ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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”紅月”カレン 

赤い人影が降り立った瞬間、床が爆炎をあげた。

受身によって距離を取ったルルーシュは煙の中を見つめた。

そこから人影が浮かび上がる。

 

「こんな時間に訪問とは…些か無礼ではないか?

 零番隊隊長…カレン・シュタットフェルト!」

 

ルルーシュはいつも愛用しているモップを手に取り構える。

たとえ、それに意味がないことを知りながらも。

カレンは足を止め、船内を見渡す。

上空には麦わら帽子をした髑髏が揺らいでいる。

「…驚いたわ。“麦わらの一味”といるなんてね。

 一体何を企んでいるの?ゼロ…いえ、ルルーシュ!」

 

「…。」

 

返答はない。

ただ、構えをやや上段に移動させた。

それを“合図”と受け取ったカレンは小さく笑う。

 

「…ルルーシュ、あなたは私が捕まえる!でもその前に…」

 

足が再び動きだす。素早く、力強く、獲物を狩るかのように。

 

「クッ!!」

上段に構えたモップをカレンに向けて投げつけた。

槍のように、直線的に、 それはカレンの額を目がけて飛んでいく。

対するカレンの反応は単純なものだった。

 

――ただ”右手”を出すだけ。

しかし、モップは激突することなく消えた。

いや、消えたというよりも “蒸発”という表現が正しいだろう。

右手に触れた瞬間、沸騰し、消滅したのだ。

 

「うぐぉッ!!」

 

モップを消した右手がそのまま仮面を襲い、体が宙を浮いた。

仮面を掴み上げながら、カレンは先ほどの言葉を続ける。

 

「…その前に、この嘘で固めた仮面をぶち壊して真実(すがお)を

曝け出してあげるわ!ルルーシューーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあッ!?」

 

悲鳴を上げたのはカレンの方だった。

手が仮面から離れたために、そのまま 床に叩きつけられる形になったルルーシュは

頭を抑えながら立ち上がり 直後、驚愕した。

カレンの両肘から腕が生え、それが首を締め付けている。

「…悪魔の実の能力者かッ!!」

 

振り返るその視線の先にはロビンがいた。

「二輪咲き(ドスフルール)」

胸の前で交差させた腕をに少し力を入れるとカレンは苦しそうに息を漏らす。

ロビンは一連の流れを回想する。

突然の来訪者はゼロの知り合いではあるが 仲間ではないようだ。

物体を沸騰させて消滅させる力がある能力者であり、 攻撃する意思を持っている。

 

つまりは“敵”だ。

 (”ロギア”ではないようね…ならば!)」

 

―――敵は排除する。ゼロだけではなく、仲間たちのために。

カレンの体から複数の腕が生え、その体を固める。

「六輪咲きクラッチ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ!」

 

予想外の状況だった。

六本の腕によるサブミッションである「六輪咲きクラッチ」

屈強な大男でさら、簡単にその背骨を粉砕する。

だからこそ、今目の前で起こって いる状況は驚愕に値するものだった。

一見、どこにでもいる町娘と変わらぬ背丈 の赤髪の女は、ただ“筋力”のみで

クラッチに耐えている。

交差させた腕に更なる力を注ぐ…極めきれない。赤髪の女は血管を浮き立たせ

ながら右手を少しずつ上げていく。根競べが始まる。

ロビンは後悔していた。

一瞬で決めていれば、今のような状況に陥ることはなかった はずだ。

少女の姿は“擬態”であり、目の前の女は強敵だった。その認識さえあれば…。

 

根競べは終わった。

赤髪の女の右手がロビンの腕の一本を捕らえる。

赤い光りが放たれた瞬間、ロビンの腕は“沸騰”した。

 

 

