ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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天才科学者 ラクシャータとベガパンク

マリンフォード頂上戦争―――

 

“火拳”のエース奪還を賭けた白ひげ海賊団と海軍本部の争いは、

王下七武海やインペルダウンの脱獄囚達の参加により、

歴史に類を見ない空前絶後の乱戦へと発展した。

 

己が死をもって大海賊時代を切り開いた“海賊王” ゴール・D・ロジャー。

 

彼の息子であり、時代の担い手となるエースを処刑することで、時代の幕を下ろすことを目論んだ元帥・センゴクは、それを阻む“白ひげ”との全面戦争を覚悟した。

その予想通り…いや、白ひげという海賊を知る者なら誰でも思い描く通り、

白ひげはエースただ一人を救うために己が率いる全戦力をもって、

マリンフォードに乗り込んできた。

 

世界三大勢力の激突。

 

両陣営合わせて10万を超える実力者達が、ただ一人の海賊の命をかけて

刃を交え、拳を激突させた。

もはや伝説である白ひげが古き時代の生き様を見せたなら、

兄を救出するために単身乗り込んできた“麦わら”のルフィの獅子奮迅の活躍は

時代の新しい風を予感させた。

そう、この戦争はまさに時代の変わり目と言えるだろう。

この戦争によって世界は変わった。時代は動き出した。

 

 

海賊王の息子“火拳”のエースと“白ひげ”四皇・エドワード・ニューゲートの死―――

 

 

それは一つの時代の終わりであり、新しい時代の始まりでもあった。

新たなる四皇として、白ひげを裏切り、エースを売った男“黒ひげ”の台頭。

海軍においては、赤犬が青雉を倒し、元帥の座に君臨した。

そして、“最悪の世代”をはじめとしたルーキー達が海賊王を目指し、一斉に動き出した。

大海賊時代はさらなる混沌を深め、新たなる時代へと帆を進める。

 

だがしかし、マリンフォード頂上戦争の影響は、海に限ったことだけではなかった。

 

 

白ひげ海賊団の猛者達を蹴散らした鉄の化け物の出現。

 

 

 

パシフィスタ―――

 

 

その存在は科学技術界に巨大な一石を投じ、

Dr.ベガパンクの天才科学者としての名声を不動のものとした。

 

 

…ここで時代を少し戻そう。

 

ここはブリタニア諸島・合衆国“印度”。

都心から離れた郊外に、建てられた研究所の中に一人の科学者が煙草をふかしていた。

印度人特有の褐色の肌。

気だるそうな目で技術資料を見ている彼女は、科学者の象徴ともいうべき白衣を羽織り、

中央の椅子に腰を下ろしていた。

 

あの第二次“ブラック・リベリオン”の後、彼女は黒の騎士団を引退し、

故郷である印度に戻り研究所を設立し、日夜研究に追われている。

寝不足により少し充血した目を擦り、来訪者を見つめる。

パシフィスタの出現以来、このような取材が後を絶たない。

“天才科学者” Dr.ベガパンクと同じアカデミーの同窓であり、

同じ研究分野にいる彼女にマスメディアが注目するのも当然といえるだろう。

だが、彼女は気に入らない。

彼女もまた、紛れもなき“天才”に他ならないのだから。

 

「…で、またベガパンクの話…?」

 

苛立ちを隠すことなく、そう吐き捨てた彼女は、煙草の煙を気だるそうに吐き出した。

 

科学技術界に名を轟かす“ブリタニア諸島の三科学者”の一人。

 

名誉ブリタニア人としての成功を捨て、神聖ブリタニア帝国に反旗を翻した

彼女につけられた賞金総額は6000万ベリー。

 

元“大海賊艦隊”黒の騎士団・科学技術班“最高責任者”。

ラクシャータ研究所“所長” ラクシャータ・チャウラー。

 

“堕ちた天才科学者”は皮肉めいた笑みを浮かべた。

 

「悪いんだけどさぁ~アカデミーで私はベガパンクの奴とはあんまり親しくなかったんだよね~」

 

機先を制すかのようにラクシャータは語りだす。

マリンフォード頂上戦争以降、連日のような記者の訪問。

繰り返される同じような質問にラクシャータは心底うんざりしていた。

取材を断るにも手間と時間がかかる。

ならば、いっそのこと、全部受けて適当にあしらってしまおう…!

