ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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処刑前夜「嵐の夜とドラゴン」

 

 

 

 

 

 

海賊“魔王”ゼロの正体はブリタニアの皇子。

その事実により、反ブリタニア勢力は瓦解するというナミの推理は正しい。

しかし、敢えて間違いをあげるならば,

それは、その後の推理“ブリタニアが公表しなかった”という点だろう。

ブリタニアは公表しなかったのではない。

 

決して“できなかった”のだ。

 

ゼロの正体のもう一つの意味。

ブリタニアの皇位継承者が“ドラゴン”の部下であるという事実によって。

 

 

 

 

「あなたの存在によって、ブリタニアは二つに割れる。

 皇帝を守護する騎士達を中心とする純血派。そして、帝国主義者に別れ、内戦が起こるだろう」

 

ブリタニア帝国はエリア支配を行い帝国となった今においても、王国時代の気風を残している。

その象徴となるのが“騎士”の存在である。

騎士達は皇族に忠誠を誓い、生涯をかけて、それを守り通すことを誇りとする。

そして、彼らが結成した”純血派”はその中でも、より狂信的に皇族に忠誠を誓う

派閥であり、軍部内においても、大きな影響力を持っている。

逆に帝国主義者は皇族を国家のシステムの一部とみなす者達であり、

その中心は エリアに利権を持つ貴族達である。

 

この二つの勢力によって形成されているのがブリタニア軍。

その微妙なパワーバランスは次期皇帝…いや、事実上、現皇帝が

“魔王”ゼロであるという事実をもって一気に崩れ去る。

 

「この内戦はエリアに飛び火し、この諸島全土に広がるだろう。

 だが、それだけではすまない。“彼ら”は必ず介入する。

 あなたを…そしてドラゴンの存在を彼らは決して許さない。彼ら“世界政府”は」

 

シュナイゼルから発せられた“世界政府”という言葉。

それにより、ルルーシュは全てを理解した。

いや、より強く認識したといった方が正解だろう。

自身が正体を隠した理由…最も恐れていた敵なのだから。

 

“世界政府”

 

800年前に20人の王によって創設された国際組織。

最高権力者“五老星”を筆頭に世界中に加盟国を持ち、その数は170カ国以上に及ぶ。

まさに世界最大の組織である。

大国ブリタニアといえど、その一加盟国に過ぎず、

その国力に比べて発言力は非常に低いものでしかなかった。

 

「ドラゴンが“世界最悪の犯罪者”と呼ばれる所以は

 世界政府そのものに対する反逆者だからだ。

 その部下であるあなたが皇位に就くことを

 世界政府の首脳達が黙って見過ごすはずがない。

 “海軍本部”を含めた彼らの力の前にはたとえブリタニアといえども抗う術はない。

 分断統治されるか、あるいは諸島全土が奴隷国となるか、どのみちの亡国は避けられない。

 フフ、皮肉な話じゃないか。

 帝国主義を掲げ、覇道を歩んでいたはずの

 ブリタニア帝国がいつのまにか、世界政府の植民地寸前だなんてね」

 

ゼロの仮面は希望のないパンドラの箱だ。

その箱を開けば、双頭の毒蛇が現れ、ブリタニアと反政府主義者に絡みつく。

その毒牙は、諸島全土を噛み砕き、朱色にそめる。

シュナイゼルは悲しそうに笑った。

だが、それが真に見えないのは、この男が嘘をついているためだろうか。

それとも…。

刹那、そんなことを考えてしまったルルーシュの思考が現実に引き戻される。

 

「――だが、それはただの“真実”でしかない。

 そんなものは消してしまえばいい。

 ルルーシュ皇子は生涯、行方知らず。ゼロは正体不明のまま、公開処刑される。

 ただ、それだけだ。歴史にはそう記される。そのために…」

 

そう言ってシュナイゼルは後ろ手に隠していたものを床に投げ捨てる。

それは二回転ほど転がった後、床上で回転し、ルルーシュの前で止まった。

それは仮面――ブリタニア海で“魔王”と恐れられた男の物だった。

 

