◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
会計戦も終わり、生徒会戦挙も中盤を超えた。残る対戦は副会長と会長戦の二つのみ。過負荷側がその二試合に出す出場者は御存じ泉ヶ仙珱嗄と球磨川禊。おおよそ真反対と言える二人だ。最強と最弱、最笑と最凶、まぁ最笑なんて造語だが、人を
だが、究極的に言えば泉ヶ仙珱嗄の反対の存在は安心院なじみだろう。確たる証拠になる要素を挙げられるわけではないが、きっとそうなのだ。
「副会長戦、俺が出て良い?」
「別に良いですけど」
珱嗄はそう言って、蝶ヶ崎蛾ヶ丸から副会長戦の出場権を奪い取った。実を言えば、珱嗄は生徒会メンバーに副会長戦に出ると言った時、まだ蛾ヶ丸の承認を得ていなかった。まぁ、今取った訳だが。
「ありがとう、蛾ヶ丸君」
「別に……」
珱嗄はそう言って蛾ヶ丸の頭をぽすっと撫でた。その手は蛾ヶ丸の頭をわしゃわしゃと掻きまわし、傍から見ればその光景は親しい兄弟や先輩後輩といった仲にも見えた。
「さて、それじゃあ承認も得た事だし……ちょっと勝ってくるよ。球磨川君を勝たせるって約束したしね」
珱嗄はそう言って、目の前で待つ生徒会チームの面々の下へと歩み寄っていく。副会長戦に出る生徒会メンバーはそこに立っていた。人より大きな身体を持ち、その拳で誰にも認識されないまま多くの生徒を護って来た知られざる英雄、日之影空洞。珱嗄の箱庭学園で初めての友人であり、クラスメイトだ。
「おーす。空洞君、この前ぶりだね。で、ソレ何? イメチェン?」
珱嗄がそう言った理由は、空洞の変貌ぶりにある。金髪だったその髪は真っ黒に染まり、強靭な肉体には何やら黒い刺青の様な模様が走っている。しかも、驚くべきはその存在感だ。見れば空洞の
「イメチェンって程じゃねぇよ。お前んトコの金髪グラマー女が凶化合宿中に襲って来たんで阿久根も喜界島もズタボロにされたんだよ。俺もだけど……それで、ちょっと不知火にな」
珱嗄はその言葉を聞いて、空洞に不知火半袖が手を貸したのだろうと理解した。凶化合宿中に志布志飛沫がちょっかい出したのは知っていたが、放置していた。まぁそのおかげでこんな面白い展開が姿を見せたのだから、良いとしよう。
「まぁそれならいいか。中々面白い格好に成った様だし」
「そいつはどうも」
珱嗄はゆらりと笑い、空洞は乾いた笑みを浮かべた。そのやり取りはどう見てもこれから敵対して戦う二人では無く、友人と友人の他愛の無い会話に見えた。
「それでは、副会長戦を開始したいと思います。挑戦者側、泉ヶ仙珱嗄様。フィールドカードをお選び下さい」
「じゃ、未で」
珱嗄が選んだのは未のカード。そのカードを選んだ事による対戦フィールドは、特に無く。学校の校庭になった。ただし、このカードでの対戦ルールはとてもじゃないがとても厳しい物になる。
「未のカードのフィールド指定はなく、校庭での対戦となります。そしてルールですが、まず対戦者はお互い戦闘を行ない気絶か降参するまで戦って貰います。ここで、戦うに当たってとある条件が付きます」
「条件?」
「そうです。それは、お互いの対戦者陣営のチームメイトから敵対戦者へ戦闘における禁止行為を設定出来るのです」
つまり、珱嗄と空洞は校庭で気絶するか降参するまで戦闘を行なう。それに対し、珱嗄達の各チームメイトのメンバー、ここでは空洞側の黒神めだか達と珱嗄側の蛾ヶ丸となる。ちなみに、珱嗄陣営には蛾ヶ丸しかやって来ていない。
