◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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ああ、俺は泉ヶ仙珱嗄。面白い事が大好きな男だよ

 さて、神様の適当な転生の末に新たな世界に来ました。泉ヶ仙珱嗄です。いや本当に適当だなぁと思う。なんせ、今俺がいるのは上空2000m程の所だから。

 どんどん落下していく身体、冷える身体。このままじゃあ地面にたたき付けられてお陀仏だな。どうやら魔法は使えなくなってるみたいだし。

 まぁでも俺のヤバいほど強化された身体能力なら衝撃を殺して着地する事も十分に可能。

 

 けどまぁ何とも適当な転生だな。でも一応この世界の異能のチカラは俺に宿っているようだ。この力が今までで一番全能じゃないかなと思う位チート能力だ。いやスキルと言った方が良いかな。

 でもこのスキルだとこの世界にいるあのキャラとキャラが被るんだよなぁ……。

 

 っと、さっさと着地体勢に入らないと。

 

 そう思い、俺はくるりと身体を宙返りさせて頭を上に持ってくる。迫りくる地面に足を伸ばし、黒い地面に足を付けた――――アレ?

 

「ふぎゅ!?」

 

 俺が足を付けたのは、黒い髪の頭だった。巫女服を身に纏い、黒髪を揺らした彼女の後頭部。その勢いは衰えることなく、足を付けた頭はその勢いに沈んでいく。そして、地面にまで沈んだ時……足と地面にその頭が挟まれてガリガリと嫌な音を立てた。

 

「っとと……」

 

 俺は悪いと思いつつも、その頭を一度蹴って再度地面に着地した。そして、視線を彼女へと向ける。俺に宿ったスキルが自動的に発動して彼女の詳細を告げた。

 

「えーと……大丈夫?」

 

「うん、まぁ大丈夫だよ。でもまさか空から人が落ちてくるとは思わなかったぜ」

 

 むくりと立ち上がり、土にまみれたその顔をこちらに向けて彼女……"安心院なじみ"はそう言った。

 

「そいつは良かった。まぁ、一応謝っておくよ」

 

「ああうん、気にしないで。僕からしてみればこんなのかすり傷程度にもならないぜ」

 

 安心院なじみは巫女服をパタパタと叩いて土埃を落としながらそう言った。その顔はとても余裕そうな顔だ。流石は人外だな。転生者なんじゃねぇの、こいつ。記憶ないだけで。まぁ、そんなことはどうでもいいんだけど。

 

「で、君の名前を教えてくれないかな?」

 

「ん、俺の名前は泉ヶ仙珱嗄……面白い事が大好きな男だよ」

 

「そうか。僕の名前は安心院(あじむ)なじみ……親しみをこめて安心院(あんしんいん)さんと呼びなさい」

 

「いやだね」

 

「だろうね」

 

 

 

 ―――これが、俺となじみの初めての出会い。これから数億年単位で付き合って行く事になる、人外と人外の様な人間の、邂逅だった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 あの出会いからという物、俺となじみはずっと一緒に過ごしてきた。なじみから教えてもらったなじみの目的。あらゆる事が出来てしまう全知全能のなじみだからこそ抱えてしまった悩み、【シュミレーテッドリアリティ】と名の付く病。

 自身に「出来ない」事が見当たらないが故に、この世界が仮初めの偽物に見えてしまう。空想の世界の中の、空想の自分。誰かの思い描いた世界の中の一登場人物でしかないと、そう思えてしまう病だ。

 

 だから、俺はその病をどうにかする為に一番手っ取り早い方法を取らず、ただなじみに「出来ない」事を持ってくる事をし続けた。その度なじみはそれを「出来る」事に変えていき、その度スキルを増やしていった。

 

 そんな生活を送り続けていたら、気付けば30億年程経過していた。初めて出会った時は、人間など誰もいない、氷河期の終盤。俺が広い世界の中でたった一人の人間である彼女と出会えた事は本当に偶然だったのだろう。というかだから落下時あんなに寒かったのか。

