◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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詳しい事は追々知らせに来なさい

 結局、あの後球磨川が戻って来なかったので、なし崩し的にその日はお開きになった。

 

 球磨川と珱嗄がまた顔を合わせたのは、翌日の朝。少しだけ嫌みったらしく色々言って来たが、珱嗄がスルーしたら大人しくなった。

 不知火半袖の思い付いた作戦は先程珱嗄を含む過負荷組に伝えられ、代表として珱嗄と球磨川と志布志と蝶ヶ崎と不知火と江迎の六人が実行に移すことになった。

 

 作戦内容は、本日行なわれる生徒会主催の生徒総会で行なわれる。生徒総会には、唯一13組生が登校しなければならない行事。故に、全校生徒が揃う絶好の機会なのだ。

 不知火半袖はその事実に目をつけた。ここが球磨川が動くべき最大の機会なのだから。

 

「えー、では生徒総会を―――」

 

 壇上では黒神めだかが上がり、高らかに開会宣言を行なおうとしたその時、球磨川禊は動きだした。

 

開始する(ふぁいひふる)

 

 黒神めだかの両頬を引っ張って開会宣言を邪魔する球磨川禊。その事に驚く黒神めだかは反射的に距離を取って球磨川をにらんだ。

 

「『やっほー皆』『僕、めだかちゃんの元カレの』『球磨川禊でーす!』」

 

「何を言っている! 球磨川!」

 

「『あはは』『今の信じた奴どれくらいいるー?』」

 

 球磨川禊はそう言ってへらへら笑う。その言葉や雰囲気からは、流石の過負荷(マイナス)性が滲み出ていた。黒神めだかはそんな球磨川を親の敵とばかりに睨みつけ、言う

 

「今ここは生徒会メンバー以外は上がってくる事は駄目なんだぞ。壇上から降りろ、球磨川」

 

「『ああうん、そうだね』『でも、それは僕の台詞だよ』『めだかちゃん』」

 

 球磨川は不敵な笑みを浮かべてめだかに言い放つ。その言葉は、嘘じゃないぞという説得力があった。そんな様子に黒神めだかは首を捻る。その背後からは善吉達が近寄って来ていた。

 

 

「『生徒会長黒神めだか』『僕は君に』『箱庭学園学校則第45条第三項に基づき』『解任請求(リコール)を宣言する!』」

 

 

 球磨川禊は、黒神めだかを指差して声高々にそう言い放った。最早この場は球磨川禊の独壇場、誰もが口出し出来ずにいた。

 

「え……ッ!?リコール!?どうしてっ!?」

 

 球磨川の発した言葉に対して、喜界島もがなが声を上げた。その声を皮切りに、善吉達も状況の把握に頭を使う。

 

「……阿久根先輩、校則第45条第三項ってなんですか……!?」

 

「………第45条は生徒会執行部の罷免に関する条目だ、第三項はその詳細、『生徒会執行部に明白な不備がある場合―――全校生徒の過半数の署名をもって役員は即日罷免される』」

 

「不備!?そんな馬鹿な!俺達に何の不備があるってんですか!」

 

 善吉のその台詞は尤もだった。何故なら、今まで黒神めだかが達成できなかった案件は一つもない。事実、生徒会室には埋め尽くすほどの花が植えられているし、フラスコ計画や風紀委員会との抗争も苦戦しつつ解決してきた。

 だが、球磨川が言いたいのはそこでは無い。案件が解決できていないとか、そういう事じゃないのだ。もっと根本的に、彼らに欠けている物。それこそが解任請求の理由。

 

「『おいおいとぼけるなよ善吉ちゃん』『ほら見てごらん』『誰の目にも火を見るよりも明らかじゃなか』『副会長の不在』『これは明白に生徒会則第二条に違反している』」

 

 図星。球磨川の言葉は正論だった。故に、善吉達は言葉に詰まった。しかし、なんとか言い返そうと善吉が反論を用いた。だが、その程度なら球磨川禊は簡単に捻り潰す。

 

 「だ……だが!そんな揚げ足取りみたいな理由で過半数の署名が集まるわけがない!!それをこっちによこせ!こんなもの捏造に決まって―――!?」

 

「署名している生徒が全員、-十三組だと……!」

 

「『そう』『一年-十三組、二年-十三組、三年-十三組』『三ク

ラス総員の署名だよ』」

 

 そう、球磨川禊の集めた解任請求条件である『生徒の過半数の署名』。これは全て-十三組の生徒だった。確実に自身の策を通す為に集めたこの署名は、暗に球磨川禊の人望を証明していた。

 

「……名ばかりの署名を集めて過半数か、随分と大した『みんな』だな、球磨川」

 

