ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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最終決戦! ルフィ vs 扇

(クソが…!こんなはずではなかったのに…ッ!!)

 

それが現在における扇要の偽らざる本心だった。

 

クーデターは完全に成功した。

その後、ゼロに逃げられるイレギュラーは生じたが、

ブリタニアが捕獲に成功したことで計画は再び元通りとなった。

 

ゼロを売った見返りに日ノ本の王となる―――

 

神聖ブリタニア帝国・宰相 シュナイゼルにその地位を約束させ、

10万を超える連合軍の中で、ゼロの処刑を笑いながら見ていた。

 

(それが…何だこれは…!?)

 

突如現れた“麦わらの一味”にその計画は全てぶち壊された。

 

ゼロは麦わらの一味と共に再び逃亡。

黒の騎士団は再びブリタニアに牙を向いた。

 

一転、日ノ本の王になるどころか、もはや自分の命すら危うい状況に追い詰められた。

ブリタニアと海軍の連合艦隊を引き連れ、

奴らを追い込んだと思ったら、海流のトラップに嵌り、艦隊は全滅。

もはや、自ら出陣せざる得ない状況まで追い込まれ、ここに座っている。

 

「ぐぎぎぃいいいい~~~~~ッ!!」

 

扇は破裂寸前まで血管を浮き立たせ、白目をむき出しにしながら歯軋りした。

歯が摩擦で削れることなどもはや、眼中にない。

眼下の状況が彼の怒りの火にさらなる油を加えていた。

 

麦わらの一味の周りには、4人の男女が倒れていた。

 

“将軍”藤堂と“剣豪”四聖剣。

 

旧日ノ本・最高戦力。

悪魔の実の力で洗脳し、

麦わらとゼロを討伐するために連れてきた扇子飼いの部下達であった。

 

「負けやがったのか!!?使えねえ生ゴミどもがぁああ~~~~~ッ!!」

 

洗脳したといえど、麦わらの一味との激闘により倒れた部下に対して、

扇は感情のままに彼らを罵倒した。

 

「そのまま死んでろ、クソどもが!!ん…ゼロがいねえ!?」

 

罵詈雑言を浴びせる中で扇はようやく自体に気づく。

ゼロは…いや、ルルーシュは、

ウソップにその仮面と衣装を貸して自らシュナイゼルを討ちに行った。

ゼロのマントを羽織るウソップを目の当たりにして、

扇は、ようやくその事実に気づいた。

 

「なるほど…ゼロの野郎、海賊に自分の衣装を貸して、自分は一人で船の中に隠れていやがるのか…ククク、やるじゃねえか…!」

 

だが、その推理は微妙に間違っていた。

危険を覚悟して自らシュナイゼルを討ちに行く…そう言った思考を

決して持つことができないところが所詮、扇さんだった。

 

「ククク、ゼロ~~どぶ鼠みたいに好きな場所に隠れてな!!

お前も、麦わらも、ここにいる全員、今からブチ殺してやるからよ~~~ッ!!」

 

ここにいないゼロを脳裏で想像し、扇は歪んだ笑みを浮かべた。

 

古代兵器“ナイトメア”

 

“堕ちた天才科学者”ラクシャータが完成させた

この悪魔の力さえあれば、それを可能にするのは容易い。

 

 

まずは眼下の麦わらの一味から片付けるか―――

 

 

そう呟きながら、レバーを握る扇の視界に奇妙な光景が入ってきた。

 

「この野郎、離せ~~~!!」

 

ナイトメアに握られた拳から、手足が飛び出てバタバタともがいている。

その手には麦わら帽子が握られていた。

それは、さきほど握りつぶした男のトレードマーク。

1億のルーキー“麦わら”のルフィの物だった。

 

「麦わら!?生きてやがるのかぁ~~~ッ!!」

 

扇は絶句するも、直後、苦虫を噛み潰したような顔をして納得する。

 

“麦わら”のルフィの能力はゴム。

 

その力により、手足を自在に伸ばし、銃弾すら跳ね返す。

故にゴム人間を握り潰したところで圧死することはない。

ただ、その動きを止める程度でしかない。

それを証明するかのように、ルフィの手足は元気にバタバタと動く。

 

「クソゴム野郎が~~~ッ!!どこまでも邪魔しやがって!!」

 

機先を制されたような気がして、扇のイラつきはさらに高まっていく。

扇は思い出す。

あの処刑場において、巨大なオレンジの中から出てきたルフィの姿を。

 

 

 

そうだ…こいつだ。

 

 

 

 “うるせーぞ!そこのモジャモジャ!お前は黙ってろ―――ッ!!”

