ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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勝利の女神

 

 

反ブリタニアを掲げる全て者の希望たる“黒の騎士団のエース”

対するは、神聖ブリタニア帝国の頂点の一角“ナイト・オブ・テン”

両雄が戦場の中心で激突しておよそ数分の刻が経過した。

その時間経過における両軍の情勢に変化はなかった。

圧倒的な数で迫るブリタニア軍に対して、黒の騎士団は決死の覚悟をもって抗う。

戦局は一進一退を繰り返している。

だが、この数分の間に、相変わらずの狂笑と絶対の自信からくる余裕を崩さぬ

“吸血鬼” ルキアーノ・ブラッドリーに対して、

零番隊隊長“紅月”カレンの表情は、焦りと共に深い疲労の色が滲んでいた。

 

カレンは思う。

親衛隊長として、ゼロを守り“紅月”の二つ名を背負い戦ってきたこれまでの

自分の覚悟は決して軽いものではないという自負はある。

あの誓いも誇りも偽りなど何一つないと胸を張って言える。

 

――だが、“黒の騎士団のエース”この言葉は…称号はなんと重いのだろうか。

 

それは、文字通り黒の騎士団の命運を背負う者だ。

いや、それだけではない。この戦場には、黒の騎士団を援護するレジスタンス達。

そして、ゼロの処刑を立会いに来た日ノ本の多くの民間人達がいる。

この戦場において、黒の騎士団が敗北することがあるなら、ブリタニアの牙は

彼らに向かうことは想像に難くない。

 

“経済特区日ノ本における虐殺”

 

日ノ本の再統治の大義名分の下、あれを上回る虐殺が起きるかもしれない。

それを阻止できるか否かは、私達、黒の騎士団の働きにかかっている。

この戦場における勝利にかかっている。私の勝利にかかっている。

そのためには、目の前の敵――“ナイト・オブ・テン”。

“吸血鬼”と呼ばれるこの悪鬼を倒さなければならない。

ブリタニアの力の象徴“最強の12騎士”を倒すことができれば、

この戦場の流れは一気に騎士団に傾く。

圧倒的な戦力差を覆る起爆剤になることができる。

だから何としても私は勝たなくてはならない。

 

なのに――

 

「クハハハ!」

 

「クッ――」

 

ルキアーノの盾が開き、数本のナイフが回転しながら発射させる。

カレンは、側転しながら、辛くもそれを避け、息で肩を弾ませる。

その単調な攻防がこの数分間を占めていた。

 

突破口がまるで見出せない――

 

それが、ブリタニアを恐怖させた黒の騎士団最強の戦士の偽らざる本心だった。

ルキアーノに接近できたのは、ファーストコンタクトの一度きりだった。

輻射波動を叩き込もうと接近するカレンに対してルキアーノが取った行動は

あの黒の騎士団の団員5人を瞬殺した回転する特殊なスピアによる斬撃だった。

自分の横腹に襲い来るスピアを後方に飛んでかわしたカレンは

空中で輻射波動の赤い波動を放った。

その波動を浴びたものは沸騰し、爆発し、消滅する。

過去、何人たりも防ぐことはできなかった悪魔の業火。ブリタニア兵の恐怖の象徴。

それが、ついに、ブリタニアの頂点に襲い掛かる。

だが、ルキアーノの狂笑は崩れることはなかった。

襲い来る輻射波動の赤い光の中で、その狂笑はよりいっそう高鳴っていく。

ルキアーノは巨大な盾を構えた。そして盾が振動した瞬間。

 

 

輻射波動が弾かれた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クハハハ!」

 

そして戦いは今に至る。

あれから、盾から繰り出されるナイフの連射により

近づくことすらままならない。

輻射波動はあの特殊な盾に弾かれてしまう。

仮に、接近できてもあのスピアが待っている。

打つ手なし――ただその一言に尽きる。

カレンの攻撃は、輻射波動を要とする。

 

悪魔の実――ゾオン系幻獣種モデル“紅蓮”

 

それの悪魔の力をベースとして、

我流の体術とレジスタンスのナイフ術を加えることで、

零番隊隊長としてのその名をブリタニア海に広めてきた。

だが、今その力は、目の前の敵には…“ナイト・オブ・テン”には効かない。

 

 

  確認する。お前が“黒の騎士団のエース”だな?

