ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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時代の舵

 

 

“大反逆時代”

 

それは、ゼロの登場から始まるブリタニアに対する反逆の時代を意味する。

世界のおいて数多ある独立戦争や内戦。

歴史を見れば、星の数ほど存在するそれらと“大反逆時代”をわけるポイントが

あるとするならば、それは、“ゼロ”という希代の反逆者の存在に違いない。

実際“大反逆時代”において、ブリタニアであろうが、エリア諸国であろうが、

ブリタニア諸島における全てのベクトルはゼロを示し続けた。

それは、この第二次“ブラック・リベリオン”においても変わらない。

 

ゼロと麦わらの一味の逃亡―――

 

この戦場で戦う全ての者が、その情報を前提に刃を交えていた。

ゼロを殺すことで内戦の終結を目論むブリタニアを剣とするならば、

ゼロを守り、希望を繋ぐことを決意した黒の騎士団は盾となり、両者は激しくぶつかる。

その間隙をつくかのように、ゼロと麦わらの一味が乗ったメリー号を追うために、

扇と騎士団の幹部達が乗る戦艦“斑鳩”と複数のブリタニアの軍艦が処刑場から出航した。

全ては己が命を守るため。

扇は、シュナイゼルが言うところの猟犬のごとく、メリー号を追いかける。

 

処刑場においては、黒の騎士団とブリタニアの戦闘が激化し、

“騎士団のエース”と“ナイト・オブ・テン”の戦いがまさに始まろうとしていた。

メリー号が進む、その先に停泊しているCP9の工作船では、

“ナイト・オブ・セブン”と“最強の暗殺者”の拳が激突する。

 

それが第二次“ブラック・リベリオン”における現在の情勢だった。

全ての役者が舞台に上がり、己が役割を演じ始める。

その中心をゼロと麦わらの一味を乗せたメリー号が進んでいく。

 

 

船の中には、3人の男女がいた。

その内の一人の背中に敵であるはずのブリタニアの紋章があった。

帝権の象徴であるライオンと、

死と再生及び智恵を象徴する蛇を背中に刻んだ長身の男は床に倒れていた。

 

男の名は、ジェレミア・ゴットバルト。ブリタニアの元騎士である。

 

ブリタニアの“純潔派”のリーダーとして頭角を現したこの男の運命は

第三皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア暗殺事件によって大きく変わることとなった。

いずれは“ラウンズ”の一席に座るはずの未来も、マリアンヌの命と共に潰えた。

忠義を果たせなかった騎士。

それが、ジェレミアに対する周囲の認識である。

その男が、いま、ブリタニアに対する反逆者であるゼロと麦わらの一味と行動を共にしている。

男はブリタニアを裏切ったのだろうか。ジェレミアは不忠の騎士だろうか。

 

いや、断じてそれはない―――

ジェレミア・ゴットバルトは“忠義の騎士”である。

男の行動原理は、生まれてから今に至るまで

“皇族のため”に“ブリタニアのため”に向けられていた。

それは称号のためではない。それは名声を求めたためではない。

全ては“忠義”のために―――

 

ジェレミア・ゴットバルトはおそらく狂人であろう。

だが、真実を突き詰めることは、その道を歩む者は、古今東西、等しくその要素を兼ね備える。

批判を省みず、その道を歩く姿は大多数の凡人からみれば、まさに狂人に他ならない。

だがしかし、それ故にこそ辿りつく極地がある。

10万の敵を前に、主君を救出するために、

ただ一人立ち向かうことを覚悟した時にジェレミアの騎士道は完成を迎えた。

ゴットバルト農園の玄関から1歩でたあの場所は、

“ナイト・オブ・ワン”すら到達できない騎士の頂き。

この男こそ、ブリタニアにおける騎士の魂であり、正義の証明であった。

 

 

 

その忠義の男はメリー号の中で安堵の表情で眠りについていた。

先ほど、主君であるルルーシュの救出を目の当たりにしての狂喜乱舞で感涙した後、

それまでの疲れが一気にきたのか、気絶するように床に倒れた。

ジェレミアは眠りにつく。妻であるアーニャの膝を枕にして。

ジェレミアの頭をはるか年下であるアーニャは愛おしそうに撫でる。

それはまるで遊び疲れ、眠る子供を慈しむ母親のように。

 

その部屋の中で、この船の舵を握る男がいた。

いや、男が握るのは、“時代の舵”と言ってもいい。

“大反逆時代”の主役。“第二次ブラック・リベリオン”の中心人物。

その賞金総額は2億6000万ベリー。

 

“魔王”ゼロ。

 

仮面の海賊。希代の反逆者は、メリー号の舵を握る。

 

 

 

 

 

(シュールだわ…)

 

先ほどから、落ち着くことができず、船上と船内を行ったり来たりしていたナミは

ゼロの後姿をマジマジと見つめ、改めて思う。

その姿は、基本派手な格好を好む海賊の中でも、また異質。

むしろハロウィンの中に出てくるお化けに属するだろう。

正体を隠さなくてはならない事情を考慮しても、

発案者であるルルーシュのセンスを疑わざる負えない。

 