 

 

「あなたには死んでもらう。正体不明の海賊――“魔王”ゼロとして」

 

 

 

 

 

 

死刑宣告直後、

自分の仮面を見つめるルルーシュに向かってシュナイゼルは語り続ける。

 

「明日、あなたの死によって、

 ゼロの登場から始まったブリタニアに対する“大反逆時代”の幕は下りる」

 

「…フ、本当にいいのかなそれで?」

 

仮面に向けていた視線をシュナイゼルに移し、ルルーシュは語りだす。

その瞳の力は未だ衰えていない。

 

「ゼロが正体不明のまま死ねば、ゼロは伝説と化す。

 その意志を受け継ぎ、この仮面を被った者が新たなゼロとなりブリタニアに戦いを挑むだろう。

 何度も…何度でも!」

 

「違うな、間違っているよ、ルルーシュ皇子。

 ゼロの真贋はその奇跡によってのみ示される。

 多くの観衆の見つめる中…“黒の騎士団”というかつての仲間に裏切られ、

 惨めに死んだいく海賊などだれが英雄と認めよう?負け犬の仮面を被る者など誰もいない」

 

「…ッ!」

 

駆け引きが通じる相手ではないことは承知していたが、

こうもあっさりとその可能性を潰され、ルルーシュは押し黙った。

 

黒の騎士団との同盟締結は、その脅威を取り除くためだけではなかった。

その真の狙いは公開処刑における“ユダ”の役割を担わせるため。

ゼロの力の大半はその組織力にある。

その組織そのものが裏切るならばもはや、ゼロの存在は否定されたも同然だ。

仲間に見捨てられる者が英雄になれるわけがない。

 

シュナイゼルが捉えたのは本質――奇跡を起こせないゼロに価値などないのだから。

 

「フフ、だがそれだけではない。あなたの死はより大きな意味を持つ。

 ルルーシュ様。

 あなたはどれだけご自分のことを理解しておいでだろうか?

 世界中で暗躍する革命軍のルーキー達。

 その中でもゼロの存在は別格だ。

 たかが海賊がわずかな期間で反政府勢力をまとめ上げ、

 ついには国家に対して独立戦争を仕掛けるまでの組織に変貌させた。

 その知略、カリスマ性は他のルーキー達と比べて群を抜いている。

 まるで若き日のドラゴンのように…。

 その急激な成長は世界政府の目に留まった。

 いつの日かドラゴンの”後継者”となり得る危険な存在として」

 

 

 

 

“魔王”ゼロの首にかかった懸賞金――2億6千万ベリー。

 

ルーキーとしては間違いなく破格の懸賞金額であり、七武海と比べても遜色がない。

この懸賞金は過去に行った行動より、

その未来に対する危険性がより多くの比重を占める。

その結果、先の“ブラック・リベリオン”において世界政府は

ブリタニアの要請とはいえ、異例ともいえる“バスターコール”の許可を下した。

すべては、ゼロという次世代の革命家の芽を摘み取るために。

 

「だからこそ、あなたの死には価値がある。

 ドラゴンの後継者となり得る器――“魔王”ゼロの死。

 それは後の戦争に大きな意味を与える。

 革命軍に…そして、世界政府に対してね。

明日、あなたの処刑に際して、ブリタニアはドラゴンに対して――宣戦を布告する」

 

 

 

 

 

「…生贄、という訳か」

 

「理解が早くて嬉しいよ。そう、すぐさま“革命軍”と戦うわけではない。

 だが、いずれその機会は必ず訪れる。彼らが“世界の敵”である以上はね」

 

数秒の沈黙の後、

ルルーシュが出した回答に、シュナイゼルはほんの一瞬、微笑を崩した。

その後、すぐに微笑を取り戻すシュナイゼル。

だが、微笑を崩したほんの一瞬、確かにその目には好意の念が浮かんでいた。

それは、自分と同じ舞台に立つものに対する敬意。

たとえ、敵であろうと賞賛せずにはいられないという人にとっては

自然な…シュナイゼルにとっては不自然な感情の発露であった。

 

