ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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C.C.と料理と黒の騎士団

 

 

同時刻。

 

"大海賊艦隊”黒の騎士団・本船「斑鳩」館内・司令室。

かつて“魔王”ゼロが使用していたこの部屋は今では

1組のカップルの愛の巣と化していた。

男は机に座り、新聞を手に取る。

男の後ろのカーテンの向こう側

では、女が気を失ったように眠り込んでいる。

男が手に取った新聞の一面には“魔王”ゼロの逃亡の詳細が書かれている。

元団長の写真を見つめ男は呟いた

 

「全てはゼロが、ルルーシュが悪い!!(ドーン)」

 

扇要。

 

"大海賊艦隊"黒の騎士団の現団長である。

ゼロ追放後、空位になった団長の椅子は副団長であった扇の手に 自動的に転がりこんできた。

今や扇は“黒の騎士団”のトップであり ブリタニア海の支配者として君臨していた。

 

「副団長!失礼します。」

一般団員のその言葉に扇は一瞬怒鳴りそうになるも押しとどまる。

ゼロ追放後、まだ間もないことから、扇“団長”という認識が浸透 していない

だから、このような不届き者が出るのだ。 懲罰は後回しにすると決めた扇は答える。

 

「何かな?俺は"激務"を終えて疲れているんだ。」

 

扇の返答に一般団員はうろたえる。

「い、いえ…。副団長の指示に従い、 シュタットフェルト隊長をお呼びしたのですが…。」

 

(…はあ?シュタットフェルト?誰よソイツ?外人!?)

 

扇は数秒間本気で考え込み、そして思い出す。

自分が呼び出したことと“親友”の妹の名字を。

 

「扇さん、話というのは何かしら?」

隊長と呼ばれる赤髪の女は扇に話かけた。

「え…ああ、これを見てくれ。」

自分が持っていた新聞を女に渡す。

「ゼロ!?そんな!?」

 

扇は女が新聞に注意を注いでいることを確認すると、頃合を計り 机を力いっぱい叩き出す。

 

「くそーー!!親友を売ってまで取り戻した日ノ本がまた エリア11に戻ってしまう!

 ゼロさえ、ルルーシュさえ 渡せば、シュナイゼルは約束を守るはずなのにィ!!」

 

バン!バン!と机を叩くのを止め、扇は顔を押さえる。

その指の間から流れる液体を見て女は肩を震わせる。 女の角度からは手の中に仕込まれた目薬が見えない。

出口に戻り、扉に手をかけた女は去り際にこう言い放った。

 

 

 ゼロは、ルルーシュは私が捕まえる!!

 

 

女の右手が赤く光ると扉は「沸騰」し、次の瞬間爆発した。

その姿が消えるのを確認すると、扇は椅子に深く腰掛け 新聞を手に取る。

日課のポルノ小説を読むためだ。

「クックック、扉くらい普通に出て行け…。零番隊隊長“紅月”カレン」

 

 

 

 

かもめ達が舞い、メリー号を陸地に誘う。

ゼロを加えた麦わらの一味が向かうのはエリア11の東京ゲットーだった。

何の計算もなくただ純粋にゼロを仲間に加えた船長“麦わら”のルフィを

除いて、ゼロを「仲間」として迎えいれた者はだれもいない。

表向きはルフィとゼロの握手を歓迎したナミも

“黒の騎士団”との 衝突を避けられるプラス@という下心満載であった。

そんな彼らの思惑を察して、その提案を出したのはゼロだった。

 

一つ目は船の針路であった。

ゼロの捜索のために海軍は警戒を強めていて次の目的地である

ウォーターセブンへ向かうのは困難である。

そこでいまだ “黒の騎士団”勢力圏であるエリア11に警戒網が解けるまで 滞在するというものであった。

“燃料・食料・ウォーターセブンへのルート確保。

これらは全て ゼロと“黒の騎士団”が責任を持つ“と。

 

二つ目は船の中での生活のことであった。

まず、ゼロは自分の力は「ギアス」という視覚情報による洗脳であることを明かした。

条件は相手の目を見ること。効果は一人につき一度きりというものだった。

「つまりは俺の目を見なければいい。」

そしてこれからもゼロの仮面を被り続けると宣言した。

このマスクの構造が脱ぎにくいのはルフィが証明している。

また、少しでもマスクを脱ごうとした 場合に攻撃も許可した。

「仲間」たちとの「信頼」のために。

その提案にナミが付け加える。

「ゼロが近くにいる場合にサングラス等を装着する」と。

万が一のことを考えて。「仲間」たちとの「信頼」ために。

つまりは、彼らの共通認識はあくまで「仲間」でなく「旅の道連れ」であった。

船長“麦わら”のルフィただ一人を除いて。

 

