ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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戻れないあの夏の日

 

 

 

 

「私は!私はマリアンヌ様をお守りすることができなかったのです…」

 

ジェレミアは涙を流し、こぶしを振るいながら、己の過去を熱く語った。

一同はそれに深く同情…したのは一回目の時だった。

どんな悲しい話でも、 それが3回連続となると流石に飽きる。

ゾロはあくびをし、 ルフィに至ってはジェレミアのリアクションに笑い出す始末だ。   

 

「そのショックで落ちぶれたジェレミアさんは“饗団”とかいう

 怪しいカルト団体に捕まって、改造手術を受けたんですよね?」

 

ジェレミアの長話が始まる前にナミが機先を制す。

なにはともあれ、ジェレミアの話によって、ルルーシュの過去が明らかになった。

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。

ブリタニアの皇子として輝かしい未来を約束された

彼の人生は、母・マリアンヌの暗殺によって激変した。

母親の死の真相を迫る ルルーシュに父・シャルル皇帝が出した答えは、敵国日ノ本への人質だった。

酷い話だった。

敵国である日ノ本での生活は凄惨なものに違いない。

目の前にある全てが敵に見えたのだろう。あの性格はその頃培われたのかもしれない。

自分と、ただ1人の妹・ナナリーを守るために…。

その日ノ本と戦争状態に突入した時に、二人は忽然と姿を消した。

その後、ブリタニア帝国内で、皇位継承を賭けた殺し合いが起こった。

暗殺・毒殺・病死。

 

結果、皮肉なことに皇位継承権を失ったはずのルルーシュとナナリーが、

ブリタニアの唯一の皇位継承者となったのだった。

 

「…素顔が見せられねーわけだ」

 

サンジは煙草を咥える。

あの変態仮面にはそんな理由があったのだ。

反ブリタニアを掲げるレジスタンスのリーダーがブリタニアの皇子だと

知られたなら組織の崩壊は必定だ。

 

「復讐か…」

 

ゾロは呟いた。

もし、自分がルルーシュの立場に置かれたのなら、

そうしていたかもしれない。母親の敵討ち。 そして自分達を捨てた父親に対して…。

ルルーシュはそれを国家の存亡を巻き込みながら行ってきたのだ。

「日ノ本を本拠地に選んだのは、

 早期降伏により、他のエリア よりも戦力が温存されたため。

 それと、ルルーシュのホーム グランドだから…ということでいいかしら?C.C

 あいつがメリー号を奪ったのは妹のナナリーを助けに――」

 

新聞をたたみ、推理の解答を聞こうと顔を上げるナミ。

しかし、そこには解答者となるC.C.の姿はなかった。

 

「ナナリー様…おお!ナナリー様!」

 

“ナナリー”という言葉に反応して、ジェレミアが泣き出した。

“しまった!変なスイッチを押した”と顔をしかめるナミ。

 

「…お茶」

 

そこに台所からお茶のおかわりをピンク色の髪の少女が持ってきた。

お茶はもちろん「オレンジ茶」だ。

「か…かわいいお子様ですね」

話題を変えようと、ナミはアーニャの頭を撫でる。

その言葉にジェレミアは首をかしげた。

 

「ん?妻だが…」

 

ゾロがお茶を吹く出す。

それが目に入り、ナミは“ぎゃー”と悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

C.C.は浜辺を歩いていた。

そこでは、昨晩、麦わらの一味”の宴が開かれていた。

目を閉じるC.C.。

瞼の裏に満月が浮かび上がり、その光りは ルフィ達を照らし、数人と一匹の影を作り出す。

その横で二つの影が揺らめく。

 

「しかし、それではお前が――!」

 

「ナナリーを救うにはこれ以外に方法はない」

 

ルルーシュとC.C.のいつもの光景。

しかし、声を荒げるのはC.C.の方であり,対するルルーシュの声はどこか穏やかだった。

「新聞には“ゼロの妹”としか書かれていない。

 シュナイゼルがナナリー皇女を殺すとは思えない。

 これはお前を誘い出すための罠だ!」

 

「ナナリーが囚われているのは事実だ。罠だとわかっていても、可能性がある以上、行かないわけにはいかない!」

  

「…麦わら達なら、きっとお前の力になってくれる」

 

ルフィ達を見るC.C.

