◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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球磨川禊は私がこの手で改心させる!!

 思わぬところで勝利に必要なだけの材料を揃えてしまった球磨川禊は、庶務戦には敗北したが珱嗄達によって会長戦に出ようという算段になった。

 また、次の書記戦の出場者は生徒会側が名瀬夭歌、過負荷側が志布志飛沫というカード。対戦場所は氷点下にも等しい程の気温の冷凍室。ステージのカードは志布志の選んだ、巳。その名も【冬眠と脱皮】、お互いの身ぐるみを全て剥いだほうの勝ち、という物である。

 

 そして、この勝負に志布志飛沫以外の過負荷(マイナス)は蝶ヶ崎蛾ヶ丸以外は登場しない。あの球磨川禊でさえも、そして泉ヶ仙珱嗄の姿もそこには無かった。蛾ヶ丸が黙っている以上完全アウェーの中、志布志飛沫は戦いを挑んだのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 場面は変わって球磨川禊と泉ヶ仙珱嗄、安心院なじみの三名は珱嗄の作りあげた空間の中に立っていた。こうしている中で、志布志達は書記戦を行なおうとしているのだが、球磨川禊はただ一言「『負けても良いから』『頑張ってね』」とだけ声援を送った。

 それによって随分と上機嫌に書記戦に向かった志布志だったが、球磨川はそれに対して何も言わずにただ笑った。

 

「さーて、良い子のみんな~! お勉強の時間だよ! これで安心、安心院さんのっ! ラクラク黒神めだかちゃん対策ぅ!」

 

 珱嗄の作りあげた空間は、某ドラゴンボールにある精神と時の部屋同様の効果を持つ空間である。違うのは真っ白い空間でも重力や気圧や気温は現実世界と同じだし、変化もしない。中での一年が現実での一日という時間差がある故に、特訓にはかなり便利な場所だ。

 また、珱嗄式であるが故に、原作の様に入れる時間が決まっている訳じゃない。無制限に何度でも入ることが出来る。だが、珱嗄の許可がいるのでそう簡単に入れるわけではないが。

 

「『それはいいんだけど』『どうすればいいのさ』」

 

 球磨川禊は何時の間にか置かれていた椅子と机に座らされ、ホワイトボードの前に立つ珱嗄となじみに対してそう言った。

 

「ああ、まぁ落ち着いて聞くんだ。君には二つの選択肢がある」

 

「『選択肢?』」

 

「まず一つは」

 

 なじみが指を一本立てて言う。

 

「僕と珱嗄による超厳しい血反吐を何度も吐く様な修行をして努力の結果、めだかちゃんに勝つ方法」

 

「そして二つ目は」

 

 珱嗄が続く様に二本指を立てて言う。

 

「俺となじみの持つ無数のスキルを駆使して無敵キャラに手っ取り早く成っちまって、めだかちゃんに勝つ方法」

 

「『………』」

 

 そう言うと、珱嗄となじみは同じ様に口元を吊りあげて球磨川禊を見据えた。

 

「「さぁ、どっちが良いか選べ。球磨川禊」」

 

 球磨川禊は、この選択に汗を流す。生温い努力を信条の一つにしている過負荷のリーダーとしては血反吐を吐く様な努力をするのは避けたいし、かといって黒神めだかにそんな楽して勝っても心から勝ったとは思えないだろう。

 

「『そこそこの努力をしつつ』『黒神めだかに勝つ方法は無いの?』」

 

「ないよ」

 

「諦めろ」

 

「『……じゃあ』『努力する方で』」

 

 球磨川禊はとりあえず、努力することにした。

 

「よし、それじゃあ始めよう。何、時間はいくらでもあるんだ、まずはめだかちゃんに勝つ為に必要な要素を君の腐った脳みそでも分かりやすく解説してあげよう」

 

 そう言った球磨川禊に対して、安心院なじみはにこりと笑ってそう言った。

 

「まず、球磨川君が生まれながらの敗北者に対してめだかちゃんは生まれながらの勝者なんだ。それこそ、千年に一人くらいいる勝利を決定づけられた人間だ。そこは事前に理解しておいてほしい」

 

「『じゃあ安心院さんがやったらどうなるの?』」

 

「僕がやっても勝てないね。黒神めだかは箱庭学園を舞台に漫画を描いたとすればその主人公にあたる存在なんだからさ。僕は精々何章かめのラスボスだよ」

 

「『珱嗄さんは?』」

 

「珱嗄は例外だよ、誰も勝てない存在さ。ファンタジー物で言う所の伝説上の勇者とかそういう立ち位置だよ。または世界最強の存在とか謳われている様な奴さ」

 

 なじみは暇そうに胡坐を掻いている珱嗄を一瞥してそう言った。

 

「『ふーん』」

 

「さて、次に。君が彼女の勝つにはどうすればいいのか、まずは前提条件を揃えなきゃいけない。君の中の生まれながらの敗北者という意識を捨てて貰うよ」

 

「『え?』」

 

「意識の問題だよ。君が自分を敗北者と思ってたら当然負けるよ、だって向こうは負ける事は考えてないんだから」

 

 なじみと球磨川はそんな会話をしつつ、作戦を練っていく。前提条件の改変と、それに対する球磨川禊の強化。

 

