◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄と靱負の二人が不知火袴達と接触した翌日。ついに、黒神めだかとフラスコ計画は交差し、互いに関与する事になった。
黒神めだかへの最初の接触は、不知火袴による勧誘。だがそれを黒神めだかは一蹴し、断る。しかし、二度目の接触があった。それが、雲仙冥加による黒神めだか潰し。だが、それも黒神めだかは泉ヶ仙珱嗄の名の下に返り討ちにし、続いてやってきた13組生の襲撃を難無く一蹴した。
その後、三度目の接触が黒神めだかに迫った。フラスコ計画のモルモット集団『
そして、敗北した二人は、フラスコ計画を全面的に潰す事を決め、その為の対策として黒神めだかの兄である黒神まぐろを訪ねる事にしたのだった。
また、そんな中泉ヶ仙珱嗄は家にも帰らず帯刀靱負と共にフラスコ計画の行なわれている時計塔地下へと潜り込んでいた。黒神めだかによって空白になった雲仙冥利の空間である地下11階を無断占領。
その階は、泉ヶ仙珱嗄のスキルによって帯刀靱負専用の部屋へと改造された。そして、その階に黒神めだかがやってくるのを待つのだった。
◇ ◇ ◇
「んー……やることもなくなったし、ちょっと見てみようか。めだかちゃん達の様子を」
「………見る?」
俺は、靱負ちゃんと共に地下11階にてめだかちゃん達を待っていた。だが、やる事はもうないし流石に半日ずっと部屋に引きこもっていると暇すぎて死にそうになる。
よって、俺と靱負ちゃんには暇つぶしの道具が必要なのだ。それじゃあ持ち前のスキルを使うとしよう。
別場所の光景を観るスキル【
スキルを発動すると、俺と靱負ちゃんの脳に直接別の場所の光景が現在進行形で流れる。観る場所は、黒神めだかのいる場所。
既に地下に入り、戦闘を一回終えた所だった。地に伏せているのは不知火袴に会いに行ったときに居た内の一人、検体名【
黒神めだかがボロボロなのを見た所、勝負したのは黒神めだかで双方共に色々と何かを得た後に勝利したようだ。大方、黒神めだかは反射神経を得て、高千穂仕種は反射神経のオンオフを会得したのだろう。
一つ戦闘を見逃したのは少し惜しいかなと思う所があるが、まぁいいだろう。直に彼女達は此処へやってくる。となれば、ここからまた別の戦闘を二、三繰り返すだろうし。
「………面白くない」
「まぁ、勝負はまだあるし、仕方ないさ」
「………むぅ」
この光景に靱負ちゃんは少し不満気だが、まぁ放っておこう。それに……靱負ちゃんの
「さて、それじゃあもうしばらく待つとしようか」
「………うん」
そう言って、【
「あーあー……暇だなぁ」
「………面白い」
…………何が?
◇
それからしばらく。いきなりエレベーターが動いてガガン! という音を立てて止まった。ああ、そういえばこの部屋を改造するに当たって階段とエレベーターも改造しちゃったんだよね。階段は下に行けなくなって、エレベーターもこの階より下に行けない様に埋めちゃった。
「む、ここは11階ではないか」
「………」
現れたのは、都城王土と理事長室に居た6人のうちの1人、名瀬夭歌。非戦闘要員らしいが、その頭脳と解析力、改造能力は異常らしい。そして、最後に抱えられた黒神めだかがいた。
「んー……全然状況が読めない。仕方ないか」
会話ログを視るスキル【
【ログ】
『この薬実験したいんだ!』
『じゃ、私が素体になるよー』ぐさっ
『馬鹿め! それは記憶消去薬だ!』
『ここはどこだ、私は誰だ?』
『今のうちだ、古賀ちゃんやっちまえ』
『ぐあーやられたー』
『じゃあ王たる俺が黒神めだかを改造するから後はよろしくー』
『待て! めだかちゃんを返せぇ……!』
【ログ終了】
こういう訳である。ダイジェストとはいえさっぱり分かんねぇ。まぁ簡単に説明すると、黒神めだか率いる生徒会メンバーは目の前の名瀬夭歌改めめだかちゃんのお姉ちゃんに再会。めだかちゃんの馬鹿正直な性格が災いし、名瀬夭歌の用意した記憶消去薬を何のためらいもなく投与。記憶を失ってしまった。
その隙を突いてめだかちゃんは名瀬夭歌の改造した女生徒、【
で、一緒に現れた行橋未造が足止めに残ったと。
「分かった? 靱負ちゃん」
「………察した」
「流石、頭いいねぇ」
「………えへん」
さてさて、この状況でやるべき事と言ったら一つだろう。なにせ、此処にはフラスコ計画の総元締めである都城王土と名瀬夭歌がいて、俺が介入させると宣言した靱負ちゃんが居るんだぜ? そりゃあやり合わせるだろう。元々、この介入は靱負ちゃんの実力の最終確認の意味を含めてるからな。
「さて―――」
「「!」」
俺がじろりと視線を二人に移すと、二人はびくりと身体を震わせて身構えた。
「ああ、安心しろよ。ちゃんと俺は介入しないから。ってことで、靱負ちゃん。行ってこい」
「分かった♪」
既に性格は過負荷側に成っている様だ。これが彼女の
これを出すと、まさしく
「じゃあ、お兄ちゃん達――――靱負と遊ぼう?」
「………名瀬夭歌、ここは俺がやろう。先に黒神めだかの改造を始めていろ」
「……おー、分かったよ。気をつけろよ? あいつは何かある」
「分かっている」
さて、どうなるかな?