一同は“ギアス”にかけられた当時のままに固まっている。

「知っている。だからこそだ」

 

ルルーシュは小さく笑い、首を振る。

 

「俺には俺の“戦い”がある。

 あいつらにはあいつらの“冒険”が待っている。

 ナナリーは俺が救わなければならない!

 …それに、これ以上、あいつらの“夢”の邪魔をしたくない」

 

そう言って、ルフィ達を見るルルーシュの眼差しはとても穏やかだった。

C.C.は俯き、呟く。

 

「ルルーシュ。恨んでいないのか?私のことを…」

 

とてもか細い声だった。

体がかすかに震えている。それでもC.C.は話し続ける。

 

「私と出会ったことでお前の運命は大きく変わってしまった」

 

「らしくないな。魔女のくせに」

 

そう笑ったルルーシュは言葉を止めた。

C.C.が見ていたから。悲しそうな瞳で。真剣な眼差しで。

「…C.C.“ギアス”があったから、お前がいてくれたから、

 俺は歩き出すことができた。そこから先は全て俺の…」

「…初めてだよ。お前のような男は」

 

C.C.は笑った。

いつものように。二人は見つめあう。いつもの光景。

 

「ありがとうC.C.…ありがとう――」

 

 

C.C.は静かに目を開ける。

そして驚くのだった。自分の頬を伝うものに…涙に。

涙はC.C.の両の瞳から止め処なく溢れてきた。

手のひらに流れ落ちる涙を見てC.C.は小さく笑った。

「もう忘れてしまったはずなのに…涙なんて。

 捨てたはずなのに…こんな感情も…本当の名前なんて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギアス解除!」

ルルーシュの声と共に赤い光りが辺りを包み込む。

その光りに驚き、鳥達が“ギャア、ギャア”と逃げ出した。

 

「…。」

 

ウソップの意識はまだぼんやりしていた。

その目に最初に入ってきたのは 密林の青色。木々が生い茂り、鳥の鳴き声が聞こえる。

次にウソップは 頭上を見上げた。太陽が眩しい…この位置にあるということは

時刻は、だいたい昼ごろだろうか。だんだんと意識が戻ってくる。

 

 

 

  ああ、眩しいな…。なんで太陽が光っているのだろう?

  俺は、真夜中にみんなと宴を楽しんでいたはずなのに…。

  そうか、この光りは“花火”の光なのだ。

  あの後、俺達は別れの挨拶を…あいつと…ルルーシュと…ルルーシュ!

 

 

 

ウソップは目の前に立っているルルーシュにパチンコ台を向ける。

記憶は定かではないが、この状況こそが、ルルーシュが“ギアス”を使った

というなによりの証拠だった。

ルルーシュは…ゼロは俺達を騙したのだ!

再び、戦うことを決意したウソップは直後、驚く。

あのプライドの高い…傲慢で、尊大な嘘つき男が自分に向かって頭をさげている!?

「すまない…お前達に“嘘”を…“ギアス”をかけた」

 

うろたえるウソップ。

手に持ったパチンコ台の置き場を迷い、手を上下させる。

「ウソップ。もう時間がない。今すぐ、あの浜辺に戻れ!

 船に乗れば、海王類が運んでくれるように“ギアス”をかけた」

 

「うお!?」

 

後ろを振り向いて、ウソップは叫んだ。

メリー号の後ろから、二匹の海王類が 海面から顔を出して、こちらを見ている。

いまさらながら、“ギアス”の恐ろしさを思い知る。

 

「ルフィ達と合流したら、すぐに、このルートから

 ウォーターセブンへ向かえ!

 もうすぐ この海には最大レベルの警戒網が敷かれることになる。急げ!」

海図をウソップに渡すと、ルルーシュは密林に向かって歩き出す。

 

「オ、オイ!どこに行くんだよ?ルルーシュ!」

 

慌てるウソップは、状況が飲み込めず、ルルーシュを呼び止める。

その声に反応し、ルルーシュは歩みを止める。

数秒間の沈黙。

振り返ったルルーシュの顔はどこか寂しそうだった。

「…ウソップ。みんなに伝えてくれ。

 “また一緒に花火を上げる”約束…守れそうにないと」

 

「な…何言ってんだよ?」

 

そう言って、再びルルーシュを引き止めようとしたウソップは息を呑んだ。

ルルーシュが向かった密林の先に、巨大な建造物が見える。

 

