ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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神根島の戦い

「旋回活殺自在陣を敷く!!」

「承知―――!」

 

斑鳩の甲板において、麦わらの一味を相手に藤堂は開始早々、必殺の陣を敷いた。

 

―――旋回活殺自在陣

 

将軍・藤堂と四聖剣による必殺必中の戦術フォーメーションである。

敵の周りを旋回し、そこから繰り出す難解自在の連続攻撃。

それを避けることは非常に困難であり、仕掛けられた敵は、1分ともたず

体中に斬撃を浴びて絶命する。

過去にこの陣から生還したのは、当時は海軍少佐であり、後の海軍“中将”。

神聖ブリタニア帝国“ナイト・オブ・セブン” 枢木スザク、ただ一人。

それも、決して無傷ではなかったという事実を知れば、この陣から逃れるのは

いかに困難かは容易に想像がつく。

ならば、戦闘担当であるゾロやサンジならともかく、非戦闘員といえるウソップやナミでは、ひとたまりもない。

藤堂とて、この陣を仕掛けた真の標的は、前者の2人であり、後者の2人に関しては、

瞬殺することを前提としていた。

だからこそ、旋回活殺自在陣を展開してからの、この“3分”という時間は、

藤堂達にとっては、まったくの想定外に違いなかった。

 

「危ねえ、ウソップ!」

「ぐエッ!」

 

ゾロは朝比奈の斬撃を受け流しながら、ウソップの背中に蹴りを見舞う。

 

「チッ――」

 

悲鳴を上げ、吹き飛ぶウソップが居た場所を、直後、仙波の刀が通過した。

 

「ナミ、来たぞ!」

「ギャーーー!」

 

続けて、ゾロはナミの背中に蹴りを入れた。

 

「ちょこまかとよく動く…!」

 

先ほどナミの首があった空間をなぎ払い、千葉が吐き捨てた。

 

「ゾロ…!アンタ、覚えておきなさいよ!後で―――」

「ナミさん!すまねえ!」

「ギャーーー!サンジ君!?アンタまで!」

 

ゾロに蹴り飛ばされながら、罵声を放つナミに今度はサンジが蹴りを入れた。

レディ・ファーストを貫き、女性には決して暴力を振らないことを信条とするサンジ。

その信条を破るなら死を選ぶであろう、この男が、女性であり、仲間でもあるナミに

蹴りを見舞うのは、それが暴力でなく、回避だからに他ならない。

 

「しつこい――ッ!」

 

事実、先ほどナミのいた空間に、朝比奈が放った突きが空しく通過した。

 

およそ3分。

ゾロとサンジは、戦闘力が劣るウソップとナミを、まるでピンポン玉のように

蹴飛ばしながら、“旋回活殺自在陣”を逃れていた。

初見にして、この必殺必中のフォーメーションに対応したのは、

さすがあの“七武海” サー・クロコダイルからアラバスタを救い、

ゴッド・エネルから空島を守った海賊の一味であると言えるだろう。

 

だが、果たして、理由は本当にそれだけだろうか?

 

「クソ、こんなはずは…!」

「ハア、ハア、ゼエ、ゼエ」

 

思わぬ苦戦に、朝比奈は苦悶の表情を浮かべ、仙波は、肩で息をするほど疲労していた。

藤堂と四聖剣にとって、これほど“旋回活殺自在陣”を持ちこたえた敵は初めてであった。

それ故に、焦りが生まれ、技の精度に影響が出るのは必然であった。

 

「オイ!マリモ、気づいたか?」

「ああ?当たり前だろ、クソコック!」

 

逆に、精度が落ちてきた斬撃の雨の中で、ゾロとサンジに会話をする余裕が生まれた。

 

「オイ、ウッソプ!聞こえるか?」

「ああ…!うげッ――!そ、それより、もっとやさしく蹴って…」

 

サンジは、蹴りながら、ウソップに声をかける。

ウソップは辛うじて、それに応える。

彼はどちらかと言えば、味方の蹴りで死にかけていた。

 

「ウソップ!3時の方向に構えろ!」

「え!?ウゲッ!」

「ウソップ、素敵眉毛の言うとおりにしろ!」

「いくぞ、3,2,1…撃て――ッ!!」

「うおおおーーーーー火炎星(かえんぼし)!!?」

 

サンジの号令で、ウソップは、火炎星を放った。

ウソップが、疑問の声を上げたのは当然のことであった。

火炎星を放った先には、誰もいない。

だが、それでも、まったく無人の空間に技を放てと命じられ、

疑問を持ちながらも理由を聞くことなく、

ウソップが即座にそれを実行したのは、やはり、仲間への信頼ゆえであろう。

そして、それが、正しかったと証明されたのは、その直後だった―――

 

「ぐわぁああああああ!?」

 

誰もいなかった空間に放った火炎星に、仙波が突っ込んできた。

 

「仙波!?」

「馬鹿な――ッ!?」

 

火炎星を派手に喰らい、吹っ飛ぶ仙波を見て、朝比奈と千葉が動きを止めた。

それは、必然的に“旋回活殺自在陣”が敗れたことを意味する。

 

