◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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『えー』『モブキャラの皆さん』『こんにちは!』

 安心院なじみはしばらく珱嗄と抱き合った後、気持ちを落ち着かせてまた教卓の上に腰かけた。珱嗄の顔をまともに見れず、顔を紅潮させて眼を逸らす。先程まで大泣きした挙句、珱嗄を抱きしめていたという事実がとても恥ずかしく思えて来たのだ。

 対する珱嗄はいつも通り余裕そうにゆらゆらと笑っていた。また、なじみのそんな普通の女の子の様な反応に少し嗜虐心を抱きつつ、面白そうになじみを眺めていた。

 

「うぅ……」

 

「……」にやにや

 

 会話もなく、ただ安心院なじみの唸るような苦悶の声が度々聞こえてくる。珱嗄もそんななじみの様子を堪能して満足したのか、早々に話を進めようとした。

 

「なぁなじみ」

 

「な、なにっ!?」

 

「ちょっと話があるんだけど」

 

 珱嗄はそう言ってなじみに球磨川と靱負の二人を巻き込んで色々と事を起こそうとしている事を話した。なじみにも協力してほしい事も含めて、珱嗄の計画とも言えない様なやり方とその方法を全部だ。

 

「……待て待て待て、珱嗄。君が動く? 駄目だってそんなの。どれくらいヤバいかって言うと、さっきまでの羞恥心が大気圏外まで吹き飛ぶくらいヤバいよ」

 

 なじみはその事実に驚愕し、羞恥心をどこかへ飛ばしてしまった。

 

「いや、ちょっと面白そうだったから。とりあえずお前のフラスコ計画をどうにかしようとめだかちゃん達動いてるじゃん? それを利用してちょっとね」

 

「……はぁ、球磨川君も僕も靱負ちゃんも運が良かったね。珱嗄の敵に回ったら命がいくらあっても足りないよ」

 

「……俺ってそこまでヤバいの?」

 

「うん。地球上で珱嗄程事を起こしちゃいけない存在は無い位だね」

 

 珱嗄は面白そうに笑った。そこまでヤバい奴認定されてると、逆に面白くなったのだ。なじみはそんな珱嗄の表情を見て、くすりと笑った。

 

「で、具体的にはこれから何するの?」

 

「ああ、球磨川君は生徒会のスパイ。靱負ちゃんはなじみの端末のスパイに回って貰ってるんだけど、俺達はとりあえず………全校生徒皆殺しにしてやろっかなぁって」

 

 珱嗄は笑顔でそう言った。そしてその言葉を聞いたなじみは笑みをぴしりと固めてしまった。そして、つぅっと冷や汗を流しつつ、珱嗄に向かってひきつった笑みを向けながら言った。

 

「珱嗄……頭おかしいんじゃねーの……?」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「さて、安心院なじみが動きだしたのだ。私達は後継者を早急に立てなければならない」

 

「『でも、どうするのさ』」

 

「安心しろ球磨川。それについては既に手を打ってある。今から体験入学生徒募集でやってくる受験生達を後継者にするのだ」

 

 珱嗄の息の掛かった球磨川禊は、その役を全うするために生徒会のスパイとして忠実に行動していた。めだかの出してきた後継者選びの方法は、珱嗄から教えられていた通りで少しびっくりしているのだが、それならそれで都合が良いなぁと考えていた。

 

「『それじゃあ』『僕に少し提案があるんだ』」

 

「提案ですか?」

 

 球磨川の言葉に反応したのは、人吉善吉。球磨川は善吉の聞き返しに答えた。

 

「『うん』『後継者候補生って言っても』『応募者は軽く600人位来るでしょ?』『まどろっこしいから数人選出して』『一人、教育係として付けるってのはどう?』『生徒会だって基本5人なんだしさ』」

 

「……なるほど。一理あるな。まぁ球磨川の珍しくまともな提案だし、採用するとしよう」

 

 めだかはそう言って、球磨川の案を採用した。

 

「だが球磨川。その選出方法というのはどうするのだ? 正直言って、コレから候補生達へ挨拶に行くのだから、あまり手の込んだ事は出来ないぞ?」

 