 

 

 

全部…コイツのせいだ。

 

コイツさえいなければ、全て上手く行ったんじゃないのか?

ゼロも処刑され、黒の騎士団も裏切らず、俺は日ノ本の王になれた。

全部、コイツがいなければ…

 

 

 

 

 

そうだ――――――

 

 

「全部てめーのせいだぁあ~~“麦わら”のルフィ~~~~~~~~ッ!!」

 

 

 

 

 

 

扇要の精神構造の基本において、「自分は悪くない…!」というものがある。

つまりそれは問題が生じた場合、自分以外の誰かの責任ということになる。

今回の件においてはそれはルフィのせい…ということで帰結した。

 

なにはともあれ、ターゲットは決まった。

そして、最後の戦いが動き出す。

 

 

「ルフィ―――!?」

 

ルフィを掴んだまま

神根島に向かって飛んでいくナイトメアを見て、ウソップが声を上げる。

ナイトメアを神根島に近づくにつれ、その速度を増していく。

 

「オラよっとッ!」

 

扇は浜辺に着地すると、大きく振りかぶって、ルフィを浜辺にある大岩に投げつけた。

 

「ふぎッ!!」

 

“バチン!”と派手に大岩にぶつけられたルフィは、鈍い声を上げるも、

即座に立ち上がり、ナイトメアに向かって構えをとる。

 

「クヒヒ、ナイトメアは、神根島から発せられる特殊な波動をエネルギー源としている。

あの船上では力を発揮することはできない。だが、ここでなら100%の力を出せる…」

 

「え、何だって?」

 

扇は得意げにナイトメアの構造を説明する。

だが、その目はルフィに対する殺意で歪み、その口はさながら肉獣のようだった。

 

「まあ、わかりやすく言えば、てめーはここで俺に惨たらしく殺されるってことだ。

ああ、心配するな。ゼロもお前の仲間も一緒に殺してやるから、キヒヒヒ」

 

「…やってみろ!」

 

まったく理解していないルフィに、扇はわかりやすく挑発の言葉を投げつける。

それを受け、ルフィの目に怒りの炎が宿る。

 

コイツはぶっ飛ばさなければならない敵―――

 

だだ、それだけはよくわかった。そしてその認識は正しい。

 

殺すか殺されるか―――

 

もはや、それ以外の選択はお互いに残されていない。

 

 

 

 

「死ねぇえええ!!!麦わら~~~~ッ!」

 

先手を取ったのは扇だった。

ナイトメアが手をルフィの方に向けると指先から刃物が出てきて、

それが指先ごとルフィに向けて発射された。

 

「わッ!?」

 

慌てて後に飛びのいたルフィ。

さきほど居た場所に、ナイトメアの指先が突き刺さり、すぐにワイヤーで元の箇所の戻る。

 

それは“スラッシュハーケン”という武器だった。

 

「ほら、ほら、ほら、逃げろ!逃げろ!」

 

扇は笑いながら“スラッシュハーケン”を連投する。

 

「わ、わ、クソッ!」

 

ルフィは連続で遅い来る“スラッシュハーケン”を辛うじて避け続ける。

そして、“スラッシュハーケン”をギリギリで飛び上がってかわし、

空中で拳を固める。

 

「ゴムゴムの――――うわッ!?」

「フヒヒ、ビンゴ!」

 

ゴムゴムの“銃(ピストル)”を放とうとした瞬間、“赤い波動”がルフィに炸裂した。

 

「熱ッ!?アチチ―――」

 

一瞬身体が燃え上がったルフィは、砂浜を転げまわり、慌てて火を消す。

 

「キヒヒ、いいザマだな、麦わら~~~」

 

その様子を笑いながら見ていた扇は、スイッチを乱打する。

すると、ナイトメアの肩口の銃口から、あの赤い波動が連射される。

 

その赤い波動は“黒の騎士団”零番隊・隊長。

あの“紅月”カレンの悪魔の実の能力。

ゾオン系“幻獣種”モデル“紅蓮”である輻射波動を改良したものだった。

 

「フヒヒ、どうしたよ、麦わら~防戦一方か~!?」

 

