◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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まぁ黒神めだかの考えた企画だし、こんなもんか…

 珱嗄が太刀洗斬子の関門を悠々と突破した後の事。次なる関門へと続く扉を開けた先にいたのは、保険委員会委員長、赤 青黄。珱嗄はその容姿と雰囲気から、彼女がなじみの端末である事を知っていた。そしてそれと同時、珱嗄はつまらなそうだった表情を、失望と落胆の表情へと変えた。

 何故なら、珱嗄にとってなじみの端末である事が既にネタバレされたマジックの様な物だったからだ。珱嗄となじみの長い長い付き合いから、珱嗄はなじみが端末を作り始めた時からその端末のそれぞれを把握している。10を超えたあたりから少し飽き始め、1万を超えたあたりから既に飽きていて、現在の7億人に達した時には既に興味も持たないモノになっていた。

 確かに、端末のそれぞれに自我や記憶や個性、意志、事情、感情、過去、生活、自分という物が有るのは分かるし、7億人全てが別々の人格を持っているのも分かる。だが、珱嗄はその全てを把握しているし、増える度にその端末を観察したし、スキルを保有している端末には一抹の興味を抱いたし、此処の個性が強い端末には面白みも有った。

 

 だが、それでも珱嗄の興味はもう尽きた。端末の全てを知っているし、把握しているし、解っているし、だからこそ知ってしまったミステリー小説の犯人やオチ、内装を把握したお化け屋敷の様に、つまらないモノに成り下がってしまっているのだ。

 

 故に、珱嗄の取った行動は、関門をクリアするといった物ではなかった。

 

 

「面白くない」

 

 

 赤青黄がその口を開く前に喉を潰し、即座に意識を奪う。目視も出来ない光速以上の速度。スキルという保護が無ければその身体は一気に傷だらけになるだろうその速度は、その部屋の至る所に亀裂を走らせ、赤青黄の身体を吹き飛ばした。

 

「あーあ、メンドクサイ。面白そうだと思ったんだけどなぁ……夢でも現実でも一緒か。まぁ黒神めだかの考えた企画だし、こんなもんか……やっぱ、球磨川君並みにド派手にやらかしてくれないと物足りないか」

 

 珱嗄はそう言って、その手が貫いた赤青黄の喉からずるりと手を引き抜いた。ちょっと殺す必要無かったな、と考えて一応時間を巻き戻すスキル【跡戻り(バックトラック)】で蘇生させた。

 珱嗄も少しつまらなすぎてナイーブになっていたのだ。少しのストレスと面白い出来事が起こらない最近に不満を持った結果だ。

 

「さて……進むとしよう」

 

 珱嗄はそう言ってその脚に力を込め、地面を蹴った。その脚力は、次の通路へ続く扉を吹き飛ばし、珱嗄の身体を前へと進ませた。衝撃波を周囲に撒き散らし、時計塔を中から壊してしまうかの様な勢いで、真っ直ぐに前進する。

 

「なっ!?」

 

「のわっ!?」

 

「邪魔だ」

 

 そうしていると、すぐに次の関門へとぶつかる。扉を吹き飛ばし、中にいた食育委員会ダブル委員長、飯塚食人、米良孤呑の二人の間を通り抜け、擦れ違い様に彼らの後頭部を後ろ手で叩いた。

 人間の弱点でもある後頭部への攻撃は、瞬時にその衝撃を脳へと通し、揺らす。結果、珱嗄の攻撃で二人の委員長はその意識を一瞬で刈り取られる。

 

 そして、二人が倒れる前に珱嗄はその部屋を去る。その歩みは一瞬たりとも止められる事は無く、その速度は少したりとも揺らぐ事は無かった。

 

 

 

「面白くない」

 

 

 

 また一つ、そう呟いて通路を走る。速度は更に上がっている様にも思えた。次々と壁や床に亀裂を入れながら、走る、奔る。

 

 瞬時に次の扉へと辿り着き、扉を蹴破る。中にいたのはかぼちゃの被りものをした魔女のコスプレをした女。美化委員会委員長、廻栖野うずめ。

 

「――――がっ!?」

 

「お前も邪魔」

 

 珱嗄は部屋に入った瞬間、一瞬で間合いを詰め、廻栖野うずめの顔をその手でわしづかみにする。そしてそのまま頭を力任せに押し、地面へと叩きつけた。

 

 

 

「面白くない」

 

 

 

 珱嗄はそう呟き、脚を止めた。ガリガリと音を立てて珱嗄の身体は停止し、ようやくおさまった衝撃波に時計塔がぐらりと揺れた。

 

「はぁ、どいつもこいつもまともな関門用意して無い」

 

 珱嗄はただ目の前にいた委員長を倒したのではない。その実、思考を読み取るスキル【乙女心は分からない(アンノウンガールズ)】を発動し、どんな関門をするのかを読み取っていた。その上でつまらないと判断し、倒したのだ。正直に言えば、珱嗄は少しでも面白みが有れば止まるつもりだったのだ。

 

 だが、結局用意されていたのは、『カードゲーム』『料理』『妄想勝負』の3つ。珱嗄にとってはどれもこれもつまらないゲームだったのだ。

 

 

「さて……よっ…っと」

 

 

 珱嗄はその場から時計塔の頂上へスキルで移動する。そしてそのままめだかの居場所を探って、その場所へと移動した。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「―――だから、景品を寄越せ。黒神めだか」

 

 

 

 これが珱嗄の企画攻略法。そして、これは珱嗄という人外の人格だった。

 

 

 

 


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