ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

28 / 37
反逆の終わり

 

神聖ブリタニア帝国の日ノ本への武力侵攻。

日ノ本の降伏によりブリタニアの支配エリアに新たな数字「エリア11」が刻まれた。

全てあの日から始まった。

あの日から一人の少年の心に生まれた反逆の灯は、消えることなく燃え続けた。

何度となく、踏みにじられようとも、灯は不死鳥の如く蘇り、再び輝いた。

いつしか灯は、闇の中でさまよう人々にとっての道しるべとなる。

そして、灯は時代の風に乗り、その勢いを強め、ついにエリアを照らす太陽となった。

 

 

始まりは、小さな少年が心に抱いた反逆だった。

始まりは、一介のテロリストの反逆だった。

 

 

敵は、神聖ブリタニア帝国。

世界政府屈指の大国。この海域最大の軍事帝国。

帝国の総兵力は、60万超。

その頂点に君臨するは“ナイト・オブ・ラウンズ”。

各自が、海軍中将と同等の実力を有しており、

その頂点たる“ナイト・オブ・ワン”の力は、あの“鷹の目”のミホークと肩を並べる。

 

絶望的な戦いだった。

何度となく、敗北し、何度となく、挫折した。

多くの犠牲を出した。

多くの戦友を失った。

 

だが、それでもあきらめなかった。

歩みをやめることはなかった。

 

小さな少年が心に抱いたものは最初は細波のような感情だった。

だが、それは、いつしか、時代を巻き込む大きなうねりとなった。

 

 

全ては、あの約束のため。

全ては、死んでいった仲間のために。

 

 

あきらめる事なき歩みは今日、ついに終着を迎える。

 

 

 

 

 

 

「…馬鹿な」

 

神聖ブリタニア帝国・宰相シュナイゼルは、憎悪に瞳を染め、吐き捨てるように呟いた。

飛行艇のある中庭に、海軍の新兵に誘導されたシュナイゼルが見たものは、

飛行艇の前で、自分に銃を向ける数人のブリタニア兵の姿だった。

銃を持った兵士達の顔には、感情がなく、その瞳は薄っすらと赤く光っていた。

 

 

“ギアス”

 

 

人の意思を操る絶対遵守の魔眼。

それにより、ブリタニア兵達が操られているのは、明白だった。

 

 

扇のクーデター

10万の連合軍

異例とも言える3人のラウンズの派遣

世界政府CP9への暗殺依頼

 

 

何度となく、チェックをかけられた。

一度は“チェック・メイト”になった。

だが、その投了は覆され、反逆の灯は再び光り輝いた。

 

シュナイゼルの眼前で銃を構える操り人形たち。

 

 

 

 

それは内戦を通して、ブリタニアにかけられた初めての“チェック”

 

 

 

 

全てはあの日から…一人の少年の歩みから始まった。

 

あの始まりの日に、小さな少年の胸の中で生まれた反逆は、

多くの犠牲を出しながらも、多くの仲間の思いに支えられ、

数多の困難を打ち破り、襲い来る絶望を跳ね除けた。

 

 

 

そして、その抗いは…ついに――神聖ブリタニア帝国の盟主の前に辿りついた。

 

 

 

 

 

「――クッ!」

 

シュナイゼルは即座に銃口を車椅子に座るナナリーに向ける。

車椅子を押していた新兵は、それを目にして、手を上げながら震える。

その状況を前に、操られたブリタニア兵達は、何の反応もせずに、

ただ、目に薄っすらと赤い光を浮かべている。

 

(…ブリタニアとの決戦に備え、予め“ギアス”をかけていたというのか?)

 

操り人形と化したブリタニア兵達を睨みながら、シュナイゼルは考察する。

 

売国奴の扇の裏切りにより、その全貌を掴んだゼロの能力“ギアス”

だが、いくら対策を打ちたてようが、それ以前にかけられたならば見つけようがない。

ゼロが、ブリタニアとの決戦に備え、何人かのブリタニア兵に“ギアス”をかけていた。

それが、この第二次“ブラック・リベリオン”を条件のクリアとして発動した。

なるほど。それなら合点がいく。

 

――だが、それならば、どのような手段を用いて彼らを動かしているのだ?

 

操り人形には、それを糸で操る操者が存在する。

操者をゼロとするならば、糸はどこだ?何を使い、彼らを操っている?

