ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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戦う理由

 

 

 

 

「ルフィ!」

 

「ウソップ!ルフィを信じろ!」

 

スザクと対峙するルフィを心配そうに見るウソップはゾロの声によって

碇を上げる作業に駆け出して行った。

ゾロとサンジも飛んでくる砲弾を落とすことに集中し、ルフィに加勢しようとはしない。

 

信頼。

 

普段の生活では意識することはないが、

こういう場面において、

自分達の船長であるルフィに寄せるそれが大きいことを一味の行動が表している。

ルフィの言葉通り、加勢がこないことを確認したスザクは

その視線をメリー号からルフィに戻す。

 

「麦わらのルフィ。この包囲から逃げられると…僕に勝てると本気で思っているのか?」

 

「うん、楽勝」

 

「…犯罪者め」

 

そのつぶやきを開戦の合図にスザクはルフィに向かって駆け出した。

それと同時にルフィは、拳を引き、反対の手で狙いを定める。

 

「ゴムゴムの“ピストル”!」

 

「超人(パラミシア)か…!ならば!」

 

勢いよく自分に伸びてくる腕を顔をそらすことでスザクはかわす。

ルフィの拳がわずかに頬を掠っても顔色を変えるずそのまま加速し、

ルフィのわき腹に強烈なミドルキックを叩き込む。

 

「―――痛ッ!?」

 

わき腹に直撃する寸前、“オーラ”を纏った蹴りをまともに喰らい、

ルフィは数メートルふきとばされて、わき腹を押さえのたうち回る。

 

ゴム人間。

 

それがルフィの悪魔の実の能力。

故にルフィに打撃は効かない…はずだった。

だからこそ、ルフィはあえてスザクの蹴りを避けずにはじき返すことを選んだ。

 

「降伏しろ麦わら。悪魔の実の状態変化は僕には意味をなさない」

 

その冷たい瞳にルフィを映し、スザクは空手の構えをとる。

悪魔の実の能力は絶対ではない。

たとえ同じ悪魔の実の能力をもたずとも対抗する手段は存在する。

 

“覇気”

 

幼き頃より、空手や柔術の英才教育を受けてきたスザクは武術の“気”の鍛錬も培ってきた。

それにより、すでに“覇気”を習得する土台はできており、海軍本部での研修の際、

“英雄”ガープ中将に出会うことで、その才能を開花させる。

枢木スザクが捕縛した賞金首は50を超える。

その中には悪魔の実の能力者も含まれており、

超人系はおろか、ロギア系の能力者も存在する。

 

―――悪魔の実の能力者は、その能力を過信するが故に脆い。

 

それが枢木スザクの持論であり、現在に至るまで証明してきた事実である。

ロギアをも打ち崩す体術。

それこそ、スザクを中将という地位に留め、

ブリタニア支部最高戦力の地位に押し上げた秘密であった。

 

「誰がするか!」

 

ルフィが起き上がり、スザクに殴りかかる。

その攻撃を体軸を崩すことなく華麗によけるスザク。

そのまま、連続で襲い来る突き蹴りの連撃を難なくかわし続ける。

 

「ゴムゴムの“戦斧”」

 

足を伸ばしての真上からの踵落としはスザクの残像を切り裂き、

砂上を叩き砂煙を起こす。

辺り一面の視界が砂で覆われ見えなくなる。

スザクは、ルフィの姿を見失ったことに冷静さを失うことはなかった。

呼吸を整え、足を内八字に、両腕を引き締め、瞼を閉じる。

 

「ゴムゴムの“バズーカ”!!」

 

「枢木流・防御型“三戦”」

 

一瞬、人影が写るとその中からルフィが飛び出してきた。

 

ゴムゴムの“バズーカ”

 

両腕を後ろに伸ばし、敵の腹に叩き込むルフィの大技の一つ。

それを喰らった敵は、後方に吹き飛ばされ、大ダメージを受ける。

 

「うわぁ――ッ」

 

しかし、今回に限っては違う。

吹き飛ばされたのはルフィであり、スザクは先ほどの構えを一ミリたりとも崩さず、

ただ悠然と立っていた。

 