そのチームメイトは、相手対戦者に戦闘中の禁止行為を設定出来るのだ。つまり、戦闘中にそれを行なえば負けとなる条件を否応なく相手に課すことが出来る。
「なるほど」
「名付けて【羊毛奪取】! 己の武器を相手に奪われる対戦です」
珱嗄はそのルールに対してゆらりと笑い、空洞は無表情で応えた。
「ではまず挑戦者側の蝶ヶ崎蛾ヶ丸様。日之影空洞様への禁止行為を設定してください」
長者原はそう言って、蛾ヶ丸に問いかける。すると、蛾ヶ丸は少し思案した後空洞を見た。見た所、彼は武器を持っている訳ではないし、見た目的にインファイトの近接格闘タイプだ。
だから、蛾ヶ丸は言った。
「では、近接格闘を禁止します」
と
「なっ……!?」
「そんなのありかよ!?」
蛾ヶ丸の言葉に、生徒会陣営はざわめき立つ。だが、それを空洞が手を前に出すことで治めた。
「そういうルールだ。大体、
「……承認しました。それでは、生徒会側の黒神めだか様方。泉ヶ仙珱嗄様への禁止行為を設定してください」
長者原はそう言って、黒神めだか達に珱嗄への禁止行為の設定を促した。それに対し、めだか達は思案する。近接格闘を禁じられた空洞に対し、珱嗄は近づくだけで勝利することが出来る。故に、めだか達の采配で勝敗が大きく変化する。
「………どうするんだ、めだかちゃん」
「禁止行為というのは、本来箇条書きに出来る様に出来ている。故に、箇条書きに出来るのならそれは適用されるという事だ」
「何を言ってんだ……?」
「つまり、言い方を変えればこんな風に条件づける事が出来る。おい、長者原二年生。決まったぞ」
「なんでしょう?」
黒神めだかは長者原と珱嗄を交互に見た後、凛と胸を張って言った。
「私が珱嗄さんに課す条件は『スキルの使用及び近接戦闘の禁止』だ」
これによって、珱嗄は実質二つの条件を設定された事になる。まずはスキルが使えなくなった。次に空洞同様近接格闘が出来なくなった。経理屈にも程がある言い方だが、この言い方なら確かに適用される。
「……承認しました。それでは、確認いたします」
副会長戦、泉ヶ仙珱嗄対日之影空洞。対戦カードは未、フィールドは校庭。ルールとして、気絶か降参するまで戦うこと。それに対して戦闘中の禁止行為の設定がされる。
日之影空洞の禁止行為は『近接戦闘』
泉ヶ仙珱嗄の禁止行為は『スキルの使用及び近接戦闘』
「それでは、副会長戦を始めます!」
その言葉と同時、珱嗄と日之影空洞は同時に動いた。スキルの使用が禁止されている珱嗄は、元の身体能力で戦わなければならない。とはいえ、その速度やパワーは人外の域に達している。黒神めだかが黒神ファントムで光速移動したとしても余裕で反応するだろう。
「さって、喧嘩は初めてか?」
「そうだな。学校入って二年ちょい……お前とは喧嘩した事無かったな」
「じゃ、始めようぜ。喧嘩」
珱嗄と空洞はまず初めに近接戦闘の禁止という所からお互いに後方へ飛ぶことで距離を取った。
そして、珱嗄はその右足をぷらぷらと揺らしながら調子を確認する様にトントンと地面へつま先をぶつけた。空洞はその拳を揺らした後、腕を伸ばしながら構えた。
「遠距離戦闘ってのが喧嘩っぽくないけどな」
「それもまた、面白い」
珱嗄と空洞は、同時にその脚と拳を動かした。珱嗄の空を蹴る右足から生み出された衝撃は、空気を切り裂き空洞へと飛んで行く。そして空洞の拳もまた拳圧を飛ばして攻撃した。
「週刊少年ジャンプ大人気漫画、ONEPIECEの六式技。『嵐脚』」
珱嗄は楽しげに言う。
「楽しめよ。この喧嘩、俺の勝ちは揺るがない」
いつものように、ゆらゆらと笑みを浮かべながら。