ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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選択の時”黒の騎士団”

麦わらの一味を狙った砲台。

そして処刑場に轟く爆発音。

だが、それは、砲撃の音ではなかった。

 

城壁に取り付けられた砲台は、

赤い波動を受けた直後、沸騰し、爆発し、消滅した。

次々と沸騰し、爆発していく砲台。

それを目の当たりにした者達は、

最後に残った砲台の上に人が乗っていることに気づく。

 

その姿を見た瞬間、

黒の騎士団の団員は驚愕し、ブリタニア兵は恐怖した。

その人物に対する認識は、所属する陣営によって真逆となる。

だが、その風に靡く赤髪を見た者は、等しく、“月夜”を連想した。

 

 

風が心地よかった――

 

 

砲台の上で、赤い髪を靡かせながらカレンはそう思った。

風の心地よさ。太陽の優しさ。

そんな当たり前のことがとても久しぶりな気がする。

あの黒い霧から解放されて、全てがはっきりした。

ゼロの正体も、真実も、本当に戦うべき敵も、そして自分が何者であるかも。

砲台の上からは、辺りがすっかり見渡せる。

ブリタニアと黒の騎士団、そして全ての人々が自分を見つめている。

 

 

私はなんて幸せなんだろう――

 

 

羊頭の海賊船を見る。

自然と笑みがこぼれてしまう。

心の底から嬉しかった。

自分には生きる目的がある。意味がある。意志がある。

そして、そのために戦う力がある。

ただ、それだけで、心は踊り、身体は躍動する。

 

さあ、笑え。そして行こう――

 

カレンは目を閉じ、息を吸い込む。

その刹那、数々の思い出達が輝きながら光のように流れる。

 

 

  …そうだ。

  あの始まりの日から何も変わらない。

  私の決意は変わらない。

  私は私だ。いつでもあなたの側にいる。

  そう決めたんだ。共に歩むと。

  あの時の誓いも誇りも、今も私の中にある。

 

  そう、私は――

 

 

 

 

「私は“黒の騎士団”零番隊・隊長、カレン・シュタットフェルトだ!

 ゼロは…私が守る―――ッ!!」

 

 

 

 

 

赤い波動を浴び、最後の砲台が爆発した。

 

 

(ルルーシュ…あんたのためじゃないんだから!)

 

 

その小さなツンデレは爆音の中でかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウアアアアアアァーーーーーーッ!!」

 

爆風の中から姿を現したカレンは、落下中に壁を蹴り、

ブリタニアの一群の中に突入した。

 

「弾けろ!ブリタニア―――ッ!」

 

着地と同時に右の拳を地面に叩きつける。

その瞬間、地面に赤い光が四方に奔り、直後、その一帯は爆発し、

ブリタニア兵は空中に舞った。

カレンは止まらない。

所かまわずブリタニア兵に向かって赤い波動を飛ばす。

 

ゾオン系幻獣種モデル“紅蓮”

 

その能力である“輻射波動”を浴びた者は、

沸騰し、爆発し、消滅する。

その力は、単純な火力だけなら、

あの海軍大将の“赤犬”、

白ひげ海賊団・二番隊・隊長“火拳”のエースの後を追う。

その悪魔の業火が今まさに、ブリタニア兵に襲い掛かる。

黒の騎士団の隊長、ただ1人の出現。

ただ、それだけで、その一帯は地獄と化した。

 

「く、黒の騎士団の…」

 

「“零番隊”隊長・・!」

 

「奴は…親衛隊の“紅月”カレンだぁーーーー!!」

 

沸騰し、爆発し、消滅した仲間を見たブリタニア兵が口々に恐怖の声を上げる。

 

カレンは走る。

ブリタニア兵の剣をかわし、その首に蹴りを見舞う。

次々の襲い掛かってくるブリタニア兵を悪魔の右手でなぎ払う。

 

 

 

  そうだ! 私を見ろ!

  私はここだ!ここにいる!

 

 

 

カレンは笑う。

もう難しいことを考える必要はない。

ただ、暴れるだけでいい。

ただ、戦うだけでいい。

ブリタニア軍の殺意を自分に向けるだけでいい。

ただ、それだけのために今、自分はここにいるのだから。

後先のことなど考えない。

ありったけの力を解放すればいい。

ブリタニア軍を引き付けるだけでいいのだ。

 

ほんの数分前。

私は絶望の中にいた。

ゼロを救出するチャンスは、処刑の瞬間しかなかった。

執行人をなぎ払い、ゼロを助ける。

そこまでは私には可能だ。

だが、そこから先…10万の大軍を前にゼロを連れて逃げ切ることは不可能だった。

だが、無理だとわかってもあきらめる選択肢などない。

私は親衛隊長だ。

誓ったのだ。共に歩むと、あなたの側にいると。

 

(好きな男と心中か…。女冥利に尽きるな)

 

覚悟と絶望の中、心の中で皮肉を笑いもした。

 

―――だが、今は違う。

 

“麦わらの一味”

 

ゼロの…ルルーシュの仲間達。

この処刑場に仲間を助けるために命を賭けた海賊団。

あいつらなら、きっとゼロを連れてここから逃げ切ることができる。

ルルーシュを助けることができる。

 

ならば、話は簡単だ。

私は暴れるだけでいい。

その命が尽きるまで、暴れるだけ暴れ、ブリタニア軍を引き付けよう。

あいつらが逃げ切るまで、命の炎を燃やそう。反逆の火を灯そう。

麦わら達が逃げ切った後、

八つ裂きにされた私の死体を見て、扇は…あのクズは嘲り嗤うだろう。

“ギアスに操られた”と。“捨て駒にされた”と。

 

「捨て駒…上等じゃない!

