◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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さて―――こんな展開もまた、面白い

 しばらくして、珱嗄となじみもほのぼのとした空気を纏いつつ穏やかな日々を過ごしていた。生徒会長選挙も終わって、人吉善吉と黒神めだかのくだらない対立も珱嗄やなじみ、球磨川達裸エプロン同盟のおかげも有り、どうにか終わりを迎えた。

 そのせいかどうかは分からないが、人吉善吉は黒神めだかに恋していた事に気付いたし、安心院なじみは泉ヶ仙珱嗄に恋していた事に気付いた。余談かもしれないが、球磨川禊は妙なカリスマ性を見せつけて後継者候補生の一人、財部真衣に懐かれた様だ。

 

 それからという物、特にこれといった事件や騒ぎは起こらなかった物の、黒神めだかが自分の生まれてきた意味を探すべくはっちゃけまくっているので、箱庭学園の部活動や委員会の方では何かと小さな喧騒が生まれている。珱嗄やなじみはそんな小さな喧騒はどうでもいいとばかりに1年13組の教室で机を合わせていた。

 何故1年13組の教室なのかと問われれば、結局あの選挙の時、めだかが言った事は人吉善吉によって実現されたからだ。安心院なじみは1年13組の生徒として箱庭学園に編入する事になり、珱嗄もまたなじみのお目付け役として留年ならぬ、降年する事になった。

 

 とはいえ、珱嗄は面白い事が異常なほど好きな、言彦曰く娯楽主義者だ。今の様な刺激の無い日々は少し不満気だった。

 まぁ、なじみからしてみればそんな珱嗄の表情もいいなぁと溜め息を吐く所なのだが、やはり珱嗄が物憂げな表情を浮かべていると少しだけ胸が痛んでいるようだ。

 

 とそこで、なじみは珱嗄との過去を想い浮かべて話題を探してある事を思い出した。

 

「そう言えば珱嗄。君さ、僕が昔『出来ない』事探しに夢中になってた頃一時期妙な事してなかったっけ?」

 

「妙な事? ―――――ああ、そういえば」

 

 なじみの言葉に、珱嗄はゆらりと笑った。なじみはそんな珱嗄の表情に眉を顰めて首を傾げたが、ゆらゆらと笑う珱嗄の表情を見ると、少しだけ胸が温かくなる。

 

「……やっぱり、恋しちゃったんだなぁ……」

 

 ぽつりと呟いた言葉は、珱嗄には聞こえない。

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「いや、なんでもないよ。で、何をしていたんだ?」

 

 なじみは呟きを悟られないように話を誤魔化す。珱嗄はそんななじみに疑問を持たずに過去の事を話そうとした。

 

「あー……あの時はなじみも別の事に夢中で暇だったからね。ちょっと俺も新しい物を作ってみようと思ったんだよ。流石に創る物がスキルだけじゃつまらないからさ」

 

「なるほど」

 

「それで――――?」

 

 珱嗄は続きを話そうとして視線をなじみから教室のドアに向けた。なじみはどうしたのかと同じ様に視線をドアに向ける。すると、視線の先にあったドアは第三者によって開かれた。

 そのドアを開けた先に居る人物に珱嗄はまたゆらりと笑う。

 

「すまない、安心院さんに珱嗄さん。少し頼みたい事があるのだが」

 

 視線の先に佇んでいるのは、黒神めだか。最近部活動や委員会を騒がせている張本人であった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「漆黒宴?」

 

 なじみはめだかから頼まれた事にそう言った。

 

 漆黒宴、それは黒神めだかの婚約者を決める為に、月氷会と呼ばれる組織が執り行なう婚約イベントだ。過去に一度既に行なわれており、その際の優勝者は鶴喰梟。安心院なじみの見つけてきたダークヒーロー、鶴喰鴎の父親である。

 また、その鶴喰梟及び第一回漆黒宴の婚約者達は全員殺されており、結局黒神めだかの婚約は無かったことになった。そして今、第二回漆黒宴が開催されようとしているのだ。

 

「そう、さきほど月氷会の人間が弟君に招待状を渡しに来たのでな。私が代理で参加しようと思うのだ。それでに当たって参加者を他に4名集めなくてはならなくなったのだ」

 

「なるほど……珱嗄?」

 

「ん? なんだよ」

 

「いや余り反応が薄いから珍しいなぁって」

 

 なじみは余り反応の無い珱嗄に疑問を抱きつつ、そう言った。珱嗄は明後日の方向を見ながら少し考えるようにして、数秒黙る。そしてふとなじみに視線を戻してまたゆらりと笑った。

 とても面白そうに、楽しそうに、笑って、こう言った。

 

「いや、何でもないよ。それで、俺達に助けを求めてきた訳か」

 

「ああ」

 

「他の二人は?」

 

「一応球磨川と不知火当たりに話を持っていこうと思っている」

 

 珱嗄はソレを聞いて、まぁ妥当な線かと頭の中で結論付けた。なじみも断るつもりは無いようで、珱嗄も参加することにしたようだ。

 

「それじゃあ此処で待っていてくれ。弟君には不知火と球磨川を此処に連れてくる様に言ってあるからな」

 

 黒神めだかはそう言って、適当なイスに座ったのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「(―――漆黒宴、ね。それも月氷会と来たもんだ)」

 

 珱嗄はなじみとめだかが横で会話している中、窓の外を眺めつつそんな事を考えていた。先程、黒神めだかが来るまでの会話。その続きを語るとするのなら、珱嗄の創った一つの過去を記す事になる。

 

 漆黒宴、このイベント自体に珱嗄は何の関わりも持たない。だが、月氷会とその婚約者……この2つの要素には少しばかり関わりがあった。

 今から20年以上前の事、珱嗄は黒神めだかすら生まれていない時代にほんの少しの気まぐれを起こした。その結果、出来上がったのが月下氷人会。略して月氷会である。

 

 当時の若き黒神舵樹と7つの分家の当主、そして月氷会の会長の座に一時的に就いた珱嗄の三つ巴の対談で本格的に月氷会が出来上がり、その後珱嗄はその座を退き、後は放置。

 だが7つの分家でそれぞれ後継者である子供が生まれた時、暇すぎた故に見に行った事もある。その子供に名前を付けた事も有った。

 

 が、それ以降は何も干渉していない。元々、月氷会は何を目的に創った訳ではないし、漆黒宴など考えてもいなかった。

 だが、珱嗄の後を継いだ月氷会メンバーは時が経つに連れて一つの指針を創ったのだろう。それが、非常に関わりの深い黒神家と7つの分家を繋ぐ婚約イベントを取り仕切る事。そうして開催されたのが漆黒宴。

 

 珱嗄はそんな時の歴史を思い、素直に面白いと思った。ゆらりと口端を吊り上げ、巡り巡ってまた自身に繋がったこの因果を何の運命かと笑ったのだ。

 

 

「さて―――こんな展開もまた、面白い」

 

 

 ゆらりと笑った珱嗄の呟きは、球磨川禊達が教室のドアを開けた音にかき消されたのだった。

 


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