◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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俺はお前じゃないし、お前は俺じゃない

 ―――番外2

 

 

 異変解決に動きだした雲仙冥利と名瀬夭歌。雲仙冥利は古賀いたみの身体に段々と慣れてきたが、現在は以前の回復力が無くなっている故に、移動には名瀬の助力を必要としていた。

 

「くっそ……なんで俺がこんな」

 

「知るかよ。古賀ちゃんの身体だから仕方なく協力してっけど、正直原因は思い付かねぇし。今来てる過負荷(マイナス)の連中の仕業か、珱嗄先輩位しか……」

 

「……珱嗄ってあの着物野郎か?」

 

「ああ」

 

 名瀬は、珱嗄の事を分析対象として見ている面もあった。その結果、珱嗄が複数のスキルを持っている事を半ば確信していた。結局、どんなスキルをどれくらいの量持っているのかは分からなかったが、身体強化のスキル位は持っているのではないかと思っている。

 

「まぁこいつは可能性低いだろ。あるとすればやっぱ過負荷(マイナス)のほうじゃねぇかな。まだ得体の知れねぇ奴らだしよ」

 

「なるほど」

 

 古賀いたみは納得の表情で頷いた。眉間にしわが寄っている所が普段の古賀とは少し印象を変えた物だったが、雲仙冥利が入っていることから仕方ないだろう。

 

「それにしても、こんなことが起きるとはなぁ」

 

「そうだな……っと、ここが風紀委員室だ」

 

「じゃまするぜー」

 

 名瀬と古賀はそう言って風紀委員室へ入る。すると、全員から視線があつまる。だが、二人の視線が向かうのはグースカと寝ている雲仙冥利。

 

「どうなってんだこりゃ」

 

「古賀ちゃんが入ってたら寝てる、ってことはねぇだろ」

 

「ってことは、俺の身体にはまた別の人間が入ってる?」

 

「心当たりはねえのか? いつも寝てる様な奴によ」

 

「……太刀洗しかいねぇな」

 

 古賀はそう言って汗を流した。複雑な心境だろう。自身の身体の中に万年ニートの太刀洗斬子が入っているのだから。

 そう考えていると、風紀委員室の扉が大きな音を立てて開いた。そして扉が開いた先にいたのは、息切れを起こしている太刀洗斬子。

 

「あ! いたいた、名瀬ちゃん! どうしよどうしよっ私こんな体になっちゃってて!?」

 

「あー……つまりこういう事か。風紀委員長が古賀ちゃんの身体に入って、古賀ちゃんが太刀洗っつー奴の中に入って、その太刀洗が風紀委員長の中に入ったと」

 

「みたいだな」

 

 状況が把握出来た名瀬は、とりあえず入れ替わりの起きた三人の身体と精神がこの場に揃った事に安堵して嘆息した。だが、精神の入れ替えなんて、都城王土のスキルを使う位しか方法が思い付かない。どうした物かと考える。

 

「とりあえず様子を見てみようぜ。時間が経てば戻るかもしれねぇし、戻らなかったら戻らなかったで黒神めだかを尋ねれば良いだろ。幸いなことにアイツは都城先輩のスキルを【完成(ジエンド)】で会得してるしよ」

 

「あ、ああ……そうだな」

 

 その後、とりあえず名瀬と雲仙入り古賀は風紀委員達に状況の説明をして、しばらくそこにいる事にしたのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「くくく……やっぱり、ランダムとはいえ面白いスキルだよねぇ」

 

 三人がこの状況に慌ただしくしている中で、珱嗄は時計塔のてっぺんに座りつつ笑っていた。別の場所の映像を見る事が出来るスキル【進光景(プレイバック)】を使って風紀委員室の光景を見ていた。このスキルは過去や未来関係無くあらゆる時系列の中のみたい場所の光景を見る事が出来るスキルだが、珱嗄は基本現在進行形の映像しか見ないので、あまり使われない。

 

「さーて、じゃあ何時戻してあげようかなぁ」

 

 珱嗄はそう言って楽しげにゆらゆら笑う。

 

「全く、君は何時まで経っても変わらないんだから」

 

「なじみ。球磨川君はどうした?」

 

「今は休憩中だよ。球磨川君地面に倒れて動かなくなっちゃったから」

 

「そうかい」

 

 なじみはそう言って珱嗄の隣に座って珱嗄の肩に頭を乗せた。傍から見ればちょっと羨ましい光景である。

 

「どうしたなじみ。いつになく沈んでるじゃないか」

 

「……ねぇ珱嗄。なんで君はそんなに楽しそうなんだい? 僕と同じ、いやそれ以上に人外で何でもできる君は、どうして僕とそんなに違うんだい?」

 

 なじみの病に関わる疑問、未だなじみは『出来ない』を探している。だが、それ以上になじみは珱嗄が自分と同じ様に生きていない事が不思議でならなかったのだ。

 

「違うのは当たり前だろ。俺はお前じゃないし、お前は俺じゃない」

 

「……君は出来ない事が無いことが辛くないの?」

 

「辛い訳が無い。俺はこの現実を楽しんでるからね。漫画の中の世界だろうと現実だろうと、結局楽しめるかどうかは俺の匙加減次第だ。それに、なじみ……お前に出来ない事位俺の中じゃ幾らでもあるぞ」

 

「え?」

 

 その言葉に、なじみは珱嗄の顔を覗き見る。珱嗄はなじみの方を見ずにあくまで楽しそうに笑っていた。

 

「俺が邪魔したらお前なんて何も出来ないさ。俺が全力出したらお前なんて呼吸すら出来ない唯の人形なるぜ」

 

「……そっか」

 

 なじみはそう呟いて珱嗄の肩にまた身を寄せた。珱嗄はそんななじみの頭を抵抗せずに乗せていた。そして、その状態のまま目の前の光景を眺める事10分ほど。何も話さない二人だが、そんな沈黙がどこか心地良かった。

 

「さて……それじゃあ元に戻すとしよう」

 

 珱嗄はそう言って、三人の精神を元に戻したのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 その後の雲仙冥利

 

 

「身体が戻ったのは良いんだけど……めちゃくちゃ眼が冴えてて寝れねぇ……」

 

 雲仙冥利は太刀洗が眠り続けた結果、しばらく寝る事が出来なかった。

 

 

 

 その後の古賀いたみ

 

 

「うえ~ん……修理がまた長引いちゃったよ~」

 

「仕方ねぇだろ古賀ちゃん。今回は結構無理させたからな身体に」

 

 古賀いたみは雲仙が無理して動いた結果、修理が長引く事になった。

 

 

 

 その後の太刀洗斬子

 

 

「zzz……ん!? あたっ、いたたたたっ痛いよ~~!」

 

 普段動かない太刀洗の身体を古賀が名瀬を探すのに動かしまわった結果、しばらく筋肉痛で動けなかった。そして不知火が筋肉痛を治す代わりに会長戦に関するルール変更を呑ませる事になるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 


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