◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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だって、俺―――生まれてこの方、傷を負ったことなんてないし

「珱嗄先輩が……スキル保有者(ホルダー)? で、でも! 先輩は中学時代でも普通《ノーマル》の域を出ていなかったし、異常性なんて欠片もなかったじゃないですか!」

 

「それはね、善吉君。俺がそういう面を見せなかったからだよ」

 

 そう言うと、めだかちゃんは少し険悪な表情を浮かべて少し考え始めた。そして、しばらく思考に耽った後に俺を見据えてこう言った。

 

「珱嗄先輩。もしや、都城王土に心の傷を植え付けたのは……貴方ですか?」

 

「ん?」

 

 都城王土。彼は確かフラスコ計画の件で俺と靱負ちゃんが対峙した子だっけ? 靱負ちゃんの過負荷(マイナス)で完膚なきまでに心を圧し折られた自称王様。

 

「ああ……あの子か。いや、俺じゃないな」

 

「では誰が?」

 

「靱負ちゃん」

 

「……靱負? それって帯刀靱負ですか?」

 

 善吉がそう言った。ああ、確か善吉と同じクラスだったっけ……靱負ちゃんもう彼と接触したのか。めちゃくちゃ展開早いな。というか、なぜ善吉君は主要キャラと早々に接点を持つのだろう。これはある意味女誑しと言えるんじゃないか?

 

「そうだよ。君と同じクラスの女の子だ」

 

「た、確かにアイツはちょっと普通じゃないとは思ってたけど……まさか」

 

「まぁ彼女は二重人格って奴でね。普段は普通なんだけど、もう一つの人格になると途端に異常(アブノーマル)になっちゃうんだよ(嘘)」

 

 まぁ本当の事だけど、裏の人格は過負荷(マイナス)だからね。それに、表だって……いや、これはまだいいか。

 

「なるほど、人格の異常性か……ありえますね」

 

「まぁそんな事はどうでもいい。今は球磨川君だろ、球磨川」

 

「ああ、そうでしたね」

 

 めだかちゃんがそういえばという感じに表情を変える。というか、俺に対して皆敬語だから誰が喋ってんのか文面じゃ分かりづらいよ。

 

「皆、俺に対して敬語は止めろ。色々と面倒だから」

 

「え? あ、はい」

 

「それでは、珱嗄さんと呼び名を改めて……球磨川をどうこうする前に気になる事があるのだが……」

 

「ん?」

 

「そちらの方は……もしかして」

 

 めだかちゃんが指差したのは、さっきから空気と化していた人吉瞳42歳。空気化したことで生徒会室の隅っこに体育座りしている。かなり沈んでいるようだ。

 

「ああ、俺のちょっと前の仕事場の元上司。人吉瞳ちゃんだ。ランドセルを背負っている所が痛々しいけど、よろしくしてね」

 

「もう降ろすから! ランドセル降ろすから放して!」

 

 瞳センパイの白衣の裾を掴んで目の前にぶら下げて紹介したら顔を真っ赤にして瞳センパイは怒った。ランドセルを降ろそうと滅茶苦茶必死になってる所がまた面白い。

 

「はいはい」

 

「全く……ぶつぶつ」

 

「人吉先生! お久しぶりです」

 

「ああ、めだかちゃん。久しぶりね、善吉君も!」

 

 そう言うと、善吉君は少し困った様な顔をした。まぁ確かにこんな息子をグレさせる原因みたいな母親が学校に来たら誰でもそうなる。

 

「めだかさん、その方は? 人吉、と言うからには人吉君の関係者で?」

 

「ああ、阿久根書記。この方は善吉のお母様だ」

 

「え!? お母さん?」

 

「お母さん」

 

「「ええええええええ!!?」」

 

 この若さには阿久根君も喜界島ちゃんも驚きの様だ。まぁ、確かにおかしな生物だけどね。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 結局、あの後は人吉瞳42歳の話で占められ、球磨川君の話は出来なかった。仕方ないから生徒会の方は諦めて過負荷(マイナス)組の方へと向かう事にした。そうそう、靱負ちゃんの方はクラスにいなかったので一緒にはいない。なんにしても、この騒動に介入するには両陣営のどちらかに話を付けないといけない。靱負ちゃんは多分……自分で介入してくるんじゃないかな。

 

「ってことで……ここかな?」

 

 やって来たのは、空き教室。俺のスキルの内の一つ、某ハリー○ッターの便利な地図を思い出して出来た、人物索敵スキル【人材把見(ハローワーク)】。自分を中心に半径3km範囲内の建造物の構造と人間の行動と名前を把握できるスキル。まぁ何をどうしているとかが分かるのではなく、そいつがその場所へ動いているのかが分かるという事。細かい動きは知った事ではない。

 

 まぁそれを使って、この空き教室に球磨川君と志布志飛沫、蝶ヶ崎蛾ヶ丸という二人の生徒がいるのを探知、やって来た訳だ。まぁ知ってる子達だね。俺が箱庭病院を退職した後、その病院をブッ潰した二人。なじみに聞いた。