“スラッシュハーケン”と輻射波動を連打しながら、扇は余裕の挑発を行う。

 

「調子に乗るなよ!このモジャモジャ!見てろ!」

 

その挑発にキレたルフィは、ナイトメアから距離とる。

 

「ゴムゴムの“銃(ピストル)”―――ッ!!」

 

そして、先ほど放つことができなかった己が必殺技を扇に放った。

 

「キヒヒ…」

 

だが、扇はその笑みをやめようとはしない。

嘲笑を続けながら、あるボタンを押した。

 

「なッ!?」

 

技の直撃後、声を上げたのはルフィの方だった。

決まれば海兵10名を一気に吹き飛ばすゴムゴムの“銃(ピストル)”

それが、ナイトメアに当たる直前に、ピンク色の光の壁に阻まれたのだ。

ピンク色の光りは球状にナイトメアを包んでいる。

 

「ゴムゴムの“銃乱打”(ガトリング)―――!!」

 

わけがわからずもルフィはさらなる攻撃を加える。

連続技である“ガトリング”により、その光りの壁を破壊しようと試みる。

 

「うおおおおおおおおおおおーーーーーーーッ!!」

「フヒヒヒ…」

 

雄たけびを上げ、全力で拳を打ち込むルフィを

扇はまるで哀れなピエロを見るような目で嘲笑し続ける。

 

「ハア、ハア…」

 

ガトリングの連撃により砂煙が上がる。

ルフィは肩で息をしながら、その結果を待つ。

あれほどの打撃を加えたなら、あの巨人は無事で済むはずがない。

これまで多くの難敵を打ち倒してきた拳の力に偽りはない…はずだった。

 

 

だが―――

 

「なッ…!!」

「フヒヒ、どうした麦わら~そんな驚いた顔をして~?何かあったのかな~?」

 

鉄の巨人はその場に悠然と立っており、光の壁は傷ひとつついていない。

扇の嘲笑は止むことを知らない。

 

 

 

 

「これぞ古代の力…最強の盾“絶対守護領域”だあ~~~ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ラクシャータ研究所。

 

「そう、それが古代兵器の能力“絶対守護領域”なのよ~。

神根島から発せられる特殊な波動を濃縮して光の盾とする。

まあ、軍艦の大砲程度では破れる代物じゃないわね。

出来るとすれば、四皇“白ひげ”の“グラグラの実”の破壊の力くらいかな。

要するに、普通の能力者じゃ傷一つつけられないってことなのよ~」

 

記者の質問にラクシャータは得意げにナイトメアの性能を話す。

 

 

パシフィスタとは比べ物にならない―――

 

 

そう豪語した根拠の一つにこの最強の盾である“絶対守護領域”があった。

神根島周辺に限定されるが、その硬度は強力無比。

ルフィの攻撃を完全に防いだ点を考慮するならば、

確かに防御面においては、パシフィスタに大きく差をつける。

 

「そして武器としては、指先から“スラッシュハーケン”と肩口から輻射波動を…」

 

ラクシャータが武器の説明に入ると、記者が怪訝な表情を浮かべる。

確かに、スラッシュハーケン”と輻射波動は使い勝手のいい優秀な武器に違いない。

だが、それでも大将黄猿の「ピカピカの実」の能力を再現したレーザーに比べたら

優位性が高いとは思えない。

いや、むしろ武器においては、パシフィスタの方が上ではないか…?

それらを“最強の矛”というのは言い過ぎではないか。

記者にはそのような疑念が生まれた。

それを察知したかのように、ラクシャータも複雑な表情を浮かべる。

 

「アンタが言いたいことは想像つくわ~。でも最後まで聞いてくれない?