 

「珱嗄、出掛けてくるね」

 

「おう、最近良く出かけるな。何してんだ?」

 

「ん、いつも通りさ。いつも通り僕は「出来ない」事をやっていくだけだよ」

 

 そう言うと、なじみは俺の作った木造住宅の扉を開いて出て行った。

 

「……最近良く出かけるなと言ったけど……」

 

 そう、最近なじみは本当に良く出かける。毎日毎日同じ場所へと向かう。数回程度なら気にしない、数十回程度なら気にしつつ何もしない、数百回程度なら直接問う、数千回程度なら少し話を聞く、数万回程度なら付いていこうと提案する。だが、それが数億回に達したならもう付いていくしかないだろう。

 

「じゃ、行きますか」

 

 俺はそう呟き、同じく扉を開いて俺に宿ったスキルを使用。その場から消えた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「げっげっげっ、いい加減諦めたらどうだ? いくら毎回新しいスキルを持ってくるとはいえ、流石の儂も飽きて来たぞ!」

 

「へっ……僕がスキルだけと思うなよ。まだまだ付き合って貰うぜ」

 

 俺が辿り着いた場所は、おおよそ上空100m程の空中。俺に宿った最初のスキルを使用して初めて出来る事だ。空に立つなんてね。

 それにしても、あの男はなんだ? なじみ程の奴を一蹴するなんて……アイツもまた化け物か。

 

「はぁあああ!!」

 

 なじみは咆哮を上げてスキルをいくつも展開する。そのスキル弾幕は、常人なら確実にブチ殺せるであろう攻撃。この世界の主人公だって、不死身の過負荷(マイナス)だって耐え抜く事は出来ない最強の一撃。

 

 

「新しくないな」

 

 

 だが、その男はその弾幕をものともせずになじみの頭をその指先で弾いた。

 

「ガッ!?」

 

 そうしてなじみは後方へ吹き飛び、そのまま意識を失った。だが、普通ならなじみはすぐに意識を回復させて来る筈だ。なのに、なじみは一向に立ち上がる様子が無い。どういうことだろうか。

 その答えはすぐに出た。つまり、あの男はスキルなのか体質なのか、与えたダメージの回復を許さないようだ。これも俺のスキル参照。

 

「あーあーあー……全く、派手に――はやってないか。とにかくやってくれちゃって……まいいや、コイツ持って帰るから」

 

「む? この展開は新しいな! 貴様、何者だ?」

 

「ん? ああ、俺は泉ヶ仙珱嗄。面白い事が大好きな男だよ」

 

「なるほど。娯楽主義者という訳か! 新しい、実に新しいぞ! 儂は獅子目言彦! 貴様流に言うのなら、新しい事を好む男だ!」

 

 どうでもいいけどあの頭は髪なのか? それとも炎なのか? 燃えてるの?

 

「では珱嗄、少し待てよ。このまま去るのも新しくないし、面白くないだろう。少し付き合ってくれぬか?」

 

「何? お前もなじみ同様に戦闘狂になっちゃったワケ?」

 

「げげげ、ではこのまま帰ると?」

 

「誰もそんなことは言ってないさ」

 

 面白いなら、この身を投げ打つだろう。馬鹿みたいな事でも、頭の固い事でも、面白いなら何でもやるべきだ。変な常識なんか気にせず、やりたい事を全部やっちまえ。

 

「じゃ、ちょっと戯れようか」

 

 手首を鳴らす俺と、目の前に転がるなじみのリボンをしゅるりと取る言彦。どうやらアレが武器らしい。それにしても、与えたダメージをそのまま回復させないとか……まぁなじみも変なのに捕まったな……いや、捕まえてたのか。

 

「では行くぞ!」

 

「来いよ」

 