 

 

 

 

 

船内に与えられた部屋でルルーシュはやっと息をついた。

一時は本当にダメだと思った。

海軍から逃げ出した先が“一億”のルーキーとは…。

二度目に目覚めた直後、蹴りまくられた時には走馬灯が見えた。

母を殺され、父に捨てられた。

親友と別れ、海に逃れ、海賊となった。

そんな甘酸っぱい少年時代の記憶が、胃液と共に流れ出た。

 

 

  しかし…今俺は生きている!重要なのはそれだ。

  東京ゲットーにたどり着けば「オレンジ」と連絡が取れる。

  また戦える!救い出せる…ナナリーを!!

 

 

「ご主人さまぁ…。」

 

狭い部屋のベッドの片隅に体を隠しながらC.C.がこちらを見ている。

“奴隷時代の少女”に戻るのは自分の知る限りでは2度目。

死ぬほどのダメージを負うと現れる症状らしい。

側により、軽く頭を撫でてやると少し落ち着いたらしく目を瞑る。

あの高慢で高飛車な女が自分を助けるために命を懸けた…。

 

「ありがとうC.C.。ありがとう…ロロ。」

 

口から出たのはC.C.への感謝と「弟」の名前。

「ランペルージ」の姓を持つ死んだ護衛の名前だった。

 

「“麦わら”のルフィ…甘い男だ。フフフ、”仲間“か…。

 いいだろう!なってやろうじゃないか。

 エリア11までの 短い旅の間だけな!

 そしてもし…再び敵対するようならば…

 駒として…散々こき使った挙句、ボロ雑巾のように捨ててやる。」

 

ルルーシュの「両目」が赤い光りが宿る。

仮面に隠されたその光をC.C.は気づかない。

 

 

 

 

目的地に向かうメリー号を上空から覗いてみると

なにやら黒い物体が動いている。

船上を行き来するそれは上空から見ると巨大なボロ雑巾に見えなくもない。

 

ゼロであった…。

「掃除くらい毎日しろ!バカどもが…。」

 

舌打ちしながらも、黙々と床をモップで拭き続ける。

完璧主義の災い。

部屋に塵1つ残さない(特に妹の部屋だが)

その性格は ルフィたちの適当な掃除を許せるはずもなく、

旅を始めて三日目には 誰に呼びかけることもなく一人黙々とメリー号の掃除を始めていた。

 

船長である“麦わら”のルフィは船首の部分で昼寝をしている。

“海賊狩り”のゾロは自慢の刀の点検をしている。

共にその目の部分を無防備にさらしていた。

“ウソップに一撃で敗れた男”それが2億の首・ゼロのこの船に おける別名であった。

その圧倒的な弱さが高く評価され、この船でサングラスなどのギアス対策

をしているのは、ナミ、ウソップ、チョッパーのおなじみの3人だけとなった。

その“ゼロを倒した男”は、ゼロから距離を置き、

ゴーグル越しにチラチラ盗み見 ながら掃除を手伝っていた。

特に会話はないが、共に奇妙な親近感を感じながら。

 

一週間が過ぎた頃、ゼロの苛立ちはピークに達していた。

それは、不衛生な環境を自分で変える努力に疲れたためではない。

掃除はむしろ気分転換として効力を発揮していた。

では、彼を苛立たせたのは何か?

 

「C.C.ちゃ~ん。デザートができたよぉ!」

 

…奴であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「C.C.ちゃん!味はどうかな?」

 

「は、はい!す、すごく美味しいです!」

「それはよかった!C.C.ちゃんのために特別に作ったんだ!」

そう言って、サンジはC.C.の肩に手をまわした。

 

「…ピク。」

 

遠くからゾロがサンジに向かって厳しい視線を投げかけている。

他のクルーからみてもサンジのスキンシップならぬセクハラは 目に余るものに変貌を遂げていた。

サンジのC.C.に対する露骨なアプローチはその料理にダイレクトに表れた。

毎日がフルコース。

それを美味しそうに食べるC.C.。喜ぶサンジ。悪循環は止まらない。

他のクルーの食事の量が減少した。ルフィは不満そうにサンジに文句をいう。

しかし彼はまだマシである。もっとも被害を受けていたのは

C.C.の“ご主人様”であるはずのゼロであったからだ。

 