「『そこは任せてよ』『めだかちゃん』『生徒会からの挨拶』『僕にやらせてくれない?』」

 

「む、本当に珍しく真面目だな球磨川。まぁそう言うなら貴様に任せるとしよう」

 

 めだかはそう言って球磨川禊に生徒会挨拶の役目を任せた。

 

 そして、生徒会メンバーは全員うじゃうじゃ集まっている候補生の前に出て、その面々の顔を見渡した。そして球磨川禊がマイクを持ち、壇上に上がる。すると、候補生全員の視線が球磨川禊へと向いた。

 そして―――

 

 

 

「『えー』『モブキャラの皆さん』『こんにちは!』」

 

 

 

 ―――球磨川禊は核爆弾並の挨拶を容赦なく撃ち放った。

 ぐしゃりと心の折れる音が聞こえてきた。見れば、600人近くいた候補生のほぼ全員が地面へと膝を着き、心を折られて落ち込んでいた。

 

「『どうしたんですか皆さん』『この後はもう出番は無いんだから』『もっと頑張ってくださいよ』」

 

 更に追い打ちを掛ける球磨川禊

 

「『モブキャラ以上の役割なんかないんだから』『せめて進行が上手くいく様に役立ってくださいよ!』」

 

 三撃目。この言葉で、最早立ち上がってくる候補生は殆どいなくなっていた。むしろとぼとぼと帰っていく者もいる位だ。

 

「球磨川ァ!! なんだお前は、まだ私と喧嘩したいのか!」

 

「『いやいや』『違うって、ほら』『あそこ』」

 

 球磨川禊がどうどうと黒神めだかを抑えつつ指差した先にいたのは、5人の少女達。球磨川の言葉で心を折られなかった唯一の候補生たちだ。

 

 

 そして、後に黒神めだかは知る事になる。彼女達5人全員が安心院なじみの端末である悪平等(ぼく)なのだと。

 

 

 そして、それを知った黒神めだかは思い知る事になる。少女達にはもう何の意味もなく、裏で動き始めた珱嗄の災厄の手がもう目の前まで迫っていた事を。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「ふふふ、後継者作りか。まさかあの5人全員が僕の端末だなんて思わないだろうね。あはは」

 

「まぁそれでいいさ。正直言って、今は黒神めだかの後継者作りは俺から意識を逸らす為に利用する手段でしかないし」

 

 なじみと珱嗄はそう言って、黒神めだかの様子を時計塔の屋上から珱嗄式スキルの一つ、別場所の光景を見ることが出来るスキル【進光景(プレイバック)】で眺めていた。球磨川禊の動向も予定通りに動いているようだし、珱嗄の計画は順調に進んでいた。

 

「この後球磨川君が靱負ちゃんを候補生5人の教育係として推薦して、あの5人を靱負ちゃんに任せる。んで……後継者候補生という大切な存在を、こちらの手中に入れておく」

 

「君の考えは本当に最初からクライマックスだね。それって所謂人質って奴だぜ?」

 

「ちょっと違うな。アレは人質じゃないよ。アレは生贄って奴だ」

 

「なお悪い」

 

 珱嗄はそう言ってゆらりと笑い、なじみはそんな珱嗄に突っ込みを入れた。

 

「さて……次の手を打つとしよう。とはいっても、学園の生徒を段階を踏んで殺していくだけだけどさ」

 

 珱嗄式スキルの一つ。銃を精製するスキル【門前の銃顕(ビーストドッグ)】を発動。遠距離用のアサルトライフルを精製、地上を歩いている生徒を数十人ほど、撃ち殺す為に。

 

 

「さて、黒神めだか。後継者育成も良いけど……お前はまだ生徒会長なんだぜ? ボーっとしてたら、生徒が皆死んじゃうよ?」

 

 

 珱嗄はそう呟いて、ライフルの引き金を引く。連射し、狙い通りに数十人の生徒をヘッドショットで撃ち殺した。そして、珱嗄は黒神めだかと安心院なじみの最早意味を為さなくなった勝負の裏で、開戦の狼煙を上げた。

 


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