私が今、説明しているのはあくまでもサブ・ウェポン」

 

その途中でラクシャータは煙管から煙を吐く。

その表情には、研究者としての複雑な感情が映し出されていた。

 

 

 

 

 

「“最強の矛”それはベガパンクの技術を応用した――――」

 

 

 

 

 

 

「どうしたよ麦わら~~お前は“海賊王”になるんだろ?もっと頑張れよ~」

「ハア、ハア」

 

扇の嘲笑に、ルフィはただ肩で息することしかできなかった。

“銃乱打”を含め、“鞭”“槍”もあらゆる技をあの光の盾で防がれてしまった。

 

打つ手なし―――

 

まさにその状況に追い込まれていた。

 

「フヒヒ…いい顔だな麦わら~もう十分に遊べたぜ~」

 

ルフィの劣勢に扇は満足そうな笑みを浮かべた。

あの麦わらが手も足も出ない。

予想以上のナイトメアの性能と麦わらの現状に扇の憂さは大分晴れてきた。

 

(もういい…そろそろ終わらすか)

 

麦わらをここに連れてきたのは、自らの手で痛ぶることもそうだが、

ナイトメアの運転を慣らすことが目的であった。

その目的は十分に達成した。

あとは、最終目的に移るだけ…扇の口は裂けるほど開いた。

 

「いい位置にいるな麦わら~。ちょうどお前と斑鳩が一直線にあるぜ」

「ん!?」

 

ルフィはその指摘で後を振り返る。

確かに自分の真後ろには、自分の仲間達が乗っている戦艦“斑鳩”の姿が見えた・

 

「…約束どおり、お前もゼロも仲良く一緒に殺してやるよ」

 

扇はそういって、ナイトメアを包む“絶対守護領域”を解いた。

雰囲気が変わったことを感じたルフィは、姿勢を低く構えた。

 

「天才科学者ラクシャータの手によって復活した古代兵器に

Dr.ペガバンクの技術が加わり、この悪魔は現在に誕生した――――ッ!!

 

 

 

死ね!ゼロ!!

 

消え去れ!麦わら!!!

 

 

 

喰らえ――――――ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            “ フレイア ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

う、う~ん、酷く頭が痛いぞ。

ずっと何か悪夢を見ていたような気分だ。う、吐きそう。

それになんだろう?

身体中が電撃を浴びたように痺れている。

よくわからないが、とりあえず挨拶しよう。

 

 

「おはようございます。“黒の騎士団”三番隊・隊長 千葉凪沙だ(ド~ン!)」

 

 

なんとか自分の名前くらいは思い出したようだ。

そうだ。

わたしは、“黒の騎士団”の隊長であり、“四聖剣”といわれた剣豪だった。

母国である日ノ本が侵略された後、日ノ本解放戦線として活動し、

ゼロが率いる“黒の騎士団”に合流して、ブリタニアと戦う日々。

うん、確かにそうだった。

そして問題は、その私が、床に這いつくばっているのだろう?ということだ。

海賊のような奴らが立っているが、コイツラは誰だろう?

敵なのか?それとも味方…思い出せない。

そもそも私はいつから記憶があやふやなのだ…?

 

そうだ、あの日からだ…!

 

 

 

「ただいま任務を完了しました。千葉凪沙、独身です!」

「う、うむ…」

 

任務完了の報告をすると藤堂さんは渋い顔になった。

 

(このアピールではダメなのかな?もう!藤堂さんは鈍感なのだから)

 

「暖かくなってきましたね。春か…もうすぐ結婚の季節ですね!」

「よし、今から剣の稽古に入る!少し出かけるぞ」

 

私が話しかけると藤堂さんは、顔に汗をかきながら剣の稽古に出かけて行った。

剣豪が剣の稽古に熱心なことは結構なことだが、毎回これでは話の一つもできない。

 

「フフフ、頑張ってるね~」

 

私が頭を抱えていると、その様子を見ていた朝比奈が苦笑しながら声をかけてきた。

 

「私が話しかけると藤堂さんは逃げてしまうのだ。何故だ、朝比奈!?」

「さあ、何故だろうね」

 

真剣に問いかける私に対して、朝比奈は苦笑し続けるだけだった。

 

 

あの“ブラック・リベリオン”の敗戦の後、バラバラになった黒の騎士団は

ゼロの下、再び以前の力を取り戻しつつあった。

いや、敗戦から立ち上がったことを考慮すれば以前以上の力だろう。

ブリタニアとの戦いを優位に進められることが多くなってきた。

 

エリアの独立。

 

それが夢物語ではないところまで私達は来ていた。

そんな時だった。

 

「…そろそろ、女の幸せを考えてもいいんじゃないの?」

 

“四聖剣”の仲間であり、二番隊・隊長である朝比奈省悟が私に向かってそう言った。

朝比奈は私の藤堂さんに対する思いに気づいていたのだ。

 

(朝比奈…お前も自分の幸せを…)

 

私はそう言おうとして、言葉を止めた。

朝比奈はある意味、ライバルである私にその言葉をかけてくれたのだ。

その決意の前に私の言葉はあまりにも無粋なものだった。

 

こうして私のアタックが開始された。

 

 

 

「ふう…」

 

私は浴槽から出てバスタオルを羽織る。

今日は少し忙しかった。

 

扇要…黒の騎士団・副団長が逃亡したのだ。

 

扇はなんとヴィレッタ・ヌゥという海軍少佐を監禁し、

自分の恋人に洗脳しようと目論んでいたのだ。

それがゼロにバレて、現在、斑鳩館内に逃亡中というわけだ。

なんという男だろう…!

