ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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正義の味方

 

 

 

「ガハッ…!?」

 

深く右胸に突き刺さった“指銃”を見つめ、海軍ブリタニア支部“中将”。

神聖ブリタニア帝国“ナイト・オブ・セブン” 枢木スザクは吐血と共に驚愕の声を上げた。

先ほどまで、互角の戦いを続け、その過程で何度となく防いだ敵の技。それなのに…

 

まるで見えなかった―――

 

それまで戦っていた敵“最強の暗殺者”ロブ・ルッチはもはやそこに存在しなかった。

その代わりに、巨大な獣が…恐らくは豹が黒のスーツに身を包み、自分を見つめている。

そう、もはや、ロブ・ルッチは“人間”ではなかった。彼は1匹の獣に変貌したのだ。

 

 

 

ネコネコの実 モデル"豹(レオパルド)"

 

 

 

最強の武術“六式”を極めCP9でも、歴代最強の冷酷な「殺戮兵器」と称された

天才に悪魔の実の力により、獣の身体能力が加わった。

その動きはもはや、人間の限界を軽く超える。

たとえ、達人といえど、枢木スザクが対応できなかったのは道理といえる。

 

「…!?」

 

だが、それでも、枢木スザクは天才だった。

ロブ・ルッチをして“化け物”と言わしめたその才能がこの危機的状況においても発露した。

“指銃”の衝撃により、浮いた身体を利用し、ルッチの腕に絡みつく。

 

飛びつき腕十字固め―――

 

柔術の高等技術。スザクはルッチの腕を折りに行く。

腕が伸び、骨が折れた時に鳴る独特の嫌な音色をイメージしながら。

次の瞬間、ルッチの腕一本にスザクの全体重がのしかかった。

 

「な…!?」

 

「フフフ…」

 

再びスザクは驚愕の声を上げる。

自分の全体重と全腕力をかけて、腕一本を折りに行った。技は完璧であり、非の打ち所はない。

だが、ルッチの腕はピクリとも動かない。

むしろ、その腕を介して伝わってくる圧倒的な力は、スザクを絶望に誘い、

その表情をルッチは歪んだ笑みをもって見つめている。

 

(ば…化け物)

 

それが最年少の海軍中将にして、ラウンズの第七席に座る男の偽らざる感想だった。

そして、その感想の直後だった。

ルッチはスザクごと腕を高く掲げ、高速で地面に叩き付けた。

 

「あ…がッ!」

 

叩きつけられた箇所の木片がスザクの鮮血と共に飛び散る。

ルッチが“指銃”を抜くとそこから血があふれ出し、床を染めていく。

 

「…。」

 

 

 

"瞬殺"

 

 

若き海軍中将が・・・ブリタニアの”ナイト・オブ・セブン”が

変身したルッチに何もできず敗れ去った。

スザクは辛うじて生きているが、すぐ治療しなければ、危険であることは明らかであった。

ルッチは歪んだ笑みを浮かべながらスザクを見下ろす。

 

「裏切り者め…キサマの罪は軍法会議によって裁かれる」

 

そう言ってルッチは、視線をスザクから海の方へと移した。

視界の先には、麦わらの海賊船がまさに工作船を通過しようとしていた。

工作船と麦わらの船とは少し距離があり、あちらはこちらの存在に気づかない。

後方の船団から打ち込まれる砲弾を必死で防いでいる。

情報では、麦わらの一味の船には、あの“オハラの悪魔”ニコ・ロビンが乗っているはずだ。

あの女は、古代兵器の秘密を解く重要な鍵。

この意外な報酬にルッチは笑った。

 

(あとは、ニコ・ロビンを除く麦わらの一味とゼロを殺せば、この任務は完了する。

 期待はしていなかったが、存外、実のある任務だったな)

 

視線を再びスザクに戻す。この男はなぜ裏切ったのかは以前不明だ。

もしかしたら、本当に“ギアス”とやらに操られていたのかもしれない。

しかし、それを調べるのは、海軍の仕事であり、もはや、どうでもいいことだ。

 

さあ、任務を完了させよう―――

 

「“魔王”ゼロ…あの海賊は、我らCP9の“闇の正義”によって裁く。

 枢木スザク…キサマはゼロの死の報せをここで待つがいい!」

 

ルッチはメリー号を見る。六式の技“月歩”によって、到達する距離を測るために。

そして、計測は終わる。ルッチは、獣の足に力を込める。

任務を遂行するために。ゼロと麦わらを抹殺するために。

 

ルッチはまさに飛び立とうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…その手を離せ裏切り者」

 

「う、うう…」

 

ルッチは自分の足に絡みつく者に侮蔑の眼差しをもって見下ろした。

先ほどの一撃で死んだように沈黙し、倒れていた枢木スザクが床を這いずり、

いつの間にか自分の足を掴んでいたのだ。

 

「お…お前を、行かせは…しない」

 

「実力差がわからない訳ではないだろ・・・。キサマに勝機は万に一つもない」

 

その無様な姿を呆れたように見下ろすルッチの言葉を無視し、

スザクは、ルッチの足に縋りながら、徐々に立ち上がっていく。

 

「あ、あいつは…俺が…守ら・・・なきゃ」

 

その目は、空ろであり、視点は定まっていない。

それでもなお、スザクは言葉を続ける。

 

「約束したから…俺は…あいつの…友達・・・だから」

 

スザクは立ち上がる。

ダメージは変わらない。絶望的な状況は何も変わっていない。

だが、スザクの目には、再び、光が宿る。

 

「あいつは…ルルーシュは…俺が・・・守る!」

 

スザクを支えているのは、言葉だった。

かつて自分が捨てた言葉。自分がずっと言いたかった言葉。

ただそれだけが、今のスザクを支えていた。

 

