◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
さて、安心院なじみは自身の気持ちが恋心だと知らされた後、その事実に対し困惑し、スキルで自宅のベットにダイブしていた。枕を抱き締め、脚をバタつかせてもふもふと顔を枕にうずめながら、胸の中でむずむずする気持ちに身を捩らせていた。
「~~~~!!」
言葉にならない声を上げながら、ただひたすらにベットの上で身体をごろごろと転がす。
「っっっ! ……はぁ……」
しばらく転がり続け、段々と気持ちが落ち着いてきた安心院なじみは枕から顔を離し、ため息をつく。そして不意に壁に掛かった鏡を見た。
そこには、枕を抱き抱えた自分が顔を真っ赤にしてベットの上に座っていた。
「うぅ……こんな顔じゃ珱嗄に会わせる顔が無いよ」
そう呟くなじみだが、こういう時に空気を読まない男が泉ヶ仙珱嗄という人物である。
「ただいまー」
「うわひゃあっ!?」
珱嗄の帰宅にびっくりして、なじみは思わず毛布にくるまって隠れてしまった。珱嗄はそんななじみを見つけ、首を捻る。
「……なにしてんの?」
珱嗄がベットに近づくと、それと一緒に半纏と靱負も家に入ってきた。半纏は何時もの様になじみの後ろ、この場合はベットの端に立ちつくし、靱負は部屋の隅にちょこんと体育座りをする。
「な、なんでもない! なんでもないから僕の事は放っておいてくれっ」
「……あ、ああ…そう」
珍しく珱嗄はそのなじみの勢いに押されてベットを離れる。半纏と靱負は何も言わない。そうしてしばらく珱嗄と半纏と靱負はベットに近づかずに無言だった。ただ、ベットにくるまったなじみだけがたまにギシギシとベットを揺らす。
「………」
「……」
「………」
「……っ」ギシ
なんだこの空気は、と珱嗄は他の二人を交互に見て視線で助けを求める。幾らスキルを持っていても、幾ら無敵でも、たった一人の少女の乙女心を理解することは出来なかった。
靱負は視線を向けてくる珱嗄に対し、どうにかしろという視線を送り、半纏は視線を向けてくる珱嗄に対して視線を合わせることもしなかった。
結局、珱嗄は現状を打破出来る方法を思い付かず、どうすればいいのか頭を悩ませる。
「……はぁ」
結局、問題の打破も何も、その問題自体が分からないので、珱嗄にはどうしようもなかった。ある意味、この世界において唯一珱嗄を悩ませる問題なのかもしれない。
「ま、いいや。ご飯食べよう」
「………うん」
「………」
「……うぅ~」
珱嗄は一旦考える事を止めた。そしてとりあえずご飯を食べればなんとかこの空気も和らぐだろうと考えたのだ。
「さて、今日のメニューはどうしようか」
珱嗄はそう言って、ゆらりと笑った。
◇ ◇ ◇
「で、どうしたんだよなじみ」
「うん、まぁちょっと……ね」
ご飯を食べ終わった後の事。珱嗄は食器を洗ってからなじみにそう問いかけ、なじみはそう返した。結局、なじみは珱嗄に恋しているという事実を受け入れたようだ。
だが、受け入れるのと打ち明けるのは別物だ。安心院なじみが泉ヶ仙珱嗄にその気持ちを打ち明けるのはきっと、普通の少女が異性に告白するのと同じ様に勇気と時間が必要になるのだろう。
「そ、まぁいいけどさ。さて……それで? 最近の経過はどうなの?」
「うん。一応、善吉君をめだかちゃんに敵対させる事は出来たし、今は善吉君専用のスキルを半纏に創らせてる所だよ。善吉君がめだかちゃんに恋して……ごほんっ、えーめだかちゃんに恋してる事を自覚させたし、最終的な勝負は次の生徒会長選挙で着けるって事になったよ。その為に今は善吉君強化の修行中だね」
「スキル? 言ってくれれば俺が創ったのに」
「珱嗄。珱嗄式スキルは容量が大きすぎて君にしか使えないよ。球磨川君に渡した【珱嗄式:
珱嗄の言葉に、なじみはそう返す。元々珱嗄式スキルは人外の域を全力疾走してる珱嗄が創りだすスキル故に、そのスキルの重みというか、ハードディスクで言う容量が大きすぎるのだ。結果、無限大の空き容量を持つ珱嗄でない限り、珱嗄式スキルを使いこなす事は出来ない。
条件によっては使うこともできる。それも球磨川禊に与えた【
だが、それ以外は恐らく不可能だろう。それこそ、安心院なじみでない限りは不可能だ。
「でも俺が善吉君専用のスキルに細かい調整をすれば使えるんじゃね? 球磨川君見たいに」
「……まぁそれなら使えるだろうけど、そうするとちょっと善吉君が有利過ぎるからね。やっぱりノーマルなスキルを創った方が良いと思うんだ」
「ふーん……まぁなじみがそういう考えなら良いけどさ」
珱嗄はそう言って立ち上がり、なじみの頭に手をポンと軽く撫でた後、そのままソファに寝っ転がった。
「まぁ、楽しくやりなよ」
珱嗄はそう言うだけでそのまま眠ってしまった。なじみは珱嗄の手が触れた自分の頭に自身の手を乗せる。そしてくしゃりと髪を軽く掴んだ。
「……全く。ようやく落ち着いてきたのに、またドキドキしてきちゃったぜ……困ったもんだ」
なじみはそう呟き、珱嗄の寝顔を見てくすりと笑った。