◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
さて、その日からという物、珱嗄は一切学校へ行っていなかった。というのも、家にも戻らず何処かへ行っているのが原因だ。なにかと面白い物を探してあちらこちらへとフラフラ出回る珱嗄なのだが、今回は随分と長い間家を空けていた。
その間安心院なじみが珱嗄とコミュニケーションを取れない事に悶え死にそうになったり、箱庭学園でめだかと新生徒会メンバーの善吉、阿久根、喜界島が色々と依頼をこなしたりしていた。
で、そんな中珱嗄はというと―――
◇ ◇ ◇
「ん、やっぱりこっちだな。俺の面白レーダーが反応しておる」
そう言って、道なき道を歩く珱嗄。いや、道なき道というよりも道はあるがもう誰も通らない道といった方がいいだろう。何せ、今珱嗄が歩いているのは、廃墟と化した街。珱嗄の自宅のある街ではなく、そこからずっと遠い街だ。恐らく、日本からは随分と離れているだろう。おおよそ地球の北側の方に面している土地で、雪がしんしんと降っている場所。
そんな場所に、珱嗄はいた。
まぁ、何故いきなり物語の舞台である箱庭学園を離れてこんな所に来ているのかと問われれば、何故だろうとしか言いようがない。
何故なら、珱嗄は気まぐれにただ面白そうなモノがありそうな場所に行っているだけなのだから。
「―――見つけた」
不敵に笑みを浮かべて、誰もいない閑散とした廃墟街の中にたった一人だけ、膝を抱えて暗い瞳をしており、まるで窓の内側から外を眺めている様な、壁を挟んで視界を得ている様な、そんな視線を珱嗄に向けていた。
所々はねている真っ黒で傷んでいる髪と同様の黒く深い瞳、雪国なのにかなりボロボロになったブレザータイプの制服、そして、雪国で育った影響なのか全く焼けていない真っ白な肌。そのせいか黒髪と黒い目と白い肌がお互いを強調していた。
おそらく年齢は13歳程の少女。動く様子もない所から、かなり衰弱しているのだと思われる。
「………誰?」
「泉ヶ仙珱嗄、面白い事が大好きな男だ」
珱嗄は少女の言った言葉が日本語である事に少し驚いたが、いつも通り自己紹介した。まぁ、言語がどうであれ翻訳スキルを使えば関係はないのだが。
「………そう」
「お前は……なんでこんな所に一人でいるんだ?」
「………私は、小さな頃にお母さんに連れられて此処に来たの……でも、皆死んじゃった。大きな嵐が来て……皆死んじゃった」
「お前は生きてるじゃないか」
「私はその時、お母さんに頑丈な箱に詰められて嵐が過ぎるのを待ってたの………それで、収まった時には街は壊れて、人は全部死んじゃった」
少女の言葉は、珱嗄の笑みを更に濃くさせた。そう、珱嗄にとってなにより大切な、面白い事を運ぶ物だと思ったからだ。
「で、お前はここでこのまま野垂れ死ぬ訳か?」
「………仕方ないもの」
「いや、お前にはまだチャンスがある」
「………?」
「俺と共に来て、面白く生きるか………このままつまらなく死ぬか、選べ」
その言葉は、少女の深い瞳にわずかな光を浮かばせた。
「……一緒に行っても良いの?」
「いいよ。お前は多分、俺にとって面白い物を運んできそうだ」
「……分かった。私を一緒に連れて行って」
「オッケー、お前は俺の手を取った。さぁ行こうぜ、面白おかしい生活を送らせてやるよ」
珱嗄はそう言って、少女のか細い手を取った。
「お前の名前はなんていうんだ?」
「………私の名前は、"
「へぇ、なんにせよ………良い名前だ」
珱嗄はそう言って、彼女を背負って転移したのだった。