 行きなさいルルーシュ。

 あなたが生き続けることが、私が生きた証なのだから」

 

カレンは天高く右手をかざす。

その右手から湧き上がる赤き波動が天に向かって咆哮を上げる。

それはカレンの意志を。決死の覚悟を雄弁に語っていた。

 

 

 

 

「かかって来い!ブリタニア―――ッ!」

 

 

 

 

テロリスト「紅い月」

“黒の騎士団”零番隊・隊長“紅月”カレン。

ゼロを守り続けてきた“騎士団のエース”は今もここにあり!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺せッ!カレンを…あの裏切り者を殺せ~ッ!!」

 

泡を飛ばし、狂気の目を奔らせた扇が叫ぶ。

それに、従うように、重武装した騎士達が現れ、カレンの周りを囲む。

彼らは、ブリタニア本隊から派遣された来たナイト達。

巨大な盾とスピアを構え、巧みに陣形を変えながらカレンに接近する。

カレンはナイフを構え、距離をとる。

迫るナイト達。

その距離はじりじりと縮まっていく。

 

「シュタットフェルト隊長…。」

 

「カレンの姉御…。」

 

その光景を前に黒の騎士団の団員達は絶句した。

ブリタニア兵達が殺気立ち武器を取る中で、

黒の騎士団で動く者は誰もいない。

まるで時の流れに取り残されたように、

誰一人動くことなく、事態を見つめていた。

 

カレンの咆哮。

その戦いぶりから、その覚悟のあり方が伝わってくる。

カレンは、ゼロを逃がすために、捨石となるつもりだ。

 

団員達は思い出していた。

カレンの言葉を。麦わらの一味の言葉を。

 

カレン隊長は何と言った

 

“ゼロを守る”と。

 

あの海賊たちは何と言った。

 

“仲間を助けにきた”と。

 

では、俺は何だ?

俺たちは一体何者だ?なぜここにいる?

俺達は、俺たちは―――

 

「ゼロ…。」

 

ある団員が呟いた。

 

「ゼロ様…。」

 

ある団員が続いた。

その呟きに呼応するかのように、

“黒の騎士団”総員17000人が一斉にメリー号を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オ、オイ、ルルーシュ!」

 

ルルーシュがゆっくりと羊頭の船首によじ登ろうとしているのを

見てウソップが驚きの声を上げる。

ルルーシュはその声を無視して羊頭の上に上がる。

いや、無視したのではない。

この時のルルーシュには、何も聞こえていなかったのだ。

ルルーシュはただ前だけを見つめる。

船首の上からは、この処刑場の全てが見渡せた。

カレン決意も、殺気立つブリタニア軍も、

そして、自分を見つめる黒の騎士団の団員達も。

この時のルルーシュは何も考えていなかった。

あれだけ、謀略に長けた男が、

あれだけ、演出にこだわる男が、

この時、この瞬間だけは、人生で生まれて初めて

戦略も、戦術も、頭の中のスーパーコンピューターさえ停止させた。

ルルーシュはただ、それに従った。

生まれ持った王としての資質に。

そして、今日までを生き抜いてきた反逆者としての本能に。

 

ルルーシュは…ゼロは、ゆっくりと右手を前に掲げた。

ただ、それだけだった。

だが、それだけで、

団員達の心に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“戦場の風”が吹き抜けた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒の騎士団の団員達が体験した戦場は、

所属した時期、参加した作戦によって、その風景を変える。

だが、どの戦場にも共通しているものがある。

 

それは、ブリタニア軍との圧倒的な兵力差。

絶望的な戦場だった。

 

そして、どの戦場にも決して変わらないものがあった。

絶望的な戦局。

圧倒的な数で迫り来るブリタニア軍。

その戦場に…自分達の側に…いつも、ゼロはいた。

 

ルルーシュの哲学の1つに、「王、自ら動く」というものがある。

 

 

それは、ルルーシュの信念――“撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ!”――

 

その覚悟を体現するものであり、命を賭ける部下達に自分の正体を

隠さざる負えない仮面の魔王のせめてものケジメだった。

それは、本来の王の在り方とは違う反逆の王の在り方。

戦場に出ようせず、安全な場所に隠れ潜む扇と対極の場所に立つ者の姿。

 