 

状況を即座に見極め、シュナイゼルは、ブリタニア兵達を凝視する。

すると、右にいるブリタニア兵が持つものから、

小さな異音がしていることに気づく。

ブリタニア兵に手には、何か貝殻のようなものが握られていた。

“ジ、ジジ”とかすかに機械音がする。

シュナイゼルは注意深く、それを見つめる。

 

すると、そこから、あの男の声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「シュナイゼル…ジ…お前の…ジジ…負けだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バァン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声を聞くや否や、シュナイゼルは、貝殻のようなものを握るブリタニア兵を銃撃した。

シュナイゼルは、銃口を再びナナリーに向けると警戒しながら、

銃撃されたブリタニア兵の死体から貝殻のようなものを抜き取る。

それに対して、操り人形と化したブリタニア兵達は、シュナイゼルに銃口を向ける

ことを継続するも、発砲する様子を見せない。

相変わらず、心ここにあらずといった様子で、目に赤い光を浮かべている。

 

 

 

「…いや、私の勝ちだ。ルルーシュ皇子」

 

 

 

 

拾った貝殻に向かってシュナイゼルはそう言った。

その顔に、あの“変わらぬ微笑”を浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

(これが糸の正体か…貝殻の形はしているが、電伝虫と同じ通信機と考えて間違いない)

 

心の中でそう呟きながらシュナイゼルは笑う。

 

 

 

  黒の騎士団には“ラクシャータ”という天才科学者がいる。

  このような携帯型の電伝虫を開発していたとしても不思議ではない。

  ゼロは、この通信機から、操り人形達に命令を下していたわけだ。

 

 

 

「残念だったねルルーシュ皇子。この通信機は今、私の手にある。

 君が、この操り人形に命令を下すのはもはや、不可能だ。

 フフフ、君は今、麦わらと一緒に逃亡の最中のはずだ。

 その状況の中、このような“チェック”をかけてくるとは。

 君には驚かされてばかりだよ、ルルーシュ皇子」

 

 

 

  正直危なかった。

  私以外のブリタニアの要人達なら…

  あの国務大臣をはじめとする臆病者どもなら

  “チェック・メイト”になっていただろう。

  だが、私には、極めて高い勝算があった。

  ゼロは、今、海の上にいる。

  そのために、こちらの状況は会話や音から推測するしかない。

  私の突然の銃撃に対して、即座に対応できないはずだ。

  もちろん、その対策として、この人形達に予め命令しておけば、

  私を銃殺することはできるだろう。

  だが、ゼロにそのリスクをおかすことはできない。

  

  なぜなら――

 

 

 

「ジ、ジジ…ナナリーを…ジ…離せ」

 

鈍い機械音の後、貝から再びルルーシュの声が聞こえてきた。

 

 

 

  そうだとも。

  万が一、ナナリー様が銃撃戦に巻き込まれる危険がある以上、

  ゼロにそのような命令ができるはずがない。

  フフ、役立たずの“クイーン”が最後の最後で役に立ったという訳か。

 

 

 

「そう、ナナリー様は今、私と共にいる。

 彼女の命は私と共にあるといってもいいだろう。

 ところで、ルルーシュ様、私が送った“ゲスト”とはまだ会っていないようだね」

 

「ジ…ジジ…ジ」

 

返答はない。ただ機械音のみが聞こえる。

 

 

“最強の暗殺者”ロブ・ルッチ。

 

 

配置から考えれば、すでに麦わらの一味とゼロを急襲しているはず。

だが、未だにゼロが健在ということは、何かアクシデントがあったか…。

シュナイゼルは、そう思案していると再びルルーシュの声が聞こえてくる。

 

「ジジ…哀れだな…ジ…シュナイゼル」

 

「クッ…!」

 

貝殻から発せられたその言葉には侮蔑の感情が込められていた。

 

 

 

 

 

神聖ブリタニア帝国。

世界政府屈指の大国。総兵力60万の頂点に君臨し、宰相の地位に座るシュナイゼル。

あろうことかその地位にいる人間が、まるで強盗が人質をとると同じように

現、ブリタニア皇帝であるナナリー・ヴィ・ブリタニアに銃を向けている。

そしてその皇帝は、車椅子に座るか弱き少女。

なんと、醜悪な光景だろう。

ルルーシュの短い言葉でそれを指摘されたような気がして

シュナイゼルのプライドは傷つけられた。

 

「…何とでも言えばいい。

 仮にあなたが勝ち、私が敗れるならば、

 それは、すなわちブリタニアの滅亡を意味する。

 私は帝国宰相として、それを許すことはできない。

 私の敗北はブリタニアにとっての死だ。

 ならば、ブリタニア皇帝であるナナリー様に

 その責任の一端を引き受けていただく。

 ルルーシュ皇子。これは脅しではない」

 

シュナイゼルは改めてナナリーに銃口を向ける。

盲目のため、現状を視認できないが、会話の内容を聞き、

ナナリーは、不安そうな表情を浮かべる。

海軍の新兵は、ナナリーから少し離れ、頬に汗を流している。

 

「ジジ…シュナイゼル…ジ…お前は負けたんだ…俺達、黒の騎士団に」

 

