ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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旅の仲間

「いいから捨ててこいよ。」

「捨て猫じゃないのよ!」

 

事件から数十分後、ゼロの処遇について二人は当初の立ち位置を入れ替えていた。

「銃を構える奴に向かって俺は言った。

“イーストブルーでは誰もが知っている!俺たちの仲間に

手を出だせばどうなるかってことくらいなッ"するとゼロは…。」

 

「ウソップすっげえーーーーーー!!」

 

「すげ~カッコイイーーーー!!」

 

「おいおい、本当かよ・・・」

 

樽の上に乗り、大演説を続けるウソップをルフィとチョッパーが囃し立てる。

サンジは事の信憑性を疑っているが、チョッパーに至っては

その眼差しに尊敬の色さえ浮かべている。

ロビンはというと、一人椅子に腰掛け、サンジの入れた紅茶を

飲みながら、気絶しているゼロをただ見つめていた。

 

「最初に捨てて来いと言ったのはお前じゃねーのか?」

 

「状況が変わったのよ。バカ!バカ!この大バカ!!」

 

「なんだと!この女!!」

 

議論は白熱し、道を外れ、ただの誹謗中傷合戦に突入した。

「黒の海賊団と合流したらどうするのよ? "大海賊船隊"と戦うの?冗談じゃないわ!」

ゼロを逃がせば、“黒の騎士団”に追われることになる。

 

それがナミの言い分だった。

騎士団のトップに手を出してしまった以上,その想像は限りなく現実の答えに近い。

 

「じゃあ、海に沈めて・・・」

 

「万が一あたし達が犯人だとばれたらどうするの? それこそ一生追われるわ! どうしてわからないの!?このバカ!!」

 

「そうだ、ナミさんの言うとおりだ!このマリモ!」

「いきなりなんだてめーは!?死ね!この素敵眉毛!!」

議論の場にいつの間にかサンジも加わり、ゾロの怒りに油をそそぐ。

「オレは体を回転させ、奴の銃弾を華麗にかわし…。」

 

「ウソップすっげえーーーーーー!!」

 

「すげ~カッコイイーーーー!!」

「…。」

 

怒号と喝采と沈黙。それらが一体となって渦巻く船内。 そのカオスの中で…。

 

 

 

 

 

               ならば…我に従え!!

 

 

 

 

 

ゼロは目覚めた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てめーのせいでこうなってんだろ!このバカ仮面!!」

 

「なにが“従え”だ!?この変態マント!!」

 

「ぐおわぁッ!?」

 

二人がかりで踏みつけられてルルーシュは鈍い声をあげた。

傍目からは縄で縛られた貧弱な変態マスクが

「グラサン」をかけた柄の悪い二人組みに絡まれ暴行を

受けているようにしか見えかった。

事の始まりは「ギアス」が解けた直後、

ロビンがウソップの証言と その顔につけてある「ゴーグル」から、

ゼロの能力が 「視覚情報を使った洗脳」であると見抜いたことからだった。

全員がなんらかの装備で目を覆い、

ルルーシュに ゼロのマスクをかぶせることで

「ギアス」に対する備えを万全にし、ルルーシュの目覚めを待っていたのだ。

 

「お前がグラサンかけると893にしか見えねーんだよマリモ!」

 

「ナンパにでも出かけるのか?このエロコック!」

 

「キサマら話を聞…ぐぎゃあーー×○△▼◇■!!」

二人で互いは罵倒しながら、ルルーシュにストンピングを連打する。

その華奢な体が激しく上下にバウンドし、

ルルーシュは声にならない叫びを上げる。

もはや交渉不能と悟り、泣きながら「ぎゃーぎゃー」と叫ぶナミ。

死闘を演じたライバルと自己の英雄譚の崩壊を救うため、止めに入るウソップ。

そのシュールな光景をパーティ用の鼻眼鏡をつけたルフィが愉快そうに笑っている。

もはや権威も恐怖も“ゼロ”のルルーシュが 一瞬の隙をつき、声を張り上げた。

 

 

 

 

   俺と契約し“黒の騎士団”に入れ!“麦わら”のルフィ!!

 

 

 

 

思いもよらない提案に一同は静まる。

 

ゼロはなんと言った?“黒の騎士団”に入れ?

「黒の騎士団に入れば全ての条件はクリアされる。

 俺はお前達を追う必要はなくなり、お前達も追われる理由は消える。

 悪くない話だろ?“麦わら”のルフィ。“海賊狩り”のゾロ」

 

「ほう…俺達のことを知っているのか?」

 

ゾロは興味深そうにルルーシュを見る。

 

「世界中の集金首の情報は俺の頭に入っている。七武海の “サー”クロコダイルを破ったルーキーとなればなおさらだ。」

政府がひた隠す第一級情報を平然と口にする姿に 大海賊のトップの片鱗を感じさせる。

この男はやはりゼロ。“魔王”と呼ばれる海賊なのだと。

 

「契約し、部下になればあなたは私たちに何をくれるの?」

 

ナミが口を開いた。

交渉の余地ありとなれば、自分の出番とばかり に前に出る。

 

“他の連中に任せたらどうなるかわかったもんじゃない。 こういうことは自分がやるしかない!”