◇ ◇ ◇
帯刀靱負と都城王土は対峙して、同時に動き出す。靱負は王土に接近し、王土は【言葉の重み】を発動させる。
「―――『
前の様に、靱負には聞かないと思っていたのだが、何故か今回はぐしゃりと音を立てて靱負を地面へと沈めた。
その様子に驚愕する王土だが、効くのなら問題はない。寧ろ嬉しい誤算だ。
「あはは、いったーい! 痛い痛い、痛いよー? でも、遊んでくれてるんだよね。だから怒ってないよ?」
「ぐっ………!」
地面に叩き付けられても笑うばかり、ましてや感謝の言葉すら投げかけてくる。その様子に王土はおぞましさを感じて一歩下がってしまう。
「あー、駄目だよ。全然駄目だよ。闘う奴が下がっちゃおしまいなんだよ? 週刊少年ジャンプじゃあ闘う人達は皆一歩たりとも下がらない。下がった奴は、その瞬間に負けちゃうんだ」
それが、引き金だった。一歩下がった瞬間、【言葉の重み】なんて最初から効いてなかったかのように立ち上がった靱負が王土の懐まで入り込んできた。
「なにっ――――がふっ!?」
「ほら、こんな風に」
靱負の小さな掌が王土の鳩尾を的確に打ち抜いていた。貧弱な身体でも、人体の弱点を突けばそこそこ大きなダメージを負わせる事が出来るのだ。更に言えば、靱負の近接格闘能力は珱嗄の一週間に及ぶ特訓で殺人的なまでに成っている。
貧弱な身体で出来る最速の動きを、最適なタイミングを読んで、実行に移す技術や目的の場所に精密に打撃を打ち込む精確性、またダメージを最大限与える為の衝撃伝達法、等々いろんな物を珱嗄のスキルを使った特訓によって叩き込まれている。
身体の貧弱性を補って余りある戦闘技術。それを保有する彼女はまさしく、最強の格闘少女。おそらく、高千穂仕種と勝負すれば、引き分ける位には強い。
「げほっ……なるほど、小さき女児と思って油断したぞ。中々やるではないか」
「えへへ、褒められちゃった。嬉しいな、嬉しいな! とっても面白いよ」
「そうか……では次はこちらの番だ」
「え?」
王土の【言葉の重み】が更に発動する。今度は更に強力な物だ。
「―――『
「ふぎゅ!?」
王土の言葉に靱負は地面に頭を叩きつけられ、土下座の体勢を強いられた。そのまま、間髪いれずに王土の足が靱負の頭を踏んだ。
「ぐぎぎ………」
「ふん……これでも勝負は喫した。まだ抵抗するようなら、今度はこの頭を踏み砕くぞ?」
「うーん、それはそれで面白いかも! でも私はまだ負けてないよっ」
靱負はそう言って、踏まれつつ笑う。その笑みに、王土はさらなる不気味さを感じ取ったが、足は放さない。
「えへへ!」
「むぅ!?」
靱負が笑った瞬間、王土は膝を着いて座る体勢に強制された。まさしくそれは、王土の【言葉の重み】と同じ現象。その事に、王土は驚愕する。
「よっこいしょっと!」
靱負が頭を踏んでいた足がどいた事でゆっくりと立ち上がる。
「えへへ、面白いでしょ? これが私のスキル―――【
靱負の
身体を傷つけてでも、面白さを求める様になった靱負に目覚めた欠点(ちょうしょ)。身体で対価を払って、払った相手を玩具にする。その行動の一切を靱負の思うままにする事が出来る最悪のスキル。
更に言えば、自我は残したままというのがなおさら最悪だ。このスキルを使えば、操られた人間は靱負が飽きるまで玩具としてずっと使われる。自殺に追い込むことも、その場で全裸に剥く事も、骨を折ったり傷を負わせたりすることも出来る。息をするなと指示すれば、窒息するまで必ず止めていないと駄目なのだ。
「それに、このスキルの良い所はコレクションすることが出来るんだよ!」
