら―――
「はいそれダウト」
「くっ……何故分かるのですか……」
「3」
「
「………」
「オイオイオイ! お前なんでさっきからまるで見えてるみたいに!」
「ハハハッ! 決まってる、イカサマという言葉を知れ」
『オイ』
置いていかれた泉ヶ仙珱嗄と婚約者候補であろう7人が、地面に座って仲良くトランプをしていたからだ。しかも、珱嗄はイカサマまでしている。
めだか達の驚く所は、珱嗄が自分達より先に此処に居る事ではない、スキルという武器がある以上それくらい可能な事は認知済みだ。問題は何故珱嗄が婚約者候補とあたかも知り合いであるかの様に遊んでいるのか、全く分からなかったのだ。
「なぁ、そういえばそろそろめだかちゃん達来るんじゃね?」
「おっと、それでは私は入り口付近で寝そべって待機するとします」
「というか潜木、お前の踏まれフェチはどうにも理解出来ないんだけど」
「まぁ人の性癖はそれぞれですし……って、あ」
『え?』
珱嗄を含めた7人はめだか達を見つけて固まる。どうみても登場シーン台無しだ。漆黒宴だなんて随分と禍々しい名前のイベントに意気込んでやってきたというのに、このテンションでは随分と肩の力が抜けてしまう。
とてもじゃないが、随分お気楽な雰囲気になってしまった。
「やぁやぁ、随分と遅かったねぇめだかちゃん達。遅すぎてダウト20回戦目に突入する所だったぜ」
だが、そんな雰囲気の中珱嗄はゆらりと笑って、そう言ったのだった。