ここで戦局は大きく動く。

 

「ウヌ…」

「へ…」

 

“旋回活殺自在陣”を解いた直後、“海賊狩り”のゾロと“将軍”藤堂が正対した。

 

剣士と剣豪。

生まれた場所は違えども、同じ獲物を持つ者同士、対峙したなら、答えは決まっている。

藤堂は大業物“斬月”を上段に構え、ゾロに向かって疾走を始めた。

対するゾロは、全ての刀を納刀し、居合いの態勢で迎え撃つ。

 

「“斬月”―――ッ」

「一刀流“居合”―――」

 

 

 

 

     “影の太刀”

 

             “獅子歌歌”

 

 

 

 

藤堂は黒い妖炎を帯びた大業物“斬月”を振り下ろし、

ゾロは、己が愛刀“和道一文字”を振り抜いた。

 

交差する両雄。

その瞬間、突風が甲板を吹きぬける。床には、まるで、かまいたちが通過したような

切り傷が至るところについていた。

どちらの陣営にとっても、間違いなく最強の戦力の激突。

その場にいる全員が、その瞬間を見つめ、そして、その結果を待つ。

“旋回活殺自在陣”が解けたから、わずか数秒の時。

だが、この勝負の結果で、この戦いが大きく動く。

 

ならば、果たして、どちらが―――

 

「クッ…!」

 

右肩が切り裂かれ、鮮血と共に、ゾロは片膝をつく。

 

「殺ったぞ!ロロノア―――」

 

勝利を確信し、藤堂は振り向き様に“斬月”を振り上げる。

藤堂の眼下には、ゾロの無防備な背中が晒されていた。

だが、ゾロは振り返ることはしない。

防御することも、回避することもしない。

ただ、“和道一文字”を静かに納刀した。

その直後だった。

 

「がぁああ―――ッ!?」

 

勝利を確信し、“斬月”を今まさに、ゾロの頭上に振り下ろさんとした藤堂の

胸が切り裂かれ、鮮血が飛び散った。

ゾロの頭に振り下ろされた斬月は、その寸前で軌道を外し、その所有者共々、

空しく地に堕ちた。

 

「名刀が泣いてるぜ…正気に戻って出直してきな」

 

ゾロは、倒れた藤堂に振り向くことなく、刀を腰に戻した。

その言葉に、どこか空しさが込められていたように聞こえたのは聞き間違いではない。

その言葉には、ゾロの本心と、この勝負における藤堂の敗因の全てが込められていた。

もし、大業物“残月”を自在に操る大剣豪である藤堂が、扇に操られることなく、

この勝負に挑んでいたなら…

一点の曇りなく、ただ純粋に勝負に挑んでいたのなら…

もしかしたら、地に平伏したのはゾロの方だったかもしれない。

だが、それは結局のところ、ただの推測でしかない。

 

目の曇った剣豪が、ただ頂点のみを見つめる剣士に勝てる道理なし。

 

その現実だけがこの場に残った。

 

「藤堂さん―――ッ!?」

 

朝比奈と千葉は同時に叫んだ。

全幅の信頼をおく上官であり、精神的支柱である藤堂の敗北の瞬間を

目の当たりにした二人がその場に硬直したのは無理なからぬことだった。

だが、その刹那の瞬間は、戦場においては命取りとなる。

 

「ハッ!」

 

またしても、同時にそれに気づく二人。だが、時すでに遅し。

敵はすでに、二人の背後をとっていた。

 

「本日のディナーはこれにて終了―――」

「お帰りの際には、突然の雷雨にご注意下さい―――」

 

 

 

 

    “首肉シュート”

 

             “サンダーボルト=テンポ”

 

 

 

「ぐわぁああ―――ッ!!」

「きゃぁああああ―――」

 

朝比奈が振り向いた瞬間、サンジの蹴りがその首筋に深々と喰い込んだ。

千葉の頭上には、いつの間にか雷雲があり、それに気づいた瞬間、落雷が直撃した。

技を喰らった直後、今度は時間差こそあれど、二人は前のめりに倒れた。

四聖剣の一瞬の隙をつき、サンジとナミは、二人の後ろに回りこみ、それぞれ、

己の得意とする技で相手を仕留めた。

特に、ナミにおいては、蹴られて罵声を放ちながらも、雷雲を作り出すための気泡を

放ち続け、それが、実を結ぶという本来の抜け目のなさを見せつけた。

正面から堂々と戦うことのみが勝利の条件ではない。

乱戦においては、隙を見せてた者から脱落するのは必定である。

故に、二人の勝利に非のつけどころなどない。

完全な勝利であった。

 