前々から気持ちの悪い男だと思っていたが、そのような鬼畜外道の所業を行っていたとは。

事が事なので、捜索は幹部達のみで行った。

私も参加し、斑鳩の隅々まで捜索したが、奴は見つからなかった。

まるでゴキブリだ…!

ゼロは生け捕りにしろと言っていたが、私は状況によっては、斬殺を決意していた。

正直なところ、扇の存在はお荷物を通り過ぎて、黒の騎士団の実害となっていた。

禍根はここで断つべきかもしれない。

だが、奴は見つからず。それを実行することはできなかった。

 

私は鏡に映る自分の顔を見る。

捜索のために、表情は少し疲れたいた。

 

「どうして藤堂さんは、振り向いてくれないのだろう…」

 

疲れは心労からも来ていた。

私がもっと若ければ、思いはすぐに届いたのだろうか?

 

藤堂さんに初めて会った時のことを思い出す。

まだ女子学生だった時、ブリタニア兵に乱暴されそうなのを助けてくれたのが、

日ノ本軍・将軍であった藤堂鏡志朗だった。

そんな彼に惹かれ、自分も軍に参加し、藤堂の下で剣を学んだ。

敗戦につぐ敗戦の中、ブリタニアに勝利した唯一の戦「厳島の奇跡」

複雑な地形を利用した強襲により、

アレックス将軍を藤堂が討ち果たした時は本当にうれしかった。

 

「奇跡の藤堂」

 

そう呼ばれ、称えられる彼の姿は誇らしかった。

 

だが奇跡…その称号はいつしか彼の名から離れていった。

その称号はゼロの…奇跡を起こすあの仮面の男の代名詞となった。

黒の騎士団に加入し、ゼロの下で戦うことで、

ゼロのブリタニアに対する憎しみは本物であることは実感した。

その実力も認めた。

ブリタニアに勝利するにはゼロの力が必要だった。

頭では理解している…。

 

だが―――

 

時々、夢に見ることがある。

黒の騎士団の団長として「奇跡の藤堂」が日ノ本を解放する姿を。

 

 

「な…!?」

 

そんなことを考えていた時のことだ。

ベッドの下から何かが這い出てきたのを鏡越しで目撃した。

ゴ、ゴキブリ…!?

そう思ったが、それはモジャモジャした人間の髪の毛だった。

 

「キヒヒ…」

「ヒッ…!?」

 

そしてその本体が顔をだした。

 

扇要―――

 

なんということだ!

コイツは自分の部屋に身を隠していたのだ!

 

「へへへ、いい身体してるじゃねえか、千葉~~」

「こ、殺す…!」

 

扇のその言葉により、裸を覗かれていたことを知った私は激昂する。

 

斬る―――

 

生け捕りなど知ったことか!よくも乙女の裸を…斬り殺してやる。

 

私は剣を手に取ろうとして絶句する。

 

「お探しのものはコイツかな~?」

「き、キサマ…!」

 

私の愛刀は扇に奪われていた。

そうか、今まで隠れていたのは、シャワーの隙を狙って…

 

うろたえる私を見て、扇は笑う。

それは今までに見たこともないような、凄惨で不気味な笑顔だった。

 

「千葉~お前にはこれから働いてもらうぞ。俺の操り人形としてな~」

「なッ…!?」

 

 

 

 

           “モジャモジャ・ノーム”

 

 

 

 

 

そして、黒い霧が私を包みこんだ―――

 

 

 

 

…そうか、思い出した。

私は、扇の…あの野郎の悪魔の実の能力で――――

 

「ああ…!」

 

全てを思い出した直後、私の頭の中にあらゆる映像が流れ込んできた。

 

