◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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世界は平凡か? 未来は退屈か? 現実は適当か? 安心しろ、それでも生きることは劇的だ!

 さて、それからまた2ヵ月。いよいよ選挙の日がやってきた。ここまで色々な事があったが、それはやっぱり描写されない。何故なら、安心院なじみがフラスコ計画におけるやる気の一切を4ヵ月前から失っているからだ。珱嗄が認識させた現実が、安心院なじみを満足させた上に完全な恋に落としてしまっているのだから、それもいた仕方ないだろう。

 また、それでも黒神めだかが後継者を育成し始めたので、結果的にはフラスコ計画の件は最後の方までやっちゃおうという感じに収まり、現在に至る訳だが、正直珱嗄にとってもなじみにとって最早「完全な人間作り」なんて物は興味の対象外。まぁ出来たら出来たで良いかな、という感じにしかとらえていないのだ。

 

 そして、そんなやる気しか持たないなじみがトントン拍子に計画を進め、おおよそ原作通りの展開が進んで行った。体育祭では黒神めだか対全校生徒という綱引き大会が開かれ、結果的には珱嗄が介入して一人勝ち。文化祭では善吉のスキル、【愚行権(デビルスタイル)】の影響も有ってビーストアイドル、須木奈佐木咲、自傷声優、八人ヶ岳十字花、神より神な音楽家、不老山ぞめきの三人のトリオで生まれたバンド、『キヲテラエ』という方向性も異常性も何も無い普通のバンドと生徒会の善吉、阿久根、喜界島の三人で組まれたバンド『めだかボックス』がバンド勝負で戦ったり、球磨川禊がめだかと善吉が対立したことで結成した裸エプロン同盟が委員会連合とトランプ勝負を仕掛けて負けたりと、色々な事があった。

 

 が、それも過去の話。結局の所普通の青春が普通に過ぎ去っただけの事。そして、4ヵ月前の対立の決着が今日の選挙で着く。そして、それで安心院なじみの企みだった物も、フラスコ計画も終わり。結果的に得られるのは、なじみの病の克服や新たな感情の誕生。それに、黒神めだかの後継者とか新たな生徒会長とかそんな物だ。

 

 やけに長い4ヵ月だったが、これで終わる。珱嗄としては、さっさと終わらせて次の章へと移行して欲しい所だ。

 

「それじゃあ第百回、生徒会長選挙を開始ま~~す!」

 

 長い前置きはさておき、そんな間延びした声から始まった生徒会長選挙。司会を務めるのは、選挙管理委員長の太刀洗斬子。普段から必ずと言って良いほど働かない彼女が、その二本の脚で立って働く姿は全校生徒が身に来る程の奇跡であった。ある意味この件は珱嗄が動くという奇跡と太刀洗斬子が働くという奇跡という二つの奇跡が起こっていた。

 

「で、今回の選挙に出馬した生徒は~~3名で~~す。まずは1人5分間でスピーチをしてもらって~~その後この場にいる生徒から投票を集めま~~す。集計後発表という形になりますね~~~」

 

 そう言って斬子は何処かから持ってきたホワイトボードに出馬者を表記する。

 

「今回の出馬者は~~黒神めだかさんと~人吉善吉さんと~体験入学生の5名1組で~~す。それではまず、体験入学生の5人から順にスピーチをしてもらいましょ~~、どうぞ~~」

 

 そうして引っ込む太刀洗斬子。そして替わる様に5人の体験入学生達が前に出てきた。マイクを持つのは財部真衣。

 

 

「え~……私達はこの学園に体験入学して思ったことがあります。この学園は………最低です♪」

 

 

 財部は良い笑顔でそう言う。そして続けてその理由を述べていく。

 

「武装した生徒達による取り締まり活動、特待生と一般生徒の圧倒的格差、ことあるごとにバトルを促す競争社会、崩壊される校舎、トラブル不介入を貫く教師陣」

 

「より最低なのはそんな現状をよしとしているあなたたちの意識の低さだ」

 

『これらを踏まえて立てたマニフェストは「生徒会制度の廃止」です』

 

「多数決は話し合うことの放棄で自分たちは話し合って少数意見を貴重に扱いどんなことでも結論が出るまで全員で話し合うんです。現実的にはどうしても代表者は必要ですが、それはクラスの日直のように全校生徒の持ち回りとする事で解決できると思います!」

 

 交互に話す体験入学生達。最低です、が財部で、それ以降は上から喜々津、鰐塚、希望ヶ丘、与次郎だ。正式に名前が出たのは多分此処が初めてだろう。

 このスピーチに拍手は無かったが、安心院なじみは観客席からナイス詭弁だと述べた。

 

 そして次に出て来たのは人吉善吉。スピーチの内容は、まず体験入学生のスピーチを肯定し、次に自分の意見を述べた。そして最後に皆でめだかちゃんに勝とうよ、と言って終わった。