「…イカレているな枢木スザク。

 どうやら、修正するのは不可能なようだ。ならば、その頭を今ここで砕いてやろう!」

 

そう吐き捨てるとルッチはスザクの襟首を掴み、

高々と持ち上げた後、高速で頭から床に叩き落した。

常人では、悲鳴を上げることすら、許されぬ刹那の時間。

それが、スザクには、とてもゆっくりと、まるでスローモーションのように感じる。

スザクの身体はゆっくりと地面に落ちていく。

その過程で、今までの人生における様々な記憶が蘇る。

 

ルルーシュとナナリーとの出会いと別れ。

父の殺害と戦争の終結。

正義に燃えた海軍の新兵時代。

ブラック・リベリオン

民衆の憎しみを込めた眼差し。

 

様々な思い出が交差する。

 

その中で、一人の女性の姿が現れた。

 

 

 

ユーフェミア。

 

最愛の人。ブリタニアとエリアの共生の夢を語り、そして恋に落ちた。

彼女は、先の“ブラック・リベリオン”で“バスターコール”により、その命を落とした。

彼女の勤める教会で、子供たちを囲んで行ったささやかなクリスマスパーティーの後で、

彼女と二人で満天の星空を見たことがあった。

呪われた人生の中で、こんなにも幸せなことがあってもいいのか、そう思った。

スザクは思い出の中のユフィを抱きしめる。

 

 

「ユフィ…。もし、死ぬことができたら、君にまた会えるかもしれない。

 いつもそう思っていた。だから、僕はずっと死にたかった。

 でも…ゴメン。僕はまだ、君に会うことはできない。

 僕にはまだやることがあるんだ…だから…ゴメン」

 

 

それを聞き、思い出の中のユフィは微笑みながら、光となって消えた。

 

思い出は更なる過去へと遡る。

 

あの夏の日、暗い森の秘密基地の中で、

ルルーシュとナナリーと3人で肩を寄せ合いながら、雨が止むのを待っていた。

 

 

 

 

この小さな温もりを守りたい―――

 

 

 

 

それが、あの頃の僕のただ一つの“正義”だった。

 

ああ、そうか…。最後に、ここに…戻って来れたんだ。

 

“正義の味方”に…僕はなれたんだ。

 

 

 

 

 

ナナリー。ルルーシュ…。

 

 

 

 

 

 

 

俺は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            “ 生 き る ! ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キサマ!まだ――」

 

スザクの頭を砕いたはずのルッチが、驚愕の声を上げた。

“最強の暗殺者”と恐れられ、常に冷静さを失わないロブ・ルッチ。

その彼が声を上げたのはスザクがとった受身によるものだった。

最後の力を振り絞り、見苦しく技を逃れたのなら、驚きなどしない。

瀕死の敵には、よくあることだ。

だが、スザクは違った。およそ、武術の理想を体現するかのように美しく着地した。

まるで滝が流れるように。木の葉が舞うように。あまりにも、自然であり、静かであった。

 

完全なる無音。

 

それは、あまりにも自然であり、あまりにも異質であったことから、

ルッチの脳はすぐにそれを認識できなかった。

 

「クッ!!」

 

即座に思考を切り替え、ルッチはスザクの顔面に向けて“指銃”を放つ。

 

 

  枢木スザクの雰囲気は変わった。

  だが、それがなんだというのだ。俺の手は奴の襟首を掴んだままだ。

  人間の力では、獣の握力を振り払うことなどできない。

  このまま顔面を貫き、奴の息の根を止めてやる!

 

 

顔面に伸び行く“指銃”を前に、スザクは、自分の襟を掴むルッチの手を静かに掴んだ。

 

その直後だった―――

 

 

  メリリッ

 

 

「があッ!?」

 

ルッチの手首の関節が悲鳴を上げ、その巨体が、宙に浮き上がっていく。

 

合気柔術。

 

柔術における最高技法。

わずかな動きをもって、相手の関節と神経を制圧し、自在に投げる究極の体技。

稀有な才能持った者でも、数十年に及ぶ修行が必要な幻の技。

たとえ、獣とて、関節がある以上、この魔術から逃れる道理はない。

 

ルッチの身体は手首を起点に高々と宙に浮いた。

投げられたというより、誘導されて自ら飛んだというのが正しい。

もし、その流れに逆らったなら、ルッチの手首は一瞬でへし折られていたに違いない。

スザクは身体を少し落とした。

次の瞬間、ルッチは真っ逆さまに落ちていく。

腕はまるで一本の鉄の棒と化し、襟首から離れない。

 

(地面が…!手が離れない…受身を!)

 

落ち行くルッチの身体。

地面への激突をルッチが覚悟した瞬間だった。

 

 

 

 

 

       

         枢木流…“玄武”!

 

 

 

 

 

 

「がッ!?―――」

 

ルッチの頭が地面に激突する寸前、スザクはその頭めがけて回転蹴りを放った。

投げにより、防御不能となった敵の頭部を破壊する枢木流の奥義。

それは落ち行くルッチの頭をボールに見立てての全力の“サッカーボールキック”

常人では、絶命必至のまさに“必殺技”

それをまともに喰らい、ルッチの身体は、竜巻に巻き上げられたように回転しながら

再び上昇した後で、激しく地面に叩きつけられた。

 

即座に起き上がり、構えるルッチ。

悪魔の実によって得た獣のタフネスはさすがといえる。

だが、常人では死が免れぬほどのダメージがその頭に残っている。

視界が揺れ、枢木スザクの姿がぼやける。

そのためだろうか。

揺れる視界の中で、ルッチは確かに見た。

 

枢木スザクの瞳が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“赤く”光っていた―――

 


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