扇の手駒として、藤堂さんと他の四聖剣を罠に嵌めたこと。

扇のクーデーターの協力。

そして…血に染まり、雄たけびを上げる卜部の姿。

 

「ああ…私は…私は何てことを…!」

 

千葉は全てを思い出した。

ゼロの処刑。第二次“ブラック・リベリオン”。

そして、何故、自分がここにいるのかを

 

「私は何てことを…!仲間達になんてことを―――」

 

自分の不甲斐なさに涙が出てくる。

自分が未熟なせいで、扇の能力に屈してしまった。

そのために、ゼロは追放され、卜部を…卜部を殺してしまった。

なんと愚かなのだろう…。

許されるならば、今すぐにでも切腹したいくらいだ。

 

だが―――

 

「う、うう…」

 

自分の倒れる目の前に、朝比奈が、千波が、そして…藤堂さんがいる。

苦しそうに息をしている。

まだ、生きている…!

 

(あの人だけでも…助けなきゃ―――)

 

電撃でボロボロの身体に力を入れる。

這いながら千葉は、ほんの少しづつ前へ進む。

最愛の人に向かって少しづつ前へ進む。

 

 

 

「藤堂鏡志朗…私の愛する人」

 

 

 

千葉が思い人に向かって手を伸ばした瞬間、それは起こった。

 

 

「…え?」

 

視界が赤く染まり、その眩しさを逃れるために千葉は目を瞑った。

爆音が轟く。

熱風の中、少しづつ瞼を開く千葉は直後絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――そこには、ただ青い海だけが広がっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キヒヒヒ、キョヒヒヒ、ウヒョヒョヒョ~スゲエ、凄いよこれ~~~」

 

扇は舌を伸ばして、レバーを舐め回し、絶叫する。

 

 

“フレイア”

 

 

それは黄猿のレーザー砲に神根島の波動の力を加えた超兵器。

それは、普通のレーザー砲の十数倍の威力を誇る悪魔の兵器。

まさに、最強の矛であった。

 

フレイアの直撃により、

斑鳩は丸々半分を削り取られ、辛うじてその姿を海に浮かべている。

 

「チッ…!半分残っちまったか。なあ、麦わら~ゼロはまだ生きてるかな~?」

 

照準を調節しながら、扇は砂浜に膝をつくルフィに声をかける。

ナイトメアの頭の砲台から“フレイア”が発射された瞬間、

ルフィはゴムの力を利用して、大きく横に飛んだ。

その行動と“フレイア”の照準がわずかにズレていたこともあり、

ルフィはなんとかその直撃を免れた。

でも、ほんの少しだけ掠った草鞋の一部は完全に消失していた。

 

「しかし、本当に凄いなこれは…まさか、これほどは思わなかった…」

 

“フレイア”あまりの威力に扇も絶句する。そして、その直後、最悪の事実に気づく。

 

「…これさえあれば、もうシュナイゼルの後ろ盾なんざ必要ないんじゃねえか?」

 

扇は思う。

古代兵器“ナイトメア”この悪魔の兵器さえあれば、もはや何も恐れることはない。

ラウンズを殺し、シュナイゼルを消し去り、首都ペンドラゴンを落とせば、

日ノ本の王どころか、自分はブリタニア諸島の支配者になることができる。

 

「いや、もっとだ。もっと上を目指せるぜ…!」

 

欲望はさらなる成長を遂げる。

この古代兵器は神根島の周辺しか動かせない弱点がある。

しかし、あの“天才科学者”Drベガパンクをはじめとした科学者達を拉致して洗脳すれば

その弱点もいずれ克服することができるのではないか。

それだけじゃない。

ナイトメアを大量生産させ、洗脳した兵士を乗せれば、無敵の軍団が完成する。

そうなれば止められるものは誰もいない。

 

扇のこの話を絵空事と笑うことができるだろうか…?

 

もし、この話をあの“頂上戦争”を生き残った者が聞いたら…

白ひげ海賊団を駆逐するパシフィスタの群れを見た者ならば…

 

おそらく、誰一人としてそれを笑うことはできないはずだ。

村や町や国を焼く尽くす古代兵器の軍団。

それに踏み潰される幼き命達。

 

 

 

 

 

「そうだ~そうなれば、もはや誰も俺に逆らえる者はいねえ!!

この世界の全ては俺のものだ!!

フヒヒ、そうだ!邪魔するものは全部、ぶっ殺してやる!!

