ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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助けに来た!

 

 

 

「皆様、ご覧ください!

 これがブリタニアに反逆した愚か者の末路。“平和の敵”の最後の姿です」

 

 

アナウンサーが原稿を読み上げ、カメラのシャッター音が鳴り響く。

その眩いフラッシュライトの中をゼロは…ルルーシュは歩き出す。

その両手の自由は鉄の手錠で塞がれているが、近くに逃亡を防ぐために同行する衛兵の姿はない。

しかし、その左右はブリタニア軍が占め、その人垣は処刑場までの道を形成していた。

シュナイゼルは敢えて言わなかったが、

この調印式の真の目的は“ゼロの伝説”を終わらせることにある。

そのためには、騎士団がゼロを見捨てた、という事実が必要であり、

この演出はそれを最大限にアピールする狙いがある。

 

(チェック・メイトか…)

 

そうルルーシュは呟いた。

細工を壊された仮面はもはや、ギアスの発動を妨げるだけの障壁。

ルルーシュにとってまさにデス・マスクに他ならない。

いや、たとえ、ギアスを発動させ、視界に入る十数人を操ったとしても、

その後ろに控える十万を超える敵を相手に何ができようか。

すでに勝敗は決したのだ。

 

「ざまあみろ!くたばれ!ゼロ!」

 

「ああ、ゼロ様!どうか奇跡を!」

 

ブリタニア兵の罵声、民衆の悲鳴、騎士団の沈黙。

その混沌の中を、ルルーシュは死へ向かって歩き続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

ルルーシュは歩きながら周囲を見渡す。

顔を背け、俯く騎士団の団員達の中に赤髪の少女はいない。

 

 

 

  ――カレン、望んだ形とは違うが、この諸島の争いは終わる。君は生きろ。

 

 

 

悲鳴をあげる民衆たちの中に緑髪の女がいないことを祈る。

 

 

 

  ――C.C. 出てくるなよ。

    シュナイゼルはお前も狙っている。すまないな…お前との契約は守れそうにない。

 

 

 

 

「お兄さま…!」

 

そう呼ばれた気がした。

シュナイゼルの傍らにいる車椅子の少女…愛おしい妹の姿が見える。

 

 

 

  ――ナナリー、愛している…!

 

 

 

それ以外の言葉が思い浮かばなかった。

これから先、ブリタニアに翻弄されるその運命を思うと胸が張り裂けそうになる。

だが、もはや自分は側に居てあげることはできない。

 

 

 

  だが、ここから先は、あなたに関係のない世界だ

 

 

 

シュナイゼルの言葉が頭をよぎる。

今更ながら、その事実を強く実感する。

 

 

 

  ――スザク、ナナリーを頼んだぞ。

 

 

 

頭の中に浮かんでくる親友の顔は少年時代のものだった。

ほんの一瞬、あの夏の日の風を感じた。

 

ルルーシュは歩き続ける。

そしてついに処刑台へと続く階段の前に辿りついた。

処刑台への階段。

その前でルルーシュは歩みを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(怖いものだな…死というやつは)

 

 

処刑台を前にルルーシュは思う。

自分が死ぬという現実。

その現実を前に足は竦み、

大声を上げて逃げ出したい衝動に駆られる。

自分という存在が消滅する。

その恐怖を前に、今までの全てを否定し、

懺悔すれば、処刑は免れるかもしれない。

そんな決してありはしない妄想すら甘い誘惑に感じられた。

 

 

  ――違うな、間違っているぞルルーシュ。

 

 

自分の中で声が聞こえる。

あの日生まれた怪物の声が聞こえる。

 

 

  ――撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ

 

 

それがあの日、怪物と交わした契約。

俺のただ一つの信念。

その信念のみを支えに戦ってきた。ゼロとしてここまできた。

ゼロを守るために、多くの仲間が死んでいった。

ゼロのために多くの人々が犠牲になった。

今更、ゼロをやめることなどできない。

あの日の契約を捨てることなど許されない。

嘘をつくなら最後まで――

 

 

 

    そうだ!俺はゼロ…魔王と呼ばれた男だ!