 

 

先ほどルキアーノが述べた台詞が頭を過ぎる。

あの言葉の真意は、この輻射波動の対策を実行するための確認。

帝国最高戦力である“ナイト・オブ・ラウンズ”は、各自が海軍の中将

レベルの力を有していると聞く。

この男には、それに相応しい戦闘技術と狂気…いや用意周到さがある。

そうだ。この狂笑は、あくまでこいつの一部でしかない。

その本質は、蛇のような周到さにこそある。

10万の連合軍という状況の中で、こいつだけがブリタニアにおいて

私と戦う準備をしてきた。それも完璧に、かつてないほどに。

 

その思考の最中、ルキアーノの盾から再びナイフが発射される。

 

「ハハハ、どうしたイレブンのエースよ~」

 

カレンは再び辛くもナイフをかわす。

ナイフは腕や頬をかすめ、そこから血が滲む。

 

「はあ、ハア」

 

現在できることはただ逃げるだけ。

輻射波動を展開させ“盾”として使用することはできるが、

それでは、その場に釘づけにされ、長期戦を余儀なくされる。

それは、カレンにとって、いや黒の騎士団にとって最悪の選択と言っていい。

カレンには、砂時計から流れる一粒一粒がまるで団員の命のように感じる。

この戦局は、団員達の覚悟で…命によって維持されているといっていい。

故にこそ、その一秒一秒は、計り知れないほど重く、

カレンに長期戦という選択を選ばせることを許さない。

 

ラウンズの“瞬殺”

 

“黒の騎士団のエース”に課せられた使命はただそれに尽きる。

だが、ルキアーノは、その現状を見抜き、決して接近を許さない。

意図的に長期戦に持ち込み、カレンのミスを笑いながら待っている。

そして、輻射波動を封じられたカレンに、打つ手はない。

 

黒の騎士団と民衆の命運。そして、この絶望的な状況。

 

わずか、数分でカレンの疲労はピークに達した。

 

ナイフを避けながらカレンはふと思う。

同じラウンズの椅子に座りながら、この悪鬼はあいつとこうも違うのか、と

 

アイツと…“ナイト・オブ・セブン” 枢木スザクと。

 

日ノ本人でありながら、ゼロ討った売国奴“裏切り”のスザク。

海軍の中将にして、ブリタニアの“ナイト・オブ・セブン”。

 

大嫌いだった――

 

全ての言葉は鼻につく。全ての言葉が偽善に聞こえた。

 

だが、戦いだけは違った。

何度となく戦った。その全てにおいてあいつは真っ向から向かってきた。

輻射波動を恐れることなく、堂々と正面から。

肩書きも称号も関係なく、一人の戦士として。

 

大嫌いな男だった。最悪の敵だった。

だけど、その戦いに向かう在り方には尊敬の念を持てた。

もし、この場にいるラウンズがあいつならば、すでに決着はついていたに違いない。

どちらが地に倒れているかはわからないけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフ…らしくなかったわね」

 

「ん?」

 

疲労とあせりを浮かべていたカレンの顔に突如笑みが戻る。

それを、ルキアーノほ、笑みを浮かべながらも訝しそうに警戒する。

 

(背負うことでそれに囚われてどうする。今までどう戦ってきたかを思い出せ)

 

カレンは息を整える。

今までの戦いを生き抜いてきたのは、緻密な戦略や戦術ではない。

そんなものは全てゼロに任せ信じてきた。

自分が生き残れたのは、本能からくる機転、ただそれだけだ。

たしかに、この吸血鬼には、“普通”の輻射波動は効かない。

だが、自分の勘が…本能が教えてくれる。

アレを使うならば、奴の狂笑を止めることができると。

逃げ回る間に、接近する方法も考えた。

だが、それを躊躇していたのは、絶対に負けられないというプレッシャーのため。

その作戦は、成功率2割をきる。

 

成功率――その言葉にカレンは内心苦笑する。

 

 

  私は、何を躊躇していたのだろうか。

  これから起こそうとしてるのは“奇跡”だ。

  その前に確率を気にするなんて。

  2割…高すぎるくらいだ。

  それに…たとえ0%だろうと私は死なない。

 

 

 

 

 

     …カレン、君は生きろ!