 次に出てきた黒神めだかは、まどろっこしい事は言わずにこう言った。

 

「私は黒神めだかだ。見知らぬ他人の役に立つ為に生まれてきた」

 

 そして続く投票も、さくっと終わり、直ぐに開票になる。

 

 

「さて~それでは発表しま~~す! 第百代生徒会長は~~得票率62%で~人吉善吉さんに決まりました~~頑張ってね~~!」

 

 

 その言葉に、驚愕の顔を上げたのは人吉善吉。何故なら、黒神めだかが勝つと誰もが思っていたからだ。

 

「は、はは。これは随分と差をつけられてしまった物だな……」

 

 かくゆう黒神めだかも自身の勝利を確信していた。故に、その表情は余裕を見せようとしながらも、驚愕に震え、汗が出ていた。

 

 

 

 

「はい、おしまい」

 

 

 

 

 そして、どこからか珱嗄の声が聞こえたと同時。黒神めだかは土下座で負けを認めていた。

 珱嗄式スキルの一つ、時間を巻き戻すスキル【跡戻り(バックトラック)】の反対、時間を早送りにするスキル【先贈り(スキップビュー)】が発動し、黒神めだかの震えた台詞から5分後に時間が飛んだのだ。

 

 つまり、珱嗄と読者以外の登場キャラクターは全員、人吉善吉による黒神めだかを改心させる説得を見たのだ。結果、黒神めだかはその心を動かされ、負けを認めた。

 

 珱嗄と読者はその結果に跳んでしまったのだ。

 

「さて、それじゃあさくっと終わらせよう。安心院なじみが現実を認識していない(てい)で此処まで来たんだから」

 

 その言葉が終わった後、安心院なじみが動きだした。ちなみに、珱嗄はなじみの隣に座っている。

 

 

「無駄に長生きしちまったぜ(棒)」

 

 

 なじみの棒読みな台詞と同時、なじみは自身の指を頭に向けて自殺を図る。

 

 だが、その自殺は黒神めだかによって止められた。黒神ファントム通常版だ。故にその身体はボロボロになっている。

 

「安心院なじみ、貴様やはりそうなのか! やはり!」

 

「そーだよー、僕は現実を現実に思えない病に罹ってるんだー、僕には目的なんてないしーこの世界は本気で漫画の世界だと思ってるしー、フラスコ計画も現実を認識する為の手段に過ぎなかったんだー。でももう見えちゃったー、善吉君がめだかちゃんに勝っちゃったが故に見えちゃったー、完全な人間作りの完成が見えちゃったー、だからもう生きてたってしょうがないよね」

 

「っ!」

 

 棒読みでそんな事を言う安心院なじみに、眼を逸らしながら薄ら笑いを浮かべてそんな事を言う安心院なじみに、黒神めだかはげんこつを落とした。

 

「……痛い」

 

「何が三兆年生きただ! 何が無駄に長生きしちまったぜだ! お前は私達と同じ唯のガキだ! そして、そんな阿呆な妄言に私の善吉を巻き込むな!! 負けて欲しくて善吉を鍛えていたお前を、善吉が許しても私が許さない!」

 

 なじみは片手で頭をさすりながらめだかの言葉を聞き流す。めだかはそう言った後、扇子に何やら文字を書き、なじみに叩き付けた

 

「私も今回の事で色々反省した! さしあたって貴様は私と一緒に一年生からやり直せ! クラスメイトとして私が貴様に現実を教えてやる! 貴様の次の「出来ない」は自殺だ! 徹底的に邪魔してやるから覚悟しろ!」

 

「あー痛い……たんこぶ出来てる……?」

 

 なじみは自身の頭に出来たたんこぶをさすり、めだかの言葉を聞き流す。

 

 

「世界は平凡か? 未来は退屈か? 現実は適当か? 安心しろ、それでも生きることは劇的だ!」

 

 

 黒神めだかはそう言って安心院なじみを見下ろした。だが

 

 

 

「あ、終わった?」

 

 

 

 安心院なじみは薄ら笑いを浮かべながら、そう返した。

 

「正直さー、僕も理不尽に殴られてちょっとイラッと来たんだけど、珱嗄がそれ以上にイラついてるから我慢するよ。早く終わらせろって視線が凄い痛いし。それで、なんだっけ? 生きる事は劇的だ? ああ、うんそうだね。だからなn………………全く、ままならねーな現実は、まるで週刊少年漫画だぜ」

 

 安心院なじみは珱嗄が創ったキャラを作り替えるスキル【大根厄者(キャラクターブレイク)】を発動して嘘泣きの涙を流してそう言った。だが、その直前の台詞でもう台無しだ。

 

「……アレ?」

 

「……安心院なじみ。貴様、シュミレーテッドリアリティは……?」

 

「あー……うん。それもう治ってるぜ」

 

 

 こうして安心院なじみのフラスコ計画編もとい、台無しの生徒会長選挙編は幕を閉じたのだった。

 


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