ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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”仲間”

突如現れた巨大なオレンジ。

その中から飛び出してきた羊頭の海賊船。

そして、麦わらの男が放った言葉。

 

ゼロの”仲間”と思われる一味の襲撃。

この超異常事態と言える状況の中、

ブリタニアも黒の騎士団の団員も、日ノ本の民衆達さえ、固唾を呑んで、

ゼロとその仲間と思われる麦わらの男の会話を、その成り行きを見守っている。

 

 

「だから、お前を助け――」

 

「“なぜ、ここにいる?”そう聞いている!」

 

ここに来た理由。

その問いに対して答えようとした

ルフィの言葉を遮るように、ルルーシュは再び問い返す。

その言葉には、今度は明確に怒気が込められていた。

 

「…なあ、ウソップ。

 俺はお前に“ウォーターセブン”に行けといったはずだ。

 そのウォーターセブンにいるはずのお前たちがなぜ、ここにいる?」

 

仮面の視線が変わり、その回答をウソップに求めた。

ルルーシュと最後に話をしたのは”ギアス”にかけられ、

海軍支部までの道のりを共にしたウソップだった。

 

ウソップは仮面を見る。

その仮面の中にある顔が…“約束は守れそうにない”そう呟いた。

少し寂しそうなあの笑顔が頭を過ぎった。

 

「ルルーシュ…俺たちはお前を――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  “撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウソップの回答がルフィと同じであると判断したルルーシュは、

それを今まで己を支え続けた言葉によって打ち消した。

 

 

「…それが俺の信念だ。

 それだけを守り、今日まで戦ってきた。

 なあ、ルフィ…俺には俺の戦いがある。

 お前たちには、お前たちの冒険が待っている。そうだろ?」

 

 

その言葉を前にルフィは沈黙する

ルルーシュがルフィの問いかけたのはこの海に生きる者の真理。

このグランド・ラインを生きる一人ひとりに自分だけの物語は存在する。

それを否定することなど誰もできない。

 

 

「だから…今日、ここで死ぬことになろうとも…

 これは俺の戦争だ!ここは俺の戦場だ!

 お前たちがいるべき場所じゃないんだ―――ッ!!」

 

 

ゼロを支えた信念。

その言葉、その覚悟を耳にし、ブリタニア兵はざわめき、

黒の騎士団の団員達は息を呑む。

10万の軍勢が動くことはなく、ただ、麦わらの一味と

ゼロのやりとりを見つめていた。

 

 

「…ウソップ、勇敢な海の戦士は無謀なことはしない。

 チョッパー、この場に医者は必要ない。

 ロビン、ブリタニアの遺跡は陸にある。

 ナミ、この場所の海図はすでにあるぞ。

 サンジ、“オールブルー”はこんな場所にはない。

 ゾロ、お前を超える剣豪はここに誰もいない」

 

 

搾り出すような声で語るのは、あの夢の話。

出会った日に一味が語ったそれぞれの夢。

 

 

「ルフィ…お前は“海賊王”になるんだろ?

 お前は…お前たちは…こんな場所にいてはいけないんだ…!」

 

 

そう言ってルルーシュは視線を落とした。

その嘆き、その苦しみは、たとえ仮面越しでも伝わってくる。

 

この海域を支配した大海賊。

ブリタニアを恐怖させた魔王のそんな姿を前に、麦わらの一味をはじめ、

敵であるブリタニア軍も、仲間であった黒の騎士団も、その場にいる

全ての人間が沈黙し、次の行動、次の言葉を出せずにいた。

 

 

 

あの男を除いては…。

 

 

 

 

 

 

「“ギアス”だ~!これが“ギアス”の力だ~!」

 

 

 

 

 

 

その沈黙を破ったのは――

 

扇要

 

やはりこの男であった。

 

 

 

 

 

 

 

(そうだ!この光景だぁ~。オレはお前のその姿が見たかったんだぁ~!)

