◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄が動いたという事実を知るのは、今の所球磨川禊と更にもう一人。
人外の域を全力疾走で駆け抜ける人間、泉ヶ仙珱嗄の行動に使われる人材は、勝利を知っている異常ではなく、普通を謳歌する普通でも無く、敗北しか知らなかった過負荷。球磨川と靱負の二人だ。
「さて、まずはスタートを切るとしよう」
「『どうするの?』」
「……」
珱嗄は時計塔の屋上で風に吹かれながらその二人と会議をしていた。まず、何を起こすのかを決める話しあいだ。珱嗄の目的はあくまで黒神めだかを完膚なきまでに敗北させること。
まず、黒神めだかは相手の得意な戦い方に合わせて戦い、勝利することで相手に対抗する性質を持った人間だ。今までもそれで勝利してきたし、その結果大勢の人間を魅了してきた。驚異的な事実である。
だが、珱嗄は敢えてそこを利用する。彼女を完膚なきまでに敗北させる方法は、心理的にも肉体的にも負けを認めさせる事だ。そこで使うのが球磨川禊と帯刀靱負の二人。心理的には心を折る事に関して右に出る者はいない球磨川禊が心理面を、そして肉体を玩具にする事に関して右に出る者はいない帯刀靱負が肉体面を破壊する。
そして、珱嗄が最後の最後に止めを刺す。具体的な方法としては、安心院なじみのフラスコ計画を利用した物。なじみのフラスコ計画の概要は、人吉善吉を黒神めだかに勝たせることで見出す完全な人間作り。この時点ではどのようにして善吉をめだかに勝たせるのかは未明だが、珱嗄には大体の予想が付いていた。
「まずは、黒神めだかにバレない様に安心院なじみをこちらに引き入れる」
「……それは、お兄ちゃんがいれば簡単」
「ああ、そうだな。俺が口先三寸で丸め込めば良い」
「『それで、その後は?』」
球磨川禊の問いに対し、珱嗄の答えは随分とスケールの大きい提案だった。
「決まってるさ。箱庭学園の全生徒殺して黒神めだかの出方を見る」
そして、その言葉は何処かのバックアップ宇宙人の様な台詞だった。
◇ ◇ ◇
「『どうしたものかなぁ』『珱嗄さんのやり口は最初からクライマックスすぎるぜ』」
「……」
珱嗄と別れて球磨川と靱負は校舎の廊下を歩いていた。学ラン姿に副会長の腕章を着けた球磨川の表情は笑みを浮かべつつ頬には汗が伝っていた。珱嗄の行動は、これまで黒神めだかの相手をして来た奴らの様に遠回しなやり口では無かったからだ。
例を上げるとすれば、フラスコ計画で13組の13人が地下研究室で色々やっていた時、その13人が全員黒神めだかに対する何かを持った者で、不知火袴の差し金の下、黒神めだかに戦わなければならない状況に追い込んだし、球磨川禊も生徒会戦挙といった形で黒神めだかが動かねばならない状況を作り、勝負を挑んだ。
どいつもこいつも直接ではなく、ある程度の戦略を敷いて黒神めだかと戦って来た。だが、珱嗄は違う。一番最初から黒神めだかに喧嘩を売る行動だ。戦略も何も無い、ただ黒神めだかが嫌悪し憤怒する行動をひたすらにやっていくという方法を取っているだけだ。
そして、黒神めだかがそれを阻止しようとするまさにその時を狙っているのだ。
珱嗄の考えは、黒神めだかが珱嗄の行動を阻止しようとして逆に返り討ちに合い、最終的に阻止出来ずに何もかもを失う、という物。
非常に単純で分かりやすい戦法だ。
「『まぁ』『安心院さんは珱嗄さんが動けばどうにかなるだろうし』『僕達は僕達でやることをやろうか』」
「くひっ♪」
球磨川禊のそんな言葉に、帯刀靱負は口元を吊り上げらせ、歯をギチリと鳴らせて笑った。
◇ ◇ ◇
「さて、なじみ。話を付けようか」
「……珱嗄」
そんな時、珱嗄となじみは対峙していた。場所はなじみの作りあげた教室空間。教卓に腰掛けるなじみと、教室後ろのロッカーに腰掛ける珱嗄。教室の端と端で互いに向かい合う二人の怪物が、3兆年に及ぶ人外の問題に終止符を打つ―――