“三戦”

 

空手の鍛錬型の一つであり、

本来は肉体を鍛えることを目的とし、防御に用いることはない。

しかし、スザクは極限までこの型を追求し、瞬間的に己の肉体を鋼鉄と化す

ことにより、防御に応用することに成功した。

それは、後にルフィ達が戦うこととなる政府の暗殺組織CP9の体術“六式”の

“鉄塊”と同等の効果を持つ。

 

「最後の通告だ麦わら。お前は僕には勝てない。降伏し…」

 

スザクは追撃しなかった。

ただ、冷たい目で悠然とルフィを見下ろす。

その実力の差を見せつけるために。これ以上、無駄な抵抗をさせないために。

 

「…ゴムゴムの―――」

 

「愚かな・・・!」

 

しかし、その言葉の途中でルフィを再び腕を後方に伸ばし、地面を蹴る。

スザクは、苛立たしそうに再び“三戦”の体勢をとる。

 

「“バズーカ”」

 

「――ッ!?」

 

“三戦”により、全身を鋼鉄と化したスザクは一瞬、驚愕を浮かべた。

バズーカの直撃寸前において、ルフィは両手を合わせることなく、

そのまま両腕を交差させて、スザクの両肩を掴む。

直後、スザクの身体は浮き上がり、“三戦”の体勢は解けた。

“ニッ”と笑顔を浮かべるルフィ。

ゴムの力で引き寄せられ、その笑顔にスザクは全身で突っ込んでいく。

 

「うぐッ!」

 

ルフィの頭突きをもろに受けて、スザクは初めて苦悶の表情を浮かべる。

 

「逃がすか!もう一発喰らえ!ゴムゴムの―――」

 

反撃はこれで終わりではなかった。

そのまま、抱きつき、スザクの両手を封じたルフィは

その首だけを勢いよく、後方に伸ばす。

 

「“鐘(かね)”!!」

 

“ガッ!!”と浜辺に鈍い衝撃音が響き渡る。

 

伸縮で威力を増したルフィの頭突きが再びスザクに直撃した。

羽交い絞めにされ、身動きが取れないスザクにそれを避ける術はない。

もはや、避けることができないと悟ったスザクは、

その直撃寸前で頭に“覇気”を纏う。

それは、悪魔の実の能力を打ち消すと同時に、

普通の人間同士の全力の頭突き合いという結果を招いた。

数十秒、両者はうずくまりながら頭を抑えて動けなくなった。

 

「痛てて、お前、起きてくるなよ。ルルーシュ助けるのに間に合わなくなるだろ」

 

「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、スザクは固まる。

 

(こいつは今、なんと言った?ルルーシュを…助ける!?)

 

そう自問するスザクに、ルフィの拳が眼前まで迫る。

それをギリギリでかわし、スザクは蹴りを見舞う。

ルフィは、もう能力に頼ることはしない。その蹴りを膝で防御して、反撃する。

子供の頃から武術の英才教育受けたスザクに対して、

ルフィは我流ともいえる体術で互角に渡り合う。

いや、現状ではスザクは押されていた。

 

「なぜ、貴様がゼロを、ルルーシュを助ける?

 麦わら!貴様は“ギアス”に操られているのか!?」

 

スザクの頭にシュナイゼルの言葉がよぎる。

 

 

  “麦わらはギアスで操られている可能性がある”

 

 

当時は、自分を遠ざけるための方便でしかないと気にも留めていなかった言葉。

しかし、ルフィの言葉、この現実をスザクは認めざるをえない。

もし、ルルーシュは自分が捕まった時に備え、麦わらのルフィにギアスをかけたならば…

“ゼロの処刑”という情報を耳にしたこの男に“ギアス”が発動したのだとしたら…

それは可能性として十分にありえることだ。

 

「うるせ――お前には関係ねーだろッ!!」

 

ルフィはその言葉を無視して、渾身の“ライフル”を打ち込む。

それをスザクは両手をクロスさせて防御する。

スザクの身体は後方に数メートル下がり、砂にその軌跡が残る。

 