 

 

 

ルルーシュは階段を上る。

逃げ出したい気持ちを偽り、

本能に反逆し、震える足に力を入れる。

ルルーシュは死への階段を上る。

力強く、踏みしめながら、魔王のように。

 

「ゼロ…!」

 

「ゼロ様!」

 

その最後の勇姿を前に、

団員達は目頭を抑え、民衆は声を詰まらせる。

 

反逆の王の最後。

それは希望の終焉。

エリア独立という夢の終わり。

 

人々がその姿を目に焼き付ける中で、ついにルルーシュは階段を上りきった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

処刑台には二人の衛兵と黒覆面の処刑執行人の姿があった。

巨大な斧が執行人の手の中で不気味な光を放っている。

 

「ぐぅッ…!」

 

即座に衛兵に組み伏せられ、首を棒で固定された。

眼前には青い海が広がっている。

海は穏やかで波一つない。

海面は太陽の光で輝いている。

 

かつて海賊王が処刑される際には嵐が吹き荒れたと聞く。

反逆の王と呼ばれた自分の処刑において、

雨風ひとつないのは器の差なのか、それともこれがふさわしいのか…。

そんなことを考え、ルルーシュは仮面の中で静かに笑った。

 

「ゼロから始まる“大反逆時代”は幕を閉じ、

 ブリタニアと世界は新しい時代を迎える。

 彼の死が、ブリタニアの繁栄と世界平和の礎とならんことを願う。

 オールハイル・ブリタニア!」

 

「オール・ハイル・ブリタニア!オール・ハイル・ブリタニア!」

 

シュナイゼルの最後の演説を合図として

処刑執行人はゆっくりと斧を振り上げていく。

 

「オール・ハイル・ブリタニア!オール・ハイル・ブリタニア!」

 

あの夏の日のスザク、嵐の夜のC.C.の笑顔、月夜のカレンとの出会い、

ナナリーとの日々…様々な思い出が蘇る。

 

「オール・ハイル・ブリタニア!オール・ハイル・ブリタニア!」

 

その中で、ルルーシュはふと思い出す。

数週間前に出会った海賊たちのことを。

 

斧はついに頂点に達し、いよいよ振り下ろすだけとなった。

ゼロの死を前にブリタニア兵の自国への賛美歌はますます大きくなる。

 

 

「オール・ハイル・ブリタニア!オール・ハイル・ブリタニア!」

 

 

 

(あいつら…いま何をしているかな)

 

 

 

「オール・ハイル・ブリタニア!オ…!?」

 

 

処刑場を包み込むほど響きわたった

ブリタニアの賛美歌が突如鳴り止み辺りを静寂が包む。

 

「…?」

 

その静寂といつまでも振ってこない斧を

不思議に思ったルルーシュは恐る恐る目を開けた。

眼前には青い海が広がっていた。

だが、その海面はさきほどの平穏が嘘であるかのように激しく泡立ち、

その下には何かの巨大な影が浮かび上がっていた。

“ざわ…ざわ”とブリタニア兵に、黒の騎士団、

そしてそこにいる全ての人々が騒ぎ始め、辺りは騒然となった。

 

海面に浮かび上がった巨大な影。

その場にいる多くの人々は、その正体を“海王類”と予想した。

だが、この海軍基地の湾内に、これほど巨大な海王類の侵入は過去に例がない。

泡はいよいよ激しさを増し、巨大な影は巡回船を巻き込みながら

海面へと浮上し、その姿を現す。

 

 

 

 

 

 

それは、巨大な、巨大な海オ…オレンジだった…!

 

 

 

 

 

 

「…。」

 

あまりの出来事に、その場にいる全員が固まる。

誰一人として喋ることなく、ただ、そのオレンジを見つめていた。

無言で見つめる観衆の中で、

オレンジは突如、開き始め、辺りはオレンジ色の光に包まれる。

その光の中から、一隻の船が飛び出してきた。

海面に派手に着水するその船は、一瞬、ペガサスを連想させた。

 

それは、羊頭の海賊船。

その羊頭の上に一人の男が立っている。

麦わら帽子を被った男は両腕を天に向けて大声で叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        ”助けに来たぞ!ルルーシュ!”