それは、このスキルの最も最悪な部分。一度玩具にされた人間は、何時如何なる時でも靱負がスキルを発動して指定すれば、また玩具に戻る。
――――つまり、靱負に一定ダメージを一度でも与えた者は、生涯靱負の玩具となる。
「な、に……!?」
「凄いでしょ? 皆々私を楽しませてくれる面白い玩具! 面白いよね、面白いよね?」
靱負はそのスキルに全く罪悪感など感じておらず、むしろ当然と考えている様な純粋な笑み。だが、その事実を教えられた王土は、青ざめた様な顔をしていた。
「そういえば、お兄ちゃんは自分が王様だと思っているんだっけ? じゃあお人形さんごっこをしよう? お兄ちゃんは悲劇の王様役、私はその王様を殺そうとやってきた奴隷なの!」
「なっ……」
「じゃ、スタート!」
そう言った靱負は、王土を四つん這いのポーズにして固定させた。そして、声帯を動かして指定通りの言葉を言わせる。
「ぐぅ……お、俺はどうなってしまったのだ? ここはどこだ……!」
「あはは! 王様、とても無様な格好だね。私の顔を覚えているかな?」
「き、貴様は……私が買い取った奴隷の娘……!」
「そう、いつもいつも貴方に虐げられてきた奴隷だよ。でも、今は違う。今は私が貴方より上で、貴方が私の下の人間なの」
奴隷の少女を演じる靱負は、王土の上に座って首輪と鎖を取り出す。それを王土の首に嵌めてぐいっと引っ張った。
「ぐっ……! 貴様ぁ……」
「あはははは! 無様だね、王様。今の君の姿を見たら、貴方の親友はどう思うかな? 王女はどう思うかな? きっと失望するよね。きっと貴方から離れていっちゃうよね!」
その言葉に、王土が思い浮かべるのは親友である行橋未造の失望した顔、そして己が妻と定めた黒神めだかの幻滅し離れていく光景。その光景は、王土の心をメキリと圧し折っていく。
「王様は、ただの奴隷に良い様にされてるただの犬だよ」
靱負は、ただ下剋上を成し遂げる奴隷を演じているだけ。悪意なんかは持ち合わせていないし、王土の心を圧し折ろうと思ってやっているわけでもない。
だが、その純粋さは、王土の心を完全に圧し折ってしまった。
「こうして、王様は奴隷の娘によってその生涯を一生犬の様に過ごすのでした! おーしまい!」
靱負はそう言って、演劇の終了を告げて王土の上から飛び降り、玩具化を解く。これにより、王土は既に動ける様になったのだが、心を折られた反動で、王土は四つん這いのまま動かない。
まさしくこれが
だが、その靱負の背中に注射器が数本突き刺さった。
「いい加減にしろよ。お嬢ちゃん」
「あれ? 身体が痺れて……」
身体を痙攣させて崩れ落ちる靱負。投与されたのは、痺れ薬。身体を麻痺させた相手は、名瀬夭歌だった。
「この勝負は俺の勝ちだ。最後の最後で油断したのがお前の敗因だぜ」
「んー……仕方ないなぁ。あーあ、また勝てなかった」
靱負は痺れて倒れた身体をどうにも思ってないのか、視線を名瀬夭歌に移してへらへら笑ってそう言った。
「ま、こんなもんか」
その結末を見届けた珱嗄がそう言って靱負を背負う。
「あっ~~~~~! 痺れてるんだから不用意に触らないでよぅ」
「え? その痺れって足が痺れた感じなの?」
「おい、アンタ……これからどうすんだよ」
「え? 決まってんだろう。家に帰る。目的は達成したしね」
そう、珱嗄の目的は靱負の実力を図る事。その目的は大体達成された。元より、
「じゃ、俺達は帰る。この後は好き勝手にやると良いよ」
「えへへ。じゃあ、お兄ちゃんとお姉ちゃん。また明日とか!」
そう言って、珱嗄と靱負はスキルによって部屋を元に戻し、そのまま転移して消えて行った。