だが、この仮面とマントこそがこの時代の象徴。

ブリタニアの全兵士の標的。

黒の騎士団の全団員の希望。

この仮面の海賊が今まさに“時代の舵”を握っているのは間違いない。

歴史の転換点。

アラバスタにおいて、空島において、そこに吹き荒れた時代の風。

ここブリタニア諸島においても、ナミは再びそれを感じていた。

 

「おー!でっかい軍艦が追いかけてきたぞ!」

 

ルフィのハシャギ声を聞き、思考を中断し、ナミは急いで船上へ走る。

船の上に出ると、仲間達と青い海、そして、自分達を追いかけてくる大船団の姿が見える。

 

「あれが黒の騎士団の戦艦“斑鳩”ね。フフフ、うわさ通りの大きさね。

 乗ってるのは“将軍”藤堂と“四聖剣”。それに、あのモジャモジャの人もいるみたい。

 あと、ブリタニアの軍艦が多数。フフフ、ゼロの予想どおりね」

 

双眼鏡を片手にロビンがさも可笑しそうに笑う。

それもそのはずだ。ここまでの流れは全てルルーシュの予想通りだったのだから。

 

この第二次“ブラック・リベリオン”の決着は黒の騎士団の全滅ではない。

ブリタニアにとって、黒の騎士団は強敵であるが、所詮はテロリストの集団。

帝国の総兵力を考えれば、恐れる敵ではない。

恐れるべきは、ゼロ。ブリタニアの最大の敵。“大反逆時代”の象徴。

ゼロを倒さずして、この時代を終わらせることはできない。

そのゼロが逃亡したとあっては、何をおいても彼の殺害を優先せざる得ない。

追っ手を差し向けてくるのが当然である。

そして、その追っ手は、黒の騎士団の反逆によって後がなくなった扇達。

メリー号の出航前にすでにルルーシュはこの事態を予想していた。

 

その慧眼にナミは舌を巻く。

 

 

  さすがは2億の首といったところね。

  ルルーシュ。あんたと敵として出会わなくてよかった。

  味方として、戦略の面において、あんたほど頼りになる奴はいない。

  ここまでは、全てあんたの予想どおりよ。

  ならば、この作戦の成功は、全て私の肩にかかってるってことね。

  いいわ。やってやろうじゃない!

  麦わらの一味の航海士は、世界一だって証明してあげるわ!

 

 

「みんな!ここからが麦わらの一味の力の見せどころよ!気合を入れなさい!

 いくわよ“神根島”へ!」

 

「オー!!」

 

ナミを中心に麦わらの一味は、空に向かって雄たけびを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嵐脚!」

 

「枢木流“青竜”!」

 

名前こそ違えど、同形の衝撃波が船上の真ん中で激突し、爆風を巻き起こす。

その爆風の中から“ナイト・オブ・セブン” 枢木スザクが現れ“貫手”を繰り出した。

それに対して“最強の暗殺者”ロブ・ルッチは“指銃”で迎え撃つ。

衝撃音と共にお互いが弾き飛ばされ、直後、同時に床を跳び上がり、蹴りを見舞う。

繰り出された蹴りの威力はほぼ互角。スザクは、さらに回転し、

投げ技のようにルッチを床に吹き飛ばした。

だが、ルッチはまるで豹のようにしなやかに回転し、床に着地する。

もし、この場に観客がいたならば、その一連の流れに息を止め、

技の終わりに歓声を上げたに違いない。

わずか、わずか十数分ではあるが、達人同士の殺し合いは壮絶にして、華麗。

その戦いはまるで、格闘技の宝石を散りばめたような芸術作品であった。

 

「…フハハ」

 

一瞬の油断が命取りとなる打拳の応酬の中、ルッチは笑った。

それは、ルッチ特有の獣のような笑みではない。

それは、一人の武術家としての笑み。

自らの武術を全力でぶつけることができる好敵手を前にした人間の笑みであった。

 

 

  枢木スザク。

  シュナイゼルの政治力で成り上がった名ばかりの中将と聞いていたが、

  それこそが、実力のない馬鹿どもの戯言に過ぎない。

  化け物だよコイツの才能は。

  流派は…空手をベースに柔術を混ぜ、独自に練り上げたといったところか。

  たかが、島国の民間武術を六式並みに進化させるとは、恐れ入る。

  この男が最初から六式を学んでいたら、俺はコイツに勝てるだろうか?

 

 

 

武術家としての賞賛。

その思考の最中、スザクの上段突きが頬を掠める。

 

「うオォォーッ!」

 

「ぐっ……」

 

上段突きの流れのままに後ろ廻し蹴りを放ち、ルッチはそれを捕らえる。

だが、スザクは、身体をさらに回転させ、跳び上がり、逆の足で踵落としを放つ。

真上から迫り来る踵をルッチは片手を上げ、ガードした。衝撃音と共に、風が船上を駆け抜ける。

右手に響く衝撃と共に、ルッチは快心の笑みを浮かべた。

 

 

  面白い!面白いぞ枢木スザク!