      

      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレンジの中から現れた海賊船。

その船に乗っている麦わらの男が放った一言は

オレンジの出現から、氷のように硬直していた人々の時間を動かした。

 

「…何だ?あの海賊どもは!?」

 

「あの男…今、なんと言った?」

 

「“助けに来た”確かにそう言ったぞ…!」

 

「じゃあ…あいつらは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         ゼロの“仲間”かーーーーッ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼロの仲間――

 

ブリタニア兵が口走ったその言葉にブリタニア軍は殺気立ち、

黒の騎士団の中に動揺が走る。

それは、瞬時に処刑場全体に伝播し、ざわめきが蜂の巣を叩いた

ような騒ぎになるのに時間を要さなかった。

 

ゼロの仲間によるゼロの救出。

このブリタニア海における最大の海賊にして反ブリタニア勢力の盟主

であるゼロの処刑において、それはもちろん想定されていた。

しかし、ここに集いし戦力――10万を超える兵を前に何ができようか。

総兵力10万という数字は、海軍本部の戦力に匹敵する。

それに対抗できるのは、このグランド・ラインにおいても

“四皇”と“ドラゴン”に限られる。

だが、処刑時刻が迫っても、彼らの影は海にも陸にもなかった。

では、あとは民衆の中に隠れた反ブリタニア勢力のつまらないテロを警戒するだけ。

黒の騎士団にすら見捨てられた反逆の王を助ける者など、もはや、だれもいない。

そう、多くのブリタニア兵は笑っていた。

そのはずだった…だが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…コーティング船?」

 

処刑場を包む騒乱。

その中でシュナイゼルは呟き、思い出していた。

 

枢木スザクの“麦わらの一味消失”の報告。

そして、以前、自身が視察で立ち寄ったシャボンディ諸島の特殊技術を。

 

 

ジェレミア・ゴットバルトの悪魔の実の能力――ザ・“オレンジ”

 

 

ジェレミアの身体を起点として発動されるオレンジ状のバリアは、

その時、食べたオレンジの量により、その範囲、硬度を自在に変化させる。

 

ナミが考えた作戦。

それはこのジェレミアの能力を“コーティング船”として使用することだった。

 

この近海を警備するはあの”ナイト・オブ・ラウンズ”(最強の12騎士)が1人。

“ナイト・オブ・トゥエルブ” モニカ・クルシェフスキーが指揮するブリタニアと海軍の連合艦隊。

 

その戦時体制レベルの警戒網の下、メリー号は、まさにその”真下を”堂々と潜り抜けてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…アガガガ」

 

だが、しかし、この作戦の最大の功労者たるジェレミアは今、床に倒れ、

アーニャの膝の上で苦しそうに息をしている。

“ブリタニアの騎士”としての正装と意気込んで新調したその服は

血で染まり、むき出しとなった機械の部分からは煙と時折、電気が奔る。

その姿を、アーニャが心配そうに見つめている。

当初の予定において、この能力の使用は、警戒網の直前で行われる予定だった。

だが、その予定は“ナイト・オブ・セブン”海軍中将・枢木スザクの襲撃により、

大きく狂うこととなった。

 

予定よりも数時間伸びた使用時間。

その使用時間に必要なオレンジの量は、ジェレミアが食べ切った

あの広大なオレンジ畑の四分の一すらも凌駕した。

 

使用制限を越えた能力の代償――

それを、ジェレミアは文字通り“命”をもって補うこととなった。

生身の身体からは鮮血が迸り、機械の身体が火を吹く。

泣き叫ぶアーニャに背を向け、自分を誘う死神と闘い続けた果てに

ついにジェレミアはメリー号を主君の元に送り届けた。

この奇跡を成し遂げたものが、ジェレミアを支えたものが

 

忠義――

 

ただその二文字だけだったという事実をこの男を前に誰が否定できようか。

 

「あんたの忠義…確かに見せてもらった」

 

戦闘開始を意味する黒い布を頭に巻きながらゾロは呟いた。

そこには、いつもジェレミアを微妙な顔で見る男の姿はない。

そこにいる剣士の目には“ブリタニアの騎士”に対する確かな敬意があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、生きてる!いや~間に合った!よかった!よかった!」

 

 

 

“大海賊艦隊”黒の騎士団――17000人(ドン!)

 

神聖ブリタニア帝国――85000人(ドン!)

 

海賊“麦わらの一味”―――8人と1匹(どーん!)

 

 

 

この状況、この戦力差を前に船長・麦わらのルフィは

数日ぶりのルルーシュとの再会を喜び、陽気に手をふる。

 

「…こ…いる?」

 

「ん?何か言ったか?聞こえねー」

 

助けるべき仲間、ルルーシュ・ランペルージが、

いや、この場においては“魔王”ゼロが何かを呟いたのに気づいたルフィが問い返した。

 

 

 

 

 

     「なぜ、ここにいる?」

 

 

 

 

 

冷たく、苛立ちを含ませながら、

それが助けに来たルフィ達に対する最初の一言。

ブリタニア海を支配した魔王が発した言葉だった。

 


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