ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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地味な男と扇の本性

同じ暗い海の夜の下、扇要――”大海賊艦隊”黒の騎士団の現団長が

本船・斑鳩の甲板の上に立ち、ある人物を待っていた。

(…ッチ、クソ眠いな…よりによってこんな時間に帰ってきやがって)

あくびをかみ殺し、目を擦る。その目は少しだけ充血していた。

扇がいる斑鳩に一隻のボートが近づいてくる。それには一人の男が乗っていた。

男は現在“黒の騎士団”において五番隊・隊長の地位を預かっていた。

男は元“日ノ本解放戦線”の幹部であり、「四聖剣」の異名を持つ剣豪であり、

各エリアのレジスタンスから情報収集するという任務をゼロから受けて いたが、

その任務を途中で中止し、急遽、斑鳩に戻ってきたのだった。

甲板に男が上がる。扇は手を広げ、いつもの作り笑いをする。

「お疲れ様!任務ご苦労だったな、とべ」

 

「…卜部{うらべ}だ(ドーン)」

 

"四聖剣"卜部巧雪。

"黒の騎士団"五番隊・隊長であった。

 

(…クソがッ!難しいんだよその漢字!振り仮名ふっとけやッ!)

 

内心で毒吐きながらも、ハハハ、と笑って誤魔化す。

この男はいつもそうして生きてきた。

それを黙って見つめる卜部。

卜部が斑鳩に戻ることを決めたのは、部下からの密告だった。

扇たち幹部が突然、ゼロをブルタニアに売った、というのだ。

その理由はゼロがギアスという超能力で敵や仲間を 操っていた、というものだった。

 

ゼロ引渡しの報酬は日ノ本のエリアからの解放。

そして、ゼロ更迭に異議を唱える団員達を新たに団長となった

扇が、次々と牢に捕らえ、今や“黒の騎士団”は扇の独裁体制 にあるという。

 

“藤堂さんたちの様子がおかしい”

 

そう報告した部下とは 連絡がつかなくなった。

もはや、事態を自分の目で判断するしかない。

そう決意し、卜部は斑鳩に帰還したのだった。

「扇、率直に聞く。なぜ、ゼロをブリタニアに売った!?」

卜部の質問を予想していたように、キリッ、とした顔で扇は答える。

 

「ゼロはブリタニアの皇子、ルルーシュ!

 ギアスという力を使い、人を操る…ペテン師だ!!」

 

「…。」

 

返答を聞いて黙る卜部。扇はそれを見て、なぜか誇らしげな顔をしている。

しばらく沈黙した後、卜部は口を開いた。

「その情報…誰から聞いた?」

「シュナイゼル宰相だ」

扇は、ニヤリ、と笑い、懐からカセットテープを取り出す。

スイッチを押すとテープは、ジジ、と音をたて回り出し、その記憶を呼び覚ます。

「ルルーシュ!君はブリタニアの皇子でみんなにギアスをかけたのか?」

「そうだ!俺は皇子でみんなにギアスをかけたのさ!」

上記は、ゼロが王子でギアスをつかった、という証拠のテープの要約だった。

謎の二人の会話。

一人が質問し、もう一人が回答する。

もちろん、回答した人間がゼロ、ルルーシュ本人であるという証拠はどこにもない。

 

「これを誰に貰った?」

 

「シュナイゼルさんだ!他にも証拠はある」

 

懐から取り出した複数の書類を卜部の足元に投げる。

そこには、日ノ本解放戦線の草壁中佐、片瀬大将。ブリタニアの学生、

エリア11総督のクロヴィスの写真が載せられていた。

扇が言うには彼らは“ギアスによって操られていた”らしい。

もちろん、操られていた証拠など何もない。

 

「これを誰に貰った?」

 

「シュナイゼル様だ。わざわざ時間指定便で送ってくださった。料金高いのに」

 

にこやかに笑う扇を見て、卜部は血管が切れそうになるのを堪えた。

「つまり、エリアの半分を陥落させた敵の宰相・シュナイゼルの

 言い分をそのまま受け入れて、ゼロを、こちらのリーダーを売った…と?」

 

卜部の質問を、フッと鼻で笑い、指を鳴らす。

斑鳩の内部に繋がる入り口から 一人の女が、オドオド、と歩いてくる。

その肩を抱き、扇は答える。

 

「確かに、今までのものは証拠としては弱い。

 しかし、ギアスが俺たちの“仲間” にかけられていたならどうだ?

