◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
黒神めだかは善吉達に課題を出した後、自身は【
それにしては時間が無さ過ぎると思うかもしれないが、安心院なじみの【
まぁそれはそうとして、そのスキルを使ってなじみはちょっと前の時間に戻り、黒神めだかの隣へと移動した。ご丁寧に鍋島猫美の変装までしてだ。変装自体はすぐに見破られたが、なじみはめだかに少し頼まれごとをされて、そのままその場を離れた。そして黒神めだかはその足で時計塔の最上部、つまり珱嗄が立っている場所へとやってきたのだ。
「……珱嗄さん。貴様がこの事件の犯人だな?」
「あーそうだよ。ちなみに、それに辿り着くには少し遅すぎたね。生徒会長失格だぜ」
「なにを……!? これは!?」
黒神めだかは時計塔の上から学園を見渡した。そしてそこにある光景は、珱嗄が作りあげた赤い学園と肉塊とかした愛すべき生徒達の姿があった。
「な……な……っ」
見れば見る程、その光景は残酷な事実をめだかに突き付けた。雲仙冥加や日之影空洞、剣道部の面々や鍋島猫美、黒神真黒やくじら、古賀いたみや不知火半袖に至るまで、ありとあらゆる全ての生徒が血の海の中で物言わぬ唯の死体と化していた。
「う、ぁ……あああああああああ!!!!」
その光景に、めだかは叫び声を上げる。生徒会長として、人間が大好きな黒神めだかとして、なによりこの光景は大きく心にダメージを貰った。事件自体は起こっていたし、その犯人も捜すべく手を尽くすつもりだった。でも、遅かった。本当なら安心院なじみを相手に後継者を育てる前に、それを放置してでも珱嗄の起こした事件の解決に全力を注ぐべきだった。なにより、生徒会長として……生徒が死んでいる事件を後回しにしてしまった事がめだかに最大の衝撃を与えていた。
生徒会長として、生徒の事を一番に考えられなかった。黒神めだかとして、こんな事態になるまで何一つ手を打つことが出来なかった。蘇生できる可能性があるからと言って生徒の死に軽い気持ちを持ってしまった。
「お前は生徒会長だろう。なのに、お前の下にいる生徒達の事を軽んじた……それは確実にお前の生徒会長としての存在を汚すぞ。つまり、お前は生徒会長失格だ、この大馬鹿野郎」
珱嗄の言葉が、黒神めだかに突き刺さる。めだかは珱嗄の言葉に膝を着いた。だが、まだ蘇生の可能性があるのは事実。今はそれだけがめだかの心を支えていた。まだ間に合う、まだ手はあると。
だが、そんな支えを珱嗄が許す筈が無いし、分かっていない訳もない。故に―――
「ちなみに言っとくぞ。俺の殺した生物は、何をしても生き返らない」
―――珱嗄はそんな支えを根本から砕き、破壊する。
勿論のこと嘘である。しかし、現在球磨川の【
「取り返しがつくと思うなよ。お前は失敗したんだ。空洞君は言った、人生にリセットボタンはあるって……でもな、俺は言うぞ。人生にリセットボタンが有ってたまるか」
黒神めだかは珱嗄の言葉に、ふらふらと立ち上がった。その支えを失った瞳からはぽろぽろと涙がこぼれ、その表情からは一切の感情が無かった。ふらふらと珱嗄に近づき、力ない拳をのろのろと振り下ろす。だが、珱嗄はそれを少し半身になる事で躱した。めだかは躱されたことでバランスを失い、どしゃっと倒れる。そしてそのまま立ち上がろうとしなかった。
「やっぱこの程度か。俺が動くと災害並みってのも……あながち間違いじゃないのかもなぁ。まったく、こんなんじゃ球磨川君や靱負ちゃんを動かした意味が無いじゃないか」
珱嗄はそう言って笑みを浮かべ、少しだけ嘆息した。
もともと、珱嗄の考えでは黒神めだかが珱嗄の言葉に屈さず、球磨川と戦った時同様に立ち上がり、珱嗄と勝負する筈だった。勝負が終わった頃、関門をクリアしてきた球磨川と靱負がめだかを裏切り、生徒会の面々と候補生達を殺し、黒神めだかの心と体に止めを刺す。これで珱嗄の考えではめだかが敗北する予定だったのだ。
だが、珱嗄の考えとは違って黒神めだかは立ち上がらなかった。この時点で勝敗が決まってしまった。珱嗄の思っている程、黒神めだかの心は強くなかったのだ。
「戦闘は無しか。つまらないな。黒神めだかもこんなもんか……あーあ、本当に――――」
「―――面白くない」
珱嗄はただそう呟いた後、片手を上に掲げる。最早この事態をどうにか出来るのは、この事態を生み出した珱嗄のみ。
「現実を夢に変えるスキル【
この時、此処一週間の事。珱嗄が動くと言ったあの日からの事、その全てが珱嗄の手によって
―――夢となった。
◇ ◇ ◇
「……はぁ」
珱嗄はため息を吐いた。珱嗄のいる場所は、先程までいた時計塔の上では無い。空洞が中央に座っている3年13組の教室だ。
「どうした珱嗄。珍しいな、ため息なんて」
「いや、ちょっと面白くない事があってね」
話しているのは、珱嗄と空洞。死んだ筈だった、珱嗄によって殺された筈だった空洞が、生き返っている。この事実が、先程までの事を夢だという証拠になっていた。
珱嗄が黒神めだかを敗北させたあの時から、一週間前の珱嗄が動く宣言をしたこの教室の中までの時間は全て珱嗄の夢として処理され、また始まった。ソレ自体は良いし、珱嗄も動いた結果が碌な事にならないと知った。全ては夢だったのだ。
だが、そんな中夢にならなかった現実がある。珱嗄が故意に残したたった一つの大事な記憶が。
「珱嗄」
「ん?」
珱嗄を呼ぶ声に、視線を移すと教室のドアの前に安心院なじみが微笑みながら佇んでいた。いつもの巫女服では無く、何処かのセーラー服を着ていた。見ればその佇まいはこの学園の一生徒、人外の彼女からはあまり見られない普通の女の子の様な雰囲気だった。
「なじみか。……よいしょっと」
珱嗄はそんななじみの姿を見て座っていた教卓から降りて立つ。なじみは珱嗄に近づき、腕を取った。空洞はそんな二人を少し驚いた様な顔を見た後、ふと笑った。
「帰ろう?」
「ああ。それじゃ空洞君、また明日」
「ああ、また明日」
珱嗄となじみはお互いの顔を見てくすりと笑った。そして珱嗄はなじみに腕を組まれた状態のまま教室を出た。スキルを使えば、容易に家に帰ることが出来るであろう二人は、わざわざ歩いて出て行った。
「スキルは使わないのか?
「今日は歩きたい気分なんだよ。
珱嗄が夢にしなかった現実は………まぁそういうことだ。