 

 

 

 

 

  そう命じられたから。

  だから、私は絶対に死なない。

  もう一度、アイツに会うまでは!

  

 

  “黒の騎士団のエース”

 

  その名を背負え!その名に囚われるな!

  さあ、行こう――

 

 

「ッ!?」

 

盾からのナイフの連射を避けきったカレンが次にとった行動に

ルキアーノは少し驚いた。

側転から体勢を戻したカレンが、輻射波動を除けば自分の唯一の

武器であるナイフをルキアーノに向かって投げ放ったのだ。

巨大の盾と全身を鎧で固めたルキアーノに、

投擲など意味をなさないのは、誰の目にも明らかであった。

ルキアーノの向かって飛んでいったナイフは大方の予想通り、

ルキアーノが掲げた盾に阻まれ、“カツーン”と頼りない音をたて

地面に落下した。

それは、万策尽きての苦し紛れの行動だろうか。

ルキアーノが盾を掲げ、ナイフが地面に落ちるまで、約1秒。

だが、それこそが、カレンの狙いだった――

 

「チッ」

 

ルキアーノが盾を掲げたわずかの時間。

その時間を最大限に利用して、

カレンはルキアーノに向かって駆け出した。

カレンは走る。左右ジグザグに跳躍しながら――

 

「馬鹿が――!」

 

盾が開き、ナイフがマシンガンのように回転しながら発射される。

その中をカレンは疾走する。

左右に跳躍しながら、さらにスピードを上げて。

だが、それでも、全てのナイフを避けることはできない。

最初の一本は左肩に突き刺さった。

焼けるような熱を感じた。

次のナイフは、右の太ももに突き刺さった。

肉が抉られる感覚と共に激痛が走る。

それでもカレンは、走ることを止めない。

痛む足に力を入れ、頬を掠めるナイフに怯むことなく突き進む。

 

そしてついにナイフの暴風を、

最初の障壁を抜け…ルキアーノの懐に飛び込んだ――

 

「クハハ――ッ!」

 

しかし、それは、ルキアーノにとって予想通りの展開。

ファースト・コンタクトを再現するかのように、

特殊なスピアが回転しながら、カレンの左脇腹に襲い掛かる。

これこそが第二の障壁。

黒の騎士団の団員達を一瞬で葬り去った凶器。

回転させることで、相手の武器ごと弾き飛ばす吸血鬼の魔剣。

それが、まさに、今、カレンに向かって襲い掛かかる。

 

「!?ッ――」

 

このスピアの斬撃を受けた者は例外なく吹き飛ばされる。

その衝撃により、最悪、胴体は二つに分かれ、無残な遺体を

戦場にさらすことになる。

だが、今、起こっていることは、そのどちらでもなかった。

カレンは吹き飛ばされることもなく、

また、その胴体が二つに分かれてもいなかった。

スピアはカレンの左脇腹で止まり、回転を続けている。

その接触部において火花を出しながら。

 

鞘から半分ほど抜かれた刀が、スピアの斬撃を止めていた。

カレンは、左腰に隠していた刀を逆手で抜刀し、スピアの斬撃を防いだのだった。

その刀は、本来の刀より、少し短い“小太刀”と呼ばれるもの。

 

 

 

世界に名を成した良業物50工が1つ――“月下”

 

“四聖剣” 卜部巧雪の愛刀であった。

 

 

 

 

