◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

10 / 89
新たな生徒会長―――黒神めだかだ

 さて、それからという物、俺はクラスメイトである日之影空洞君に連れられて講堂へと足を踏み入れていた。何をしに来たか、その答えは簡単。生徒総会に参加するのである。無論、永久自習生である13組生がそういるものでは無く、椅子に座るのも気が引けたので、座席の最後列にある通路の所に男二人並んで視聴する事にした。

 

 空洞君曰く、新しい生徒会長の演説があるらしい。なんでも、その新生徒会長は今年入学したばかりの女生徒で、投票の結果支持率98%という驚異的な数値を叩き出してその地位に就いたらしい。なるほど、つまりは今日が原作開始の第一日。黒神めだかの箱庭学園での物語が始まる訳ですな?

 

 そこまで考えて、俺は【嗜考品(プレフェレンス)】のオンオフを解除し、オン状態に戻す。そして、記憶を操作するスキル【記憶改竄(テンプァイリングメモリー)】を作製。またオフ状態に戻した。

 そして、そのままそのスキルを使って俺の頭の中にある。原作知識の記憶を―――

 

 

 ―――封印した。

 

 

 

 これで、このスキルを解除しない限り俺の中に原作知識が戻ってくる事はない。まぁ、原作知識があったという認識は残る訳だけど、内容は思いだせなくなった訳だ。

 

「……出て来たな」

 

「おう、アレが俺の跡継ぎ。新たな生徒会長―――黒神めだかだ」

 

 久々にみたな、黒神めだか。中学時代の時とは違ってこの2年間で随分と大きくなったじゃないか。ツインテールだった髪はストレートに流されて、一本ぴょこんとでたアホ毛が特徴的だ。その凛とした雰囲気は、中学時代とは比べ物にならない程高まっており、なんかもう完璧超人という評価が全く気にならないな。

 

 

『世界は平凡か? 未来は退屈か? 現実は適当か? 安心しろ! それでも生きることは劇的だ!』

 

 

 俺の中学時代の最後の言葉をそっくり真似した様な台詞。いや、多分元々はあの子の言葉だったのを俺が真似たのだ。原作知識が無くなっておぼろげだが、あの時は確かそんな事を思ってた筈だ。

 

『そんなわけで、本日から私が貴様達の生徒会長になった黒神めだかだ! 学業・恋愛・仕事・友人関係全てに渡ってなんでも相談を受け付ける。本日より、箱庭学園生徒会執行部は24時間365日いつでも相談を受け付ける!』

 

 そう言って、彼女……黒神めだかは凛と胸を張った。

 

「……なんか、つまんねぇな」

 

「そうか? あんな演説する奴アイツ以外いないぜ?」

 

「だけどな空洞君。他人の演説は結局他人の物であり、いくら聴衆に聞かせようがいくら心に響く物だろうが、この講堂を出たら『凄かったねー』の一言で終わってしまうんだよ。とどのつまり何が言いたいのかというと―――人の演説で人は動かない」

 

 そう、動く筈が無い。選挙であるなら、この人の演説凄かった。だから投票しよう、くらいの認識位しか与えられない。結局の所、どれだけ多くの聴衆の心を理解し、インパクトを残せれば選挙は勝てる。まぁ、それが出来ないから今時の政治家達は選挙活動だの、宣伝だの色々とやる訳だけど。

 まぁ俺が選挙を舐めていると言われても否定しない。だが、俺の言った事も少なからず当たっている筈なのだ。心を本当に動かせるのは、自分だけだ。

 

「ま、そんなことどうでもいいんだけどね」

 

 毎度の如く、不確か極まりない疑問や問題は全て投げ捨てる。考えるだけ無駄な事は、考えない。そんなことしている暇があるのなら面白い事の一つや二つを持ってこい。

 

「さて、それじゃ演説も終わった事だし……教室に戻ろうか」

 

「ん、そうだな――――っと?」

 

「んー……やっぱり面白い事があった。中学より断然面白いわ」

 

「ケケッ☆」

 