「“世界政府”においてブリタニアが覇権を握るには実績が必要だ。

 あの老人達の椅子に座るための確かな…他国を納得させる程の実績を上げる必要がある。

 そして、その機会は必ず訪れる。

 いずれ行われる“革命軍”との戦争。

 その戦争においてブリタニアは“世界政府”の中心国としてドラゴンを討つ」

 

「…そのために必要なのが俺の首と宣戦布告の事実と言う訳か」

 

「後継者候補であるゼロの死と宣戦布告。

 その事実を前にブリタニアが戦争の中心国となるのに異を唱える国はいない」

 

「フ、俺の首がそれほどの値うちを持つとな…光栄の極みだな」

 

「喜んでほしいな、ルルーシュ皇子。

 亡国の皇子として名を残すはずのあなたが、

 ブリタニア帝国の更なる繁栄の礎となることできるのだから」

 

ルルーシュの皮肉をそれ以上の皮肉で返すシュナイゼル。

その宿敵をルルーシュは見つめる。

 

 

  ――さすがだよ。ゼロという死神を逆に栄光のための踏み台にするとはな。

  敵ながら見事なものだ。ただ一点の間違いを覗けばな…。

 

 

ルルーシュは瞼を閉じる。

そこ脳裏には、革命軍から旅立つ前日の嵐の雨音が。

そして、黒い影と頬に刻まれた巨大な刺青が浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 

     

         

    (俺は…ドラゴンの部下ではない)

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとう。これで共犯関係成立だな」

 

そう言って、ピザを齧るC.C.。

俺はそれをただ呆然と見つめていた。

現実感がない。

まるで先ほどのことが夢であったかのように。

 

 

――1時間前

 

俺達が海に出て数年が経った。

つまり、C.C.に助けられ、革命軍で数年を過ごしたことになる。

この数年間は大きい。

この革命軍で学び得たことはこの先の戦いを有利に進める大きな糧になるだろう。

そう、俺はこの先の戦い…ブリタニアを倒すために海に出た。

明日、ついにその戦いが始まる。

ブリタニアを…皇帝シャルルを倒す戦いが。

 

「フ、天も祝福してくれているようだな」

 

外は嵐だった。

風がうねりを上げ、その音はまるで悲鳴のように船内に轟く。

これから起きることを予期するかのように。

 

今日は旅立ちの前日。

ドラゴンから直接指示を受け、俺は晴れて革命軍の一員に、

ドラゴンの部下ということになるだろう。

ドラゴンから直接指示を受けるなど、異例の出来事だが、

俺がブリタニアの皇位継承者という立ち位置もまた異例に違いない。

革命軍にとって俺の存在はブリタニア諸島を押さえる最適の駒。

だからこその特別待遇。

ドラゴンからの直接指示と言う訳だ。

 

  俺は駒…違うな、間違っているぞドラゴン。

 

 

確かに革命軍には返せないほどの恩がある。

だが、それ以上に譲れないものがある。

ブリタニアは…シャルルはこの手で倒さなければならない。

誓いは自らの手で果たさなければならない。

誰かの飼い犬となり、それを果たすことに意味などない。

人は小さいプライドと笑うだろう。大義のために捨てろと言うだろう。

 

 ――だが、その小さなプライドを守るため、俺は海に出た!

 

 

革命軍に従属してはならない。

対等な同盟――共犯でなければならない。

 

「そう、だからドラゴン…貴様に“ギアス”をかける」

 

 

 

 

 

計画は完璧だった。

ドラゴンと同席するはずだった幹部達。

オカマの王をはじめとするこの海で名の知れた賞金首はこの会談に来ることはない。

みな、他の予定に赴くことになる。全員が、不自然なほどに。

 

俺はドラゴンと二人きりで会談し、奴に“ギアス”を――

 

「モグ、モグ、モグ…」

 

…かけるはずだった。

何が“言ってなかったか?私にはギアスは効かないと”だ!

