◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄は庶務戦の勝敗が着いて、なんだか飽きてきたのでその場を後にしていた。
そして現在は、13組の教室で日之影空洞と対面している。教卓に腰掛ける珱嗄と、自分の席である教室のど真ん中に腰掛けている空洞。二人しかいない空間の中で、敵対している二人の間に行き詰った様な空気はまるでなく、寧ろ友人同士の気軽で心地良い空気が生まれていた。
「それで、どうなんだよ。そっちは」
「あー、まぁアイツらには凶化合宿を受けて貰ってる。今はちょっとした休憩中だ。俺も少ししたら戻る」
「凶化合宿ねぇ……まぁそれくらいやんないとアイツらは勝負にならないか」
軽い口調で自身らの作戦を漏らす空洞だが、それは別に何も考えていない訳ではない。お互いに相手がどんな人物か知っている故に話しているのだ。空洞は珱嗄が作戦を漏らした所で邪魔してくる様な奴ではないと思っているし、珱嗄も別に邪魔しようとは思ってなかった。
「それにしても、ありゃ何だ? あんな奴がいるなんて思わなかったぜ。球磨川禊」
「まぁアレはアレで個性的な子なんだよ。4000年前位にはもっと酷い奴もいたんだぜ?」
「珱嗄、お前いくつだ」
「ざっと40億歳位かな?」
珱嗄の言葉に、口を開けて唖然とする空洞。それもそうだ、てっきり同い年くらいかと思っていた相手が自分より遥かに昔から生きている人外だったのだから、
「すげぇ長生きだな……」
「何、俺より年上だっているんだし、そう気にすることないだろ」
「お前より上いるのかよ。全く、世も末だな」
空洞はそう言って苦笑する。正直言って常識の範囲外の存在だ。此処まで来ると、珱嗄がどんな非常識を持っていても最早驚きには値しないだろう。
「それにしても、球磨川君も良くやるよね。幸せ者の抹殺とかさぁ」
「それにお前も加担してんだけどな」
「俺は別にそんな考え持ってないよ。ただ面白そうだなぁと」
「お前が関わると碌な展開にならないんだから自重してくれ」
「善処してやるよ」
その口調からは全く反省の色を見せない珱嗄。空洞はその様子にため息をついて立ち上がった。休憩時間の終わり。そろそろ戻ろうと言う訳だ。
「それじゃ俺は戻るぜ」
「ああ、またね」
「『珱嗄さーん』『終わったよー』」
そこに、球磨川禊がやってくる。空洞は若干身構えた者の、自前のスキル【
「おう、遅かったじゃん。それじゃ、行きますか」
「『うん』『あ、奢ってくれない?』」
「やなこった」
そう言いあい、二人は教室を出て約束のマクドナルドへと向かっていった。
◇ ◇ ◇
「それにしても、お前って奴はめんどくさいな。なに? 勝ちたいだのなんだの言ってその努力はしてる訳?」
「『………』『何言ってるの?』」
「努力して無い奴に、勝利が訪れる訳ないだろう」
「『努力か、実にプラスな行為だよ』」
「なんなら、俺がお前の
マクドナルドで一服しながら雑談していたのだが、珱嗄は唐突にそう切り出した。その言葉をどうにか躱そうとする球磨川に対して、珱嗄の言った言葉は反則(マイナス)だった。球磨川にとってはその言葉が強く心に響いた。
幼い頃からの球磨川禊を知る珱嗄からすれば、心の中をいくらでも覗ける珱嗄からすれば、その気になれば人一人を真反対の人間に変えることなどたやすい珱嗄からすれば、球磨川禊の考えている事や達成したい目的なんかは余裕で知ることが出来る。
故に人外。人間の身でありながら、人外の領域に届いた男。
「『僕は……』」
「括弧つけてんじゃねぇよ。お前の言葉を、お前の心で俺に行ってみろ」
珱嗄の鋭い視線に眼を見開いて戸惑う球磨川。そして、その表情から珱嗄には一切の嘘八百、括弧付けた言葉も通用しない事が分かった。
「―――勝ちたいよ。僕だって一回くらい勝ちたい。どんなに格好悪くたって、どんなに弱くたって、胸を張って主役を張れるって証明したい!」
だから、球磨川禊は初めて自分の言葉を打ち明けた。マクドナルドの中で。
「うん、それでいい。俺がお前をめだかちゃんに勝たせてやるよ」
珱嗄は球磨川禊の瞳を見据えてそう言った。そして、指をぱちんと鳴らしてスキルを発動させる。発動させるスキルは、スキルの効果を破壊するスキル【
「来い、なじみ」
「何か用かな?」
そして珱嗄はなじみを呼び、なじみはその言葉と同時に二人の目の前に現れた。
「安心院さん……」
「おや、球磨川君。その言葉遣いを見た所……なるほど、珱嗄に手厳しく言い寄られたみたいだね」
「なじみ、球磨川君をめだかちゃんに勝たせる。ちょいと手伝いな」
「いいよ。そういう事ならこの安心院さんが全力で力を貸そう。安心したまえ球磨川君、安心院さんだけにね」
安心院なじみはそう言って球磨川禊を抱き締めた。そして、泉ヶ仙珱嗄は立ち上がりその手に持ったハンバーガーの最後の一切れを口に放り込んだ。
「俺となじみが全面的に支えてやる。球磨川禊、さっきの言葉……実現してもらうぞ」
球磨川禊はその言葉にとんでもない安心感と罪悪感が芽生えた。
この二人が自分を押してくれる安心感と、この二人が後ろに付いた事による圧倒的なチートさ加減に対する罪悪感。
「『やっべ』『とんでもない人達味方に付けちゃったよ……』」
球磨川禊は括弧付けた元の喋り方に戻して、そう呟いた。
人外の少女と人外以上の男が最弱の男に味方した。この事実はおおよそ、黒神めだかが勝つことが出来ないという現実を作りあげた。
安心院なじみの言う『勝利を決められた存在』である黒神めだかも、同じ存在である珱嗄に対して勝つ事は出来ない。それは安心院なじみも泉ヶ仙珱嗄も、そして黒神めだかも球磨川禊も理解していた。
故に、球磨川禊はこの時勝利の為の道を開く。最弱の