全ては“旋回活殺自在陣”を解いてから、10秒たらずの出来事。

もし、“旋回活殺自在陣”が完璧なものであれば…

四聖剣が最後の一太刀“卜部巧雪”がこの場にいれば…

結果はまったく違っていたことだろう。

藤堂の当初の想定どおり、ウソップとナミは瞬殺され、

ゾロとサンジも、5対2という状況では、敗戦は免れなかったはずである。

だが、卜部は扇に操られた藤堂とその他の四聖剣の手により、この世にいない。

故に、“旋回活殺自在陣”を敷いた時、誰かが卜部の負担を補わなければならず、

それを、仙波が一身に負担した。

そのために、仙波のみは、単調でパターン化した動きをとらざるを得ず。

百戦錬磨のゾロとサンジがそれを見逃すはずはなかった。

そう、この勝負を分けたのは、卜部の存在と言っていい。

卜部は四聖剣において、もっとも影の薄い男という事実は否定しようがない。

だが、その影の薄い男は、死して尚、その存在価値を見せつけた。

第二次“ブラック・リベリオン”において、卜部の愛刀“月下”がなければ、

カレンはルキアーノに破れ、黒の騎士団は全滅を免れなかったはずである。

そして、この戦いもまた然り。

藤堂と四聖剣の敗北は、いや、扇とブリタニアの敗北は、全てあの夜、

最後の最後まで抗い、己が信念を貫いた卜部の死によって、決定済みだったといえる。

 

何はともあれ―――

 

「…(ドン!)」

「…(ドン!)」

「…(ドン!)」

「…(ド~ン!!)」

 

藤堂と四聖剣。

旧日ノ本“最高戦力”は床に倒れ、動かない。

第二次“ブラック・リベリオン”最終戦“神根島の戦い”

 

 

        麦わらの一味…勝利!!

 

 

「何、お前だけ目立ってんだ!?俺がおまけで勝ったみたいじゃねーか!」

「知るか!何、絡んできてんだ、このクソコック!てめーも斬るぞ?」

「ゾロ、そして、サンジ君…今からメリー号の裏に行こうか…」

「か、体中が痛い…し、死ぬ~~~」

 

ゾロの勝利の隙をつく形となったサンジが、ゾロに絡む。

売り言葉に買い言葉とゾロも刀を抜きかける。

回避のために、散々蹴られたことをナミは忘れてはいない。

二人の肩を掴んで、まるで中学生のような台詞を呟く。

その下で、ウソップが死にかけている。

 

「お前ら…喧嘩してないでこっちを手伝えーーーー!!」

 

操られている黒の騎士団の幹部を振り回しながら、チョッパーが激昂する。

残った黒の騎士団の幹部の数も残り少なく、こちらの勝利もほぼ確定だった。

斑鳩は、まさに、麦わらの一味が占拠する寸前であった。

その状況下において、“それ”は現れた。

 

 

―――ドカァーン!!

 

 

斑鳩の床が突然、爆発して炎上する。

近くにいたウソップは、床と共に吹く飛ばされ、ゴロゴロと床を転がる。

 

「痛ててて、な、何が起きたんだ―――!?」

 

頭を押さえながら、ウソップは起き上がり、爆発が起きた箇所を見つめる。

その箇所は、床が吹き飛び、巨大な穴が開いていた。

そこから、ヌッと何かが顔を出した。

 

「なッ!?」

 

一同が声を上げたのは、それが巨大な頭部だったからだ。

それは、巨人ではなかった。

それは、生物ではなかった。

言うなれば、それは、鉄の化け物。鉄の巨人であった。

鉄の巨人は、片手で床を掴み、ゆっくりと這い上がってきた。

その頭部に大きな砲筒を乗せている巨人の全貌が露となる。

 

「あ、あの野郎は!?」

「クヒヒヒ…」

 

巨人の身体の胸の部分は半透明になっていた。

そこは、どうやら操縦席のようだ。そこには、あの男が…

あの気持ちの悪い男が乗っていた。

 

「モガ、モガ、くそ!離せ!!」

「ル、ルフィ―――!?」

 

鉄の巨人の片手には、この一味の船長であるルフィが握られていた。

いや、握り潰されて、手足だけを出してジタバタしていた。

握り潰されても死なないのは、さすがゴム人間といったところか。

だが、衝撃はまだ続く。

 

「う、浮いた!?」

 

ウソップが絶叫した。

鉄の巨人の身体は、ゆっくりと床を離れ、空中に浮遊したのだ。

 

「ブリタニア諸島の…古代兵器…?」

 

その光景を前に、額に汗を流し、ロビンが呟いた。

 

「クヒヒヒ、そ~だ!これが、ゼロが神根島の遺跡から掘り出し、対ブリタニアの決戦に備えて、ラクシャータに完成を急がせていた代物…古代兵器・“ナイトメア”だ~~~ッ!!

ハハハ、ゼロ~~こいつは俺が使わせてもらうぜ!お前と麦わらを殺すためになッ!!」

 

操縦席からマイクを掴み、扇は狂気の笑みを浮かべる。

 

 

第二次“ブラック・リベリオン”最終戦“神根島の戦い”

 

 

――――VS 古代兵器・“ナイトメア”

 

 




中途半端になりましたが、こちらは何とか月刊ペースでやりたいので投下します。
次回は扇さんが世界の脅威となります。四皇なみに危険な男ですw
もちろん、ルフィとタイマンです。
期待せずにお待ち下さい。




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