「さて、それじゃあまずデメリットの方を言っておくよ。一応言っておかないと後々後悔するだろうし」

 

「『デメリット?』」

 

「そう。いいかい球磨川君―――」

 

 安心院なじみは球磨川禊に対して酷く深刻な言葉を告げたのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「―――違うね、氷には炎だ」

 

 一方その頃、書記戦は終わりを告げていた。他人の古傷を開く過負荷(マイナス)致死武器(スカーデッド)】を使用して名瀬夭歌に大きく優勢を取っていた志布志飛沫だったのだが、心の古傷を開いて追い詰めた名瀬夭歌は週刊少年ジャンプさながらに新たなる力に覚醒、過負荷(マイナス)スキル【凍る火柱(アイスファイア)】を会得。その効果は、温度の上げ下げを自由に行なえるという物。

 その結果、開いた古傷は片っ端から凍らせて塞ぎ、心の傷は心を冷たく(クール)する事で躱して見せた。

 

 そして、最終的に逆転で追い詰められた志布志が取ったのは建物に対するスキルの使用。その名も【憎武器(バズーカーデッド)】を発動。建物を風化させて生き埋め作戦に出た。

 だが、それすらも名瀬の手によって凍らされ、風化さえも塞がれてしまった。

 結果、負けを認めて服を脱ぐから後ろを向いていてくれと懇願する志布志。名瀬はそれに対して了承し、後ろを向いたのだが、志布志はその背後にその辺に出来た氷柱を持って攻撃。氷には氷だろう、と言って襲い掛かったのだが、名瀬は冷やすだけではなく熱くすることも出来たので、炎を生み出してこれを迎撃。志布志はその攻撃によって服を焼失。結果、名瀬の勝利となった。

 

「この勝負、名瀬夭歌様の勝利となります」

 

「やった!」

 

「ふぅー……疲れた」

 

 喜ぶ善吉と冷凍室から志布志を抱えて出てくる名瀬。

 

「これで生徒会チームは二勝となります。後一勝で生徒会チームの勝利と成ります」

 

「………」

 

 その宣言に対して反応する人物は、過負荷側にはいない。

 

「次回の対戦は会計戦です。それでは」

 

 そう言うと、長者原融通はふっと去って行った。

 

「おーおー、やっぱり負けてる」

 

 そこへやって来たのは、泉ヶ仙珱嗄。球磨川禊を勝たせると言った男。何故此処にいるかといえば、球磨川をなじみに任せて出て来たのだ。今の所珱嗄が手を出す余地はないので、暇だったのだ。

 

「珱嗄さん」

 

「蛾ヶ丸君か。さて、志布志ちゃんをどうにかしないとね」

 

 蝶ヶ崎蛾ヶ丸は現れた珱嗄に対して志布志を抱えて近寄った。珱嗄はその志布志の様子を見て、時間を巻き戻すスキル【跡戻り(バックトラック)】を発動。志布志の傷は服も含めて戦闘前の状態に戻り、完治した。

 

「さて、これで二敗か……まぁ会計戦はどうにかしないといけないねぇ。会長戦もやりたいし」

 

「どうするんですか?」

 

「会計って怒江ちゃんでしょ? ならまぁ大丈夫かな。俺に任せろ」

 

 そう言うと、蛾ヶ丸はこくりと頷いて気絶している志布志を背負ってその場を去って行った。

 

「……無口な子だねぇ」

 

「珱嗄さん」

 

 その背中を見つつ呟く珱嗄に対して話し掛けたのは、黒神めだか。

 

「んあ? ああ、めだかちゃんか」

 

「これで私達の二勝です。このまま三勝して早々に球磨川達を箱庭学園から―――」

 

「追いだす?」

 

「!?」

 

 めだかは珱嗄の言葉に眼を見開く。何故なら、泉ヶ仙珱嗄の表情が稀に見る真面目な表情だったからだ、

 

「おいおい、黒神めだか。そうじゃねぇだろ、そんなんじゃ球磨川禊には勝てないよ。追い出すだけなら、それこそそこにいる古賀ちゃんや善吉君だって出来るぞ」

 

「……っ」

 

「お前は中学時代と同じ処置を取るのか? その結果が今の戦いを生み出しているのに? なるほど、中々腐った根性してるなお前。俺の知ってるこれまでのお前は現れる相手とは真正面から向き合って心からぶつかって行った筈なんだけどなぁ。がっかりだぜ」

 

 珱嗄は言うだけ言うと、蛾ヶ丸に続く様にその場を去った。振りかえり様に一瞬見えた珱嗄のめだかを見る瞳には、黒神めだかという存在が酷くつまらない物の様に映っていた。

 それを見ためだかは拳を握り、珱嗄が見えなくなった後、自分の顔を殴った。

 

「めだかちゃん!?」

 

「……善吉っ……私は愚かだった。球磨川をこの学園から退ければ、どうにかなると思っていた」

 

「………」

 

「だが、違うのだ! ここで球磨川を追い出せば、同じ様に奴はこれからも人の心を圧し折り、次々と被害者を出す。追い出すのでは駄目なのだ、決めたぞ善吉!」

 

「?」

 

 めだかは拳を顔から離し、鼻血を垂らしながらも凛とした態度で言い放った。

 

 

「球磨川禊は私がこの手で改心させる!!」

 

 

 

 


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