◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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勝負は一瞬で終わるからだよ

 球磨川禊の修行が安心院なじみによって進む中、珱嗄は球磨川の代わりに過負荷組をまとめていた。球磨川の修行は既に珱嗄式スキルの空間を抜け出して、なじみの作る教室空間に場所を移していた。正直、珱嗄が球磨川の修行に手を出す余地は無いのだ。何故なら、珱嗄は球磨川禊がスキルで手軽に実力アップする方を選択した場合の講師だったからだ。

 

「怒江ちゃん、次は君の番だけど」

 

「あ、珱嗄さん。お久しぶりです」

 

「おう、久しぶりだね」

 

 珱嗄と怒江は会計戦である会場にやって来ていた。迎えの選んだカードは、卯。そのカードのフィールドは植物園、競技名は『火付け卯』、対戦カードは江迎怒江と人吉瞳だ。

 

「怒江ちゃん、今回の戦いは負ける事は許されない。何故なら、この勝負に負けたら球磨川禊が黒神めだかと戦えなくなるからね」

 

「そうなんですか? なら、負けない様にしないと」

 

「まぁ、俺がいれば負けは無いけどね」

 

 珱嗄はそう言って、腕輪をはめた。今回の対戦はパートナー方式であり、対戦者である江迎怒江と人吉瞳にはお互いの陣営からパートナーを一人選ぶことが出来る。今回の場合は珱嗄と善吉だ。

 そして、対戦方法はパートナーが爆弾である腕輪を着け、制限時間内にお互いのパートナーの腕輪を外すこと。腕輪の鍵は、対戦者である江迎と瞳が相手に見えるように持ち、それを奪い合うのだ。

 

 つまり

 

 1.制限時間内に

 

 2.鍵を守りながら

 

 3.鍵を奪い

 

 4.パートナーを助ける

 

 というルールだ。

 

「さて、それじゃあ始めようか。大丈夫、怒江ちゃんはただ俺の傍で立っていればいい」

 

「それってどういう……?」

 

「勝負は一瞬で終わるからだよ」

 

 その言葉と同時、長者原による開始の合図が鳴り響いた。

 

 

 

 瞬間

 

 

 

 植物園の植物が全て吹き飛んだ――――そして

 

 

 

 

「俺らの勝ちだ」

 

 

 

 

 珱嗄の勝利宣言と同時、珱嗄の腕から腕輪が落ち………珱嗄達の勝利が決まった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「な、何が起きたんだ!?」

 

「植物園が一瞬で……!」

 

「これは……?」

 

 誰も今起こったことが分からなかった。気が付いたら植物園が吹き飛び、気が付いたら珱嗄の手には瞳の持っていた鍵があり、腕輪が外されていたのだ。しかも、珱嗄は江迎怒江の隣を離れていない。

 

「しょ、勝者……新生徒会チーム、江迎怒江様でございます」

 

 だが、結果として勝ったのは珱嗄達だ。それは紛れもない事実、長者原はそれ故に勝利宣言を行なう他なかった。

 

「珱嗄さん! 今のを説明していただきたい!」

 

 勝利宣言を聞いても、気にせず黒神めだかは珱嗄に問いかけた。すると、珱嗄はその言葉にゆらりと笑って答えた。

 

「俺に不可能はない」

 

 珱嗄はその言葉と同時に、全員の頭に先程起こった事実を映像にして流した。そこに映っていたのは、珱嗄のトップスピードによる衝撃波で植物園が吹き飛び、瞳の鍵を一瞬で奪い取った珱嗄の姿。驚くべきは、人吉瞳と善吉の二人が全く気が付いていない事だ。鍵を奪われた後、衝撃波で顔を覆い、収まった後気が付けば珱嗄の腕輪が取れていたという認識。まさしく速技だった。

 

「………こんなの勝ち様ねぇじゃん」

 

「……ま、まぁ珱嗄さんですから」

 

 名瀬夭歌の台詞に、めだかが引き気味に答えた。だが、その言葉は全員を納得させるには十分だった。

 

「それじゃ、怒江ちゃん。行こうか」

 

「はぁい」

 

 珱嗄は伝えるだけ伝えると、江迎の手を引いて歩き出す。腐りもしないその手は、珱嗄のスキルによる物。そして、珱嗄は何かを思い出したかのように振り返り、言った。

 

「そうそう、副会長戦―――出るのは俺だ。よろしく」

 

 その言葉の後、珱嗄は去っていく。背後で呆然としていた生徒会チーム全員が、副会長戦の敗北を覚悟したのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「そういえば、怒江ちゃんって善吉君の事が好きなんだっけ?」

 

「何故それをっ?!」

 

「まぁ見てれば分かるよね」

 

 珱嗄は江迎と共に過負荷教室で座っていた。会話の内容は、江迎の恋の話。

 

「はい、そうです」

 

「そう、頑張ってね。幸せになると良い」

 

「……私、幸せになっても良いんですか?」

 

「なれば?」

 

 珱嗄は唯そう言った。別にどうでもいいものの様に、特に興味無いかの様にそう言った。

 

「そう……ですか」

 

 だが、そう言われた江迎の表情は憑き物が落ちたかのようにすっきりしていた。珱嗄と江迎には、昔ちょっとした縁がある。そのせいで、江迎は珱嗄に対してかなり信頼を置いている。故に、珱嗄が幸せになっても良いんじゃね? といった事で、とても晴れやかな気持ちになったのだ。

 

「あ、そうそう。そう言う事ならその過負荷(マイナス)どうにかしないといけないな」

 

 すると、珱嗄はスキルのオン/オフを付与するスキル【切替嗜(オルテレーション)】を発動させ、江迎怒江のスキル【荒廃した腐花(ラフラフレシア)】にオンオフを付与した。これによって、発動は江迎の意思で行なうことが出来る。

 

「これでオッケー。それじゃ、高校生らしい恋愛をすると良いよ。最悪押し倒せ」

 

 珱嗄はそれだけ言うと、手を振って教室を出て行った。

 

 

 なにはともあれ、生徒会戦挙過負荷陣営は1勝2敗の戦績を上げたのだった。

 


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