◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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ふふふ、なんだか今日は良い日になりそうだなぁ

 生徒会戦挙が終わり、球磨川禊と付いてきた過負荷勢の生徒を無事箱庭学園に引き入れる手続きも終わり、箱庭学園には平穏が訪れていた。

 また、生徒会には球磨川禊という副会長が就任し、絶対揃わないと言われていた生徒会が揃っていた。そして、そんな球磨川禊は勝負の後志布志や蝶ヶ崎といった過負荷(マイナス)のメンバーに勝った報告と改心したという事実を告げた。志布志達から何かしらの非難があると思っていたが、彼女達は球磨川に対して笑ってそうかと言い、自分達も改心出来ると真面目に学園に通い始めた。

 

 そして、現在はほぼ全生徒が登校し終えて授業を受けている最中である。そんな中、球磨川禊は副会長の腕章を着けてジャンプを読みながら登校していた。

 

「『うーん』『BLEACHは零番隊とか意味不明な奴ら出て来たし』『展開が読めないなぁ』『っ……まだ傷が痛むなぁ』」

 

 彼はジャンプを閉じて感想を口にする。そして未だ治っていないダメージに顔を歪めた。安心院なじみは黒神めだか戦の為に【却本作り(ブックメーカー)】を球磨川に返したのだが、代わりに【大嘘憑き(オールフィクション)】を失っていた。故に、傷を無かったことにする事が出来ない。

 

「あ、球磨川君。おはよー」

 

「『あれ?』『珱嗄さん』『なんでこんな時間に登校してるのさ』」

 

「それはお前にも言えるだろ。俺は13組だから行っても永久自習なんだよ」

 

「『どうせ寝坊したとかでしょ?』」

 

「お前じゃねぇんだからそんなわけあるか。寝坊したらそのまま寝るわ」

 

 球磨川の前に歩いて来たのは泉ヶ仙珱嗄。最近では珱嗄も箱庭学園の制服を着物風に改造した物を着る様にしている。見た目的には普段の着物と大差ない。デザインや色が少し変化したくらいだ。

 

「あ、そうだ。球磨川君」

 

「『何かな?』」

 

「一回死んでくれ」

 

 珱嗄はそう言って、球磨川禊の顔をぐしゃりと潰した。溢れ出る血液が彼の学ランを赤黒く染めて行き、頭を失った肉体はどちゃっと倒れた。

 

「……さて、と。なじみの封印も解けたし、そろそろなじみが動きだすだろうなぁ……完全な人間作り、か。出来ない事にも程があるな」

 

 そう呟くと、球磨川禊がゆっくりと起き上がった。顔は元に戻っており、溢れていた血液も無くなっていた。まるで、無かったことになったかの様に。

 

「『これは……』『【大嘘憑き(オールフィクション)】?』」

 

「そうだ。お前が持ってたのはなじみのスキルの改造だっただろ?【手のひら孵し(ハンドレットガントレット)】だっけ?」

 

「『うん』」

 

「今渡したのはそれじゃなくて、俺が作った現実を虚構にするスキル【大嘘憑き(オールフィクション)】だよ。正真正銘、出来た時から【大嘘憑き(オールフィクション)】だ」

 

 珱嗄のスキルを創るスキル【嗜考品(プレフェレンス)】は元々、思考したスキルを創るスキルだ。更に言えば、そのスキルの全てが完成した至高品。さすがに珱嗄の嗜好は入っているが。

 珱嗄の嗜好(おもしろい)を含んだ思考(おもいつき)から生まれる至高品(スキル)。その原初のスキルが【嗜考品(プレフェレンス)】だ。【大嘘憑き(オールフィクション)】位容易に創りあげる事が出来る。

 

「『でもなんでまた?』」

 

「一応持ってた方が良いと思って。なじみがそろそろ面白い事をし始めるだろうし」

 

「『あ』『やっぱり安心院さん来るんだ?』」

 

「当たり前だろ。なじみだぜ?」

 

 珱嗄はそう言って歩き出す。球磨川もそれに並ぶ様に歩き出した。生徒会副会長である球磨川禊と無敵である泉ヶ仙珱嗄が学ランと改造制服で歩く様は、きっと普通の登校時であれば確実に風紀委員に止められたであろう。

 

「そうだ、今日の帰りマクドナルドでも行かね? なんだか今日はマクドナルドが食べたい気分なんだよね」

 

「『うん』『いいよ』『一応生徒会副会長だから』『生徒会に寄ってからだけどね』」

 

 珱嗄と球磨川はそう言って校舎の中に入って行った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 安心院なじみはその衣装を珱嗄との生活でもおなじみの巫女服へと変えて、箱庭学園へ向かう準備をしていた。球磨川禊の封印も解け、自身が少し前から始めていた最後の『出来ない』を達成する為に。

 

「さて……行こうかな」

 

 安心院なじみの脳内に浮かぶのは珱嗄の姿。今回の『出来ない』を含めてこれまでの『出来ない』を手伝ってくれた男だ。今回も何かしら手を出してくるかもしれない。まぁなじみにとってはそれでもいいのだが。

 

「……珱嗄」

 

 なんとなく、ぽつりと口にする珱嗄の名前。それだけでなじみの表情は緩み、胸に温かい何かで埋まった。鏡を見れば分かっただろうが、この時安心院なじみの頬には確かに赤みがさしていた。

 現代の一般女子が彼女の様子を見ていたら、恋をしていると思っただろう。胸に溢れた温かい何か、とは恋愛感情、好きという想いだと思っただろう。

 

 安心院なじみはこの感情をどう表現して良いのか知らない。恋や恋愛といった物の存在は知っているし、どういう物かも分かっているつもりではあるが、そういう概念がまだ無い頃からこの感情を抱き続けてきたのだ。感覚がボケてどういう物か分かっていないのだ。

 

「ふふふ、なんだか今日は良い日になりそうだなぁ」

 

 実は毎日の様に言っているのだが、そんな事にも気付かない安心院なじみはやはり恋する乙女なのだった。

 


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