 

 

涎をたらし、邪悪な笑みを浮かべながら扇はマイクを握りしめる。

その顔は先ほどの演説にいた“間抜けだが、いい人そうな扇さん”の面影はない。

いや、この小悪党を絵に描いたような邪悪な顔こそがこの男の本性に違いない。

ここにいる全員にそう思わせるほど、

今の扇の顔は、身に纏う雰囲気は変貌を遂げていた。

しかし、扇はそれを隠そうとしない。

いや、それに気づかないほど歓喜し、興奮していたのだ。

 

ゼロの処刑。

心の底から憎み、何万回殺しても飽き足らないゼロのたった一度の処刑。

そのイベントを前に、扇はイラついていた。

扇は死を前にしたゼロの醜態を心の底から楽しみにしていたのだ。

 

 

ペテン師と言われ、石を投げられるゼロ。

処刑台を前に泣き叫ぶゼロ。

許しを請い、逃げ出そうとするゼロ。

あまりの恐怖で失禁し、兵士達に無理やり連行されるゼロ。

 

 

どんな醜態を晒すか期待するあまり、夜も眠れなかったほどだった。

だか、蓋を開けてみたらどうだ。

 

自分があれだけ説明した“ギアス”について人々は誰も信じない。

ゼロといえば、醜態を晒すことなく、処刑台に堂々と上がり、

民衆はまるでその姿をメシアのように崇めている。

なんだこれは?

それは扇にとってはまるで上等な料理に蜂蜜をぶちまけられたような心境だった。

いや、それ以上だった。

このまま醜態を晒すことなく、ゼロが処刑されたなら

ゼロに勝ち逃げされたようにすら感じる。

 

そんな屈辱すら感じている中で、起きた“麦わらの一味”の出現。

そして、それを悲しみ、嘆くゼロ。

 

最高だった。

その様を見たかったのだ。

更なる醜態が見たい!その欲望が扇にマイクを握らせた。

 

 

「ククク、みんな状況がわからず混乱しているようだな。

 オレ様が説明してやろう!

 まずはそこの麦わら帽子を被ったバカは“麦わら”のルフィ。

 賞金“一億ベリー”の海賊のルーキーだ。

 海軍の調査書には、ゼロとは数週間前に知りあったとある。

 ククク、哀れな奴らだぜ~!」

 

「いきなり何だ!?あのモジャモジャはッ――!」

 

 

マイクを片手には叫ぶ扇に衆目が集まる。

“バカ”と名指しされたルフィは初めて見る扇の姿に

怒りのボルテージを即、マックス付近まで引き上げた。

 

「みんな不思議に思わないか?

 たった、数週間しか付き合いのない男のために海賊が

 こんな危険なところに来るなんてなあ。

 自分のことしか考えない、欲望にまみれた海賊がだぞ。

 自らの命を賭けてこの処刑場に来るか?あり得ないだろ?」

 

そう言って、扇はもったいをつけるように演説を中断した。

ブリタニア軍に、黒の騎士団、そして民衆達が各々で話し始める。

 

扇は心の中で笑いに嗤った。

 

ゼロは“ギアス”という力を使ってみんなを操ったという自分の演説。

その演説において、自分としては完璧に説明できたと思ったが、

実際は、いまだ多くの人間がその力の存在に懐疑的だった。

いや、まったく信じていなかった。

それは、“ギアス”があるという明白な証拠がなかったからだ。

ゼロ…あの男を“ペテン師”として地獄に落とすには、

「ギアスに操られた人間」という明確な証拠が、サンプルが必要だった。

 

麦わらの一味。

 

まさに、それが目の前に現れたのだ。

最高だった。

まるで鴨が葱を背負ってきたようだ。

 

「ブリタニアに黒の騎士団。

 海軍も含めれば、この海の全ての戦力がここにいる!

 10万だぞ!10万の戦力だ!

 そんな相手を前にして

 たかが、一人を助けるために戦おうなんて奴は

 世界中探してもあの“白ひげ”くらいだ。

 どんな金を詰まれても断るのが当たり前だ!

 だが、こいつらはここに来た。

 わずか数人の海賊がここにいる。

 ゼロを助けるためにな!