 そう、この千草こそ、ギアスにかけられていた 被害者であり、

 ギアスの存在を立証する生きた証人だあーーーーーー!」

 

「そいつは…ブリタニア人で、“ブラック・リベリオン”時に

 お前を撃った 海軍のスパイじゃねーかーーーーッッ!!」

 

寡黙な男の血管がついにぶち切れた。

 

「“仲間”じゃない!そいつは断じて“仲間”じゃねーッ!!」

 

その女・・千草は、扇の地下工作員として働いていた。

しかし、彼女の正体は海軍少佐・ヴィレッタ・ヌゥ。

海軍のスパイだった。

 

“ブラック・リベリオン”の時、扇はヴィレッタに撃たれ、無様に泡を吹いて 倒れた。

そのため指揮系統は崩壊し、ブリタニア軍に態勢を整える時間を与えた。

それが“ブラック・リベリオン”における敗戦の大きな理由の1つとなった。

「ゼロは卑劣にも、千草にギアスをかけ、海軍の逆スパイとして利用したんだ!」

逆切れ気味に扇はゼロの非道ぶりを糾弾する。

(…え、何が悪いの?それって結構名案じゃね?)

 

確かに一人の人間としてみれば、極悪非道なのは間違いない。

しかし、今、行われているのは戦争だ。

国際法という最低限のルールを表面上、守りながら行う殺し合いゲーム。

自身も人には言えない汚いことをした…生き延びるために。

奇麗事だけでやっていけない現実がある。

例え、ゼロが自分たちを “駒”として見ていたとしても、それはどうでもいいことだ。

自分たちもゼロを有能な“道具”として期待しているから…。

組織には必ずそういう側面が付き纏う。

「ゼロは悪党だ!奴の行ったこと、築きあげたもの全ては“悪”だ」

(…ッ!)

 

扇要…いつも後方の安全な場所にいたこの男はその現実を知らない。

 

 文句があるならてめーが出てけ!、

 

 

と言いたいのを堪える卜部。

論争も終盤に差し掛かっていた。

 

 

 

 

 

「はっきり言ってやる! 俺は…俺たちは“ギアス”などにはかかっていない!!」

 

その宣言を、ニヤニヤ、と笑いながら扇は聞く。

「なぜそう言い切れる。“証拠”はあるのかなぁ~?」

してやったり、勝った!と、扇はそんな顔をしている。ああ、殴りたい…。

その衝動、その怒りを全て言葉に乗せて卜部は言い放つ。

「簡単なことだ。もし、俺たちが“ギアス”にかかっていたのなら

 ゼロを裏切ることは絶対にできない!

 この追放劇の成功こそ、ゼロが俺たちに“ギアス”を

 かけていなかった…証明だーーーーーーーーーーーーー!」

 

卜部の咆哮に、扇は後ずさりする。

あまりにもシンプルな答えだった。

「~~~~~~ッッ!!」

余裕だった形相が一変する。

ほんのりと汗をかき、泡を飛ばして反論する。

 

「ゼ、ゼロはそういう“ギアス”をかけ忘れたんだ!」

「便利なものだな“ギアス”とやらは…。

 ゼロは、あの男は一種の天才だった。そんなヘマはしない。

 扇…お前のような無能とは違ってな!」

 

鼻で笑い、即答する卜部。

ついに扇に対する罵倒を解禁する。

 

「百歩譲ってゼロがブリタニアの皇子で、俺達に“ギアス”をかけ操っていた としても、

 まずはその身柄を拘束して、徹底的に取り調べを行うのが

 当然の処置だ!それを即、敵に引渡して交渉するなんて…このバカ!

 クズ!卑怯者!強姦魔!キモパーマ!モジャ公!一人だけ変なコート!」

 

正論の後、ありったけの悪口を言う卜部。

扇が“黒の騎士団”の制服を一人だけ着ていなかったことにやはり不満があったようだ。

「“皇子”だろうが、“ギアス”だろうが、どうでもいい!

  問題はゼロが俺達やエリアの民を裏切っていたかどうかだ!

  否…絶対にない!ゼロは本気でブリタニアを倒そうとしていた!

  エリアを解放しようと命を懸けて戦っていた。

  それは、側で一緒に戦った俺が知っているッ!!