「フフフ」

 

「ん?」

 

「ハハハ…アーッハハハハハハハハ」

 

スザクは顔を抑え、突然笑い出した。

ルフィは、構えながらも唖然とした顔でそれを見つめる。

 

 

スザクは思う。

ルルーシュとは何度も衝突してきた。

ゼロとは何度も戦ってきた。

そして、また自分はルルーシュの前に立っている。

ルルーシュの願いは麦わらの男に宿り、自分の前に立っている。

自分は戦わなくてはいけない。海兵として、騎士として。

倒さなければならない。麦わらのルフィを。

消さなければならない。ルルーシュの願いを。

つくづく…最後まで

 

 

(俺とルルーシュの運命は…呪われている…!)

 

 

スザクは笑う。

まるで狂ったように。まるで泣いているかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ…僕にはもう関係ない」

 

「…ッ!」

 

顔から手を離したスザクの目を見て、ルフィは構えを低く取る。

その顔は冷酷さを取り戻し、その目は黒く…深く濁っていた。

殺気を感じた瞬間、後方に飛んだルフィの眼前にスザクの貫手が止まる。

指先を極限まで鍛えぬき、相手の急所を貫く空手の技。

スザクの貫手はもはや本物の槍と言って過言でない。

そのまま貫手の連続攻撃に入るスザク。

ルフィが避けた先にある岩をまるでスライスチーズのように切り裂きながら、

的確にルフィの急所を突いていく。

それをルフィは“わ、危ね”と口走りながら辛うじて避けている。

スザクの目には先ほどまであったかすかな光、

言い換えるなら甘さはもはや存在しない。

まるで機械のように、ルフィの生死を問わず、その活動を停止させようと貫手を繰り出す。

 

「危ねーだろーが!この」

 

スザクの貫手を直撃寸前で真剣白刃取りのようにキャッチしたルフィは

そのまま跳び上がり、ドロップキックを放つ。

後方に飛ばされたスザクは椰子の木に打ちつけられた。

 

「そこにいろ!ゴムゴムの“銃乱打(ガトリング)”!!」

 

障害物により、スザクは後方に逃げる術がない。

このチャンスを1億の賞金首が逃すはずがなかった。

“銃乱打”の雨がスザクに襲い掛かる。

 

「――ッ!!」

 

追い詰められたスザクがとった行動は左右に逃げることではなかった。

逆に椰子の木を蹴り、加速して前進する。

“銃乱打”の豪雨の中、スザクの手のひらを前に出し、回転させる。

 

「枢木流“廻し受け”」

 

スザクは走る。

ルフィの拳を弾くのではなく、手のひらで柔らかく軌道をそらしながら。

豪雨の発生源にたどり着き、ルフィに強烈な前蹴りを当てる。

後方に吹き飛ばされるルフィは逆に椰子の木に叩きつけられる。

 

「うッ…!」

 

逃げ場を失ったという認識と同時に“ゾクリ”という悪寒がルフィの全身を駆ける。

スザクはすでに間合いに入っていた。

拳を引き、体勢を低く構え、それはまるで虎のように――

 

「…枢木流“白虎”」

 

一瞬、スザクの拳が消える。

そのすぐあとから“ドスッ”という鈍い音が響く。

スザクはルフィに背を向け、空手の”極め”のポーズをとる。

その瞬間、ルフィの後ろにあった椰子の木が粉々に砕け、

吐血しながらルフィはゆっくりと倒れる。

倒れたルフィの頭上には、スザクのマントにかかれている

“正義”が風にゆられていた。

 

「麦わらのルフィ、これも一つの結果だ」

 

スザクは、そのまま歩き出す。

残りの麦わらの一味を捕らえるために。

己の使命を全うするために。

 

しかし―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴホ、ゴホ、」

 

その後ろで、さきほど倒された麦わらの男がゆっくりと立ち上がった。

 

「…動ける傷ではないはずだが」

 

「ん?ああ、どうってことねえよ」

 

そう言ってルフィは服についた砂を落とす。

 

(この男は強い…そして)

 

