◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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スキルって便利

 石動弐語をこの世から消してからおおよそ4000年。原作を開始される16年前という時代、俺となじみは別行動を取っていた。いや別に仲違いをしたとか、そういう訳じゃない。

 ただ単にまたなじみの病気が効果を発揮しただけ。「出来ない」ことを探し続けること3兆年、俺が一緒になってから40億年、色々と挑戦してきた俺達なのだが、最近なじみが諦め気味なのだ。多分、今なじみが取り組んでる「出来ない」が最後になると思う。

 

 だからこそ、俺はいつも通り手を出さずに見守ろう。彼女が一人で成し遂げて初めて「出来ない」が「出来る」になるのだから。

 

「……さて、どうしたものか」

 

 そんな中、俺がやっている事と言えば……まぁ色々だな。気まぐれにデカイ組織を創立させたり、どこぞの人々を襲撃したり、未だ少ない友人の一人を罠に嵌めたりしてた。まぁそれに関してはいずれ話す事になるだろう。

 

 だからか、正直今はとてつもなく暇だ。既に俺と言えばこの服装と言える様な着流しの着物をゆらゆらとはためかせながらお気に入りスポットの一つである楠の大木の枝上で座っている訳だが、広がる光景は変わらずただの草原のみ。今の日本では珍しい位の広大な草原の光景、だというのにいつも通り過ぎて変化のしない光景に俺はもううんざりしていた。

 

 面白い事を何より好む俺が、変化の無い毎日を望む筈も無く、でも自分で何かを起こすのは面白みも無いからしないこのジレンマ。吹き抜ける緩やかな風が俺の身体を通り抜けていく中、揺れる前髪を一瞥した。

 

「……この生活も飽きたし……なじみに何かやる事無いか紹介してもらおうかな……」

 

 そうと決まれば有言実行、善は急げ。久々になじみの所へと行くとしよう。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「それで僕の所に来たのかい?」

 

「そうだよ。何かない?」

 

「仕方ないなぁ……それじゃあここの病院の職員をやってもらおうかな。仕事をしてみるっていうのは存外、楽しいと感じるかもしれないぜ?」

 

 仕方ないと言いながら、どこか嬉しそうに頬を主に染めて俺に書類を差し出してくる。そこには俺の履歴書とスキルで作られた必要書類が数枚。

 全く、私がいないとダメなんだから……。というお節介な委員長の様な雰囲気を醸し出しながら、最近流行の服装を着ておしゃれを気にする様になったなじみは、最近病院やら寺子屋やら色々作りだしていた。その様子はさながら積み木を組み立てる子供の様だが、面白そうでも何でもない淡々とした感じだった。例えるなら積み木で面倒そうに遊ぶ大人、というのが当てはまった。

 

「ふーん……なるほど。良いね、やろう」

 

「頼んだよ」

 

「任せろ」

 

 踵を返して書類を後ろ手にひらひらとさせながらその病院へと向かう。笑みを浮かべて早着替えのスキル『衣換え(メイクアップ)』を発動し、着物姿から白衣へと姿を変える。黒いTシャツに、ジーンズを履いて緩やかに白衣を着たこの姿は、着物の時と重さを変えない。何故なら着物自体を白衣の姿に変えているだけだからだ。まぁ重さが変わらないだけでそれ以外は素材も色も形でさえも変えてしまっているのだ。これだからこう思うのだ。

 

 ―――本当、スキルって便利。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 で、病院にやって来た。職員もなじみの創立した病院故に、異色すぎる奴らばかりだ。個性的過ぎてしばらく面白い事には欠かないだろう。

 

「えー……本日よりこの病院の一職員として働く事になりました。泉ヶ仙珱嗄です。一つよろしく」

 

 これまで俺の人間関係を見ていれば分かるかもしれないが、これまで俺と共にいたのは、なじみに言彦、そしてあの石動とかいうあの男の三名を中心としたどれもこれも異常(アブノーマル)過負荷(マイナス)人外(バケモノ)といった面々ばかり。それもそのはず……俺のスキルは人外と称される程の物で、その影響は俺の中だけに留まらない。普通の一般人が俺と同じ空間に居ればそれこそ発狂とか性格変わるとか気絶するとか変化をもたらしてしまう。

 

 だから、俺はこの影響を防ぐためのスキルを一々作っている。故に、俺の人外性は人に影響しない。なじみを超えてしまった人外性は思考すればするほど加速するのだから、これくらいやらないと駄目だろう。

 

 あーあ、せめてオン/オフの切り替えが出来るようになればいいんだけど……ん?

 

「解決しちゃったよ……」

 

 スキルにオン/オフを付与するスキル『切替嗜(オルテレーション)』が俺の中に生まれた。全く、なんで今まで思い付かなかったんだ…………ああ、俺の周りの奴らが異質な奴らしかいないからか。

 

「珱嗄君」

 

「んん?」

 

 そんな思いに耽っていた俺に、声を掛ける人物がいた。その声に視線を向けると、そこには同じく白衣を着た小さい女の子がいた。薄茶色の髪に、子供っぽい容姿に反する凛々しい雰囲気。微笑む表情にはどこか成熟した様な物を感じさせる。

 

「誰っすか」

 

「ああ、私は人吉瞳。ここじゃ貴方の上司に当たるわね」

 

「へぇ……」

 

 面白い物を見つけた、という風な感情をこめて彼女を見る。俺の胸下程の身長しかない彼女は、その俺の視線の意味を目聡く感じ取ったのか、苦笑して更に言葉を続けた。

 

「ここの事については私が貴方に教える事になってるの。まぁ、気軽に何でも聞いてね」

 

「そうかい。んじゃまぁ……これから宜しく―――瞳センパイ?」

 

「ん、よろしくね」

 

 そう言って彼女は笑顔を浮かべ、俺は口元を歪めた。

 


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