ロビンは腕を押さえ、膝をついた。腕が“沸騰”した瞬間に技を解いた…

しかし、ダメージは「火傷」という形をもってはっきりとロビンの腕に 刻まれていた。

咳き込みながら、先に立ち上がったのはカレン。

首を押さえながら、無言で右手をロビンに向ける。

右手の周りには赤色の波動が渦巻いている。

 

「…弾けろ!」

 

赤い波動がロビンに向かって襲い掛かる。

 

 

 

 

 

――痛みに耐えるロビンはそれに気づかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い波動が獲物に襲い掛かるように一直線にロビンに向かう。

そしてまさに捕らえようとする寸前、爆発した。

ロビンの横を通り抜けた「斬撃」と衝突し、四方に飛び散り煙を吐く。

その爆発により、ロビンは後方に飛ばされた。

赤い波動は煙となり、主人をも捕食する。

煙の中でカレンは身構え、目を細めた。自分の攻撃が失敗に終わったのは

明らかであった。

 

“一体何があった?”

 

その答えは煙の中から現れた。

鋭い刀の切っ先がカレンの頬を掠める。自分の胴に向かってくる二の太刀を バク転をしてかわす。

その後を追って煙の中からその刀の「本体」が登場する。

「ゼイヤァッ!!」

 

口に刀を咥えた奇妙な剣士…ロロノア・ゾロ。

別名“海賊狩り”のゾロだ。

腰のナイフを抜き、逆手に持ったカレンはゾロの斬撃を受け止める。

一本のナイフと二本の刀の鍔迫り合い。どちらも引かない。

「てめー何者だッ!海兵か!?」

 

「邪魔を…するなーーーー!!」

 

力は拮抗している。凶器を境界線として二人は睨み合う―――

 

「きゃあ!!」

 

均衡を破ったのはゾロだった。

鍔迫り合いに集中し、無防備となったその腹に 強烈な蹴りを見舞う。

吹っ飛ばされたカレンは後ろに構えていた壁に 叩きつけられ、その衝撃でナイフを落とした。

後ろ手に壁を触り、逃げられない ことを悟るカレン。

対して、ゾロはこのチャンスを逃すはずはない。加速し、 距離を詰め、

三本の刀を一気に振り下ろす!

「三刀流…虎狩り!!」

 

三刀流「虎狩り」は目前の敵を吹き飛ばす。まるで虎に襲われたように宙を舞う

敵には三本の傷跡がはっきりを刻まれる。ゾロの得意とする技の1つだ。

だが、吹き飛ばされ、宙を舞う…はずの女は目前に敢然と立っていた。

 

「…ッ!?」

 

右手で三刀を防ぎながら。その女の右手から出た赤い波動は

まるで「盾」のように形状を変化させ、その使用者を守った。

 

「これが“輻射波動”この間合いに入った時に私の勝ちは決まっていた」

「何ッ!?」

 

カレンの“勝利宣言”に反感を覚えるゾロ。

その思いとは裏腹に「虎狩り」を 解き、後方に飛ぶ。

カレンの言葉の意味を感じていた…自分の口が、手のひらが。

「輻射波動」によって3本の刀は一瞬で高温と化した。

その熱はたとえ鞘で 守られている手のひらにも伝わってくる。

もしも、意地になり、技を解くのに

躊躇していたら、この程度の火傷ではすまなかった。

 

「逃がすものかッーーー!!」

 

右手をそのまま前方に出し、体ごと前に飛び出すカレン。

凶器と化した右手が ゾロの顔面に向かって牙を剥く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾロの顔に向けて伸びた右腕は止まり、直後、カレンは体を反転させる。

盾と化した「輻射波動」が何かを飲み込み、ボウッ、と小爆発を起こす。

右手を向けた先には長鼻の男がパチンコ台を構えていた。

「ゾローーー!!大丈夫かあーーーー!?」

 

“麦わら”の一味の狙撃手であるウソップが騒ぎに目を覚まし、救援に駆けつけたのだ。

「ウソップ!?バカ!早く逃げろッ!!」

 