その頭上に揺らめく旗には、こう書かれている

 

 

海軍――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

枢木スザクは俺にとって最初の友達であり、ただ一人の親友だった。

日ノ本に人質として送られた俺達を待っていたのは、冷たい視線、差別、そして――

 

「俺を舐めるな!ブリキ野郎!!」

 

…こいつの強烈な洗礼だった。

枢木ゲンブ首相の息子、枢木スザク。

最悪の出会いだった。

だからこそ、俺は生きることを決めた。 ナナリーと二人で。誰も頼らずに…。

出会えば罵り合う日々。

そんな日常を変えたのは、あの雨の日…ナナリーが迷子になった時のことだった。

 

「助けたいから、助けるんだ!他に理由なんかいるか!!」

泣き出しそうな俺に向かってスザクはそう言い放ち、森に向かって駆け出した。

そして、落とし穴に落ちたナナリーを見つけ、笑い合っていた。

それが、日ノ本で見るナナリーの初めての笑顔。

 

「ルルーシュ…。お前スゲーよ…うう…」

 

俺達の境遇を知り泣き出すスザク。

あの日から、俺とスザクは友達になった。あの遠い夏の日に…。

 

 

 

 

ブリタニア帝国が日ノ本に宣戦布告したのはそれから一ヶ月後のことだった。

徹底抗戦を唱える枢木ゲンブは、人質である俺達を、

ブリタニアの皇子と皇女である俺とナナリーの公開処刑を計画した。

それを知ったスザクは、枢木ゲンブを…実の父親を殺し、俺達を海に逃がした。

 

「ゴメンな…こんな事しかしてやれなくて…」

 

涙でボロボロになった俺達をスザクは最後まで気遣ってくれた。

俺達が乗りこんだボートは…スザクが盗んだもの。

あれほど、不正を憎んでいたのに…。本当は泣き出したいはずなのに――

俺は忘れない。

お前がしてくれたことを。お前がいてくれたことを。

 

「…スザク。僕は…。俺は…ブリタニアをぶっ壊すッ!!」

 

あの日、俺達を救ってくれた親友にたてた誓い。

母の仇を討ちたい。

ナナリーを守りたい!

せめてスザクに祖国を返したい!!

胸が熱かった。奥底から“反逆”の炎が沸き上がる。

その炎から生まれた怪物は俺に向かって叫ぶ。

 

 

 

 

 

        ブ リ タ ニ ア を 無 に 還 せ!

 

 

 

 

 

 

あの日から俺は“ゼロ”になった。

 

 

 

 

 

「お会いできて光栄です。クロヴィス総督」

 

ブリタニア兵に変装し潜入した俺はクロヴィスに銃を向ける。

“革命軍”で力をつけた俺は、その援助と“ギアス”の力によって勢力を

拡大し、武装集団“黒の騎士団”の団長として、エリアの解放を唱え、

日ノ本を拠点にレジスタンス活動を展開していた。

“黒の騎士団”は絶望の中にいた日ノ本人達から絶大な支持を受け、

その存在は、ブリタニアにとっても無視できないものになっていた。

そんな中で、ブリタニア帝国・宰相シュナイゼルが打ってきた策が

「行政特区・日ノ本」だった。

 

――行政特区・日ノ本。

そのエリアにおいてのみ、ブリタニア人と日ノ本人は

平等の権利を持つことができる…まさに夢のような政策であった。

しかし、夢は所詮、夢に過ぎない。

行政特区・日ノ本には3つの裏の顔があった。

一つは、最終的にブリタニアに経済を依存することになる狡猾な経済構造。

二つ目は、特区に参加する者と反対者の思想的分断。

そして、三つ目は…“黒の騎士団”の自然崩壊。

  

 

「…実にシュナイゼルらしいやり方だ」

 

震えるクロヴィスに向かって、俺は特区の真の目的を指摘した。

 

「行政特区の中止を宣言してもらうぞ、クロヴィス。

 ブリタニア人と日ノ本人の平等を口にする資格はお前にはない!

 “新宿事変”を忘れたとは言わせない!