 

その確固たる意思が ナミの行動を支えている。

一瞬の沈黙の後、ルルーシュは一同を見つめ、こう答えた。

 

 

 

      夢を、お前達の“願い”の全てを

 

 

 

 

「夢…すべての願い?」

ナミは驚きルルーシュを見つめる。こんな大それたことを平然と

言いながらルルーシュは余裕さえ漂わせていた。

縄に縛られてさえいなければものすごくかっこよかったに違いない。

「女、まずはお前から聞こう。お前の望みはなんだ?」

ルルーシュはナミを見つめる。

「お金!大金!たくさんの金(きっぱり!)

 ついでに世界の海図を書くこと(ぼそっと)」

 

一瞬、躊躇した後にナミは捲くし立てた。“うわ~”という

周囲の視線を背にしながら。

「俺のマントの内ポケットを探れ。とりあえず それをプレゼントしよう。」

 

ナミは言われるがままに内ポケットを探る。

取り出したのは小さな宝石だった。

 

「なによこの小さい宝石?」

小バカにしたような顔でルルーシュを見下すナミの手から ロビンが宝石を取る。

 

「ちょっと!ロビン…。」

 

「ブリタニア王家の秘宝“龍の左目”ね…。

 もしオークションに出せば20億ベリーは確実な品よ。」

「ナミです。お会いできて光栄です!ゼロ」

 

自己紹介を済ますとロビンから宝石を奪い、

ナミは 素早く、そして静かに後方に退いた。

 

 

「次はお前だ。長身の女。」

 

ルルーシュは次にロビンを指名した。

「ロビンよ。私は…そうね。ブリタニアの遺跡や古書を調べたいわ」

「ブリタニア全土の遺跡と古書を進呈しよう」

 

ルルーシュの即答にロビンは“くすくす”と笑みを浮かべる。

「確かにゼロならば…いえ『あなた』ならそれが出来るわね」

 

ロビンの含みを持たせた言葉にルルーシュは一瞬押し黙る。

仮面を被っていてもその表情はロビンの笑顔とは 対称的であることを感じさせた。

 

「・・おい長鼻!次はお前だ」

 

乱暴な口調でウソップを指名し、一瞬崩れた空気を元に戻す。

侮辱的な表現に内心怒りながらも、恐怖でガチガチのウソップが口を開く。

「ウソップだ。オ、オレは…勇敢な海の男にッ!!」

 

「却下だな。あまりにも抽象的過ぎる…。」

 

肩を落とすウソップをサンジが慰める。

「サンジだ。夢は2つあるんだが…。」

 

「1つに絞れ欲張りめ」

 

取り付く島も与えない。サンジは腕を組み考える。

 

 

   かわいい女の子とオールブルー。どちらか1つに決めるなら…。

 

ほんの数秒ではあるが、身を引き裂くような苦痛がサンジを襲った。

このどちらかを捨てることなどできない。

この男が大海賊の船長であるならば、数々の美女たちを保有しているに違いない。

”かわいいお姉さんを紹介しろ”といえば、自分が夢見た桃源郷は即座に完成するだろう。だが――

 

「オレの夢は…“オールブルー”を見つけることだ!」

 

後悔はない。サンジは晴れやかに笑った。

 

「そんなものあるわけないだろ…。バカかお前は?」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

泣きながら襲い掛かろうとするサンジをウソップとチョッパーが必死で止める。

「地理的、物理的考察から見解を述べた。つまりは常識を問題にしている」

 

そう言って他人事のようにサンジの発狂を眺めている。

その流れからサンジを止めようと頑張るチョッパーと偶然、目があった。

 

“変態仮面に見つめられている”

 

自分の願いを考えながらチョッパーは ルルーシュに熱い視線を注ぐ。

 

「次はお前だ。“海賊狩り”のゾロ」

 

ショックを受けるチョッパーを他所にゾロは答える。

 

「大剣豪だ。だが人の手を借りる気はない。」

 

「残念だな…。だがその考え、嫌いではない。」

 

ゾロの返答を予想していたようにルルーシュはあっけなく引き下がる。

 

「最後に“麦わら”のルフィ。お前の夢は…野望は何だ?」

 

 

  そうだ・・・。ここからが本番だ。“麦わら”のルフィ。

  一億の“ルーキー” 七武海を倒した男。

  お前の望みを言え!金か?名誉か?何でもくれてやる!

  お前さえ手中に収めればこの船を制圧するのはさほど難しいミッションではない。

  さあ、言え、お前の欲望(ゆめ)を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            「俺は…海賊王になる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…な!?」

 

ルルーシュは絶句した。それは当然のことだった。

この海で…。 それもこのグランドラインで…。

「海賊王になる」と口にする男に 初めて会ったからだ。

 

「その言葉の意味がわかっているのか?