黒の騎士団の団員達が所有する武器の多くにはある特色があった。

それは、その武器の本来の持ち主は、戦死を遂げているという事実である。

亡き戦友の武器の活用は、資金が乏しく、武器確保が困難なためという

貧弱なレジスタンスのまさに苦肉の策から始まった。

だが、いつしか、それは、亡き友の意志を受け継ぐ団員達の覚悟に変わっていった。

卜部の意志を継いだカレンが継承したのはその愛刀“月下”

世界に50工しかないその名刀は、その所有者の意志を体現するかのように、

今、まさに襲い来る吸血鬼の魔剣から仲間であるカレンを守ったのだった。

 

「ウアアアアアアァーーーーーーッ!!」

 

カレンは雄たけびを上げながら、

その手に力を入れ、全力で“月下”を引き抜いた。

 

火花が弾ける。

 

次の瞬間―――スピアが真っ二つに切り裂かれた。

 

「グッ!!」

 

多くの敵の血を吸ってきた己が魔剣の最後に吸血鬼は絶句する。

逆手で抜刀された“月下”は太陽の光に当てられ美しく輝く。

そして直後、その輝きを最後に、“月下”はまるで役目が終えた

かのように粉々になって砕け散った。

 

その砕けた白刃に、卜部の笑顔が写った…そんな気がした――

 

(…ありがとう。卜部さん)

 

その刹那の中、第二の障壁を越えたカレンは、前に踏み込み、

最後の障壁である盾を掴んだ。

その盾は、対“輻射波動”専用に特殊コーティングされたもの。

何度も輻射波動を跳ね除けた最大の障壁だった。

 

(盾を奪うつもりか!?このマヌケが―――ッ!)

 

そう心の中で絶叫しながら、

盾を掴まれたルキアーノは、盾を持つ手に力を込める。

盾を奪おうとするカレンをそのまま盾ごと圧殺するつもりだ。

 

だが、カレンは盾を持つ手を動かそうとしない。

何かに集中するかのように一瞬、目を閉じて、静かに開いた後…

 

叫んだ―――

 

 

 

「輻射波動“全解放”―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      “ 紅蓮 ”!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、カレンの右手から膨れ上がった輻射波動の赤い波動が

巨大な幻獣の形となり、再び、カレンの右手に収束していく。

その右手は黄金色に輝く。

 

そして―――

 

 

 

“ジュワア”

 

そんな擬音と共に、あの特殊な盾の一部が溶け出した。

 

「なッ!?」

 

盾の裂け目からカレンと目を合わせたルキアーノは驚愕する。

 

「ハアアアアアアァーーーーーーッ!!」

 

気合と共に、カレンは最後の力を振り絞る。

盾は半分とけながら、縦に焼き裂かれた。

 

「チッ!!」

 

盾を離したルキアーノは後ろに跳躍する。

このまま逃す手は、カレンにはない。

前足に力込め、全身でルキアーノに飛び込んでいく。

右手には輻射波動の赤い光が帯びる。

それが、ルキアーノの顔面に向けて伸びていく。

 

「これで――」

 

勝利を確信したカレンは叫んだ。

だが、死を前にしてルキアーノの表情は変わらない。

いや、それどころかその顔に再びあの“狂笑”が戻る。

 

「ああ…終わりだ――」

 

 

 

“ゾクリ”

 

 

 

その刹那、カレンの全身を悪寒が駆け抜けた。

刹那の時間、全ての動きがスローモーションに感じられる。

自分の右手に悪魔の業火が迸り、それが、ルキアーノに向かって伸びていく。

だが、それと交差するかのように、ルキアーノのユニコーンを模った兜の角が

カレンの額に向けて発射された。

 

(隠し武器!?)

 

それは、ルキアーノが追い詰められた時を想定した奥の手。

盾を手放し、後ろに跳躍したのも、全ては罠。

全ては、この武器で仕留めるためのものだった。

空中でルキアーノに向かって全身を伸ばしているカレンに

この奥の手を避ける術はない。

ゆっくりとカレンの額に向かっていく吸血気の最後の牙。

 

 

“死”――!?