最初の三日間は普通の量だった。

だが、その後、フルコースの影響からか明らかに量が減っていた。

ついにこの3日間に支給されたのはカップ麺だけとなった。

 

「あいつ・・・人間が一日に必要な野菜の量をしているのか?」

 

明らかに栄養不足のゼロ。そしてその前で行われるセクハラ。

明らかな挑発。

宣戦布告に他ならなかった。

 

「本当にかわいいな~C.C.ちゃん!」

サンジがC.C.の腰に手をまわした時

 

 

 

     ブチッ!! 

 

 

 

 

 

ルルーシュは切れた。

 

 

 

 

 

「ご機嫌だな!コックの男よ!」

 

ゼロはマントを広げ、サンジを指差した。

サンジはギョッとしてC.C.から離れる。いきなりこんな怪しい 仮面男から指名されれば当たり前だ。

 

「な、なんだ?何か用かよ?」

 

「ずいぶん時間を持て余しているようだな?せっかくだから

 掃除を手伝ってくれないか。“仲間”だろ…?」

 

ゼロの挑発めいた言い回しにサンジは少しムッとしながらも、黙ってモップを 手にもつ。

確かに正論であり、今まで掃除をこなしてきたゼロの言葉に説得力があった。

 

「で、どこを掃除すればいいんだ?」

あらかたというか、船内は完璧に掃除されていて塵1つ見当たらない。

 

「ここだよ。ここ。」

ゼロは椅子に座り、靴の裏を指さした。

「拭け。舐めるように…丹念にな」

 

 

 

 

 

瞬間湯沸かし器とはこの時のサンジであった。

 

「てめー!喧嘩売ってんのかよ!!」

 

ゼロの袖に手をかけ、絞りあげる。

「喧嘩を売るとは連日のカップ麺のことか?」

ゼロも引かない。

 

「そもそも、お前みたいな怪しい野郎を仲間として認められるか!!

 俺が歓迎したのはC.C.ちゃんだけだ!

 何が“ご主人さま”だ!この変態仮面が!」

 

サンジは大声で罵る。―――めちゃくちゃ私怨を込めながら。

 

「それは困ったな。”仲間“として認めてもらわなければならない。

 せめてこの旅の間だけな…。

 だから提案したい。決着をつけようと!」

 

「望むところだ!」

 

こうしてゼロとサンジは決着をつけるために対戦することになった。

その種目とは?

 

「二つの洗い場に洗い物を二等分しました!」

 

…お皿洗い勝負だった。

 

 

 

 

(バカかこいつはッ!!)

 

サンジは心の中で罵倒した。コックである彼のプライドが刺激された。

日々の業務。もはや彼にとっては生活習慣ともいえる作業で勝負を

挑まれるとはサンジは想像すらできなかったからだ。

 

(こんなバカがトップに立つなんてあり得ねえ!

 まだルフィがマシに見えるぜ! きっと“黒の騎士団”ってのはアホの集まりに違いない!)

批判はゼロから彼の部下に飛び火した。ついでに自分の船長にも…。

そうして一通り心の中で罵倒を終えたサンジは少しずつ余裕を取り戻す。

すでに結果が見えている勝負より、

いかにこの状況を利用するかという打算が動き始めたのだった。

サンジはC.C.を見る。

C.C.はそれに気づくを恥ずかしそうに俯く。

「かわいい…マジかわいい!」

 

サンジの鼻の下が自然と伸びる。それを見てゼロは呟く。

「…なんだその顔芸は?勝負はもう始まるぞ。」

 

「…ッ!!」

 

ある意味最悪のタイミングを見られ、それを興味のない“突っ込み”ですらない

“呟き”で返されたサンジは現実に戻り、ゼロを睨み付ける。

 

 

 

   すべてこの野郎がいけないんだ!

  きっとC.C.ちゃんはコイツに攫われて無理やり

  “ご主人さま”なんて呼ばされているに決まってる!

  ああ、なんてかわいそうなC.C.ちゃん…。

  俺が勝ったあかつきには君を自由にしてあげるからね!