 それは“この大海賊時代の頂点に立つ“  そう言っているとのと同じことだぞ・・・!」

 

ルルーシュの計算機が弾き出した1250通りのルフィの回答予想が音をたてて崩れる。

 

 

   当たり前だ!こんな馬鹿げた回答が予想できるか!

 

 

「なれるとか、なれないとかじゃない。俺がなるって決めたんだ。 そのために死ぬんなら別に構いやしない!」

 

ルフィは平然と笑って答えた。

 

 

   この海のレベルは知っているはずだ。この海に辿りつくまでに何度も死にかけたはずだ。なのに・・・。

 

 

「…。」

 

 

 

   テロではブリタニアは倒せない!やるなら戦争だ!覚悟を決めろ!正義を行え!

 

 

 

月夜の中、赤髪のテロリストは目を見開き、絶句した。

 

 

 

   撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるやつだけだ!

 

 

 

ブラック・リベリオンの直前、銃を向け、俺を止めようとする緑髪の女に言い放った。

 

 

 

   僕は…。俺は…ブリタニアをぶっ壊すッ!!

 

 

 

東京が陥落したあの夏の日、泣きながら親友に立てた誓い。

 

 

 

 

 

 

       

        「ワンピースは…俺が見つける!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完敗だった。

自分を超える“バカ”に出会った。

 

「交渉は決裂だな…。“海賊王”では部下にはできない。」

 

ルルーシュは仮面の中で静かに目を閉じた。

海賊船における交渉の失敗。

それはすなわち死を意味していた。

覚悟は決まった。自分の敗北を。死を。

だが、気分はそう悪くはなかった。

 

「俺は部下になる気はねーよ。お前が俺の仲間になれよ。よし決まりだ!」

 

「フ、好きにしろ………え!?」

 

 

 

  え、ええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーー?!

 

 

 

「ちょっと待って!何言ってんだ!?ルフィ!!」

「ふざけんな!こんな怪しい奴を船に乗せられるか!」

 

「反対だ!あいつだけは絶対反対だからな!!」

 

一同は驚愕の声を上げた後、

ウソップ、ゾロ、サンジは抗議の声をあげながら一斉ににルフィに詰め寄る。

常識さえ持っていれば ごく当たり前の反応だった。

 

「いいじゃん。面白そうな奴だし。それに カッコイイじゃん!あの変態仮面」

 

「仮面のデザインで仲間にすんな!!」

 

船長の言葉に嘘偽りはないが、こんな理由を承諾できるクルーもいない。

“ぎゃーぎゃー”とルフィを問い詰める三人の後ろにナミが立つ。

 

 

 

          ガン! ガシ! ゴリ!!

 

 

 

 

「痛てーーーー!!」

 

「何するんだ!?ナミさん」

「てめー明らかに俺を強く殴ったな!?」

振り返った3人に対してナミは敢然とした態度で言い放つ。

「あんた達こそ何?船長であるルフィが決めたのよ!  文句を言わず従いなさい!!」

 

ナミの正論と迫力に押される3人。

 

(何考えてんだよナミの奴…。)

 

「ナミさ~ん…。」

 

(何企んでやがるあの女…)

各自、言いたいことを抱えながらもナミの正論は“海賊の掟” である以上逆らえない。

渋々ながら場を解散させる。

( …一時は絶対絶命だったけど、これぞ逆転さよなら満塁打ってやつね!

  これで“黒の騎士団”に追われることなく次の目的地にいけるわ。

  いや、それどころか“黒の騎士団”から何かいろいろ引き出せるかも?

  たとえば、お金とか、黄金とか、ダイヤとか、etc…。)

 

 

 

 

 

 

「フフフ…フハハハハハハハ」

 

ナミが妄想の世界を旅する後ろで、縄を解かれたルルーシュが笑い出す。

 

 

「気に入ったぞ!“麦わら”のルフィ! いいだろう…結ぶぞ!その契約!!」

 

ルルーシュはルフィに向かって手を差し伸べる。

「ハハハ、いちいち大げさな奴だな。」

 

差し出された手を前に、ルフィは麦わら帽子を 被り直した後、しっかりと応えた。

 

「俺はモンキー・D・ルフィ。よろしくな!」

 

「ゼロと呼ばれている。本名はルルーシュ。 ルルーシュ…“ランペルージ”だ。」

 

“ばんざーい”棒読みで祝福するナミ。納得がいかないウソップ達。

 

「…」

 

その後ろでルルーシュを見つめるロビンがいた。

 

「ぎゃーーー!!死人が生き返った!?」

 

悲鳴を聞き、一斉にチョッパーの方を向く一同。

その視線の先にいったのは、死亡と診断された緑髪の少女。

 

「C.C.!?」

 

ルルーシュは少女に向かってそう叫んだ。

 

「ここは…。ご主人さま?ご主人様ーーー!」

 

 

 

 

 

 

ゼロと遭遇し、1時間後。

ルルーシュ・ランペルージとC.C.が麦わら海賊団に加わった。

 

 

 

 


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