◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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多分、安心院さんは……その、珱嗄さんに恋してるんだと思うよ?

 安心院なじみは、泉ヶ仙珱嗄の事が好きである。

 

 これは、以前から読者間ではっきりしている事なのだが、珱嗄はなじみをどう思っているのかは定かではない。別に珱嗄がなじみを大事に思っていないという訳ではない事は確かなのだが、それも恋愛ではなく親愛というものだろう。

 まぁ珱嗄のことは置いておいて、今回は安心院なじみの心情とその行動について少し語って見るとしよう。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「……それで私に何が聞きたいの?」

 

 そう言ったのは、帯刀靱負。おおよそ感情が希薄な無口少女だ。そんな少女の目の前にいるのは、安心院なじみ。彼女は少し眉を顰めながら靱負に向かって言った。

 

「うん。まぁなんというか……珱嗄についてなんだけど」

 

「……お兄ちゃん?」

 

「ああ、うんそう。最近珱嗄と一緒にいるとどうも赤面しがちで……どう思う?」

 

 そう言われて、靱負は首を傾げた。長い黒髪がさらりと揺れる。安心院なじみの後ろに立つ不知火半纏の様に、よく珱嗄の後ろで体育座りをしている帯刀靱負は今、安心院なじみの後ろに半纏がいない代わりになじみの前で体育座りをしているようだった。

 ちなみに、半纏はなじみが何処かへ追い払った。

 

 

―――

 

 

「で、俺のトコきたの?」

 

「……」

 

「災難だな、半纏。まぁそれも面白そうだし、いいけど」

 

 

―――

 

 

「……分からない」

 

「そう……まぁ僕も分からないし、他の人にも聞いてみようかな」

 

「……ただ」

 

「ん?」

 

 分からないと言った靱負に対し、なじみはその場を去ろうとしたのだが、靱負の言葉で立ち止まる。

 

「……私は、お兄ちゃんといると胸があったかい」

 

「……そっか」

 

 そう言った後、なじみは踵を返してその場から【腑罪証明(アリバイブロック)】で去って行った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「さて、どうしたものかな」

 

 なじみはそう言って廊下を歩く。現在は授業中故に、廊下に生徒はいない。靱負は唯のサボりだ。

 

「珱嗄……っ!」

 

 なじみはふと思い浮かんだ珱嗄のゆらゆら笑っている表情を思い浮かべ、ぼふっと赤面した。パタパタと顔に手で風を送り、熱を冷まさせる。

 なんとか落ちついた所で、なじみはまた歩き出した。

 

「うー……これは不味い。早々に何とかしないと」

 

 病気ならスキルでどうとでも出来るのだが、どうやら病気ではない様で、スキルでもどうにも出来なかった。

 

「ん?」

 

 そこで安心院なじみが見つけたのは、行橋未造。都城王土の親友であり、受信の異常(アブノーマル)を持った心の読める少年だ。

 また、今のなじみにとって相手の心情が分かる彼なら、自分の珱嗄に対する気持ちが分かるのではないかと思い、近づいた。

 

「ん?」

 

「やぁ」

 

 安心院なじみが近づいた事に気付いた行橋はその仮面を着けた顔をなじみに向けた。

 

「君は……ああ、安心院なじみさんだね。最近黒神めだかと一悶着起こしてるって言う」

 

「親しみを込めて安心院(あんしんいん)さんと呼びなさい。そういう君は都城王土君の親友君だろ? というかなんでここにいるんだい?」

 

「うん。まぁ王土が一度こっちに帰るっていうからさ、僕は一足先にこっちに来たのさ。おかげで周囲からうるさいのなんの」

 

 それを聞いた安心院なじみは、その悩みを利用して自身の悩みを解決しようと画策した。

 

「じゃあその異常(アブノーマル)をどうにかしてあげるよ。だから少し僕の話に耳を貸してくれないかな?」

 

「え? 別に良いけど……」

 

 そう言うと、なじみは行橋の異常性にオンオフを付けた。それによって、周囲の声が聞こえなくなる。行橋はその事実に喜んだ。

 

「で、話って?」

 

「うん。まぁ……なんというか、珱嗄の事は知ってる?」

 

「泉ヶ仙珱嗄の事だよね? 知ってるよ。王土の心を一回圧し折った奴だ」

 

 実際は靱負がやったのだが、唆したのは珱嗄なので、あまり良い思いは持ってない。

 

「その珱嗄の事なんだけど、どうも珱嗄の前だとよく赤面しがちで……それに、珱嗄といると胸が高鳴るんだ。これってなんだか分かるかな? 僕にはどうもよく分からない感情なんだよ」

 

 その言葉に、行橋は絶句した。むしろそこまで分かってて何故それが恋だと分からないのかと。また、聞いていた限りでは目の前の人外は1京のスキルを保有し、何兆年程生きている怪物だ。あの球磨川禊が二つのスキルの限りを尽くして封印したにもかかわらず、3年余りでその封印を破り、またやってきたのだ。

 しかも、自分達が手伝っていたフラスコ計画をまた始めようとしているらしい。

 

 その人外の怪物である人物、安心院なじみがまさか普通の少女の如く、恋愛の事で悩んでいるなんて思いもしなかったからだ。

 

「へ、へぇ」

 

「分かるかな?」

 

「うん」

 

「まぁ分からないよね。さっき聞いてきた靱負ちゃんでもう9人目だ。えーと、鍋島猫美、雲仙冥加、黒神くじら、古賀いたみ、不知火半纏、志布志飛沫、日之影空洞、宗像形と帯刀靱負、うん9人だ」

 

「(くじらってのは名瀬さんだよね……なんで皆教えてあげないのさ!?)」

 

 実際の所、ガチで分からなかったのは靱負と冥加と志布志位の物だ。あえて教えてあげなかったのは、その3人以外の全員。鍋島とくじらは面白そうという理由で、古賀はくじらに止められた。半纏は何も言わなかったし、空洞と宗像はなにやら言い辛そうにして他に聞いてくれとその場を流した。そんな感じで結局回って来たのが行橋未造。記念すべき10人目だ。

 

 ちなみに、なじみが自身の気持ちの正体を探すべく動き始めてから、今日まで2週間と少し。めだ関門からは1週間経っている。その間で球磨川と宗像が殺し合いをしたり、その結果【大嘘憑き(オールフィクション)】の存在がバレたり、鶴喰鴎がやってきたり、善吉がめだかと敵対したり色々有ったのだが、最終的には原作通りに進んでいる。経緯は描写しない。

 

「ん? 今君、うんって言った?」

 

「うん」

 

「分かるのかい? 君には。じゃあ教えてくれよ」

 

 そんな彼女に、行橋は仮面の上から顔をポリポリと掻きながら言って良いのかなぁと思いつつ、教えた。

 

「多分、安心院さんは……その、珱嗄さんに恋してるんだと思うよ?」

 

 その言葉に、安心院なじみは笑みを浮かべたまま時が止まった様に固まった。

 

「……」

 

「あの。安心院さん?」

 

「……!」

 

 行橋はそんななじみに話し掛けるが、なじみは何も言わずふっとスキルで去って行った。

 

「……不味いことしちゃったかな……?」

 

 残された行橋は、ただそう呟くばかりであった。

 

 

 


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