 

 

怒りをモチベーションに変えるサンジ。C.C.は片手を挙げる。

「位置について…よ、よーい、スタート!」

 

C.C.のスタートの合図と同時にコップとスポンジを手に取るサンジ。

その二つが蛇口に流れる水の前で交差するとコップは 鮮やかな光りを取り戻していた。

必要以上の力はいらない。スナップとスピード。

そして 何万回ともいえる反復の経験がそれを可能にする。

サンジはコップを乾杯の仕草でC.C.に向け ウインクをし、余裕を演出する。

 

「どうだ!お前にこれができ…ッ!?」

 

勝利を確信し、ゼロを見たサンジの動きが止まる。

「水温摂氏11度、蛇口直径16ミリ、皿全体のワインゾース  の面積2パーセント以下。

 この条件に最適な構えはこの角度!」

 

“ゴ、ゴ、ゴ”と効果音が聞こえそうな異様なオーラが立ち上る。

 

「抉りこむように…擦るべし!擦るべし!擦るべし!擦るべし!」

 

「え?うおぉ!?うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!?」

 

「擦るべし!擦るべし!擦るべし!擦るべし!擦るべし!擦るべし!」

 

 

 

 

船が進み波がざわめく。

その音を楽しみながらゼロは船上の真ん中で 優雅に読書を楽しんでいた。

その足元で何かがゴソゴソと動いている。

 

「手を休めるな、しっかり拭け。舐めるように…丹念にな」

 

屈辱に耐え、黙々と作業を続けるサンジ。

わざわざ船の真ん中に 椅子を移動し、読書など行うのは、

この状況を周囲に晒すために他ならない。

ルフィとウソップは指を指して笑い。

ナミは哀れそうに眺めている。

遠くからはゾロがあいかわらず厳しい視線を投げかけている。

敗戦の結果とはいえ、この状況…耐え難い。

 

「喉が乾いたな…紅茶をくれないか?ボーイ君」

“飲まないよね?というか飲めないよね?”そんな抗議を瞳に託しながら

サンジはゼロを睨む。―――このままでは終われない。

 

「第二ラウンドだ!さっきはお前の得意分野で戦った!

 だから、今度は俺が種目を決める!」

 

過去の自分の言葉をかなぐり捨て、サンジは挑戦状を叩きつける。

 

「よかろう…その種目とは?」

 

承諾するゼロ。完全決着をつける気だ。

 

「料理勝負だ…C.C.ちゃんを賭けてな!」

 

 

  あいつ、プライドはねえのかよ・・・。

 

 

遠くからゾロはそう呟いた。

 

 

 

 

(バカかこいつはッ!!)

 

サンジは心の中で罵倒した。

コックである彼のプライドが刺激された。

日々の業務。

もはや彼にとっては生活習慣ともいえる作業をゼロが承諾 するとは、本当のところ思えなかった。

(こんなバカがトップに立つなんてあり得ねえ!

 きっと“黒の騎士団”ってのは痴呆症の馬鹿軍団に違いない。)

 

批判はゼロから彼の部下に飛び火した。

ゼロを批判できる材料があれば なんでもいい。それほど奴が憎かった。

そうして一通り心の中で罵倒を終えたサンジは少しずつ余裕を取り戻す。

周りにはクルーが集まり出していた。

ルフィに至ってはすでに席につき食べる準備を完了させている。

サンジはC.C.を見る。

C.C.はそれに気づくを恥ずかしそうに俯く。

「かわいい…超かわいい!」

鼻の下が伸びそうになるのを堪える。

このままでは前回と同じだ。

ゼロを見ると、明らかに怪しいマント男は無言で食材や調理器具を準備していた。

今回の勝負の素材は「海王類」。

「馬鹿マント!変態仮面ッ!!」

 

もはや脊髄反射で罵倒が飛び出す。

怒りをモチベーションに変えるサンジ。C.C.は片手を挙げる。

「位置について…よ、よーい、スタート!」

 

スタートと同時に包丁を手に取るサンジ。

空中に投げた肉と包丁が交差すると、肉は見事に分断され

それをボウルでキャッチする。

必要以上の力はいらない。スナップとスピード。

そして 何万回ともいえる反復の経験がそれを可能にする。

――この勝負だけは負けられない。

 

前回は余裕を出しすぎたのが

仇になった。サンジは懐からビンを取り出す。ラベルには

「秘伝の調味料」と書かれている。

この材料は一部の海王類の肝でしか作れない。

修行時代からコツコツ集め、特別な催し以外には 決して使うことのない品であった。

 

「潰してやる…絶望を見せつけてやる…。」

 

ブツブツと呟きながら、調味料を贅沢に使用する。

彼は本気だった。

その背後で黙々と料理を作るゼロ。

残り時間10分前…その出来事は起こった。

「お前…まさか“C.C.”が本当の名前だと思っているのか?」

 

「え…!?」

 

後ろ向きで相対するゼロの言葉にフライパンの動きが止まる。

 

 こいつ…いま何と言った?

