ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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オレンジ畑とゼロの正体

 

 

 

ここはエリア11――旧・日ノ本のとある浜辺。

普段、人通りの少ないその浜辺に今宵、月の光が数人と一匹の影を浮かびあがらせた。

イースト・ブルーから鳴り物入りでやってきた“麦わらの一味”のクルー達。

彼らは暗い海をただ呆然と眺めていた。

そこには彼らの船「メリー号」があるはずだった。

「メリー号がねえーーーーーーー!?」

「やられた!!」

 

「ルルーシュ!いや…ゼローーーーーーーーーーー!!」

「やっぱり、あの野郎を信頼すべきじゃなかったんだッ!!」

「ルルーシュ…。」

 

「…。」

 

 

ゼロの能力“ギアス”

絶対遵守の支配から彼らが解放されたのは、事件から約3時間後のことだった。

 

あの男は一体いくつの“嘘”をついていたのか?

“ギアス”は一度しか効かないのではなかったのか?

 

 

様々に疑惑が渦を巻く。

しかし、真実は何であれ“メリー号を奪われた”という事実は何も変わらない。

これまでの冒険を共に乗り越えてきた仲間とも呼べるメリー号はゼロに奪われ、

視界の先にあるのは、暗い海とさざ波だけだった。

ナミは一歩前に出て、海に向かって叫ぶ。

 

「メリー号を返せ!このドロボー!!」

「そうだ!ドロボー!」

 

「嘘つき野郎!変態仮面!」

 

「体力ゼロのガリガリ男!」

 

ナミに続き、次々にルルーシュの罵倒を叫ぶクルー達。

外見と身体的特徴についてあらん限り思いつく罵倒を浴びせ始めた。

その中で・・・

 

「そーだ!この傲慢シスコン男!!」

 

外見でも身体的特徴でもなく、明らかに、その内面に関する罵倒があった。

どこかで聞き覚えがある上から目線のその罵倒。

その声に一同は振り返る。

そこには“革命軍”幹部にしてゼロの相方であるC.C.がいた。

腰を下ろし、片手にピザを持ちながら。

 

「C.C.!?なんであんたがここに!?」

 

悲鳴に近い声を上げ、驚くナミ。

 

「相変わらず騒々しい女だな…。ピザならやらんぞ」

煩わしそうに返答し、ピザを一口かじる。

 

「いらないわよ!・・・あんた、ルルーシュと一緒に逃げたんじゃなかったの? 一緒になってメリー号を盗んで!」

 

一瞬だけ沈黙するC.C.。

しかし、すぐに笑って答える。

 

「…あいつは“自分の戦い”に出かけたよ。私は不要らしい。

 それに盗みとは人聞きが悪い。我々はメリー号を盗んでなどいない。 ただ、借りただけだ。」

 

「…借りた?」

 

「少しの間,レンタルさせてもらった。

 船は1日か2日で帰ってくる…はずだ。

 私はお前達にそれを伝えるためにここに残った」

 

「レンタルってあんた…」

言葉を詰まらせるナミの横でチョッパーが声を上げる。

「あれ?誰かいないぞ!?」

 

「ああ、言い忘れた。借りて行ったぞ1人。返却作業に必要らしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇を切り裂くように一隻の船が帆を進める。

羊の頭を持つその船の速さは本来のものではない。

高速艇の倍以上と思われるその速さの秘密は、船の後ろにあった。

2匹の海王類が船を押しながら、泳いでいる。その目に赤い光りを帯びながら。

「船の針路はこのまま維持しろ」

 

「・・・イエス!マイロード」

 

海図を見つめながら、指示を出すルルーシュに

赤い目をしたウソップが “ニヤリ”と笑みを浮かべ、返答した。

海図を手にするルルーシュの視線は、それを越えて過去を見つめる。

「あいつに会うのはブラック・リベリオン以来か…。 あいつに…枢木スザクに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海軍のブリタニア支部が、ブリタニアと日ノ本の境に配置されたのは

“ブラック・リベリオン”の後だった。

大国・ブリタニア帝国の 全面支援を受けて建設されたその砦は、

マリンフォードの海軍本部を モデルとし、鉄壁の様相を誇っていた。

ここには、先の戦争で捕縛された“黒の騎士団”の団員や海賊、 テロリストを投獄する留置場。

そして、その首を落とす処刑場も 備わっており、

ブリタニアを縄張りとする悪党どもにとっては まさに恐怖の象徴だった。

この支部の特徴はこれだけではない。

海兵のほとんどがブリタニア人で占められている。

ブリタニア帝国の「エリア政策」は海軍にも影響を与えていた。

そのため、海軍と ブリタニア軍は人脈・資金面において他国に類を見ないほど

蜜月な協力体制が構築され、“ブラック・リベリオン”後は、より強固なものになった。

そんな中で、異彩を放つのが、若き最高権力者。

このブリタニア支部 において“非ブリタニア人”である「海軍中将」の存在だった。

“ブラック・リベリオン”時は「少佐」だった彼は、ゼロを討った功績 と

シュナイゼル宰相の強力なあと押しにより、「中将」に成り上がった。

“名誉ブリタニア人”として唯一の「騎士」の称号を持って。

 

