◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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あっちには、泉ヶ仙珱嗄がいる

 球磨川禊は、思いもよらぬ再会を果たしていた。相手はかつて彼自身が封印した人外の女生徒、安心院なじみ。

 しかも、彼女は封印によって四肢の殆どを封じられていた筈だったのに、目の前でタンクトップとショートパンツというラフな格好で変に暑い部屋の中、うちわを使って寛いでいる。最早何が何だか分からない

 

「『安心院さん、なんで君が此処に?』『というか、なんで封印解けてるの?』」

 

「まぁ、そんなのどうでもいいじゃないか。ところで、君が此処に来たのは多分珱嗄の差し金なんだろうけど、折角来たんだ。ゆっくりして行きなよ」

 

「『というか、此処は何処なのさ』『訳が分からないんだけど』」

 

「ここは僕と珱嗄の家だよ。創立21億4392年位かな?」

 

 球磨川はそれを聞いて開いた口がふさがらなくなったが、珱嗄となじみという二大人外コンビが作りあげた自宅だ。その位のスケールがあっても不思議じゃない。

 というか、そうなるとこの家は世界で最古の建造物という事になるのだが、流石の球磨川も口を慎んだのだった。

 

「『まぁ、それはそうとして』『僕は箱庭学園に戻るよ』」

 

「ああ……なるほど。めだかちゃんか……勝てるのかい? 君に」

 

「『………』『勝つかどうかは別として』『ああいう幸せな奴らを見てると』『吐気がする程気持ち悪いんだよね』『だから僕がやっつけるんだよ』」

 

 その言葉になじみはふっと笑い、もう聞く事は無いとばかりに玄関を指差した。球磨川はその指先へと歩いて珱嗄の家を出ていった。

 

「……はぁ、全く。くだらね―ことでいつまでやってるんだか」

 

 安心院なじみはただ、つまらなそうにそう呟いた。

 

「さって、黒子のバスケはもう行ったし……次は何処に行こうかな?

 

 

 

 球磨川禊は珱嗄の自宅を出て、箱庭学園へと脚を進めていた。その表情は何処か物憂いに耽っていて、とてもじゃないがいつもへらへら笑っている彼としては珍しい雰囲気だった。

 

「『はぁ……』『まさか安心院さんが復活してるなんてねー』『多分珱嗄さんの仕業だろうけど、考えてみればあの人の身内が封印されて』『珱嗄さんが3年も放って置く筈ないかぁ……』」

 

 球磨川は頭に珱嗄のゆらりと笑う表情を思い浮かべ、ため息を吐く。あの人外の安心院なじみを苦労して封印したというのに、下手したらその翌日には解放されていたという事になるのだ。それはため息も吐きたくなるだろう。

 

「『でもまぁ……今は』『僕自身の事をどうにかしないと、ね』」

 

 誰にも聞かれない静かな住宅街で、球磨川禊は一人、そう呟いた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「さて、それじゃあどうしようか? 正直、俺は作戦とか正直練るの面倒なんだよね」

 

 珱嗄はそう言って、球磨川禊のいなくなった後の教室で机を合わせて班にした状態を作り、過負荷組で作戦会議をしていた。この場に居るのは珱嗄と志布志、蝶ヶ崎、そして遅れてやってきた不知火半袖だ。

 

「あひゃひゃ☆そんなの簡単だよ、珱嗄先輩」

 

「へぇ、じゃあ作戦は全部半袖ちゃんに任せてオッケー?」

 

「ええ、いいですよ。生徒会も十三組もまとめて潰せるウルトラC、きっと上手く行きますよー」

 

「じゃ、そーゆーことで。内容は球磨川君に伝えておいてね。それじゃあ……なにしよっか? とりあえず俺のスキル使って身体入れ替えとかやっちゃう?」

 

 珱嗄の言葉に、過負荷組の二人はびくっと身体を震わせ、不知火半袖は少しだけ興味が湧いた様な顔をした。

 

 

「良い反応だ。じゃあやっちゃおう、身体と精神を入れ替えるスキル――【異心転身(ココロコネクト)】」

 

 

 珱嗄はゆらゆら笑って、面白半分に目の前の3人の心と身体を入れ替えたのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「さて、日之影先輩。どうでしょうか?」

 

 黒神めだかは戻ってきた日之影空洞を連れて生徒会室へと戻っていた。そして、黒神めだかは日之影空洞の存在を全員に認識させ、日之影に改めて自身の仲間の品定めを頼んだ。

 

「うーん……合格、合格、不合格、不合格、不合格、ギリ合格……でも故障中ってトコか。駄目だこりゃ、勝負以前の問題だぞ、黒神」

 