 お前は“日ノ本人を虐殺”する命令を…」

 

クロヴィスの“新宿事変”の蛮行を糾弾する。

その時、“それ”は起こった。

 

「…イエス。マイロード!」

 

そう言って、走り出すクロヴィス。

唖然とその様子を見つめていた俺は、何が起きたのかを理解できずにいた。

とにかく、あとを追いかけようと走り出すが、広間の鏡の前で立ち止まる。

…その目は赤く光っていた。

直後、悲鳴と共に銃声が鳴り響く。

 

 

 

 

「行くな!ルルーシュ! ブリタニアと戦うにはまだ早すぎる!」

 

「ここで戦わなければ、騎士団が日ノ本人を見捨てたことになる。

 日ノ本人の支持は失われ、黒の騎士団は崩壊する。

 ――なにより、この状況を前にして団員達を止めることは不可能だ!」

 

C.C.の言葉を振り切るように仮面を手に取る。もはや、戦いは不可避な状況に陥っていた。

 

「撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ!」

 

“ゼロ”としての誓い。

C.C.に…自分自身に言い聞かせながら、団員達の前に立つ。

 

「“黒の騎士団”総員に告げる!

 行政特区・日ノ本は反エリア主義者を誘き出すための卑劣な罠だった!

 我々は…裏切られたのだ!

 零番隊は広場に突入!各隊は戦闘準備を整え、東京に集結せよ!

 ブリタニア軍を殲滅し…日ノ本人を救出しろッ!!」

 

地鳴りのような雄たけびが沸き起きる。“ブラック・リベリオン”が始まった――

 

 

 

 

激しい怒りに駆られた団員達はブリタニア軍に襲い掛かる。

日ノ本全土では、ブリタニアに対する大規模な暴動が巻き起こり、

勢いは完全に騎士団側に傾いた。騎士団はブリタニアのエリア駐屯軍を

瞬く間に叩き潰し、東京を制圧した。

東京に軍を集結させた俺は “合衆国・日ノ本”の建国。そしてブリタニアからの独立を宣言した。

――しかし、この時、すでにシュナイゼルは次の手を打っていた。

海には「海軍本部」の“五人の中将“が集結していた。

 

「扇!何故、海軍の動きを知らせなかったッ!?」

 

俺は電伝虫を握り締め、激昂した。致命的…あまりにも致命的だった…!

 

 

「扇が女に撃たれた!情報網はズタズタだッ!どうすればいいゼロ!?」

   

「――そんなのは放っておけ!代わりなどいくらでもいる!

 今からお前が指揮をとれ!」

 

「なッ!?」

 

何か言おうとする南を無視して、電伝虫を切る。

砲撃の爆音と人々の悲鳴が聞こえる。負ける…?これほどの犠牲をだして――

 

「負けるわけには…負けるわけにはいかないんだッ!!」

 

その悲痛な決意は「バスターコール」の砲撃音に掻き消された。

 

 

 

 

雨の中、零番隊の一部を引き連れ、険しい山道を行軍する。

海軍の「バスターコール」の発令により、東京は火の海となり、騎士団は崩壊した。

なんとか「バスターコール」を免れた俺は、海を目指していた。

この山道を抜ければ、万が一のために用意していた脱出艇を使い、

海に逃れることができる。再起をかけることができる。

C.C.に、ドラゴンに借りを作るのは癪に障るが今は仕方がない。

雨が重い…。

その雨、一粒一粒がこの戦争で死んだ人々の涙に。命そのものに感じた。

 

「背負えというのか…この俺に」

 

雨はただ降り続ける。

答えなどすでに知っていた。

たとえ何があろうとも、もはや無為に死ぬことなど 許されない。

どんな手を使おうとも、生き延びなければならなかった。

撤退戦の最中、多くの団員が自分を守るために死んでいった。

ある者は砲弾をその身で防ぎ、

ある者はブリタニアの包囲網に自爆テロを仕掛け突破口を開いた。

彼らは、「ゼロ」を守ることで、日ノ本の未来を…。家族を…。

守りたかった「何か」を守ろうとして死んでいったのだ。

自分はその命を繋いで出来た橋を渡り、今ここにいる。

だから何としても生きねばならなかった。

あの夏の日以来となる新たな誓い。

「ゼロ」として人々を救うこと。それが…せめてもの贖罪だった。

降り続ける雨。

その静寂は突如、団員の悲鳴よって切り裂かれた。

倒れた団員の側に、一人の海兵が立っている。

信じられなかった。あの「バスターコール」を抜けて、自分達を追ってきた!?