ブリタニア支部の食堂において一般海兵がある張り紙を見ていた。

その張り紙には

 

 

“砂糖は1杯につき1つ”

 

 

 

と書かれている。 「中将」の直筆だった。

ブリタニア人の彼はそれを鼻で笑った。

食料の備蓄のためとはいえ、こんなことに何の意味があるのか?

いちいち、マイルールを作って押し付ける「中将」を彼は嫌っていた。

いや、彼を含むブリタニア出身者で中将に好意を持つものなどいない。

それが、ブリタニア人の“非ブリタニア人”に対する当たり前の意識 である。

彼は、家でそうするように、砂糖2個をコーヒーに入れた。

 

…しかし、直後、彼は後悔した。

砂糖を2個入れたこと、ルールを破ったことに。

何者かに腕を捕まれたと思った瞬間、彼の脳裏をよぎったのは、

猛獣が自分の 腕を噛み砕いた映像だった。

“ゴキッ”と鈍い音が室内に響く。

 

「お前の“正義”はかなえてはいけない!(ドーン)」

 

枢木中将。

海軍で唯一の「騎士」の称号を持つ “白騎士”スザクは海兵の腕を掴み、そう告げた。

腕を掴まれた海兵が泡を吹いているのを見た他の海兵達が慌てて止めに入る。

枢木スザクが“少し強く掴んだ”という事実は一般海兵にとっては

“ゴリラに万力で締められた”に等しかった。二人の海兵が肩を貸し医務室に向かって歩き出す。

事態を、きょとん、とした目で見るスザク。

 

「…成り上がりのイレブンめ」

 

青く腫れあがった腕を押さえながら医務室に連れて行かれる海兵が

去り際にそう毒づいた。

 

 

 

 

 

 

――森を抜けるとそこにはオレンジ畑があった。

文豪小説に書かれそうな風景がそこにあった。海岸を歩き、森を抜けた頃には

夜が明けて、太陽が一同と、しっかりと実ったオレンジを照らしている。

アジトに関してC.C.は端的に語った。

 

「“オレンジ”はここで農夫として潜伏している」

 

コードネーム「オレンジ」。

ゼロの個人的な部下という男は文字通り、 オレンジ農園の主としてエリア11に潜伏していた。

この場所からは海がよく見える。海から侵入してくる敵の動きを把握しやすい。

森も天然の要塞として機能してくれるだろう。

逆に、陸からの敵に対しては 海への逃亡が容易である。

なるほど、「隠れ家」としてはまさにうってつけの場所だ。

あの憎たらしい仮面男がメリー号とウソップをさらったせいで

、一同は当初の予定通り の行動を余儀なくされた。

つまり、海軍の警戒が収まるまでではなく、

メリー号と ウソップが帰ってくるまで「隠れ家」に待機することになったのだ。

 

「すげーーー!オレンジばっかりだな!!」

 

「見事なもんだ」

 

一面のオレンジ畑に一同は感嘆の声を上げた。

その中で一際喜びの表情を見せたのはナミだった。

たわわに実ったオレンジを1つ取り、香りを楽しむ。

その香りは、自分の故郷の、 ココヤシ村の、実家のみかん畑を連想させる。

オレンジとみかん。品種、学術的な 違いはあれど、ほとんど同じものと考えていい。

皮をむき、1片を口に放り込むと、 ほんのりと上品な甘さが広がってきた。

大事に育てられているのがよくわかる。

農家は潜伏のための偽装とはいえ、なかなかどうして、本格的だ。

「…でも、ベルメールさんの“みかん”には敵わないけどね」

 

そう呟くナミ。

しかし、その呟くを聞き逃さない者がいた。

 

 

 

“みかん”だと!? オレンジ畑で“みかん”だと~~~~!?