「黒の騎士団…彼らの命運はあと少しで尽きるだろう。

 ルルーシュ皇子、あなたも逃がしはしない。

 追っ手はブリタニアだけではない。世界政府と海軍本部を動かす。

 あなたの敵は、この陸と海の全てだ。

 あなたが安心できる場所など世界のどこにもない。

 あなたに“明日”など来ない。

 さあ…茶番は終わりだ。

 ルルーシュ皇子、この操り人形どもを下がらせてくれないか。

 ナナリー様の身に万が一のことはあってはいけない」

 

「ジ…ジジ」

 

シュナイゼルにとっては、それは最後の通告だった。

ゼロからの最後の“チェック”をかわした。

ゼロには、もはや打つ手はない。

あとは自分達が、飛行艇で脱出するだけだ。

目の前の操り人形を一掃させた後、それを行えばいい。

 

 

 

 

――だが、

 

「シュナイゼル…ジ…お前の…ジジ…負けだ」

 

再びルルーシュは挑発を続けた。

それに対して、シュナイゼルは苦笑した後で、

少しイラつきながら、喋り返した。

 

「あなたにしては、飲み込みが悪いな、ルルーシュ皇子。

 あなたにできる“チェック”は、もはやない。

 さあ、早くこの操り人形に――」

 

「ジ、ジジ…ナナリーを…ジ…離せ」

 

「…ナナリー様は、ペンドラゴンまで私に同行してもらう。

 もはや、君にできることは何も――」

 

「ジジ…哀れだな…ジ…シュナイゼル」

 

「…くどい!あなたの負けだ!

 何度同じことを言わせれば――」

 

「ジジ…シュナイゼル…ジ…お前は負けたんだ…俺達、黒の騎士団に」

 

 

 

 

―――!!?

 

 

 

 

 

その瞬間、違和感がシュナイゼルを包み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シュナイゼル…ジ…お前の…ジジ…負けだ」

 

 

――違う。同じことを言っているのは、ゼロの方だ。

 

 

シュナイゼルは貝殻の形をした通信機を見つめる。

 

「ジ、ジジ…ナナリーを…ジ…離せ」

 

 

――これは、“通信機”ではない。まさか…これは…

 

 

「ジジ…哀れだな…ジ…シュナイゼル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――これは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            

              “ 録音機 ”!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュナイゼルの“変わらぬ微笑”が消えた――その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「なッ!?」

 

まるでそれを合図とするかのように、海軍の新兵が、

シュナイゼル達を案内し、先ほどまでガタガタと震えていた

あの海兵が、シュナイゼルに向かって突進してきた。

 

「――クッ!」

 

驚愕により、反応が遅れたシュナイゼルは慌てて海兵に向けて引き金を引く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バァン!バァン!バァン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「き…貴様」

 

数発の銃弾が空に向かって発射された。

シュナイゼルの右腕は、海兵の両手によってがっちりと掴まれている。

銃口は、完全に空に向けられて、海兵にも、人質のナナリーにも銃口を

向けることはできない。

 

「くッ!」

 

シュナイゼルは空いている左腕で、海兵の顔面を払う。

両手を使っているために海兵はそれをまともに喰らう。

「Marine」の帽子が空を飛び、黒い頭が露になる。

 

その黒い頭が――次の瞬間、そのまま、シュナイゼルの顔面に突っ込んできた。

 

 

 

――ガッ!!

 

 

 

「グッ!?」

 

額と額が激突して、互いの額から鮮血が飛び散る。

 

(頭突きだと――!?なんと野蛮…!)

 

名門貴族として生を受け、帝国宰相まで上り詰めたシュナイゼルには

およそ想像もできない路上の荒業。

そのような野蛮な所業を行ったこの賊をシュナイゼルは憎悪の瞳をもって睨む。

 

だが、次の瞬間、シュナイゼルは絶句した。

額と額が触れるほどの距離で目の当たりにしたその男は、

このブリタニアにおいて、最も高貴な人間だった。

 

 

 

 

「あ、あなたは――」

 

 

「シュナイゼル…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            “ゼロ”に従え!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュナイゼルがシュナイゼルとしての人生で最後に見たもの。

 

それは、魔王の“赤い瞳”だった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼ…ロ…麦わ…らを…おと…り…に…」

 

それを最後の言葉に、シュナイゼルは銃を落とし、その瞳に赤い光を帯びる。

 

 

 

第二次“ブラック・リベリオン”の開幕を飾る麦わらの一味の“ゼロ救出劇”

 

 

処刑場から脱出するメリー号とその羊頭の上に立つゼロの姿。

 

それを合図として、黒の騎士団とブリタニアの両軍が激突した。

ここにいる全ての人間は“ゼロと麦わらの一味の逃亡”を前提として動き出した。

それは、カレンも、C.C,も、シュナイゼルとて例外ではない。

だが、処刑場から離れゆくメリー号から、一人の男が飛び降りたのを

目撃した人間は、何人いるだろうか。

 