絶望的な戦局。

飛び交う死の弾丸の嵐。

騎士団の戦いは、常に四面楚歌、絶体絶命は基本仕様。

その地獄を前にして、団員達は決してあきらめなかった。

なぜなら、そこに―――ゼロがいたから。

 

  王はいつも我らと共にあり。

 

それが、正体不明の仮面の魔王と団員達を繋ぐ絆。

ゼロがそこにいたから…その誇りがあったから、

団員達は、戦うことが出来た。ここまで来ることができた。

 

そしてゼロは今も戦場にいる。

自分達の前にいる。

 

ゼロがとったポーズ。

 

絶望的な戦局において、ゼロが仕掛けたトラップが発動し、

ブリタニア軍が総崩れとなった時、ゼロはゆっくりと右手を前に掲げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

その意味することは―――反撃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロ…」

 

ある団員が呟いた。

 

「ゼロ…ゼロ!」

 

ある団員が続いた。

 

「ゼロ!ゼロ!ゼロ!」

 

片手を挙げながら、ある団員が声を上げた。

 

「ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!」

 

両手を高く挙げて、目に一杯涙を溜めながらある団員が続く。

 

「ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!」

 

武器を掲げ、涙を流しながら団員達はその名を叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!

   ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!

   ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!

   ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!

   ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!

 

   ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!

   ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!

   ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!

   ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!

   ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!

 

 

 

 

 

 

 

処刑場は、反逆者の名と

それに殉ずる“反逆者たち”の声に包まれた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グワァあッ!」

 

「き、貴様ら…!」

 

鎧の継ぎ目を狙撃されて、カレンを包囲していたナイト達が

次々と倒れていく。

 

「てめーら、誰に断って姉御に手を出してんだよ!」

 

「隊長! 隊長の背中は俺たち“零番隊”が守ります!」

 

「みんな…!」

 

最初に動いたのは零番隊だった。

ナイト達を一掃した後、

カレンを囲み、ブリタニア軍と交戦に入る。

 

次に動いたのは五番隊。

“四聖剣”卜部巧雪の配下達だ。

一斉に抜刀し、メリー号を襲おうとするブリタニアの一群に突入する。

 

「五番隊は麦わらの船にブリタニア軍を近づけるな!

 ゼロを…俺たちの“仲間”を守れえーーーーーーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお――――」

 

「ぐわあぁ――!」

 

若い団員に幹部の玉城が殴り飛ばされた。

団員は、玉城の懐から鍵束を奪うと、

扇に反逆し、幽閉された仲間たちの下へ走る。

それ行動を前にして、

他の団員たちは次々と武器を取る。

 

それは、若い団員を止めるためではない。

それは、若い団員を粛清するためではない。

 

団員達は左右に分かれ、お互いの武器を交差させる。

次々とそれに加わる団員達。

そこに出来たトンネルを。

幽閉船に向かう道を若い団員は泣きながら走る抜ける。

それを見送った後、団員たちは次々とブリタニア兵に襲い掛かる。

 

若い団員は泣きながら走る。

 

“なぜ、自分は戦えなかったのか”

“なぜ、扇に反逆した仲間を助けなかったのか”

“なぜ、ゼロを最後まで信じなかったのか”

 

団員は走る。その後悔と共に。

 

「でも…まだ、間に合う!まだ間に合うんだーーーー!」

 

団員は走る。涙を拭い、決意と共に仲間の下へ。

 

ゼロを…仲間を助けるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「扇、このペテン師野郎!必ずぶち殺してやるからな!そこで、首を洗って待ってろ――ッ!」

 

団員は、城壁の上にいる扇に向かって銃を撃つ。

はじめから、当たることなどは期待していない。

 

「いつも影に隠れやがって!この売国奴の裏切り者が!」

 

別の団員もそれに続く。

その銃撃は、ブリタニアと、そして扇に対する宣戦布告。

 

「1人だけ変なコート着やがって!そもそもお前はキモいんだよ!」

 

それは、祝砲。

扇の支配からの解放と、自分の名を思い出したことへの喜びを銃弾に込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が“扇ジャパン”だ!ふざけるなよ扇!俺は…俺たちは―――」

 

そう言って、団員は肩に付けられた

“扇ジャパン”のワッペンを引き千切り、空へと投げる。

 

それに次々と続く団員達。

 

それはまるで雪のように―――

 

“扇ジャパン”という恥辱を刻まれたワッペンは、

処刑場を舞う白い花びらとしてその生涯の最後を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺たちは―――」

 

「私は―――」

 

「僕は―――」

 

「俺が―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      

 

              “黒 の 騎 士 団” だ !!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギ、“ギアス”だぁ~!こ、こいつら全員、“ギアス”に操られているんだぁ―――ッ!」

 

 

 

 

 

“黒の騎士団”総員17000人の”反逆”

 

 

 

 

その事実を前に、

扇の絶叫が戦場と化した処刑場に空しく響き渡った。

 

 











ゼロが腕を掲げるシーンはBGMコードギアス「Madder Sky」のイメージでお願いします。

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