海兵は隊員をなぎ払いながら、自分に向かってくる。

 

「ゼロは私が守る!」

 

前に出るカレン。“輻射波動”が赤く光る。

それを寸前でかわした海兵の帽子が落ち、その素顔が見えた。

信じたくはなかった。その顔を誰よりも俺が知っていたから。

 

「枢木…スザク!」

 

それがあの夏の日以来となるスザクとの再会だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

枢木スザクはベッドに座り、壁にかけてある自分のコートを見つめていた。

そこには「正義」の二文字が刻まれていた。

幼い頃、スザクが信じたシンプルなもの。自由と正義、そして友情。

現在、スザクはその「正義」を背負い、「海軍中将」として

この海域の平和を守っている。

枢木首相の急死により、戦争は日ノ本の早期降伏に終わった。

自分の父親を殺した罪。

その生涯消えることはない十字架を背負ったスザクが選んだ新たなる道。

それは「海軍」への入隊だった。

世界の「正義」を標榜する海軍に身を置き、戦うことが、自分にできる

せめてもの罪滅ぼしと信じた。

“ブラック・リベリオン”の前のブリタニア支部は、ブリタニア人の比率が高いと

はいえ、まだ多くの非ブリタニア人の海兵がいた。そのために、スザクは

ほとんど、差別や迫害を受けることなく、信頼できる仲間と上司の元で、

みるみるとその頭角を現して行った。

時が流れ、スザクが「少佐」の地位についた頃、スザクに運命の出会いが訪れた。

 

ユーフェミア。

ブリタニアとエリアの平等を訴える市民活動家。偶然出会った二人は恋に落ちた。

スザクはユフィの優しさに。ユフィはスザクの誠実さに惹かれていた。

二人は語り合った。

ブリタニアと日ノ本の未来を…。夢を…。

――だか、その夢は「バスターコール」の爆撃に消し飛ばされた。

“ブラック・リベリオン”時、日ノ本人のテロリストに

人質にされたユフィのいる教会に砲弾が炸裂した。

駆けつけるスザク。そこで見たのはユフィの変わり果てた姿だった。

 

「オオオオオオオオオオオオオオッ――!!」

 

獣のような唸り声を上げ、スザクは走り出した。

 

 

 

全てはあの男…ゼロのせいだ!!

 

 

 

雨のように降ってくる砲弾を全てかわし前に進む。

神経が極限まで研ぎ澄まされて 砲弾がスローモーションのように感じられた。

街を抜け、山道を進む。雨の中、行軍する集団を見つけた。

 

 

 

あそこに…ゼロがいる。殺す!奴をこの手で!

 

 

 

襲い掛かってくる団員達をなぎ払う。武器を持つ敵を物ともせず、拳を打ち込む。

赤髪の女の手から放たれた波動をかわした時に帽子が落ちる。

構わず前に進み、女の懐に飛び込む。

 

「速いッ!?」

 

幼き頃より、教え込まれた日ノ本の伝統武術、空手と柔術

それを独自に編成し作り上げたスザクの体術。

それこそが、わずか数年でスザクを「少佐」の地位まで押し上げた秘密だった。

吹き飛ばされたカレンは崖下に落ちていった。

これでこの場に立っているのはスザク…そしてゼロのみとなった。

 

「傲慢にして卑劣!それがお前の正体だ!ゼロ!!」

 

ゆっくりと近づいていくスザク。

ゼロが銃を構えると同時に走り出し、廻し蹴りを喰らわす。

 

「お前の存在が間違っていたのだ!お前は世界から弾き出されたんだ!!」

 

押さえつけられながら必死にもがくゼロ。

その仮面に手をかける。

 

「貴様を殺す…!だが、その前に顔を見せてもらう。

 仮面によって隠してきた薄汚い、その素顔を――!」

 

仮面が外れ、ゼロの素顔が明らかになった。

信じたくはなかった。その顔はあの日以来、忘れたことはなかったから。

 

「…スザク」

「ル…ルルーシュ――!?」

 

 

 

 

 

数秒間の沈黙。

ズザクは全てを理解した。

ゼロがブリタニアに反逆した理由を。本拠地に日ノ本を選んだ理由を。

全てはあの日の約束のため。 あの日、“ゼロ”は生まれたのだ。

ルルーシュは約束を守るために…自分に祖国を返すために戦ってきた。

 

 

 ならば、ユフィは誰のために死んだ?