そう考えたラクシャータは、その考えを実行し、現在に至る。

嘘はついていない。

実際にベガパンクとはそれほど親しくはなかった。

ラクシャータはベガパンクの天才性を認めていた。

だが、その反面激しく嫉妬していることも自覚していた。

ラクシャータは自他共に認める天才であった。

それ故に、天才というものが他者からどれほど羨望と憎しみを持たれるか

熟知していた。

自分以上の天才であるベガパンクに同情に近い感情を抱いていたし、

自分が彼に抱く嫉妬に対しても対処することができた。

それは、天才である自分が他者の天才性を妬むなどあってはならない、という

矜持によって支えられていた。

何はともあれ、複雑な感情の絡み合いによって、ラクシャータは意図的に

ベガパンクとの接触を最小限に収めた。

だから同窓といえどラクシャータはベガパンクの人柄をよく知らなかった。

 

「ベガパンクのことを知りたいなら、プリン伯爵かセシルに聞けば~?

あ、プリン伯爵というのは、ブリタニアのロイド・アスプルンドのことね。

あいつら一緒にセシルの作ってきた弁当から逃げ回ってたし、きっと私より面白い話を

聞けるんじゃないの~?」

 

そう言って彼女は再び煙管を咥える。

 

“ブリタニア諸島の三科学者”の残りの二人。

 

ロイド・アスプルンドとセシル・クルーミーのことを思い出す。

セシルの作ってくれた弁当をベガパンクとロイドがお互いに激しく譲り合う。

 

「僕は食欲がないから君が食べなよ~セシル君喜ぶよ」

「いやいや…君こそ」

 

その醜い争いを見てキレたセシルに二人が追い掛け回されたことがあった。

青春の思い出の1ページだ。

 

(まあでも、ブルーベリー入りのおにぎりは私でもキツイな…)

 

そんなことを思い出して、ラクシャータは小さく笑った。

 

「それかシーザー・クラウンの馬鹿にでも聞いたら~?

あいつも同じ研究所にいたんでしょ?

ああ、でもアイツ今は賞金首か…いつかやる奴だと思ってたんだよね~。

まあ、でも“黒の騎士団”にいた私が言うのも説得力ないけどね」

 

“シュロロロ”というあの悪趣味な笑い声が聞こえてきそうだ。

性格は破綻していたが、あれもなかなかの才能を持っていた男だった。

だが、他者の才能に異常な敵意を持つ傾向があり、

アカデミー時代においてその一部は、自分に、プリン伯爵に、セシルに向けられ、

大半はベガパンクに向けられていた。

あの男の科学者としての醜さを見ていなければ、自分も同じ闇に落ちていたかもしれない。

賞金首となったと聞いた時にあの敵意を持った眼差しと、

必死に押さえつけたベガパンクに対する嫉妬を思い出した。

 

「え…?ベガパンクについての取材じゃないの?」

 

このままお引取り願おうと思っていたラクシャータは怪訝な表情を浮かべる。

どいつもこいつもベガパンク、ベガパンクと心底ウンザリしていたので、

この記者がそれを否定したのは、意外でありまた興味が出てきた。

 

この記者は自分に何を聞きに来たのか…?

 

ラクシャータの瞳に好奇の色が帯びる。

 

「ハァ…!?ブリタニア諸島の古代兵器を…“ナイトメア”について聞きたい…!?」

 

記者の口から出たその名前にラクシャータは珍しく驚きの声を上げた。

そしてそれと同時に、好奇を帯びた瞳が憎悪を塗り替えられた。

 

「確かにアレを復活させたのは私だけどさ~。正直、思い出したくないんだよね。

アレは私の科学者としてのキャリアにおける唯一の汚点だわ…」

 

 

 

ラクシャータは思い出す。あの日のことを。

 

 

「ちょっとさ~どういうことよ、扇?」

 

後手を縄で縛られたラクシャータは、自分の前に立つ男を睨みつけた。

男の名は扇要。

大海賊艦隊“黒の騎士団”副団長。

クーデターを成功させ、ゼロを売り渡した現在においては、

事実上の黒の騎士団のトップであった。

 

「フヒヒ…」

 

扇はラクシャータを見下ろしてニヤニヤと笑う。

その態度はラクシャータの苛立ちをさらに加速させた。

まさかこんなことが起こるとは思わなかった。

こんなコバエのような男がクーデターを起こすなんて。

それが成功するなんて。

正直、ラクシャータには信じがたい状況だった。

人望などまるでない中間管理職。

決して戦場に出ない“第四列目の男”と陰口を叩かれている扇が

このような大それたことをやる遂げるなんて。

 

「ラクシャータ~お前、ゼロから古代兵器の復活を依頼されてたよな?」

「そうだけど~。それがな~に?」

 

扇の質問にラクシャータはいつもの調子を崩さないようにしながらも、

内心では警戒する。

 

古代兵器“ナイトメア”

 