 

「俺は知っているぞ…本当の名前を」

 

確かにおかしな話だった。

「C.C.」この文字を見て名前だと思う人間が 世界で一体何人いるだろうか。

何かの「記号」と思うのが普通だろう。

サンジは妄想の海に落ちていく――

そこからは牢屋に囚われた美女達がいる。

ドアが開き、マントを翻しながら変態仮面が現れた。

階段を降り 牢屋に近づき、緑髪の少女を指差さす。

 

「今日はお前にしよう…“C.C.”」

 

「私は“C.C.”なんかじゃない。私の名前は――」

 

泣きながら拒絶の意思を示す緑髪の少女。

仮面の悪魔は冷笑する。

 

「奴隷に名前などいらない…。お仕置きが必要だな」

 

その言葉に反応して肩を震わす少女。

 

「うう、申し訳ありません…“ご主人さま”」

 

それから浮かび上がる痴態の数々、サンジは妄想の海に落ち続けた。

「鍋…。」

 

妄想の海からサンジを釣り上げたのは、ゼロの言葉だった。

泡を吹き上げる鍋。

炎を天井まで吐き出すフライパン。

終了時間、五分前の出来事であった。

 

 

 

 

「すげぇーーーうめぇな!これ!!」

 

「海王類のフェイバレット焼きブリタニア風だ。 こちらの料理は…。」

 

食卓に並ぶ数々の料理。

日ノ本食をベースにブリタニア風の味付けがされて いる。

ブリタニアで生まれ、日ノ本で生活してきたゼロならではの料理であった。

日ノ本に人質に取られたときから、その料理人のキャリアをスタートさせたゼロ。

毒殺を警戒して、自分と身内の料理はずっと彼が担当していた。

その結果、その 料理の腕前は高級店のコックが裸足で逃げ出すほどに成長していた。

 

一方食卓の端の方。

ゼロの料理に紛れながら、たった一品だけサンジの料理があった。

5分で出来る料理…「海王類の刺身」だった。

「…。」

 

結果は明白だった。

いや、もはや勝負以前の問題である。

あまりにも気の毒すぎて「料理勝負」であったことに触れないクルー達。

ゾロですら視線を合わせない。

 

「うめぇ!超うめぇ!!」

 

ルフィの食いっぷりを見て苦笑するゼロ。

 

「フハハハ、そんなに気に入ったなら、食べさせてやろう。 エリア11に着いたら好きなだけな」

「本当か!?絶対だぞ!約束だからな!!」

 

あまりの食いつきぶりに、いささか引く…この男の食い物に対する執念は ちょっとだけ怖かった。

席を立ち、落ち込むサンジに近づく。

ジロリと睨み付けるサンジ。

その瞳は“敗者を笑いにきたのか”と物語っている。

「…C.C.の本当の名前は俺も知らない。

 俺達はただの契約関係だ…恋人でも、まして愛人でもない」

 

サンジの瞳に希望の光が宿る。言葉にするなら“よっしゃーー”といった具合だ。

「夢をバカにして悪かった…。

“オールブルー”それを全否定できる根拠を俺は持っていない」

 

その口から出たのは謝罪の言葉。

サンジは少し驚いた後、右手を差し出す。

 

「無謀は承知の上だ。 笑われるのには慣れっこだ。」

 

握手で答えるゼロ。

こうしてこの対決は一応の決着を見せた。

 

 

 

 

それから数日後…。

 

「これは“ダイヤル”といって衝撃や音を吸収するんだ」

「ほう、それは興味深いな…。」

あの対決の後、ゼロとクルー達の関係は少しの変化を見せた。

ウソップとは、メリー号の掃除を通して、少しずつ会話ができるようになり、

今ではお互いの冒険談を話せる間柄になった。

「褒めたってなにもでないぞ!このヤロー」

「チョッパーよ…お前は卓越している。 

 優秀な人…いや、トナカイだ!」

 