 本当に間違った存在とは誰なのか?

 

 

狼狽するスザク。

その瞳にカレンの落としたナイフが映る。

 

即座にナイフを手に取り、スザクはそれを自分の首筋に押し付けた。

――全ての罪は自分にあった。

 

全てはあの日から…実の父親を殺した時から始まったのだ。

 

 ルルーシュを殺してもユフィは微笑まない。

 ルルーシュを殺すことなんて自分にはできない!

 

 

もはや、これ以外に手段はなかった。ナイフを持つ手に力が篭る。

首筋から鮮血が流れ出る。

 

「スザク、死ぬな! お前は生きろ!!」

 

その刹那、記憶の終わりに、スザクが最後に見たもの。

止まない雨と、そして涙で濡れた親友の赤い瞳だった。

 

 

 

 

 

ゼロの仮面を抱いて倒れていたスザクは“ゼロを討った男”として

“ブラック・リベリオン”の勝利の象徴として祭り上げられた。

ゼロを討ったのが日ノ本人の海兵であったことを知ったシュナイゼルは

これを最大限に政治利用した。

シュナイゼルの政治的な後押しにより、スザクは「中将」に昇進した。

スザクをブリタニア支部の最高権力に据えることで、シュナイゼルは

「名誉ブリタニア人」制度の健全性を世界にアピールし、

ブリタニアのマスコミは、スザクを「名誉ブリタニア人」の誇りとして 絶賛した。

目が眩むようなフラッシュライト。栄光の光。

しかし、その賞賛は、ブリタニア人の間でのことだった。

日ノ本人や他のエリア人のスザクを見る目は冷たかった。

“ゼロを討った男”は、自分達の“希望を奪った男”。売国奴にすぎなかった。

日ノ本に凱旋帰国した時、人々の自分を見る視線。スザクは理解した。

自分が海軍という温室にいた時に、日ノ本人はずっと暗い部屋に閉じ込められていた。

日の当たらない闇の中。絶望。そこに現れたのがゼロだった。

人々にとって、ゼロは光り。希望そのものに見えたに違いない。

それを奪ったのが、同じ日ノ本人のスザク。

人々の絶望と憎しみは全てスザクに向けられた。シュナイゼルの思惑通りに。

 

凱旋パレードの最中、鋭い痛みが右足に走る。

瞬時にそれが刃物によるものだと悟ると、体が自動的に反応し、

暗殺者に蹴りを見舞う。

“ギアス” ゼロによって与えられた呪い。

これによって、スザクは幾度も暗殺の危機を切り抜けてきた。

目から赤い光りが消え、正気に戻ったスザクは、その光景に言葉を失った。

暗殺者は5,6歳ほどの子供だった。手にナイフを持ち、涙を流している。

 

「返して…パパを!ママを――」

 

直後、数発の銃声が響き渡る。

スザクの攻撃を、ブリタニア兵達が発砲の許可と捉えた。

子供の足をひきずりながら去っていくブリタニア兵。

その光景は、ゴミか何かを片付けるように、さも当たり前の行動に見えた。

子供が生きていたことを示す血溜り。

その中に一枚の写真が落ちていた。写っていたのは…ゼロだった。

 

枢木スザクの夢は、日ノ本人にとっての悪夢。

枢木スザクの栄光は、エリアの民にとっての絶望。

枢木スザクの“死”が人々にとっての“願い”だった。

しかし、スザクには、その“願い”を叶えてあげることはできない。

“生き地獄”は確かに存在する。

天国のユフィから最も遠い場所にスザクは立っている。

消えてしまった心。とっくの昔に燃え尽きた魂。

それらのガラクタ達が音を立てて動き出す。

 

 

 あいつが、この海に帰ってきた。

 妹のナナリーを救うために、必ずここにやって来る!

 あいつが…ルルーシュが!

 

 

「…失礼します。」

 

ドアをノックする音を聞き、スザクは応じた。

そこには、自分の部下が立っていた。瞳に赤い光りを輝かせて…。

 

 

 

 

      

 

 

 

 

 

 

        「ゼロ様がお呼びです。」

 

 

 

 


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