四皇も海軍大将も王下七武海も…邪魔するものは、

どいつもこいつも全員ブチ殺して大海賊時代の頂点にはこの俺が立つッ!!

麦わら~~~~“海賊王”には俺がなってやるぜ~~~~ッ!!!!」

 

 

 

 

 

扇は笑う。欲望は嗤う。浅ましく、凄惨に、邪悪に。

扇を知る者がその姿を見たならば、彼はそれを悪魔と見紛うだろう。

もはや、そこに扇要という人間は存在しなかった。

 

多くの人間は不思議に思うはずだ。

扇のような凡人が、何故ここまで増長することができたのか?と。

“英雄”ゼロを陥れ、ブリタニアの盟主の首すら密かに狙い、

そして、ついにこの世界にすら牙をむいた。

このような所業を、あのような凡人にできるのだろうか?と。

 

全ての始まりは、幼き日に、己が幸せのために、他人を陥れたことから始まった。

それが、親友を謀殺し、悪魔の実を手に入れた時から完全にその芽を開き、花となる。

我欲。

扇の心の中に生まれた寄生虫は、その身も心も喰らい尽くし、その牙を世界に向けた。

 

そこにいるのは扇要であった別の何か。

 

 

怪物――――

 

 

我欲の化け物の手に最悪の兵器が渡った。

突如訪れた世界の危機。

その前に、ルフィはただ、呆然と斑鳩を見つめていた。

 

「キュヒッヒ、どうした麦わら~怖くて声も出…」

「お、お前ら、生きてるかーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

ルフィは扇の挑発を無視し、駆け出す。

そして、浅瀬ギリギリのところで止り、力いっぱい叫んだ。

ルフィは、扇の戯言など何一つ聞こえていなかった。

あの赤い光に飲まれた中に、仲間がいたかもしれない…それだけで頭が一杯だった。

 

「お、俺達は無事だぞ!」

「ギャ~~何なのよ、あれは!?なんとかしなさいよ、ルフィ!!」

「こっちは無事だ!」

「そのモジャモジャ野郎を早く倒せ!」

 

 

ルフィの声に応えたのは、ウソップ、ナミ、サンジ、ゾロのいつものうるさい面々だった。

その声を聞き、ルフィはほっと胸を撫で下ろした。

 

 

 

しかし―――

 

 

 

「みんな…みんなが消えた」

「お、俺の部下があの赤い光に飲み込まれちまった!!」

「隊長が、隊長が私を庇ってあの光の中に…!」

「玉城がいない!?」

「南が…南の本体が…」

 

 

 

「千波…朝比奈…?い、嫌あああああ~~~~~~~~藤堂さーーーーーーーんッ!!」

 

 

 

 

 

あの赤い光に飲み込まれた仲間を呼ぶ黒の騎士団の幹部達の悲鳴が海原に響く。

それはまるで阿鼻叫喚のようであった。

 

その声を聞き、ルフィの身体が震え出した。

 

「なんだ、なんだ麦わら~~とうとう恐怖のあまり失禁して…」

 

その様子を嘲笑する扇に、ルフィはゆっくりと振り向いた。

 

 

 

 

 

「お前は…お前は“仲間”を何だと思ってるんだァ!!!」

 

 

 

 

 

ルフィに顔にあるもの…それは“怒り”だった。

敵を葬るために、仲間の犠牲を厭わない扇に、ただ純粋に怒りを爆発させたのだった。

 

「ハア…?仲間…?」

 

その言葉に対して扇は絶句する。

 

何を言っているのか本当にわからない…そんな表情をしながら。

 

数秒間の沈黙の後、ルフィの言葉を理解した扇は、ハイハイ、と手を叩く。

 

 

そして、その言葉を心の底から馬鹿にし、心の底から嘲笑し、吐き捨てた――――

 

 

 

 

 

 

 

仲間だぁ…?ああ、あのクソの役にも立たねえ、ゴミどものことか。

 

 

あんなものは、いつでも使い捨て可能な…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           “ 駒 ”だろ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギア――――――――――――――――ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             “ セ カ ン ド ”―――――――――――――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 





5000字ほど書きました(6/8 現在)

VS扇さんは間違いなく1万字を超えます。
よって、分けて投稿するか、全部書き上げるか思案していますw
できれば、完全決着ですっきりしたいですね。

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