  扇…なぜだ?お前も言ったはずだ“ゼロのブリタニアに対する怒りは 本物だ“と、

  ”ゼロは全エリアの希望“だと」

 

全てを吐き出し、返答を待つ卜部。

それを耳をかきながら聞いていた扇。もはや表情を取り繕うことはしない。

めんどくさそうに、忌々しそうに、その問いにこう答えた。

 

「・・・あれはノリだよ。ノ・リ。その場の空気を読んだだけだよ…このバーカ!

   合コンとか行ったことないの?これだからモテない奴は」

 

「…ッ!!」

 

信じられない回答に絶句する。

俺達の命懸けの戦いを“合コン”のノリで!?

 

「あーあ、めんどくせーからはっきり言ってやるよ!

 俺はゼロが、ルルーシュが大嫌いだったんだよ!

 いつも高みから命令しやがって、何が“もっと仕事をしろ”だ?

 俺だってしっかりやっているよ!例えば…そう、色々だ!

 それに、あいつは俺達の…俺と千草の仲を引き裂こうとしやがった。

 何が“国際法違反の婦女暴行罪”だ!?何が“ストックホルム症候群”だ!?

 まるで俺が“強姦魔”で、千草が“病気”みたいじゃないか!?

 許さねー!絶対に許さねーーッ!

 だから、売ってやったんだよ!ゼロを…シュナイゼルに!」

 

「この追放劇はお前が…お前が仕組んだのか扇!!」

 

「そうだ!俺がゼロを売った。

 偶然あいつの正体に気付いた俺は シュナイゼルにコンタクトをとった。

 ククク、あとは簡単だったぜ~お前にも見せたかったよ。

 あいつが連行される様を!クハハハ、アーハッハハハ!」

 

扇の高笑いが夜の闇に響き渡る。その笑いを聞きながら卜部は思い出していた。

今までの戦いを、死んでいった仲間たちを、日ノ本の、子供たちの顔を。

「ビぎゃーッ☆○#б%ж★χ◆ムキーッ★☆○#б%ーーーーッ!!」

 

ゼロの悪口を連呼する扇。興奮し過ぎてもはや何を言っているのかわからない。

 

 

(…許せないッ!この扇(クズ)だけはッ!!)

 

 

良業物・月下

その愛刀に手をかける。

このゲスを殺す!それに何の躊躇もない。

しかし、一方である「疑念」が卜部の思考を捕らえていた。

――それは、なぜ誰も反対しないのか、というものだった。

 

扇の論理は全て穴だらけだった。

こんなものでは子供ですら説得できない。

幹部たちは“将軍”藤堂をはじめとする歴戦の勇士ばかり。

とても扇などに 遅れをとるはずがない。

では…なぜ?

 

「ハアハア…すでに“種”は蒔かれた。とべ!お前はゼロが敵国の

 皇子だと知った時に、“ギアス”の話を聞いたときに…一瞬でも

 ゼロを疑ったはずだ。お前の中にはすでに“疑心”の芽が生まれてるんだよ!

 あとは…育てるだけだッ!!“モジャモジャノーム”」

モジャモジャパーマに手をかける扇。

昔の不良が自慢のリーゼントを決めるような体勢を取った。

そこから円状に“黒い霧”のようなものが発生し、卜部の体を覆う

 

「うう…。」

 

卜部の頭の中を“黒い霧”が渦巻く。

 

霧は話しかけてくる

 

 

“ゼロは裏切り者だ”と。

 

霧がゼロの姿を映し出す。そのゼロは仲間に“ギアス”をかけ、駒として 利用していた。

エリアの民を裏切ろうと企てていた。

こうして、見ると扇の言うことは正しいのかもしれない…。

そんな気分になったきた…。

 

「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーー!!」

 

霧を振り払うように咆哮し、月下を左腕に突き刺した。

痛みで思考がはっきりする。黒い霧も――晴れた!