 

 

刹那、カレンがそれを覚悟した瞬間だった。

 

 

――“ガッッン”!!

 

 

衝撃音と共に、隠し武器は、カレンに突き刺さるまさにその前に、弾け飛んだ。

 

「え!?」

 

「なッ!?」

 

己が死を覚悟したカレンも、己が勝利を確信したルキアーノも同時に驚きの声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ――」

 

状況がわからずも再びルキアーノは、後ろに跳躍する。

今目の前にいるのは、ブリタニアを恐怖させた“赤い月”

その悪魔の業火から逃れるために、ルキアーノは跳躍した。

 

「ガッ!?――」

 

しかし、その顔面に鈍い衝撃が響き渡る。

 

“右ストレート”一閃――

 

先に動いたカレンが、深く踏み込み吸血鬼の顔面に全力の右を叩き込んだのだ。

それは、輻射波動のタイムラグを考慮しての選択。

ルキアーノの身体は派手に吹き飛ばされ、カレンから離れ、地面にバウンドする。

だが、衝撃は終わらない。

右ストレートを繰り出したカレンは、そのまま疾走を開始し、

吹き飛ばされたルキアーノと併走する。

そして、地面にバウンドしたルキアーノの身体を…その顔を、

バスケットボールを取るように…

掴んだ―――

 

「ぐああッ!」

 

そのまま、ルキアーノの身体を片手で高々と引き上げる。

190を越えるルキアーノが、170を満たぬカレンに片手で

空中に固定されるというシュールな図がそこにあった。

 

「ああ…」

 

先ほどまで歓声を上げていたブリタニア兵達は、

“ナイト・オブ・テン”の…ラウンズのその醜態を前に呻き声を上げる。

 

「はあ、ハア」

 

息を整えながら、カレンはルキアーノを見つめる。

“新宿事変”から始まるレジスタンスとしての絶望的な戦いの日々。

ブリタニアの頂点であるラウンズは遥か彼方の存在だった。

しかし、今、カレンの腕は…その意志は、最強の12騎士の一人に届いた。

その事実を前に、カレンは動じることはない。

ルキアーノを見つめ、あの言葉を放つ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    質問…あなたにとって“命より大切なもの”は何?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふざけるなよ小娘が――ギ、ぎやあああああああああああああ」

 

吸血鬼の断末魔が戦場に響き渡る。

回答することなく、その悪態を最後に、ルキアーノは沸騰し、爆発し、消滅した。

 

命を侮辱する者に、その問いに答える資格なし―――それがカレンの答え

 

ルキアーノが跡形もなく、消滅したその場所には、

勝者である“黒の騎士団のエース”

零番隊隊長“紅月”カレンだけが立っていた。

負傷した左肩や足から血が止め処なく流れ落ちる。

だが、その鮮血は戦場を彩る赤き華。

ブリタニアにとっては、戦場の赤き死神。

騎士団にとっては、勝利の女神は今、まさに咲き誇る。

 

「ブ、ブラッドリー卿!そんな…」

 

「嘘だ!“ナイト・オブ・テンが…」

 

「ラウンズが―――負けた!?」

 

その決着を前に、ブリタニア兵達は、口々に呟いた。

全員が驚愕し、ブリタニア最強の騎士の敗北を、信じられぬといった顔をしながら。

カレンは、ブリタニア兵に向かって振り向く。

その殺気により、ブリタニア兵達は、現実の世界に戻った。

 

「ヒ…あ、悪魔」

 

「ば、化け物だ…助けてくれーーーー」

 

ブリタニア兵達は、武器を捨てて逃げ出した。

ラウンズの敗北と断末魔の絶叫は、彼らに絶対の恐怖を植え付けた。

8万を超えるブリタニア軍が、ラウンズ一人の敗北により総崩れとなる。

 

「うおおおおおおおおお姉御ーーーー」

 

「やった!隊長が・・隊長が、あの吸血鬼を…ラウンズを倒した!」

 

「見たかブリタニア!黒の騎士団万歳!」

 

「今度は俺達の番だ!いくぞ、みんな!」

 