赤髪の女の実力は十分思い知った。

だからこその反応だ。

とても、ウソップが出る幕ではない。だが、当の本人はそのことを 知らない。

 

「そこの君!降伏するなら今だ!俺には八千人の部下が…」

 

ウソップの話はまえふりのみで終わった。

女の右手の波動が形状変化 していく様を見たからだ。それにははっきりと攻撃の意思を感じる。

「火薬星!火炎星!鉛星!卵星!ウソップ輪ゴムッ!!」

 

ありったけの技を出す。

その全てが波動に飲まれ、小爆発を起こす。

 

「…しつこい!!」

 

「輻射波動」の光線がウソップを襲う。寸前でかわすウソップ

 

「しまったッ!!」

 

悲鳴を上げたのはカレン。

ウソップがよけたその先にはゼロが立っていた。

 

「…ッ!!」

 

爆発と共に煙が周囲を覆う、“肉が焼けた”ような焦げ臭い嫌な匂いを 風が運んでくる。

戦いを中断して、一同は煙の中心を見つめていた。

その場所には先ほど、“魔王ゼロ”ことルルーシュ・ランペルージが立っていた。

不意を付かれたために、体を硬直させていたルルーシュは、おそらく「輻射波動」

をまともに喰らってしまったに違いなかった。

この嫌な匂いこそ、一同の推理 を裏付ける有力な根拠であり、唯一の証拠であった。

 

煙が上がり、数秒間の推理劇の解答が示された。

煙の中心で倒れていたのは…緑髪の少女。

その背中は赤く染まり、まるで華が咲き開いたかのようだった。

そして、その横に呆然と彼女を見つめるゼロ…ルルーシュ・ランペルージの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い波動に身が包まれる瞬間、背中に衝撃を受け、床に向かって倒れた。

爆発音が鳴り、何かが倒れる音が聞こえた。

 

――誰かに助けられた。すぐそれに気づいた。そして、誰に助けられたのかも…

 

 

 

「…C.C.」

 

視線の先には、C.C.が倒れたいた。

その背中には赤く染まり、真紅の血が床を 濡らしている。

だれの目から見ても致命傷なのは明らかであった。

 

だが――笑っていた。

顔は酷く青ざめていた。しかし、瞳はしっかりと ルルーシュを見つめ、C.C.は・・・笑っていた。

 

「ご主人・さ・・ま…」

 

手をルルーシュに向けて伸ばす。

それは、あの時の光景とよく似ていた。

 

 

 日ノ本がエリア11なったあの日、俺は海で出た。

 そして…あっさり人買に捕まった。

 人買は俺がブリタニアの皇子であることを 知り、売り込もうと目論んでいたらしい。

 そしてブリタニアに連行される俺を助けてくれたのは

 緑髪の少女…C.C.だった。

 

「私と一緒にくるか?ブリタニアの皇子よ」

 そういって手を差し伸べるC.C.。

 優しい…笑顔だった。

 そして俺は「革命軍」のもとで力をつけ、再び海に出た。

 今の俺があるのは全てC.C.のおかげだ。

 時代が変わろうとも、記憶を失おうとも…C.C.お前は俺を――

 

 

手を握ろうとするルルーシュ。

しかし、C.C.の腕はその直前で崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「C.C.なんで…なんであなたがここに!?」

そう言って頭を抑えるカレン。

酷い頭痛がする。頭が割れそうだった。

瞳を閉じる。真っ暗な闇の世界。そこには“黒い霧”がたちこめていた。

 

(ハァ、ハァ)

 

その“黒い霧”の先に明かりが見えた。

小さな、本当に小さな光り。

手を伸ばす。

小さな光りに、暖かい光に。

それが、自分が本当に欲しかったもののように感じたから。

だが、黒い霧が叫ぶ。

 

 

 

  “ルルーシュを殺せ”と。

 

 

 

