◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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『うん』『まいった!』『強くなったね、善吉ちゃん』

「どうだ! そろそろ負けを認めたらどうだ! 球磨川!」

 

 善吉君はもう何度目かになる蹴りで球磨川君を蹴り飛ばし、そう言う。善吉君の球磨川禊対策として取った戦法は眼を瞑って気配や声を頼りに攻撃すること。この一戦までの短い期間、名瀬夭歌もとい黒神くじらの下でその訓練ばかりして来たらしく、今では眼を瞑ってでも普段通りに戦うことが可能な様だ。

 

 だが、球磨川君は君の常識で測れるほど長く過負荷をやってない。寧ろ、彼は善吉君の知る頃よりももっと退化(しんか)しているのだから。そんな言葉を吐けば、当然こう言うに決まってる。

 

 

「『うん』『まいった!』『強くなったね、善吉ちゃん』」

 

 

 球磨川君はあっさりと負けを認めた。驚愕に眼を見開く善吉君や他の観客達。球磨川禊は誰かがそう簡単に理解出来る様な男じゃないし、彼の気持ちを考えても無駄だ。

 彼は人間として本当に終わっているのだから。

 

「なっ…!!?」

 

「『本当に強くなったよ』『これはもう、話すしかないようだね…』『僕がこの学園に来た本当の理を!!』」

 

 そんな深刻な理由は無いくせに。随分と思わせぶりな嘘を吐く球磨川君。彼の言葉の末端から末端までが嘘、そして末端から末端まで何の感情も籠っていない唯の言葉。あたかも台本に書かれている台詞をそのまま喋っているかのような言葉遣い。

 

「本当の……理由…!?」

 

 善吉君はそう呟いて手を止めた――――いや、止めてしまった。それが球磨川禊に対してやってはいけない行動だと分かっている筈だったのに、だ。

 

 

「善吉ィ!! 球磨川は縋りつきたくなるような嘘を言ってから本番だろうがぁ!!」

 

 

 黒神めだかが叫んだ。はっとなる人吉善吉。球磨川君はそんな二人を見て、歪に口元を吊り上げた。善吉君がめだかちゃんから球磨川君へ視線を移すほんの数瞬の間に、球磨川君が立ち上がり、素早く螺子を取り出した。

 そして、次の瞬間。善吉君が球磨川君を視界に収めたその瞬間に、数本の螺子が善吉君の身体に叩き込まれた。

 

「ガッ……アアアアア!?」

 

「『これはゲームじゃないんだよ?』『勝敗が決まったからと言って』『油断しないで頂戴』」

 

 叫び声を上げて膝を着く善吉君に対して、悠然と立ち上がって笑う球磨川君。何度も善吉君に蹴られまくってボロボロになったその身体は、次の瞬間には元通りの綺麗な状態になっていた。

 その様子はとてつもなく不気味(マイナス)で、その表情は堪らなく気持ち悪かった。

 

「全く、球磨川君も中々に面白く育ったじゃないか」

 

「『期待に添えられて何よりだよ』『珱嗄さん』」

 

「まぁ、気持ち悪さからいえばもっとウザイ奴がずっと昔にいたけどね。全身打撲塗れにして殺したけど」

 

 無論、石動弐語(いしなり ふたご)の事だ。4000年前に存在した、なじみの言う『千年に一人くらいいる勝利を約束された存在』だ。

 まぁ何故かは知らないけれど、なじみからしたら俺もそのカテゴリに入るらしい。まぁこの世界に来てから負けた事は無いけれど、俺だって負ける時は負けるんじゃね?

 

「『へぇ、それは是非会って見たいね』『まぁその話は後で聞かせてもらうとして……』『善吉ちゃん』」

 

 球磨川君の呼び掛けに、膝を着いている善吉君はビクリと肩を震わせた。

 

「球磨川ッ……貴様!」

 

「『どうしたのめだかちゃん』『あれ? 此処に来た理由?』『ソレはアレだよ』『親が高校くらい出ておけってうるさいからさ』」

 

 そう言って、めだかちゃんの怒りの形相にへらへら笑って返した。どうやら勝敗が着いていても介入は出来ないようだ。

 それには色々と事情があるが、一番の原因はかなり下まで降りた金網にある。最下層には毒蛇が大量に蠢いている上に、俺達がそこへ飛び降りたらその衝撃で確実に金網は毒蛇へ達する。

 まぁ俺はスキル云々で色々と出来るけどね。

 

「『君はどうやら僕の事を見たくもないようだし』『本当に見なくても良くしてあげる』」

 

 すると、球磨川君はその指を善吉君の瞳に向けて突き出し。そのまま善吉君の視界から、光を奪った。

 

「あ………ああ……!」

 

「『君の視力を』『無かったことにした』」

 

「無かったことにした、だと……? どういう事だ! 球磨川!」

 

「『そう大声出さないでよめだかちゃん』『僕の過負荷(マイナス)の名前は』『大嘘憑き(オールフィクション)!』『現実(すべて)虚構に(なかったことに)するスキルだ』」

 

 その言葉の意味は、とてつもなく大きな災厄。全てを無かったことに出来るそのスキルは、まさしく反則そのものであり、規格外。

 というか、そんなスキルを持ってて尚負け続ける事が出来るとは……ある意味才能だろう。

 

「そのスキル俺も持ってるけど使い勝手良すぎるよね。なんでそれで負けるわけ?」

 

「『持ってるんだ……流石は珱嗄さん』『抜け目ないぜ』『なんでかなんて分かんないよ』」

 

「ま、いいか。じゃ俺帰るから、勝敗決まったし。終わったらどうなったかだけ教えてくれ」

 

「『えー帰るの?』『帰りに一緒にマクドナルドでも行こうと思ってたのに』」

 

「乗った。それじゃ待ってるから早く終わらせて迎えに来い。13組の教室で待ってるから」

 

 そう言うと、球磨川君は一つ頷いた。俺はそれを確認した後、ゆらゆらとその場を後にしたのだった。

 

 


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