◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄が夢にした結果巻き戻ってきた日の一週間後。珱嗄はその一週間何もせず、ただただやってきた候補生達の成り行きを見守っていた。
一応、黒神めだかが安心院なじみに危機感を抱いた時間は夢にはなっていないので、なじみが現実を認識しているとしても、後継者は育てられる事になっていたのだ。また、安心院なじみは以前以上に珱嗄に懐くようになり、今は自身の内にある理解不能な感情の理解を目的としていた。『できない』探しより熱心な所を見ると、よほど真剣なのだろう。
そして、候補生がやって来てから一週間が経っているという事は、またやってくるのだ。黒神めだかの育成プログラムが。夢同様に黒神めだかは問題用紙を出し、宝探しをさせた。そして5分以内に解けないのなら帰っても良いと言って、その場を放置した。
最初に問題を解いたのは、候補生である喜々津。彼女は問題を解いた事で出てきた宝の場所へと向かい、それに他の候補生及び球磨川と喜界島の二人が付いていった。
「つまんねーつまんねー……暇だ」
「そんなに暇なら珱嗄さんもやってみたらどうだ?」
珱嗄はそんな皆の様子を見て、めだかの横で暇を持て余していた。すると、めだかは珱嗄に同じ様にプリントを手渡して、そう提案する。とりあえず受け取った珱嗄だが、問題を見た瞬間に答えは出た。候補生達が向かって行った方向からして正解だろう。
「……そういえば、副賞として欲しい物を貰えるんだっけ」
「む、ああ。そういえばそんな話も出たな」
珱嗄はその答えを聞いて、ゆらりと笑った。そしてゆらゆらと立ち上がり、プリントを手の平の中でシュボッと短い音を鳴らして燃やした。これは珱嗄式スキルの一つ、炎を司るスキル【
「よーし、それなら俺も参加しよう。俺が優勝したら世界の半分を貰おうか」
「ソレは無理だ」
「じゃあ世界の半分をお前にやろう」
「いらないぞ」
「じゃあ世界の全てを支配してやろう」
「止めてください」
「土下座までするか」
「出来そうなので」
「冗談だよ。それじゃ副賞は後々考えとくさ。それじゃね」
珱嗄はそう言って、めだかとのちょっとしたやり取りを終えて時計塔へと向かう。珱嗄は欲しい物をめだかに与えられるほど何かに飢えている訳ではないし、特に意味もなく参加しているのだが、やはりその理由はたった一つだろう。
「夢よりは面白そうだ」
◇ ◇ ◇
さて、そうしてやってきた時計塔のふもと。正直言えば頂上まで行くならスキルですぐにでも移動できるのだが、それはやはり面白くない。珱嗄はそう考え、球磨川達も通ったであろう時計塔の扉を潜った。
「あら? もう一人来たのね」
「おー、十二町矢文。俺も参加するからさっさと課題だせや」
「! 泉ヶ仙珱嗄ね………またとんでもないのが来ちゃったわ。仕方ない、ぅ私の出す関門問題は、ぅ私にこの図書館の中の好きな本を選び、それに関する問題を出して、私が答えられなかった場合クリア。という物よ」
通称逆ピラミッドゲーム。ちなみに、時計塔の中はかなり色々な施設が有る。その内の第一層は図書館という訳だ。
「なるほど……それじゃ、適当に……これで」
珱嗄はその辺に転がっていた本を拾い上げた。手に取った本は、タイトル『何故地球温暖化は無くならないのか?』だった。そんな物、珱嗄が邪魔しているからに他ならない。まぁ当然の様に嘘である。
実際、地球温暖化なんて珱嗄が動けば一瞬で解決してしまう。まぁ一時的にだが。人間は一度どうにかしてもそれを繰り返すから意味は無いのだ。
「んじゃ……問題。この本、『地球温暖化はなぜなくならないのか?』の一節にある、「――地球温暖化を解決する方法は無い物だろうか?」というのを聞いて、確実な解決策を具体的に挙げよ」
「んなっ……!」
珱嗄は解決策が有れば他の誰もがやっている、と思う様な問題を出してきた。そして、その問題には図書委員長、十二町矢文も驚愕だった。寧ろ、このキャラクターの心情を答えよ……という問題位なら軽く答えていたのだが、これは幾らなんでも無理だった。全世界の人間が考えて出ない答えを、ここで具体的にかつ確実な答えを出せと言って来たのだ。答えるのは、無理だった。
「く……分からないわ」
「そうかい。じゃ通るぜ」
「待ちなさい。ぅ私は答えられなかったけど、ちゃんと答えはあるんでしょうね? 貴方が答えられなかった場合は、それは問題として成立していないわ。ちゃんとした答えを教えなさい」
十二町矢文はそう言って珱嗄を引き止める。彼女は珱嗄のスキルを知らない。故に、この問いに珱嗄は答えられないと思ったのだ。黒神めだかや雲仙冥利から聞く限りによると、要注意人物とのことだが、そこまで危険な人物には見えなかった。
「簡単だ。俺が、スキルを使えば、全部まるっと解決だよ」
珱嗄はそう言って、次の階へ続く階段を上って行った。
「ソレって……ありなのかしら……」
十二町矢文はそう呟いて、長い髪を揺らしながら机に突っ伏した。