神根島から発掘されたその兵器の復活をラクシャータはゼロから依頼されていた。

それはもしかしたら、ブリタニアとの決戦において切り札になるかもしれない代物。

扇の狙いがわからない以上、下手なことは言えない。

そう決意し、ラクシャータは扇の出方を窺う。

 

「その古代兵器なんだが、改造してくれねえか?こんな風にさ」

「そ、それは…!?」

 

自分の前に投げ出された資料を目にし、ラクシャータは驚きの声を上げた。

それもそのはずだ。

それは、あの資料…後のマリンフォード頂上戦争において出現した悪魔の兵器。

ベガパンクのパシフィスタの設計資料だったからだ。

 

「噂には聞いていたけど…な、なんでアンタがコレを!?」

「ブリタニア経由で手に入れた海軍の天才科学者の設計資料だ。

フヒヒ…この力を古代兵器に取り入れたら面白いだろうな~?」

「な…!?」

 

食い入るように資料を見ていたラクシャータを絶句し顔を上げる。

そこには、扇が歪んだ笑みを浮かべていた。

 

「ああ、外見はコレで頼むぜ。俺のように格好よくしてくれよ!」

 

そう言って扇は技術資料の横に扇が書いたと予想される下手糞な絵を投げた。

どうやら、古代兵器をパシフィスタの技術を応用しパワーアップさせたいようだ。

しかも、外見を扇を機械化したようなダサくして…。

 

「ばっかじゃないの~?」

 

ラクシャータは即答する。

あの美しい古代兵器をこんな不細工なものにするなど言語道断だ。

それにベガパンクの技術を応用…ふざけるな!

ラクシャータの科学者としてのプライドは大きく傷つけられた。

 

「ああ、そうかい…」

 

扇はその様子を見て嘲笑する。

 

 

そして、ラクシャータにとっての禁句を放った―――

 

 

 

「やっぱり、お前じゃベガパンクには及ばないのか?キヒヒヒ」

 

 

刹那―――

 

ラクシャータの感情が爆発した。

 

 

 

 

 

「ふざけるな―――ッ!!私は天才だぞ!誰がベガパンクなんかに―――」

 

 

 

 

 

 

          “モジャモジャ・ノーム”

 

 

 

 

そこからはよく覚えていない。

扇の頭から発生した黒い霧に飲み込まれた後のことは。

ただその間ずっと、ベガパンクに対する嫉妬に身を焦がしていた。

私がアカデミー時代、ずっと抑えていたもの。

解き放たれたそれは私を支配し、ただひたすら古代兵器の改造に向かわせた。

第二次“ブラック・リベリオン”が終わった後、

聞いた話では、あの黒い霧は扇の“悪魔の実”の能力だったそうだ。

ああ、気持ち悪い…!

まるで扇に心も身体も犯されたように感じる。

古代兵器の話を聞かれるとまずそれを思い出す。

だから、不快にならないわけがないではないか。

それに、あのデザイン。

扇を機械化したような古代兵器の末路は、科学者として本当に恥だ。

殺されてもあんな醜悪なものは作るべきではなかった。

 

…泣きそうだ。

 

よし…記者が帰ったら、一人で泣こう。少女のように泣いてやろう。

 

 

ラクシャータに涙目で睨まれ、記者はだじろぐも最後の質問をする。

その質問に我に返ったラクシャータはいつものような皮肉な笑みを浮かべた。

いや、いつもの…ではない。その笑みには科学者としての圧倒的な自信が含まれていた。

 

「パシフィスタとナイトメア…どちらが上か…だって?

アンタさあ~最後に面白い質問するじゃない。そうだね、一言で言えば…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――比べものにならない。

 

 

 

 

「あれは外見は不細工でもこの私が改造したのよ~!この天才である私がね。

破壊…ただそれだけに関してならばナイトメアは間違いなく私の最高傑作。

パシフィスタなんて目じゃないわ!

なんたってアレには、最強の矛と最強の盾が備わっているんだもの~ッ!」

 

 

 

 

ナイトメア…それは古代と現代の科学が融合した悪魔。

 

 

 

 

記者が知ったのは最悪の事実。

“堕ちた天才科学者”は怯える記者の様子を見て満足そうに煙草の煙を吐き出した。

 

 




お久しぶりです。隔月でなんとか連載させて頂いています。
今回は、最終決戦前の小話を書いていたのですが、
予想に反して字数が伸びたために、単独の話として投下することにしました。
当初はラクシャータとベガパンクの接点のみでしたが、
ロイドさんやセシルさん、そしてシーザーなども加えてみましたw
もう何か異次元のメンバーですねw書いていて楽しかったです。

次話こそ最終決戦です。
別作品を連載していますが、こちらの完結を優先させて頑張りたいと思います。

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