 

「じゃ、おじゃましまーす」

 

「『え?』」

 

「見つけたぞ、球磨川君。ちょっと話があるんだけ――――ど?」

 

「! へぇ、良く躱したもんだね」

 

 球磨川君に近づこうとしたら例の二人の内の一人、志布志飛沫が俺に金属バットを振りおろしてきた。ので、歩みを止めずに圧し折ってやった。具体的には躱してないんだけど。

 

「まぁとりあえず、邪魔」

 

「―――ごふっ!?」

 

 俺のスキルの内の一つ、相手に自分から一定距離を取らせるスキル【貴方と私の距離(セァタインディスタンス)】を発動。志布志と俺の距離を強制的に広げた。ただ、このスキルは距離が近い場合相手を問答無用で吹っ飛ばして距離を取らせるから壁があった場合叩きつけられるんだよね。

 

「ああ、ごめんごめん。女の子が随分と近くに居たもんだから恥ずかしくなっちゃって」

 

 ゆらゆらと笑いながら俺はその子を放置、球磨川君の目の前に立った。

 

「『またまた、珱嗄さん』『珱嗄さんが女の子に恥ずかしがるなんて』『冗談きついよ』」

 

「いやいや、俺だって一端の男子高校生だぜ? ちょっとくらい性にも興味あるさ。あるだけだけどね」

 

「『それってあれだよね?』『つまりは照れてないって事の証明だよね』」

 

 まぁこれだけ歳取るともう半端ない位悟ってくるよね。最初の頃はまぁなじみに少し心揺れたりもしたけど、長生きしてるとまぁ……何も思わなくなるわけよ。

 

「さてさて……それはまぁ置いておいて。どうせ此処に来たからには何かしらイベント起こすんだろ? 俺も混ぜろ」

 

「『あ』『やっぱりそう来ちゃうんだ?』『でもまぁいいか!』『珱嗄さんだし』」

 

「で、どうすんの? ここから」

 

「『うん』『一応、さっき僕の仲間があそこに立ってる場所を教室として空け渡してくれるよう』『交渉に行ってる所だけど』『そろそろ帰ってくるんじゃないかな?』」

 

 そう言うと、窓の外に見えた校舎がぐじゅりと崩れて行った。【人材把見(ハローワーク)】を使って見ると、そこにあるのは善吉君と瞳センパイと江迎怒江という女生徒の反応。どうやら接敵したりしている所を見ると、戦闘していたようだ。

 まぁ、今終わったようだが。

 

「アレか?」

 

「『あれだよ』」

 

「へぇ、向江ちゃんも程々に過負荷(マイナス)街道まっしぐらな訳か……面白いなぁ」

 

「『あれ?』『珱嗄さんって江迎ちゃんの事知ってるの?』」

 

「まぁ、昔ちょっとね」

 

 そう、俺と江迎向江は以前にちょっとした接点がある。まぁそれはまた今度話す機会もあるだろう。

 

「『そっか』『まぁ、いいけど。』『じゃあ僕ちょっと行ってくるね』」

 

「おー行ってこいや。精々江迎に釘打っとけ」

 

「『うん』」

 

 そう言うと、球磨川君は窓から飛び出て行った。迎ちゃんの所へ行くんだろうね。きっと。

 

「……」

 

「で、アンタが球磨川さんの言ってた珱嗄さん、か?」

 

 球磨川君が居なくなった事を皮切りに、先程吹っ飛んだ飛沫ちゃんが話し掛けてきた。球磨川君がどう話したのかは知らないが、珱嗄さんはきっと俺だけだろう。彼がそう呼ぶのは俺しか心当たりがないしね。

 

「ああ、多分ね」

 

「全く……どうなってんだアンタ。アタシの過負荷(マイナス)が効かない奴なんて、初めてなんだけど?」

 

「あー……確か飛沫ちゃんの過負荷(マイナス)って古傷を開くスキルだっけ? 効かないよそんなの」

 

「……この際なんでアンタがアタシの過負荷(マイナス)の事知ってんのか聞かないけど……なんで聞かない訳?」

 

 その問いは簡単。かの安心院なじみでも、獅子目言彦でも、石動弐語でも、自然災害でさえも為し得なかった事。俺に一回でも傷を付けたという事実を生んだモノは居なかった。

 神の転生は、死んで人生をもう一度始める事。それはつまり、ハンターハンターやリリカルなのはで刻まれた経歴は全てリセットされるという事だ。

 

 そして、この世界において俺は一度たりとも。

 

 数十億年という過去一番長い年月を生きてきた俺は、過去一番全能な力を手にしてしまった故に

 

 

「だって、俺―――生まれてこの方、傷を負ったことなんてないし」

 

 

 一度たりとも傷を負った事は無かったのだった。

 

 

 

 


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