 黒神めだかはその署名を見てそう言う。だが、それこそ球磨川禊の思い通り。球磨川禊と黒神めだか、相反する二人だからこそ、お互いの事を知っている。

 球磨川禊は黒神めだかの反論出来ない部分を的確に突いた。

 

「『おいおい、何を言ってるんだい?』『めだかちゃん』『例え-十三組だろうと』『この学園の誇るべき生徒だろう?』『差別するなよ』」

 

「ぐっ……」

 

 言葉に詰まる黒神めだか。そして球磨川は言った。

 

「『さぁめだかちゃん』『その似合わない腕章を』『自分で外して』『僕に渡すんだ』」

 

「……っ」

 

「『ああ、そうそう』『会長が解任する時は』『その時の生徒会メンバーも連帯責任だからね』『3人ともお疲れ様』『馬鹿な会長の下で良く頑張ったね』」

 

 その言葉に、善吉が異論を立てる。

 

「お前が解任を要求するのは分かったが、なんで腕章をお前に渡さなきゃいけねぇんだよ!」

 

「善吉、この解任要求の校則には続きがある。第十三項『解任責任』、『行事運営に支障をきたさぬよう、解任請求者は次期選挙までの間、臨時で生徒会長を務めなければならない』」

 

「そ、それってつまり……」

 

「『そう』『この方法なら』『転校したばかりの僕でも、生徒会長になれるんだ』」

 

 これこそ、球磨川禊の……ひいては不知火半袖のウルトラC。生徒会執行部の乗っ取り。そこから一気に学校を壊していくという算段。黒神めだかさえ潰せば後はゆっくりと行動できるのだから。

 

「球磨川……貴様は何処まで卑怯(マイナス)なのだ……ッ!」

 

「『そんなの知らないよ』『さぁ、全員腕章を差し出すんだ』『駄目な元会長とは違って』『僕はもう生徒会役員を選出し終えているからね!』」

 

 そう言って、球磨川の後ろに出て来たのは志布志飛沫、蝶ヶ崎蛾ヶ丸、江迎怒江、不知火半袖、そして……泉ヶ仙珱嗄。

 

「やはり……珱嗄さんはそちらへ行ってしまっていたのか」

 

「うん、だって放置されてたし。話にならなかったからね」

 

「くっ……」

 

 珱嗄の言葉に心底悔しそうな声を上げる黒神めだか。珱嗄はただゆらりと笑って見せた。

 

「『さて』『それじゃとりあえず』『僕たちの掲げる目標でも発表しとこうかな』」

 

 球磨川禊の挙げたマニフェストは、以下の通り。

 

 ・授業及び部活動の廃止

 

 ・直立二足歩行の禁止

 

 ・生徒間における会話の防止

 

 ・衣服着用への厳罰化

 

 ・手及び食器等を用いる飲食の取締り

 

 ・不純異性交遊の努力義務化

 

 ・奉仕活動の無理強い

 

 ・永久留年制度の試験的導入

 

 おおよそ人権という人権に唾を吐きかけるこのマニフェストは、球磨川が生徒会長になれば確実に推奨されるだろう。

 そうなれば、生徒全員まともな学校生活は送れない。

 

「待て」

 

「『どうしたの?』『めだかちゃん』」

 

「黒箱塾塾則第159項『塾頭解任請求ニ関スル項目』」

 

「『……』『黒箱塾?』」

 

「この箱庭学園の前身―――黒箱塾におけるリコールのルールだよ、塾頭―――つまり今で言う生徒会長に解職を請求する場合、塾頭側と請求者側の決闘を持って次期塾頭を選出するという内容だ」

 

 黒神めだかはそう言って、球磨川禊に反論出来る唯一の方法を叩き付けた。その反論に球磨川は反論しようとして―――出来なかった。

 

「『ゴゲッ?!』」

 

「ちょっと長いよ。いい加減締めろやメンドクサイ」

 

「珱嗄さん……」

 

「で、どうすんの? その校則は何をどうする物な訳?」

 

 泉ヶ仙珱嗄は長々しいやりとりにうんざりした様にはなしをぶった切った。球磨川の頭を床に叩き付け、黒神めだかにそう言う。

 

「あ、はい。えーと、これはつまり……球磨川達生徒会チームと、現生徒会チームが戦って、勝った方が生徒会になるという物で……」

 

「じゃあ、それでいいよ。詳しい事は追々知らせに来なさい。それじゃ」

 

 珱嗄はそう言って、球磨川を引き摺りながら舞台袖へと帰って行った。その後ろを過負荷勢はのそのそと付いていき、その姿を消した。

 

 後には、何とも言えない粉々になったシリアス感が残っており、誰一人としてどうすればいいんだコレ、という思いにかられていたのだった。

 


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