「やはり、そうですか?」

 

 日之影空洞は、瞳、真黒、古賀に合格を言い渡し、善吉、阿久根、喜界島に不合格を言い渡した。その理由は、球磨川への恐怖心があるから、だという理由。彼らと戦うなら、彼らを恐れてはいけないのだ。

 そして、空洞は苦々しい顔をしてもう一度採点を始めた。

 

「……で、今のは球磨川って奴と戦うに当たっての採点なわけだが……別の視点で採点すると、全員不合格。こればっかりは俺も黒神もこの場に居る全員が不合格だ」

 

「それは、どういうことですか?」

 

「あっちには、泉ヶ仙珱嗄がいる」

 

 その言葉に、古賀と真黒、瞳を除いた全員が驚愕に目を見開いた。一番驚いているのは、黒神めだか。何故なら、彼が過負荷(マイナス)側に属しているとは思えなかったからだ。

 

「でも、なんで彼が向こうに居るだけでそんな結果になるの?」

 

「そうだね。確かに気になる所だ」

 

「誰それ?」

 

 珱嗄の実力を一切知らない真黒と瞳と古賀はそれぞれそう言った。それに対し、空洞は何かを思い出す様に話しだす。

 

「珱嗄はな、とにかく強い。本来なら過負荷(マイナス)組に属している様な性質でもないが、はたまた異常(アブノーマル)って訳でもないんだ。それでいて、スキルを持ってる奴だ。何処にも属さず、誰にも負けない無敵のチートキャラ、それが珱嗄って奴だ。自然災害が人の形を取った様な出鱈目さだぞ、アイツは」

 

「どういう事?」

 

「俺がアイツの実力を見たのは一回だけだ。黒神が生徒会長に就任した日、俺とアイツは初めて会って、まぁ友達になったんだけどな……雲仙冥利、風紀委員長のアイツが珱嗄の服装に因縁つけて来たんだよ」

 

 その言葉に、黒神めだかは若干の覚えがあった。演説が終わった後、少しざわめきがあったのを覚えている。それは、後方席の方で起こっており、何かしら問題があったと思っていたが、すぐに収拾が付いたので特に手出しはしなかった。

 

「それで……どうなったのですか?」

 

「アイツの武器、跳躍球(スーパーボール)を使わせるどころか、逆に奪い取って5秒も経たない内に瞬殺したよ」

 

「なっ……!?」

 

 この言葉には、善吉も驚愕していた。黒神めだかもバージョンアップ前とはいえボロボロになった上に乱神モードまで使ってやっと勝利した相手だ。それを瞬殺だ、驚きもするだろう。

 

「しかも、後に聞いた話じゃ珱嗄は雲仙相手に手加減に手加減を重ねて、そこに手心で塗り固めた挙句砂糖樽一杯分の甘さを持ってやったらしい」

 

「雲仙冥利ってのは強いのかしら?」

 

「強いです。私とほぼ互角に戦った相手です」

 

「……そんな相手を手加減しまくって……?」

 

 新たな事実に全員の気持ちが沈む中、喜界島もがながはたと気づいた様に言った。

 

「……あれ? そういえばさっき珱嗄さん来なかったっけ?」

 

「あ……」

 

「何? 珱嗄来てたのか? 何の用で?」

 

 空洞の問いに、黒神めだかは目を逸らした。他のメンバーに目を向けても目を逸らすばかり。どうやら、空洞に叱られそうな内容だったらしい。

 

「なんだったんだ?」

 

「えーと……その、球磨川と一戦やりあうなら俺も混ぜろ……と」

 

「それで?」

 

「……人吉先生と久しぶりに会ったので話が進んで、放置してしまい……」

 

「ほう」

 

「いつのまにかいなくなってました」

 

 その言葉に、空洞は頭を抱えた。何故なら、珱嗄はまず生徒会陣営に入ろうとやって来ていたのだ。そして、珱嗄が生徒会陣営に入れば空洞の出番などなくすぐにでも球磨川を潰せたはずなのだ。

 なのに、黒神めだかはその機会を見逃した。結果、珱嗄という両陣営にとってジョーカーたる存在は過負荷(マイナス)陣営に持っていかれてしまった。

 

 これは痛い。

 

「馬鹿かお前ら……珱嗄を何で引き止めねぇんだよ……!」

 

「申し訳ないです……」

 

「仕方ない……此処まで来たら主犯が球磨川である事に感謝しよう。お前ら、凶化合宿……やってみるか?」

 

 空洞はいた仕方ないという感じに、そう言った。

 


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