それを目撃した黒の騎士団の団員は、必死で刀を振るい、そのことを

頭の中から消していた。

それを目撃したブリタニア兵は、数分後、戦場の躯と化していた。

「ゼェゼェ」といいながら、陸に辿りついた上半身裸の男は、

近くにいたブリタニア兵に向かって

 

「死ね!」

 

そう暴言を吐いた。

それを聞いたブリタニア兵は、その男に銃を向けず、自らの頭を打ち抜き即死した。

男は、ブリタニア兵の服を奪うと、ブリタニア兵に成りすまし、戦場を巧みに駆け抜ける。

海軍基地の前を守るは、あのブリタニア本隊から派遣されたナイト達。

その男は、彼らに向かって

 

「我に従え」

 

そうわめき散らす。

すると、ナイト達は、熱に浮かされたように、海軍基地を案内する。

大広間に辿りついた男は、5番隊の団員の死体とナナリーの車椅子を見て、

即座に状況を理解する。

男は“空島”の音を吸収する"音貝”(トーンダイアル)という貝殻に、

何か吹き込むと、ブリタニア兵達に渡して、中庭に向かわせる。

そして、男は、海兵を見つけると

 

「さっさと脱げ!」

 

と殴られても仕方がない台詞を浴びせた。

しかし、それを喜び聞き入れる海兵。こうして男は海兵に成りすました。

そして、男は、海兵としてシュナイゼルを案内し、その時を待った。

 

その時を…一瞬の隙を…シュナイゼルが録音機に気づき、

あの“あの変わらぬ微笑”が消える瞬間を――

 

 

 

“ルルーシュの哲学の1つに、「王、自ら動く」というものがある”

 

 

 

 

“魔王”ゼロ

 

 

 

 

その賞金総額"2億6000万"ベリー

 

 

 

 

 

麦わらの一味が行った歴史に残る大救出劇。

ルルーシュは…“魔王”ゼロは、あの土壇場において、

 

 

 

助けに来たメリー号と自らの仮面とマントを“囮”にして

 

 

 

自らの手で…シュナイゼルを…討ちに来た――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い目をして呆然と立ち尽くすシュナイゼルの横を抜けて、

ルルーシュはナナリーに向かって歩き出す。

 

「遅くなってすまない。ナナリー…もう大丈夫だ」

 

「あ…」

 

そう言って、ナナリーを抱きしめる。

事態が飲み込めず、ナナリーは驚きの声を上げた。

だが、すぐにルルーシュを抱きしめると、肩を震わせ泣き出した。

 

「うう、お兄様…。お兄様――」

 

 

 

 

 

ナナリー・ヴィ・ブリタニア。

 

神聖ブリタニア帝国の現、皇帝である彼女は、今日、自決することを心に決めていた。

“魔王”ゼロ。兄であるルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの首が落ちたその瞬間に

隠し持った毒薬を用いて兄の後を追うつもりだった。

その毒薬は革命軍時代に手に入れ、今日に至るまで所持していたもの。

それは、覚悟の証明。

それは、シュナイゼルのような奸臣に己が運命を弄ばれることを

是とせぬ皇族としての意地ではなく、

 

己が命は兄と共に――そう決意していた小さな海賊の誓いだった。

 

だから、死ぬことなど怖くはなかった。

最愛の人と離れ離れとなり、この残酷な世界に一人取り残されること。

ただ、それだけが恐ろしかった。

 

しかし、その運命は麦わらの一味の登場により、再び流転する。

ブラック・リベリオンがはじまり、暗闇の中で響くは、悲鳴と銃声。

何者かに車椅子を倒された後、

自分の手を握るは、ブリタニアを略奪せんとする奸臣の冷たい手。

およそ常人では、発狂死しても不思議ではない恐怖の中、

彼女を支えていたものは何であったのだろうか。

母を殺され、父に捨てられた残酷な運命。

祈る神すらいないこの世界において、それでも尚、

ナナリーには信じられるものがあった。

 

兄は…ルルーシュは必ず自分を助けに来てくれる――

 

それだけがナナリーを支えていた。

だから、海兵に扮したルルーシュに手を握られた時には、思わず泣き出しそうになった。

 

 

 

「お兄様・・・!うわ~んお兄様――」

 

 

 

そして今、ナナリー・ヴィ・ブリタニアは、皇帝から

ただの十七歳の可憐な少女に戻り、人目を憚らず泣き出した。

堰を切ったように。大きな声を上げて。

 

ずっと怖くて。

本当に嬉しくて。

 

 

「すまない。ナナリー。遅くなって…」

 

 

そう言ってルルーシュはナナリーを抱きしめる。

 

強く。

 

優しく。

 

いつまでも。いつまでも――

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。