 みんな~もう、答えはわかってるだろ?」

 

そう言って、扇は聞き耳を立てる。

“ざわ、ざわ”とブリタニア兵に黒の騎士団、民衆達の会話が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

  なんということだ…!

 

 

                       まさか…

 

 “ギアス”か!?

 

 

          扇の話は真実なのか… 

 

                           操られているのか?

 

 

    麦わらの一味は“ギアス”で…

 

 

                    じゃあ、俺たちも操られて…

 

 

 なんだあのバンダナは…

 

 

            ディズニーランド帰りか?

 

 

 

 

 

 

 

扇は興奮しながら、聞き耳を立てる。

全て理想どおりの展開だった。

これで“ゼロの伝説”は終わる。

日ノ本は自分の物となり、地位も名誉も思いのままだ。

後は、ゼロの醜態を見物するだけ。

目の前で惨殺される麦わら達の姿を前に、

ゼロはどんな声で鳴いてくれるだろうか。

 

さあ、仕上げだ。

 

扇はマイクを持つ手に力を入れる。

涎をたらしながら、トドメとばかりに喋りだす。

 

「そうだ“ギアス”だ~!

 麦わらの一味は“ギアス”で操られて―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    “うるせーぞ!そこのモジャモジャ!お前は黙ってろ―――ッ!!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モジャ…(がーん)」

 

 

 

一喝、一閃、まさに一蹴だった。

 

トドメとばかりに放った扇の言葉は、ブチ切れたルフィの一声にかき消された。

いや、それだけではない。

ルフィから扇に向かって直線状にいたブリタニア兵達が泡を吹きながら

ばたばたと倒れ始めた。

扇もなんとか意識は保てたものの、白めを剥き出し、泡を吹きながら

ピクピク、と痙攣している。

自慢のリーゼントもヘナヘナと萎れていた。

 

“覇気”

 

怒りの秒針を振り切ったルフィの罵声に偶然であるが、それが加わった。

しかもそれは数百万に一人しか持ち得ない“覇王色”の。

この後の“頂上戦争”以降、開花するであろうその才能が発露した。

その前では、力なき者は意識を保つことすらできない。

 

この事態を前に、ブリタニアに黒の騎士団、そして民衆達は一斉にルフィに視線を注ぐ。

再び、場の主役は麦わらの一味に戻った。

まるで、扇の戯言も、いや、その存在すら、最初からなかったかのように。

 

「俺たちが“ギアス”に操られているだと!?」

 

怒りを前面に出し、拳を握り締めるルフィ。

だが、そのまま、数秒間、固まった後、腕を組みながら下を見る。

 

そして…

 

 

 

「…おい、ウソップ、“ギアス”って何だっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いや、俺たちは“ギアス”なんて都合のいいものは知らねえな」

 

そのルフィの一言に10万人がズッコケそうになる中、

ウソップは笑い出しそうなのを懸命に堪えながら、その質問に答えた。

 

 

「それより、待たせちまったなぁ、ルルーシュ!」

 

 

そう言って、ウソップは大見得を切る。

ルフィの天然ぶりに完全にペースを戻したようだ。

ウソップは思い切り息を吸い込む。

そして、ルルーシュに、ここにいる全ての人間に聞こえるように全身全霊で声を張り上げる。

 

 

 

「“イースト・ブルー”では誰もが知っている――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  “麦わらの一味(俺たち)の仲間に手を出せば一体どうなるかって事くらいなぁ!!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けにきてやったぞ!ルルーシュ!」

 

「ブリタニア!許さないぞーーーーッ!」

 

「さっさと逃げるわよ!ルルーシュ!」

 

 

ウソップの後に、続けとばかりに

サンジにチョッパー、ナミが次々とルルーシュの名を叫ぶ。

 

「お前たち…!」

 

ルルーシュの脳裏に短い旅の、わずか数週間の日々が、あの夜の花火が蘇る。

 

 

 

“仲間”を助けにきた――それがここにいる理由。命を賭ける意味。

 

 

 