聞いていない!聞いていないぞ!そんなこと!

お前に助けられ、師と仰ぎ、数年になるが初めて聞いたぞ!

知っていたら、格好をつけて計画の全容を暴露したりしない!

 

「ムシャ、ムシャ、ムシャ…」

 

…しかし、俺の計画を知りながら、C.C.は止めようとしない。

ただ、部屋の片隅に佇みながらピザを食べ続けている。

“ドラゴン”を信頼しているのか。

俺をなめているのか。

何を考えているのかまるで読めない。

思えば、初めて会った時から、この女の素性は知れない。

わかっているのは、不死身であり、ピザが大好物であることくらいか。

 

「何を企んでいるかは知らないが…後悔するなよ。

 あとで泣きを見ても知らないからな!このピザ女」

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとう。これで共犯関係成立だな」

 

目に涙を浮かべ、鼻水を垂れ流す俺を見下ろしながら、

C.C.は祝福の言葉を口にした。

 

 

 

――10分前

 

”ドラゴン”は俺達の前にやってきた。

”革命軍”のトップ。

“世界最悪の犯罪者”と言われる男。

その表情は黒いフードを深く被り、伺うことができない。

ただ、その頬に刻まれた巨大な刺青がドラゴン本人であることを語っている。

奴が部屋に入った瞬間、俺は気絶しそうになった。

いや、正確には一瞬落ちていた。

持ち直せたのは、後ろにいるC.C.に

かっこ悪いところを見せられないという意地、やせ我慢のおかげだった。

 

“覇気”

 

人間の気を高め武器する技。

主な使用法は素手や武器による攻撃力を上げること。

優れた使い手による覇気は、悪魔の実の最高峰“ロギア”すら打ち破る。

 

そして、数百万に一人しか持ち得ない覇気…覇王色。

王の資格を持つ者のみが許されると言われる覇気。

普通の人間は意識を保つことすらできない。

その覇王色の覇気が今まさに、ほんの一瞬この部屋を駆け抜けて行った。

ドラゴンとの初対面。その僅か数秒間で俺の顔から色が失われた。

脳裏に過ぎるのは“死”の一文字。

 

冗談ではない!冗談ではなかった!

もはや、“ギアス”をかける計画など脳内から消去されていた。

全身の細胞が警戒音を奏で、体は緊急脱出モードに、

意識はすでにドアの外に走り出していた。

実感した。

 

 

“世界政府”にとっての脅威は革命軍ではない。“ドラゴン”自身であると。

 

 

 

 

 

「そう落ち込むな。あの時のお前は今までで一番格好良かったぞ」

 

もはや、俺がドラゴンに対してとれる策は一つだけ。

正直に話すこと…だけだった。

俺の言うことは恩を仇で返すことに他ならない。

ドラゴンに対する反逆と言われても仕方のないことだった。

 

喉が枯れる。

死の恐怖から涙が自然に流れ出し、挙句、鼻水まで…。

完全にキャラ崩壊だ。

 

――だが、譲ることはできなかった。

 

「男の旅立ちに水を差す気はない。

 ブリタニアの皇子よ…行け、修羅の道を」

 

もはや、意識も絶え絶えの俺にドラゴンが言った最後の言葉。

ブリタニア打倒後のエリア解放を条件とする同盟関係の成立だった。

 

 

 

 

 

 

「フフ、今を生きる人間の表情はやはりいいものだ。

 たとえ、涙でグシャグシャで鼻水を垂れ流す醜い様でも

 それ自体が、真剣だからこそ、本気であるから生きていることの証明に他ならない。

 私にはもう…なくしてしまったものだからな」

 

「…褒めてるのか、バカにしているのか、どっちだ?」

 

涙と鼻水を拭いながら、俺はC.C.を見上げた。

C.C.はいつの間にかピザを食べ終え、小さな笑みを浮かべている。

 