クッ、と呻く扇。

しかし、すぐ持ち直し、パチパチ、と拍手をする。

「痛みで能力から逃れたか…。さすが!さすがは“隊長”」

 

拍手をし、笑う扇を卜部は睨む。

 

「扇…キサマ、いつ“悪魔の実”を…まさか、ナオトの!?」

 

“ナオト”その名前を聞き、扇は、ニヤリ、と笑った。

 

ナオト・シュタットフェルト。

 

元レジスタンス「ナオトグループ」の リーダーであり、

"大海賊艦隊"黒の騎士団の副団長だった男だ。

ある作戦から帰ってきたナオトは2つの“悪魔の実”を持ち帰った。

1つは妹のカレンが食べた。

 

ゾオン系幻獣種モデル“紅蓮”

 

それを食べたカレンは “輻射波動人間”となり、騎士団のエースとして月夜の海を駆けた。

そしてもう一方の実は…。

「消失した。ナオトの死のどさくさに紛れてな…。

 何者かが情報を流したため、作戦がブリタニアに知られていた。

 仲間を逃がすために 囮となったナオトはそのまま…。扇!まさかキサマがッ!?」

 

「ナオトが死んだのは、はずみだ。この実は俺を選んだんだよ~とべ!

 俺は“黒の騎士団”で“最強”になれたんだ~~~~ッ!!

“悪魔の実”の中でもまた異質…俺の能力は“詐欺”だッ!」

扇の頭から“黒い霧”が立ち上る。

右手を上げ、パチン、と指を鳴らす扇。

その合図に答えるように、入り口から複数の隊員たちが姿を現す。

隊員は…五番隊の隊員だった。

 

「卜部隊長は“ギアス”に操られている。解放してやれ」

瞳を薄暗く曇らせた隊員たちが前に出る。

「月下」を片手に持ち卜部は吼えた――

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の海に浮かぶ羊頭の海賊船。

その姿を月の光が優しく包む中、船上には、

この船のクルーである麦わらの一味全員が集まっていた。

それと対峙するのは、このブリタニア海で魔王と呼ばれた海賊。

”魔王”ゼロこと,ルルーシュ・ランペルージだった。

ルルーシュは、先ほどのナミの問い――”黒の騎士団”零番隊・隊長"紅月”カレンのゼロ襲撃

の理由を語り出した。

その成り行きを記憶を取り戻したゼロの相方、”魔女”C.C.が静かに聴いていた。

その姿こそ、変わらないが、あの子供のような少女の雰囲気は微塵もない。

いや、今ではむしろその逆。何十年も修羅場を潜り抜けてきたような落ち着きと威厳を持ち、

その思慮は図れない。

あれほど、C.C.に慣れ慣れしく接していたサンジがその雰囲気のギャップに呑まれ、

持ってきた紅茶を渡せずにただ呆然と成り行きを見守っていた。

 

 

「黒の騎士団の幹部は日ノ本人が多くを占める。

 日ノ本の解放が条件ならば扇に扇動され、

 俺をブリタニアに売ることに同意しても不思議ではない。」

 

黒の騎士団のクーデター。

「ゼロ追放劇」の要約を説明するルルーシュに、 グラサンをかけたナミが質問する。

その容貌はまるで“姉御”だった。

「他に…私達についた“嘘”は何?」

 

「エリア11の…東京ゲットーの隠れ家について本当だ。

 お前達を匿うという契約もな…ただし、それを行うのは

“黒の騎士団”ではなく、俺の個人的な部下だ。」

「――信用できない!」

 

その返答を一刀両断するナミ。

そして息を切らすことなく次の言葉を放った。

 

「あなたは私達に“嘘”をついた!そして、まだ何かを隠している。

 私にはそんな気がする…だって、あなたはあの“ゼロ”だもの!」

「…。」

 

チョッパーから治療を施されているロビンがその成り行きを見ている。

その瞳には武器を構えるナミが映る。

「船を…降りて貰うわ!今すぐに」

 

 

もはや交渉の余地なし、

 

 

とそんなメッセージを全身から発するナミを尻目に ルルーシュはルフィに声をかける。

「…ルフィ。俺はお前達に“嘘”をついた。

お前の“仲間”になるという契約は…破棄させてもらう」

 

 

 

 

 

 

「はあ、ハア」

 

激しく息を切らせながら、卜部は片膝をつく。

その体には複数の刀傷が付けられ、 至る所から血が流れ出ている。

卜部の周りには複数の隊員達が倒れていた。

誰一人、身動きする者はいない。息は…すでになかった。

その光景を見て卜部は思う。

 

扇の能力・・・人の心の隙を突いて操る悪魔の実 の力は大したものではない。

知ってさえいれば・・・。“敵”と認識していれば、

戦場では何の役にも立たない、扇に相応しいカス能力だ。

 

――だが、知らなければ…。“仲間”だと思っていれば、

生活している中で、ほんの少しの隙を何度も狙われたのならば…。

操られてしまった人間を…誰が、誰が責められるのか!