ルフィの強さをスザクはいまさらながら実感する。

悪魔の実の能力者の多くは、その能力を過信し、

自分自身を鍛えることを放棄した。

それ故、“覇気”を纏ったスザクの打拳の前になす術なく敗れ去った。

 

しかし、この男は違う。

“白虎”の直撃の際、わずかに身体を逸らし、衝撃を逃した。

ルフィは、口に残った血を吐き出した。

それは、直撃こそ避けたものの、内部に深刻なダメージを残した証拠でもある。

スザクはルフィの強さを認める。

そして、それと同時に気づいた。

 

「麦わらのルフィ…お前、”ギアス”に操られていないのか…?」

 

「ん?」

 

“何を言っている?”

そう頭にクエッションマークを乗せるルフィ。

 

スザクは確信する。

目の前の麦わらの男は”ギアス”にかかってなどいない。

わざかな間だが、この男と本気で戦った。

だからこそわかる。

この男は“ギアス”に操られてなどいない。

この男には“意志”がある。

ギアスの操り人形にはない強烈な意志を感じる。

 

―――この男は本気だ。

 

「麦わらのルフィ、何故、ルルーシュを助ける?」

 

「…」

 

スザクは再びルフィに問う。

この男が本気だとわかった。

だからこそ本気でわからなかった。

何故、この男がルルーシュを助けるのかが。

調査書には、逃亡中のルルーシュを助け、数週間ともに過ごしたとある。

その期間にルルーシュと親しくなったのかもしれない。

だが、それで命を賭けられるはずがない。

ルルーシュの置かれている状況がどれほど絶望的なものか

わからないはずがない。

グランドラインで生き延びているこの海賊が知らないはずがない。

 

―――では、何故!?

 

「うるせ――!さっさと戦るぞ!俺はルルーシュ助けなきゃならないんだ!」

 

「ッ…!」

 

その問いを無視して臨戦態勢に入るルフィに

スザクは今までに感じたことのないイラつきを覚えた。

質問を無視されたことではない。

 

“ルルーシュを助ける”という言葉。

自分が言いたかった言葉に。自分が捨てた言葉に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの男に莫大な報酬でも約束されたのか?」

 

「…うぜー」

 

「ゼロは、ルルーシュは悪党だ。約束など守りはしない」

 

「うぜー」

 

「あの男は死んで当然だ!今までに多くの罪を犯してきた!

 あいつが死ねば、日ノ本の多くの民が救われる!」

 

「うぜーって…!」

 

「なぜ、お前が命を賭ける?!お前はルルーシュの何なんだ?!」

 

「うぜーーー!」

 

 

 

スザクは質問を続ける。

能面のような顔にいつの間にか感情が戻り、質問に答えない麦わらの男を睨む。

スザクは止まらない。

湧き上がる感情を全てぶつけるかのように言葉に乗せる。

 

 

 

「俺はあいつの…ルルーシュの友達だった…!

 でも俺は見捨てた!ルルーシュを!

 お前は何なんだ!?たかが、数週間前に出会っただけの…お前に何がわかる!

 お前に俺たちの―――」

 

「うぜ―――って言ってんだろが!」

 

「麦わら――――――ッ!」

 

「“仲間”だからだ!他に理由なんかいるか!!」

 

 

 

 

 

 

 

  ”助けたいから、助けるんだ!他に理由なんかいるか!!”

 

 

 

 

 

 

 

「あ…」

 

あの遠い夏の日の風がスザクを通り抜ける。

目の前に現れた少年時代の幻は一瞬微笑み、ルフィの中に消えていった。

 

 

「…青キジに負けた時に俺は思ったんだ。

 この先の海にまたこんな強い奴が現れるなら

 俺はもっと強くならなくちゃ、仲間を守れねえ。

 俺には強くなんかなくたって一緒にいて欲しい仲間がいるから!

 俺が誰よりも強くならなきゃ、そいつらをみんな失っちまう!

 力一杯戦う方法を考えた。

 誰も失わねえように…。誰も遠くにいかねえように…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ギア・セカンド!!

 

 

 

 


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