俺と“ドラゴン”の会談。

対等な同盟関係の成立を見届けた唯一の証人。

それがC.C.が選んだ自らの役割だった。

 

「そう睨むなよ。

 私はただ、人間の素顔が好きなだけだ。

 お前は、この革命軍の中で常に“仮面”を被ってきた。

 自分自身を…そしてナナリーを守るためにな。

 そんな、お前の本当の顔を見れたことが素直に嬉しいよ。

 そして…もう、二度とその顔を晒すことはできなくなる。

 これから先、必要だろ?これが」

 

一瞬だけ悲しそうな笑みを見せたC.C.が差し出したもの。

それは仮面。後、ブリタニア海で“魔王”と呼ばれる男のそれだった。

 

「…ただし、覚悟しろ。

 それを被った瞬間から、世界が…お前の運命が変わる」

 

「C.C.。この海に出た時から、覚悟などすでに決まっている。

 いいだろう!変えてやろうじゃないか!この世界全てを!」

 

あの夏の日、

俺の中に生まれた虚無という怪物は漆黒の仮面に姿を変えこの世界に現れた。

 

――そう、俺が“ゼロ”世界を破壊し、世界を創造する男だ!

 

 

 

 

 

 

「そうか、話は決まったな。では、さっそく旅の準備に入るぞ。

 私は明日に備えて寝ることにする。

 お前はピザを焼いておけ。できるだけ大量にな」

 

「フ、お安い御用だ」

 

自分の部屋に戻っていくC.C.を横目に、俺はピザを作るため厨房に…

 

「――ッて待て!!なぜ、お前まで一緒について来るんだ!?

 聞いてなかったのか!? ドラゴンとの共犯関係はあくまで建前だ!

 ブリタニアは俺自身の手で――」

 

「それはお前とドラゴンとの関係だ。私は知らん。

 言ったはずだぞ、私はお前の“個人的な”共犯者だと。

 それに、まだ契約を果たしてもらっていない」

 

「契約って、お前、あれは…」

 

意地の悪い笑みを浮かべるC.C.に俺は反論することができなかった。

革命軍に入り、C.C.の師事した時に交わした小さな約束。

時が過ぎれば忘れられたはずの出来事が脳裏に蘇る。

契約を果たさない者が誓いを守るために海に出られるはずもなく、

翌日、俺とナナリー、そしてC.C.の3人で海に出ることになる。

“黒の騎士団”の前身となる、たった3人の海賊団で。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺はブリタニアの商船を襲い、資金を奪い、名を挙げ、

ナオトグループを吸収し、“黒の騎士団”を結成する。

多くのテロリスト達を傘下に加え、“黒の騎士団”の力は増していった。

しかし、それは、俺の功績ではなかった。

 

革命軍の“魔女”。

 

その存在が、正体不明の仮面の海賊に“革命軍”所属という保障を与えた。

俺は何度も“革命軍”とは同盟関係であり、共犯にすぎないことを告げた。

しかし、いち海賊とあの“ドラゴン”が対等な同盟を結ぶと誰が信じよう。

テロリスト達はおろか、幹部達まで俺の言葉を信じることはなかった。

戦火を挙げるにつれて、俺の異名は変化していった。

最初は、玉城のバカが誤解して流した「女幹部の愛人」

次は「革命軍の超新星」そうそう「革命仮面」なんてのもあったな。

結局、黒の騎士団が“大海賊艦隊”と呼ばれる存在まで成長し、

ゼロが“魔王”という異名が与えられた今でも、“革命軍傘下”という

肩書きは消えることはなかった。

それどころか、世界政府の中には、

ゼロを「ドラゴンの息子」と怪しむ者さえ出てくる始末だ。

おかげで、賞金額は極端に跳ね上がるという結果を招いた。

人は信じたいものを信じる。

その真実の前にあの日、あの部屋で交わらされた契約。

3人だけが知る真実は消え去っていった。

 

 

 

 

 

 