操られた戦友達、彼らを救えなかった自分を卜部は激しく責めた。

 

「五番隊の精鋭を“片手”で倒すとは…。

 さすが“四聖剣”ここで殺すにはおしいな。

 とべ…いや卜部!今からでも遅くない、俺の“仲間”になれ!」

隊員と卜部の死闘を鼻歌を歌いながら観察していた扇は“勝者”である 卜部の勧誘を始めた。

 

「“ゼロ”の時代はもう終わりだ!日ノ本の王には俺がなる!

  その後のプランはすでに出来ている。

  ――まずは敵対していたブリタニア帝国と和解し、軍事同盟を結ぶ!

  この件に関しては、すでにシュナイゼル宰相は承認ずみだ。

  世界政府の中でも屈指の大国であるブリタニアとの同盟だッ!!

  お前もその意味がわかるだろ!?

  軍事同盟の見返りとして、日ノ本はブリタニアのエリア政策に賛同する。

  “黒の騎士団”は各植民エリアに“駐屯軍”として配置され、治安維持を行う。

  安全保障も雇用も完璧!日ノ本の敵もいない!まさにパーフェクトだあ~!

  これが俺の日ノ本…いや、“扇ジャパン”だ!

  さあ、卜部!俺と共に“扇ジャパン”を――」

 

 

 

 

            扇ジャパン(笑)

 

 

 

まさに、あからさまに、明確に、必要以上に卜部は“鼻で笑った”

それはどの言葉を選ぶより卜部の意思を雄弁に語っていた。

卜部は笑い出したい気分だった。

こんな、こんなピエロがいるとは!

「駐屯軍」とは実にシュナイゼルらしい発想だった。

治安維持とは 名ばかりの、それは間違いなく、エリアに対する「弾圧軍」に他ならない。

自分を襲ってくる犬と遠くから見ているその主人。

人は間違いなく、まず犬を憎み、倒そうとするはずだ…。

「駐屯軍」とはまさに、ブリタニアの犬であり、その憎しみを 肩代わりする存在となる。

その生贄は日ノ本、“黒の騎士団”。

“馬鹿”というのは適度だからこそ笑えるものだ。

扇要…こいつはどこまで無能なのだろう。こんな奴が副団長だったのだ。

いや、むしろまだ自分が生きていることの方が不思議だった。

ゼロは“こんなの”をカバーして戦っていたのだ…無茶しやがって。

 

卜部は自分の前方に倒れている団員に目をやる。

この男は、日ノ本解放戦線時代からの同士だった。

新宿事変の時、家族を虐殺され、その日泣きながら自爆テロを志願してきた。

左側に倒れている男を見る。

自分の娘を殺された男だ。3歳の娘と公園で遊んでいる時にブリタニア兵に

狙撃された。狙撃の理由は…新しい銃の試し撃ちだった。

 

一番奥で倒れている男。

他のエリアの出身者だ。ゼロと騎士団の理念に賛同し、団員になった。

全エリアが解放されるまで家族には会わない、そういって俺に写真を見せた。

――みんな、すまない。“弱い”隊長で…。救って…やれなくて…。

 

 

 扇ジャパン?冗談はやめろ!これ以上、これ以上――

 

 黒の騎士団(俺たち)を侮辱するなーーーーーーーーッッ!!

 

 

 

「力に屈して何が男!“四聖剣”とは虚名にあらず!!」

 

 

「…だとさ。藤堂さん」

 

「…旋回活殺自在陣」

 

「…承知!」

 

“将軍”藤堂、そして同じ“四聖剣”の名を持つ朝比奈達が卜部を囲むように旋回する。

 

「はあ、ハア」

 

愛刀「月下」を鞘に収める。

諦めた…のではない。

自分が最も得意とする抜刀術を仕掛けるためだ。

重心を低くして構える。

 

 

“将軍”藤堂と“四聖剣”の戦場に「敗北」はない。

――だが、それ以上に“黒の騎士団”の“隊長”に「絶望」は許されない。

フォーメーションが狭まる…。卜部の瞳に“反逆”の炎が灯る――

 

 

「…ゼロ!日ノ本を、民を、騎士団を拾ってやってくれッ!!」

 

 

 

刹那、卜部の視界は赤く染まった。

 

 

 

 

 


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