 踵を返し、教室へ戻ろうとする俺の目の前に立ち塞がったのは、白髪の癖毛を持った明らかに異常な雰囲気を持った子供。おそらく見た目からして10歳程だろう。

 だが、その子供の腕に付いているのは、【風紀委員の腕章】。詳しい思い出はないが、確実に2年間学校生活を送った筈の俺の知識には、風紀委員の情報もあった。風紀委員、学園警察とも名高い校則を厳重に取り締まる委員会で、校則を破った者には暴力による制裁も厭わない集団。

 そして、今年の委員長は飛び級で即座にその地位に付いた子供。その名も――――雲仙冥利。

 

「何か用か、クソ餓鬼」

 

 面白くなってきたと口元を歪ませて、見下ろす様に言い放つ。

 

「んな事分かりきってんだろボケが。テメェの格好はどう見ても校則違反だ。正規の制服じゃない上、改造制服って訳でもないただの着物。そんなのがこの風紀委員長雲仙冥利の眼が黒い内に許されると思うなよ?」

 

「―――なるほど」

 

「おい、珱嗄……」

 

 空洞君が心配そうに話し掛けてくる。おそらく、助けを求めれば彼は雲仙冥利を退けてなんとかこの場を収めてくれるだろう。

 だが、そんなのは必要ないし、して欲しくもない。

 

 異常な雰囲気を纏った、異常な子供。ああ、確かに凄いしそりゃあなんか色々出来るんだろうな。

 

 

 でも

 

 

「所詮は異常(アブノーマル)な程度。俺の前に立って意見するなら……せめて千年は生きてからにしろ」

 

 ぐしゃりとひしゃげた音を響かせ、講堂の床に雲仙冥利の頭が沈む。床には罅が入り、雲仙冥利の頭からは確実に赤い血液が漏れていた。

 その目の前に立つ。何をしたのか、空洞君には分からなかった様だが、俺のした行動は単純明快。雲仙冥利の身体に仕込んであった跳躍球(スーパーボール)を一瞬の内に回収、同時に真上へと投げたのだ。刎ねかえったボールが雲仙冥利の頭を連続で攻撃、結果的に雲仙冥利は一発目で地面へと頭を叩き付け、後に5発のボールがそこへ追い打ちを掛けて地面に罅が入る程の衝撃を与えたのだ。

 

 そんな攻撃を受けた雲仙冥利の意識は完全に不意を突かれたことからもあって既に無くなっており、そのまま倒れ伏していた。

 

「時間を巻き戻すスキル【跡戻り(バックトラック)】」

 

 そう言って、雲仙冥利の傷を受ける前の状態に戻す。意識は失ったままだが、肉体の時間が巻き戻ったので、ダメージは0だ。

 

「さて、そんじゃあ改めて……教室に戻ろうか」

 

「お、おう」

 

 空洞君は俺の言葉に若干どもりながらも返事を返し、並んで教室へと戻って行った。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 一方、珱嗄宅では―――

 

 

「ただいま……って、珱嗄がいない? まさか、起きた……? 珱嗄が起きた!」

 

 帰って来たなじみはベッドの上に珱嗄の姿が無い事を確認し、珱嗄の起床を確信する。その事実に喜び、さっそく珱嗄に会いに行こうと部屋を出るが

 

「あ」

 

 現在封印中のなじみは、珱嗄の創ったスキルシェルターであるこの家の外では顕現出来ない。夢や精神世界でしか活動が出来ないのだ。つまり、珱嗄には彼が帰ってくるまで会う事は出来ない。

 

「ちくしょう………こんな封印が無ければ……覚えておけよ球磨川君……うふ、うふふふふふふ」

 

 この時、人外安心院なじみが初めて本気で誰かに怒りを向けたのだった。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

「『!?』『……なんだろう、今の寒気』『理不尽な怒りを向けられた様な……』『ま、いっか』」

 

 なじみの怒りに反応して身体を震わせた男が何処かの学校の教室の真ん中でそう言う。

 

 

「『僕は悪くない』」

 

 

 珱嗄が起きた今、彼の登場もまた近い未来に迫っていた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。