「…もし、初期の段階において黒の騎士団を倒すことができたなら、

 このような結果を避けることができたかもしれない。だが、できなかった。

 なぜなら、あなたの傍らにはいつも、あの“魔女”がいた」

 

回想の間、

俺を無言で見つめていたシュナイゼルが過去を思い返すように話し出した。

シュナイゼルの言葉は真実を告げていた。

 

ブリタニアの最高戦力――ナイト・オブ・ラウンズ(最強の12騎士)

 

もし、初期の段階において、

ブリタニアが主力を用いていたのなら、騎士団の全滅は避けることはできなかっただろう。

いや、それ以前にブリタニアの大部隊を前に、俺は幾度となく全滅の危機に陥った。

それを救ってくれたのが――C.C.

C.C.が独自に“革命軍”を動かし、

ブリタニアを翻弄してくれたおかげで、俺は危機を脱出することができた。。

その結果“革命軍”の急襲に備え、シュナイゼルはナイト・オブ・ラウンズを

首都・ペンドラゴンをはじめとする要所から動かせずにいた。

 

 

 

(ハハ、何が“魔王”、何が“世界を変える男”だ。

 結局、俺は、ドラゴンに・・・C.C.に――守られていた…!)

 

 

 

「本当は彼女の身柄も押さえたかったのだがね。

“天竜人”から長年、ご所望があるようですし。

 彼女…明日の調印式に来てくれるだろうか?」

 

「あの女は俺でも手を焼く。

 貴様では無理だな。

 それに…ドラゴンを倒すだと?――思い上がるな!シュナイゼル!」

 

シュナイゼルの言葉にルルーシュははじめて怒りの表情を見せた。

 

天竜人――世界貴族とよばれる特権階級に君臨する者達。

その地位に奢り、人々を奴隷として弄ぶと聞く。

そのゲスどもの歓心を買うためにC.C.を差し出す。

その計画を聞いた瞬間、

ルルーシュの脳裏に奴隷時代のC.C.が映った瞬間

すでに挑発の言葉は出ていた。

何の戦術も策略もない、ただの挑発。

 

「お言葉痛みいります。ルルーシュ様。だが…」

 

その挑発を、

シュナイゼルは変わることのない微笑で受けとめる。

そして、次の言葉を放った。

 

「だが、ここから先は、あなたに関係のない世界だ」

 

「…ッ!」

 

シュナイゼルの変わらぬ微笑。

そしてその言葉は決して変わることのない未来を示していた。

ゼロは…ルルーシュは明日、死ぬ。

どんなに、怒り、喚き、涙を流そうが、この先に進むことは決してないと。

 

「…ナナリーを。ナナリーをどうするつもりだ」

 

扉に向かって歩き出すシュナイゼル。

その背にルルーシュは問いかける。

もはや、その声に覇気はない。

大切な妹を案じる兄の消え入りそうな心のみがそこにある。

 

「ナナリー様には、いずれは皇位に就いて頂きます。

 しかし、あの方は目が不自由だ。政治に参加することはできない。

 よって成人となった暁には、他の大国の王と婚姻を結んでもらうことになるでしょう。

 ブリタニアをさらなる繁栄のために、皇帝としての責務を果たしてもらいます。

 ああ、明日の調印式には出席してもらういます。

 あなたの死に立ち会い、過去を清算してもらうためにね」

 

あの日の誓いの全ては、ナナリーを守るために始まったことだ。

その誓い…ナナリーの幸せが今、崩れ落ちていく様をルルーシュは感じていた。

そして、ナナリーがどんなに悲しもうとも、

もはや、その傍らに立つことはできないことも

 

「それでは、ルルーシュ様。せめて安らかな夜を」

 

その言葉を最後にシュナイゼルは部屋から出て行った。

だれもいなくなった部屋でルルーシュは、仮面を見つめていた。

 

 

“魔王”ゼロの仮面。

仮面は、その持ち主であるルルーシュと、

その後ろに広がる闇をただ、映し続けていた。

 


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