 

 

 

声の方向を見たナミは固まった。

そこには諜報員「オレンジ」が立ったいたのだ。

 

「…。」

 

違う…明らかに違う。

男はオーバーオールを着ている。

服装こそはオレンジ畑で働く 農家そのものだった。

だか、その顔は…。その顔の半分は機械で覆われていた。

“黄金の仮面”と形容したらいいのか。黄金の装飾、

そしてメカの片目が開閉し、 “ウィン、ウィン”唸っている。

ナミは固まったままだ。 “スゴイのがきたーーー”とそんな目をしながら。

 

「女!“みかん”といったな!何者だ!?さては同業他社のスパイか?」

 

“何者!?”と叫びたいのはこっちの方だとつっこみたい衝動をおさえ、 ナミは後ずさりする。

忍んでない! この「オレンジ」という諜報員は明らかに忍んでいなかった。

 

「ち、違うんです!私は…」

 

手を振り、否定のジェスチャーをするナミ。

その拍子にポケットから小さな宝石が落ちる。

ブリタニアの秘宝「龍の左目」だ。

慌てて拾うナミ。

メリー号がない現在、“麦わらの一味”の全財産は

この龍の左目――20億ベリーだけだった。

“危ない、危ない”と冷や汗を拭うナミ。

だが、ジェレミアはそれを冷たい目で…。機械の瞳で見ていた。

 

「…貴様。それをどこで手に入れた?」

 

「へ?」

 

「ブリタニアの秘宝“龍の左目”

 それは殿下が持っておられたはず。

 ナナリー様の処刑が刻々と迫っている。

 殿下は今だ行方知れず。…なぜ、貴様がそれを持っている?

 どこで手に入れた!?殿下はどこにおられるのだ!!」

 

ナミに向かって右手を向けるジェレミア。

その肘の辺りから剣が飛び出し、 ナミの首筋で止まる。

“ヒッ”と短い声を上げ、固まるナミ。あまりの事態に 卒倒しそうなのを必死で堪える。

 

「ナミさん!!」

 

ジェレミアに向かって走り出すサンジ。

ジェレミアはそれに見向きもせず,その剣を後方になぎ払う。

“ガッチィ!”いう衝撃音と共に火バチが起きる。

 

「卑怯な!後ろをバックに!」」

 

「へッ!」

 

ジェレミアが凶器を出した瞬間に、ゾロがその背後を取っていたのだ。

「マリモ!」

 

「手を出すんじゃねーぞ!クソコック!!」

 

同じ剣士としての血が騒ぐ。

ゾロは1対1を望んだ。

 

「小癪なり!」

 

それに応じるジェレミア。

台詞とは裏腹にその顔には笑っている。

「グッ!?」

 

戦いが始まり、数度、剣を交えたゾロは驚きの声を上げた。

片手のジェレミアに対して、両刀で受けるゾロ。

しかし、その重さといったらどうだ。

思わず片膝をつきそうになる。

パワーではジェレミアが圧倒的に上だった。

しかし、ゾロは歴戦の勇士。即座に思考を切り替える。

“剛の剣”から“柔の剣”に。 力で対抗することを止め、

ジェレミアの剣を受け流しながら、懐に飛び込む。

 

交差する両雄。

その刹那、ゾロは自分しか持ち得ない技を使った。

すなわち、 口で咥えた3本目の刀でジェレミアの胴を切ったのだ。

 

「クッ硬てえ!!」

 

ゾロは呻いた。

ジェレミアの体はまるで鋼鉄のようだった。

アラバスタのあの殺し屋ダズを彷彿させる。

 

「フッ」

 

ゾロの感想をそのまま表現したように、ジェレミアは笑った。

まるでダメージを受けていない。

ならば、手は1つだけだ。

三刀を納刀し、居合の構えをとる。

ただならぬ殺気に身構えるジェレミア。

 

「獅子歌歌ッ!!」

 

稲妻がジェレミアの横をすり抜けていく。

ゾロの一刀流の奥義。

鉄すら両断するこの斬撃で、あの鉄のような殺し屋を倒したのだ。

これならば、と振り返るゾロ。

 

「…なるほど、よき剣士かな!しかーーーーーーし!!」

 

オーバーオールの切られた場所から機械の体が露出している。

「鉄より硬てえのかよ!!」

 

迫りくるジェレミア。

即座に迎撃体勢を整えるゾロ。

その間に、白い影が舞い降りた。

 

「…そこまでだ」

 

両者の間に飛び込んだのはC.C.だった。

交差させた両手には いつの間にか銃が握られ、二人に向けられていた。

「C.C.!こやつらは何者だ!?殿下はどこにおられるのか!!」

 

金きり声を上げるジェレミアにC.C.はいつもの口調で答える。

 

「その殿下からの伝言だ。命の恩人である“麦わらの一味”を 丁重に保護せよ、とな」

 

「命の恩人」という言葉を聞き、うろたえるジェレミア。

その後ろで声を上げたのはナミだった。

 

「ちょっと!話が見えないんですけど!

 さっきから“殿下、殿下”って一体何のこと?!」

 

「…ルルーシュのことよ」

 

ナミの質問に答えたのはロビンだった。

 

 

 

 

「彼の本名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。…ブリタニアの皇子よ」

 

 

 

 

 

 

一同の叫び声が、オレンジ畑にこだました。

 

 

 

 

 

 


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