「ああ!俺達の力を見せてやる!」

 

“黒の騎士団のエース”の勝利は、団員達に絶対の勇気と希望を与えた。

士気の高さは、この瞬間、絶頂を迎えた。

 

 

戦場の流れが…決まった―――

 

 

「…礼は言わないわよ」

 

肩の傷を抑えながら、カレンはその後ろにいる人物に向かって、

振り返ることなく、呟いた。

 

 

 

 

 

カレンとルキアーノ戦闘が開始され、

その周りにいる団員もブリタニア兵も誰一人動くことなく

その戦いを固唾を呑んで見守っていた。

彼らの中で、その影に気づくものを居ただろうか。

戦場において、黒きドレスを纏ったその女は、

黄金の拳銃を手に、2人の動きを追い続けていた。

友の勝利を信じながらも…万が一に備えながら。

カレンと同様に、女の狙いは、ルキアーノの首であった。

しかし、その違いは決定的であった。

決闘という手段を用いたカレンに対して、女が取ろうとしたのは

 

“ラウンズの暗殺”

 

だが、ルキアーノの首をカレンに託した女は、

カレンの敗北も想定しながら、銃口を保ち続けた。

そして訪れたルキアーノの隠し武器による攻撃。

女の放った銃弾は、カレンのまさに目の前で

その武器を破壊した。

 

 

 

 

 

「さあ、なんのことやら」

 

 

 

 

その黒き衣は魔女の証明―――

 

革命軍“幹部”

 

 

“魔女”C.C.

 

 

そう嘯きながら、C.C.はいつもの笑みを浮かべ、銃口の煙を吹き消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソーもう限界だ!まだか、ナミさん!?」

 

砲弾を蹴り落としながら、サンジは叫んだ。

 

 

――ドカーン!

 

その最中、何発目かの砲撃がメリー号に炸裂し、その箇所から火が噴出す。

チョッパーが慌てて消化作業に入る。

煙は、メリー号の至るところから、昇っている。

 

「ッ…」

 

いつもなら、“うるせーエロコック”とツッコミを入れるゾロは

無言で砲弾を叩き切る。それは、言葉なき同意に他ならない。

いつもクールを貫くニコ・ロビンの頬に汗が流れる。

誰もがもはや限界であることを感じていた。

“神根島”はもう目の前にある。

だが、この船の航海士であるナミは、

口を横一文字に閉じて、ただ、前だけを見ていた。

あの男の言葉を信じながら。

 

 

 

 

 

「ゼロ…“みんなの力”があれば、君を!」

 

キリリッとイケ面風な顔をしながら、扇はその台詞を放つ。

だが、その台詞を聞いている肝心な“みんな”は

誰一人それに反応することはない。

まるで意志なき人形のように己が仕事を続けている。

 

ここは、斑鳩の司令室。

常に隠れ潜んでいたこの男は、戦場に出たものの、今度は

この海域最大の戦艦において最も安全な場所で指揮という名の

お遊びに興じていた。

斑鳩の前には、合流してきた多数のブリタニアと海軍の軍艦がある。

その数は、もはや船団というより、艦隊と言っていい。

その艦隊が追うのは、一隻の小さな海賊船。

それはもはや狩りと呼んでも差し支えないだろう。

この状況に扇は、有頂天となっていた。

黒の騎士団時代においても、

扇は、ブリタニアの圧倒的な戦力に密かに憧れていた。

レジスタンスという弱者の立場を心の底から見下し、

いつかブリタニアの側に立ち、支配者となることを夢見ていた。

この状況は、まさにその夢の実現に他ならなかった。

 

目の前の艦隊は即席の“扇ジャパン”

そして、敵であるゼロと麦わらの命運はあとわずかである。

笑い出して邪悪な顔になるのを必死で抑えながら、

扇は顔を引きつらせながら“逝け面の扇さん”を演じ続ける。

 

 

 

(まだなの…?)