その答えを前に,

ブリタニア軍は驚愕し、黒の騎士団は息を呑む。

10万の大軍は揺れた。

だが、衝撃はここで終わらなかった。

勢いをそのままに身を乗り出したルフィが叫ぶ。

 

 

 

 

 

「ルルーシュ!今から俺たちはこいつら全員ぶっ飛ばす!お前はどうする!?」

 

 

 

 

 

 

「なッ…」

 

「にィ―――――――――ッ!?」

 

扇とブリタニア兵が一斉に声を揃え、、

ロロノア・ゾロは不敵に笑い、

ナミが“ぎゃーーー”と叫び声を上げる。

そして視線の全ては回答者となるゼロに、ルルーシュに集まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は・・・

 

 

   お前に…お前らに“明日”なんて来ないんだよ!

   お前らに“優しい世界”なんてもんは永久に訪れないんだよ~ッ!!

 

 

俺は…

 

 

   だが、ここから先は、あなたに関係のない世界だ

 

 

俺は…!

 

 

   だけど、ナナリーのために…もう一度、君と――!

 

 

俺は――ッ

 

 

          お兄様・・・お兄さまぁ―――

 

 

 

 

――ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが“願う”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    「俺も“仲間”に入れてくれ―――ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当たり前だぁ―――!!」

 

そう叫びながらルフィはボールを投げるかのように大きく振りかぶり

その腕を前に投げ出した。

その腕はルフィを起点にルルーシュに向かって一直線に伸びていく。

 

「腕が…!?」

 

「伸びたーーーーーーーー!?」

 

扇にブリタニア兵、そしてそれを目の当たりにした全ての者が

口を大きく開け、絶叫した。

 

「パラミシア(超人系)…?」

 

冷静に分析しながら、シュナイゼルはこの場において初めて微笑を崩した。

 

 

ゴム人間――それがルフィの能力。

 

 

ここグランド・ラインにおいては、悪魔の実の能力などもはや珍しくもない。

だが、実際、初めて人間の腕が伸びるという事態を目にした者の反応は他の海と変わらない。

 

「…へ?」

 

自分に向かって伸びてきた腕が仮面を“パシリ”と掴んだ時に

ルルーシュは間の抜けた声を出した。

仮面を掴んだと認識した瞬間、ルフィは“フン!”と気合を入れ、

後方に向かって引き上げた。

それは、まるで大物を釣り上げるかのように。

初めて出会った時の釣りのように。

 

黒覆面の処刑執行人は慌てて斧を振り下ろす。

だが、斧はむなしく空を切り、地面に突き刺さる。

 

 

 

 

 

「うわああああああぁ――――」

 

 

 

 

 

 

 

処刑されるはずのゼロはそのはるか上、空にいた。

 

 

 

変態仮面、空を舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり―――!」

 

メリー号に放り込まれたルルーシュを、サンジとウソップ、

それに変身したチョッパーの三人がキャッチする。

 

「ただいま!…って殺す気か―――ッ!!」

 

ルルーシュのノリつっこみをルフィは“うししし”と笑いながら眺める。

 

「ルフィ…みんな、ありがとう!」

 

ルルーシュはその感謝の言葉をはっきりと素直に述べた。

もはや、ここにおいて取り繕う必要は何もない。

 

 

“麦わらの一味”全員集合だ。

 

 

「感動の再会は後だ!来るぞ!」

 

刀を引き抜きながら、ゾロが檄を飛ばす。

 

「殺せぇ!ゼロを、麦わらの一味を殺せぇ~ッ!」

 

扇の発狂に呼応するかのように、城壁に取り付けられた砲台が

次々のメリー号に照準を定めていく。

 

「ぎゃ――ッ!オレンジさん!ジェレミア、ジェレミア・バリア!」

 

パニックを起こしたナミが名前を間違えながら叫ぶ。

その声を聞き、ジェレミアはよろよろと立ち上がる。

 

 

 

 

 

その中で、処刑場に爆発音が鳴り響いた―――

 

 

 






ルフィの腕が伸びた時に
BGM コードギアス「0」を脳内で流すと雰囲気が出るかもしれません。

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