 そう言って、俺と言彦は衝突した。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 あーあ、また負けた。これで通算何回目の敗北だろうか。珱嗄に内緒で何度も何度も挑んだけど、駄目だった。どうすりゃいいんだっての。

 与えたダメージが回復出来ないとか……チートにも程があるぜ。っと、そろそろ意識も覚醒してきた。まぁデコピンされた位じゃ脳を揺らされる程度で身体には何のダメージも無いんだけどさ。

 

「はぁ……」

 

 状態を起こすと、髪に珱嗄から貰ったリボンが付いていない事に気付いた。何処に行ったんだろう? まさか言彦の奴が持って行った? あいつはそこらへんの物を武器にして戦うような遊び癖があるし、あの後誰か来たんだろうか? まぁ僕としてはもう戦うつもりはないから奪われたなら仕方ないんだけど……勝てないと分かったからね。こうなったら戦わずに目的を達成するとしよう。

 

「っと………!」

 

 立ち上がり、ふと振り返る。時刻は既に夜。言彦のデコピンは随分と僕の意識を深く沈めた様だ。デコピンを受けた額の痛みは既に引いている。まぁ元々衝撃を受けた際の一瞬の痛みだった訳だし、ダメージにもならない物だったから当然か。

 だが、振り返った先にあった光景はダメージ云々より、僕に衝撃を与えた。

 

「珱嗄……」

 

「ん? おお、起きた?」

 

 そこにいたのは、僕の同類にして家族とも呼べるもう一人の人外、泉ヶ仙珱嗄。珱嗄は胡坐を掻いて、星空を眺めつつ地面に酒やつまみを置いて寛いでいた。

 だが、その地面が問題だ。酒やつまみを置かれていたのは、倒れ伏した言彦の大きな背中。珱嗄が胡坐を掻いている場所もその大きな背中の上だった。

 

「そいつ…」

 

「ん? ああ、言彦か。いやーなじみが色々とやってるの見て倒れたから回収しようと出て行ったんだけど……そしたらこいつが「新しい!」とか言って襲い掛かって来て………こうなった」

 

「いや、それはおかしい」

 

「まぁ、いいじゃん。よっと…」

 

 そう言って笑うと、珱嗄は言彦から降りて本当の地面で酒を飲み始めた。すると、言彦が眼を覚ました。

 

「むう………ん? おお、珱嗄。儂は負けたか」

 

「まぁ、負けたんじゃない? お前がそう思うなら」

 

「げげげげげげ! 敗北とは新しいな!」

 

「そいつはよかった。ほれ、飲むといい」

 

 すると、起きて早々笑う言彦に珱嗄は持っていた酒瓶を渡した。言彦はそれを微笑して受け取り、一気に飲み干した。そして珱嗄の隣にあるつまみを一つ取り、口に放り込んだ。

 

「む、美味いな!」

 

「新しいだろ?」

 

「そうだな! 新しいぞ! げっげっげっげっげっげっ!」

 

「ん、ほらなじみも来いよ。そんな所でボーっとしてないでさ」

 

 珱嗄が手招きで僕を呼ぶ。その様子を見てると、もう疑問なんてどうでもよくなってくる。なんで言彦と仲良さそうに酒を飲むのか、戦った仲でなんでそこまで笑ってられるのか、そんなことはどうでも良い。

 

「はぁ……全く、君には驚かされるばかりだぜ。珱嗄」

 

 僕はそう言ってカラカラと笑う珱嗄の隣に腰を下ろす。見てみれば、全く珍妙な光景だ。人外の僕と化け物の言彦に挟まれて、無敵の馬鹿が座り、並んで一緒に月見酒をしているなんて。

 

 

 

 

 ―――これが僕と珱嗄の物語が始まるずっと前、おおよそ五千年前の一つの戦いの話。そして、文字通り珱嗄の強さが垣間見えて来た最初の一瞬でもあった。

 


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