 

神根島をみつめながら、ナミはそれを探していた。

サンジの叫び声のあと、爆発音が聞こえ、船は揺れた。

また、着弾したのだろう。

正直なところ、メリー号の限界は近い。

ただ、私には、すぐに何かできることはない。

私のできることは一つだけ。

アイツの言葉を信じる。ただそれだけだ。

脳裏に、ゼロの…ルルーシュの言葉が蘇る。

 

 

 

 

  ナミ、お前ならできるはずだ。お前が有能な航海士ならの話だが…

 

 

 

(一言多いのよ、このシスコン!)

 

過去のルルーシュに向かってナミは今更、悪態をつく。

あの男は、いつも何か一言を多いのはなぜだろう…?

そんなことを考えそうになったナミは、頭を振る。

 

(…とにかく、方角と位置に間違いない。なら、きっとあるはずだ)

 

だから、ナミは前だけを見る。

口を一文字に閉じて。

自分を信じてくれた仲間と今、戦っている仲間のために。

 

神根島はいよいよ近くなり、その前にいくつかの岩礁が見えた。

 

その内の一つを見つけた時…

 

ナミの口が…

 

三日月に変わった―――

 

 

 

“フハハハ”

 

 

 

ゼロのように笑い出したいのをナミは必死で堪えた。

 

 

  当たり前よ、ルルーシュ。

  こんなものは、意識すれば、並みの航海士だって気づくわ。

  あたしを誰だと思ってるのよ。

  この潮の流れがこんなに激しい場所に、

  あんな岩があるはずがない。海流に削られ、なくなるはずだ。

  じゃあ、あの不自然なほどきれいな大岩は何?

  まるで、潮の流れを妨げるように。

  答えは、簡単だ。あの岩は人工物。

  じゃあ、何のために?

  それこそ、もっと簡単よね!

 

 

「あの左に見える大岩を砲撃して!」

 

ナミの声がメリー号に響く。

その瞬間、ゼロは走り出し、砲台を操作し、狙いを定める。

慣れた手つきで照準を合わせ、岩に向かって砲撃する。

数秒後、砲弾は岩に見事に命中、爆炎を上げる。

 

「その格好で、上手いもんだな!」

 

感嘆の声を上げ、サンジが口笛を吹く。

 

「チョッパー!面舵一杯!みんなは衝撃に備えて!」

 

 

 

 

   

     “とっくに対ショック!”

 

 

 

 

 

 

 

ナミの指示に、全員が口を揃えた―――

 

 

 

 

 

「ん…?」

 

麦わらの海賊船があらぬ方向に砲撃した後、右に逸れていく。

それを見た扇は、少し疑問に思いながらも、

ニヤニヤしながら口元を押さえ、鏡を見る。

扇は思う。

麦わら達は、この状況を前にとち狂ったのだろうと。

そんなことよりも、扇にとっては、

この後に、待っているであろう記念撮影の方が大事である。

ゴミのひとつでもついていないかを鏡で入念にチェックする。

 

――ドカーン!

 

その時だった。麦わらが砲撃した大岩が派手な音をたてた後

木っ端微塵に爆発したのだ。

その光景に、扇は少し、驚く。

 

「ちょ…麦わらの船、火力凄くね?」

 

その小学生並みの感想の直後だった。

 

―――ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ

 

地鳴りが響き、斑鳩が激しく揺れる。

 

「な、何だ!何だ!?」

 

立ち上がり、扇は喚きだす。何か嫌な予感がした。

 

 

 

“フハハハ”

 

 

 

 

扇の頭の中に、突如、あの仮面の海賊の笑いが響き渡る。

この感覚を扇は知っている。

 

 

そう、これは―――

 

 

この潮の流れの激しいこの場所で、その流れを妨げていた大岩は消し飛んだ。

それにより、潮の流れは大きく変わる。

潮の流れは、一時的に…巨大な渦巻きを作り出した――

 

前を先行していたブリタニアと海軍の軍艦が、それに飲み込まれ、

次々と転覆していく。

斑鳩も、その流れに飲まれ回転し、斑鳩の館内は、まるで竜巻の中に

いるかのような惨状に襲われる。

 