そして、その光りを押し潰した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと!何の騒ぎ!?海軍の襲撃!?」

 

「何があった…ってC.C.ちゃん!?」

 

「ふわぁ~、うるせーぞお前ら」

 

「な・何が起きてんだ?」

 

騒ぎを聞いて、他のクルーがデッキに集まる。

“麦わらの一味”全員集合だ。

 

「…ッ!」

 

時間切れだった。

さすがのカレンでも“麦わらの一味”全員を 相手にできるとは考えていない。

奇襲による“ゼロ捕獲作戦” は一味の全員集合によって「失敗」という結果に終わった。

その結果を悟り、船端に飛び乗るカレン。

「ルルーシュ…これだけは覚えておきなさい。

 何を企もうとも、この海のどこに逃げようとも、 ルルーシュ!あなたは、私が捕まえるッ!!」

 

そう言い残し、海に身を投げる。

直後、爆炎が上がり一隻のボート が火を吐きながら波を切り裂き、メリー号から離れていく。

 

 

「かっけー!“エース”の船みたいだな!あいつの」

 

離れていくボートを眺め、ルフェがうれしそうに声を上げる。

「ダメだ…死んでるッ!」

 

「C.C.ちゃん…せっかく出会えたのにッ!うう」

 

C.C.を仰向けにして、治療を試みようとしたチョッパーを呻くように

呟いた。その傍らではサンジが声を上げて泣いている。

 

「心臓も止まってる。顔色も…!?」

 

死亡確認のため、顔を眺めたチョッパーは驚きのあまり言葉を止めた。

死んだはずの…死んだはずのC.C.がじっとこちらを見ているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どけ…狸よ」

 

「ぎゃーーーーー!死人が喋ったッ?!」

 

チョッパーは驚きのあまり尻餅をつく。

“ガタガタ”と震えるチョッパーを尻目にC.C.はゆっくりと立ち上がる。

 

「うむむ、腹が減った。回復のために体力を使い切ってしまったぞ。

 そこのコック!サンジと言ったな。“ピザ”を…最高の“ピザ”を 直ちにもってこい!」

 

「え?!あ、え、えーと…C.C.ちゃん?」

 

復活するや理不尽な要求を突きつけるC.C.。

あまりのことにサンジは 返答すら満足にできない。性格…変わってないか、

とそんな顔をしながら。

 

「服も酷い状態だ…女!ナミといったな。お前の服を貸せ」

 

新たなる要求を突きつける。その被害者はナミ。

「いいけど…レンタル料、高いわよ」

 

気圧されながらも、何とか返答するナミ。

C.C.の背中にはすでに傷跡がなかった。

 

「ケチな女だな…ここ百年いなかったぞ、私にそんな口を聞いた輩は」

「ムキー!何この女!性格変わりすぎ!!」

肩を竦めるC.C.。

その態度に激昂するナミ。

ついさっきまでは生まれたての子鹿のような目をして、オドオド、していたのに。

その様子を少し離れて、見ていたのはルルーシュだった。

 

(…記憶が戻ったのかC.C.)

 

 

「…何者だあの赤髪の女は?相当な手錬だぞ」

 

少し火傷を負った手を風にあてながらゾロはルルーシュに尋ねた。

服装や言動から考察すれば、明らかに海軍の者ではない。

「…カレン・シュタットフェルト。 “黒の騎士団”零番隊・隊長だ」

 

ゾロの質問に答える。

その視線は暗い海の方を眺めていた。

 

「ちょっと待ってッ!今何て言ったの!?」

 

C.C.と口論していたナミがルルーシュの返答に驚きの声を上げた。

「零番隊ってあんたの親衛隊のことよね?!

 その“隊長”が…“黒の騎士団”がなんで私たちを 襲うのよ!?

 説明しなさいよッ!ゼローーーーー!!」

 

 

 

 

ナミの悲鳴が暗い夜の空いっぱいに響き渡った。

 


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