喋る狸…もといトナカイで医者であるチョッパーとも

医学の知識を通じて交流し始めた。

「C.C.ちゃ~ん。デザートができたよぉ!」

…奴は相変わらずだが、食事が改善されたことには感謝をしていた。

船長である“麦わら”のルフィは船首の部分で昼寝をしている。

“海賊狩り”のゾロは自慢の刀の点検をしている。

今日もいつもと変わらない一日が過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月が海面を照らす。今日は満月だった。

ルルーシュは一人、外に出て暗い海を眺めていた。

こんな夜にアイツと出会った…。

ロロ・ランペルージ…我が「弟」に。

 

 

 ゼロ…あなたを殺しに来ました。

 

 

一瞬で惨殺される団員達。月明かりの下でその手に持つナイフが鈍く光る。

ブリタニアの暗殺者、ロロ・ランペルージ。

もしも、”ギアス”の能力が知られていたら、間違いなく殺されていた。

ロロは体感時間を止めることができる「トキトキの実」を食べた「時間人間」だった。

 

 

 お前は俺の弟になれ!!

 

 

それがロロにかけたギアスだった。より優秀な「駒」として側に置くために…。

海軍から俺を救出に来たのはロロとC.C.だった。

その顔色はひどく青ざめていた。ここに至るまでに能力を使い続けたのが一目でわかった。

ロロの能力の欠点。

それは 能力の使用中は心臓が止まるというものであった。

高すぎる能力の代償。

連続使用の帰結は確実な“死”だった。

 

「もうやめてくれロロ!俺はお前を利」

 

 

  …停止!!(キュイーン)

 

 

「用して、お前は俺の弟なんかじゃ」

 

 

  …停止!!(キュイーン)

 

 

気がついた時にはボートの上だった。

ロロの顔色はその運命を告げていた。

 

「すまない…ロロ。俺はお前を…。」 

「知ってたよ…兄さんは…嘘つきだから…。」

 

俺の言葉を遮り、ロロは命の炎を燃やした。

 

「兄さんの…ことなら…なんでもわかる…僕は兄さんの…弟だ・か・・ら」

暗い海面にロロの最後の顔を映る…笑顔だった。

麦わら達に助けられた後、ロロの遺体をC.C.と二人で海に返した。

ほぼ面識がなかったロロとC.C.が救出チームを組んだ過程は C.C.の記憶が戻らない限り永遠にわからないだろう。

でも、こんな夜にはロロ…自分の「弟」を思い出さずにはいられなかった。

 

  そうだよな…お前はルルーシュ・ヴィ・ブリタニアではなく

  ルルーシュ・ランペルージの弟だもんな…。

 

 

少し強い風が吹き抜けた。

船内に戻ろうとした直後、足が止まる。

「あなたも月を見に来たの?“ランペルージ”君」

 

「…ニコ・ロビンか。」

 

そこに立っていたのは長身の女、ニコ・ロビンだった。

別名“オハラの悪魔”多くの海賊を裏切り、生き延びてきた女だ。

「…。」

 

悟られないように距離を取る。

この一味でこいつだけが知っている。

こいつだけが気づいていた…自分が何者であるかを。

「警戒するのは無理もないわね…。」

 

その場に立ち止まり、月を眺める。

「でも、あなたが何者であれ…彼らはきっとあなたを

迎え入れてくれる。きっと…。」

 

「では、お前にはそれができたのか?“オハラの悪魔”よ」

 

“オハラの悪魔”その言葉を聞いて沈黙するロビン。

 

 

  そうとも!出来るはずがない…。ほんの少し甘さを見せた結果、

  俺は 騎士団を追われた。

  弟を失い、妹を危機に晒しているッ!

 

 

「今はまだ…でも、いつかきっと…。」

 

 

  騙されるな!甘さを捨てろ!そうしなければ取り返せない!ナナリーを

 

 

ロビンは目に何も付けていなかった。

「ギアス」は一度しか効かないという言葉を信じたのだろうか?

だが、それは“以前”までの話だ。それとも、信頼の証だろうか?

(それは“甘さ”だよ…。)

 

仮面の下でルルーシュの「両目」が赤く光る。

後は仮面の細工を作動させるだけだ。

 

「…!?」

 

ロビンの表情が変わる。“気づかれた!?”一瞬そう考えた。

しかし、それは間違いだった。

ロビンの視線は月を捉えていた。

振り返り、月を見る。

その中から人影が浮かび上がる。

「やっと…見つけたッ!!ルルーーーーシューーーーーーーッ!!」

 

 

 

 

―――刹那、月が赤く映えた。

 

 

 

 


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