 

 

通称――“足場―スト”

 

 

 

ブリタニア軍の足場諸共、崩壊させることで戦局を逆転するゼロ戦術である。

過去、それを受けた多くのブリタニア兵と同様に、

扇も、再び、醜い小悪党の顔に戻り、あの台詞を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ゼ、ゼロオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うげ…!」

 

扇は派手に転倒し、頭を抑える。衝撃が頭に響く。

だが、それ以上の衝撃が、伝令を通して扇に襲い掛かった。

 

「大変です!むぎわらの一味が侵入しました!」

 

「な、何~!?」

 

メリー号は、この渦巻きを利用し、ぐるりと一周して、

斑鳩に突入してきたのだ。

最初に船長“麦わら”のルフィが、船にゴムの力で登り、ロープをかける。

それを次々に麦わらの一味が登っていく。

 

「くそ~てめえら時間を稼げ!オラー“みんなの力”だぁ!」

 

そう言って、扇は棒立ちしている南の背中に蹴りを入れる。

そして、第四倉庫に向かう階段に走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

「ゴムゴムの鞭!」

 

ルフィは操られた幹部達を、まとめて吹き飛ばし、船内に向かう。

だが、その瞬間、4つの斬撃が、ルフィに襲い掛かる。

 

「わ!は!ほ!トオ!」

 

連続して襲い来る斬撃をなんとかかわすルフィ。

だが、攻撃はそれで終わりではない。

攻撃を仕掛けてきた4つの影は、再びルフィの周りを旋回する。

 

「…旋回活殺自在陣」

 

「…承知!」

 

レジスタンス上がりが大半を占める黒の騎士団において

異彩を放つ旧日ノ本国の本物の軍人達。

その名は、ゼロの登場より前に、“剣豪”としてブリタニア海で知られていた。

それを指揮するは、旧日ノ本国の“将軍”。

 

“将軍”藤堂と“剣豪”四聖剣。

 

戦のスペシャリストの凶刃が今、ルフィに襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…へへへ」

 

暗い倉庫の通路で、扇は懐からキーを取り出す。

キーは青白く光り、その光りは半笑いした扇の顔を映し出した。

ここを夜道と想定するなら、完全に変質者である。

 

「ゼロ…神根島に来たのが運のツキだ。

 策士、策に溺れるとはまさにこのことよ。

 神根島なら、アレが使える。

 あの兵器が使えるなら、お前らなんか目じゃねえ」

 

窮鼠、猫を噛む。

まさにその状況に追い詰められた扇の目に狂気が走る。

 

 

 

「へへへ…そうだ!

 ゼロ、そして麦わら、お、お前らなんか怖くねえ!

 野郎~ぶっ殺してやるーーーーーーーーーーー!」

 

 

 

扇の絶叫が第四倉庫の闇の中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なッ!?」

 

ルフィに攻撃する瞬間、自分に向かって襲い来る黒い影のとび蹴りを

刀で防いだ朝比奈は、声を上げた。

 

「ルフィ!お前は、あのモジャモジャをぶっ飛ばせ!」

 

黒い影…後の“黒足”のサンジは、そう檄を飛ばした。

 

「…邪魔だね。君は」

 

刀を向けて朝比奈はサンジを睨む。

 

「“将軍”っていうのはアンタのことだろ?」

 

「…“海賊狩り”のゾロか」

 

藤堂の前には、ゾロが3本の刀を構える。

 

「そこのお前、女だからといって容赦はしないぞ!」

 

「え!?」

 

主要な敵は、チョッパーかロビンに任せて、端の方で

雑魚とでも戦おうと考えていたナミは、千葉の言葉に驚愕の声を上げた。

 

「ゼロ…!」

 

「…。」

 

仙波の前には、仮面の海賊が立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

         麦わらの一味 VS 扇ジャパン

 

 

 

 

 

 

 

 

ここ神根島において、

第二次“ブラック・リベリオン”最後の戦いが始まった―――

 

 


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