  さすがは“ラウンズ”が七席。そうこなくてはな!

  何年ぶりだろうか、この感覚は。

  眠ったようなこの五年間の中で、いまほど心躍ることはなかった。

  グ…ッ!拳が重いな。

  コイツの打拳は“鉄塊”の上からでも効いてくる。

  まるでコイツの全てを拳に乗せているかのように。

  そうだ、これが戦いだ。これこそが、俺が求めていたものだ!

  ああ、楽しいな。

  できることなら、一人の武人として、キサマと決着をつけたかったよ。

  だが、俺はCP9。世界政府直属の”暗殺者”。任務の遂行をなにより優先する。

  “遊びの時間”は終わりだ。

 

 

 

「残念だが、時間のようだな」

 

「…?」

 

スザクの蹴りを避け、距離をとったルッチが、再びポケットに手を入れ、呟いた。

ルッチとの間合いを確認し、警戒しながら、スザクは後ろを振り向いた。

息もつけない打拳の応酬の中、何かの騒音が近づいていることをスザクも気づいていた。

視界の先には、黒の騎士団の象徴。この海域最大の戦艦“斑鳩”がいた。

その左右には、複数のブリタニアと海軍の軍艦が並び、船団を形成していた。

その船団を率いるように一隻の小さな船が先行し、船団はその船に砲撃を行っている。

こちらに近づいてくるその海賊船には羊の頭がついていた。

 

「あれは…」

 

間違いなかった。

メリー号。海賊“麦わらの一味”の船だった。

船の上を見ると、そこには、

船長である“麦わら”のルフィとその仲間達が迫り来る砲弾を必死に防いでいた。

麦わらは“悪魔の実”の能力で身体を膨らませて、砲弾を弾き返している。

“海賊狩り”のゾロは砲弾を叩き切り、黒のスーツを着た男は砲弾を蹴り落とす。

 

「あはは」

 

湧き上がってくる自分の感情を堪えきれずにスザクは笑みを漏らした。

当たり前だ。自分はどうかしている。

数時間前に殺しあった海賊の生還を海兵の自分が嬉しく思うなんて。

 

 

 

 

 

      “仲間”だからだ!他に理由なんかいるか!!

 

 

 

 

 

  あいつは、“麦わら”のルフィは、あの言葉を貫き、10万の敵を相手に

  仲間であるゼロを…ルルーシュを救い出してきたのだ。

  これを笑わずして、何を笑えというのだ。

  海賊なんて、自分の利益しか考えられないクズばかりだと信じていた。

  だが、あいつは違った。命より仲間を選んだ。

  この世界は、そう捨てたものではないかもしれない。

 

 

メリー号は、進むその先には“神根島”があることをスザクは気づく。

 

 

  あの船が、処刑場から脱出して、これだけの追っ手がいることを考えれば、

  あそこには、ゼロが…ルルーシュが乗っていると考えて間違いない。

  あれだけの船団に追われ、逃げ切るのは不可能に近い。

  だが、ルルーシュが…ゼロがいるなら、話は違う。

  ゼロに、戦略的撤退はあっても、敗走はありえない。

  それは、海兵として、何度も煮え湯を飲まされてきた自分がよく知っている。

  あいつには、この状況を打開する策があるはずだ。

  ならば、自分がしてやれることは何もない。

  自分は、ただ目の前の相手…ロブ・ルッチを倒すことに集中すれば・・・

 

 

 

 

 

 

・・・ゾクリ―――

 

 

 

 

 

「うわぁッ!?」

 

 

思考の刹那、スザクは突如、声を上げて背後に裏拳を放つ。

拳は空を切り、背後には何もなかった。

ロブ・ルッチはポケットに手を突っ込んだまま、1歩も動かず、間合いは変わっていない。

だが、あの思考の刹那、スザクは確かに感じた。確かに見た。

 

獰猛な猛獣が自分の首を噛み砕く映像を。

 

スザクは、低く構え、全神経を目の前の敵に集中させる。

 

ロブ・ルッチとの距離は変わらない。

だが、しかし、ロブ・ルッチの凍りつくような殺気は変貌を遂げていた。

ロブ・ルッチの雰囲気が変わる。

それは、獰猛な肉食獣の檻に、小さな子供が放り込まれるのを見たような。

そんな絶望的な気分にされるほどの禍々しさ。

 

 

 

 

「我らはCP9。“闇の正義”の執行者。

 枢木スザク…お前に教えてやる。

 こと迫撃において“ゾオン系”こそが最強の種であることを・・・!」

 

 

 

 

 

眩しい日差しの中、映し出されたルッチの影は徐々に姿を変えていく。

ロブ・ルッチの獣のような笑みは真の獣に変貌する。

 

次の瞬間、膨れ上がった獣の影は、枢木スザクを飲み込んだ。

 

 







22~24話の感想を募集してます。
特に23・24話なんてどんな感じだったでしょうか?
作者としては、結構気になる部分なので是非よろしくお願いします。

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