ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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処刑前夜「ペテン師と王の器」

 

 

 

「ククク、そうだよ。オレだよ!オレ!扇だよ!」

 

扉を開けて一人の男が笑いながら歩いてきた。

男の名は、扇要。

黒の騎士団元副団長にして“扇ジャパン”現総帥。

ゼロを裏切り、ブリタニアに与した売国奴であり、日ノ本の次期首相であった。

 

「久しぶりだなゼロ!いや、ルルーシュと呼んだほうがいいかな?

 ハハハ、牢屋の居心地はどうだい?」

 

「貴様…!」

 

扇の挑発に殺意を覚えたルルーシュはその姿に絶句した。

黒の騎士団時代から扇の奇抜なファッションセンスに定評があった。

しかし、副団長という立場から咎める者はおらず、多くの人間がスルーしていた。

ルルーシュ自身も作戦に支障がないので、敢えて放置したそれは、

“扇ジャパン”総帥となった今、大きな変貌を遂げていた。

扇の軍団服をベースに、

七武海の“サー”クロコダイルの服を意識したような仰々しいジャケット。

首には、今時の海賊は決してつけないであろう髑髏のネックレス。

そして、顔には、ギアス対策として、ドフラミンゴを参考にしたようなグラサンをつけている。

その姿は、海賊というより、ビジュアル系を意識して何か間違えてしまった、といった感じだった。

 

「…悪魔の実の能力か?」

 

扇のファッションを即座にスルーすることを決めたルルーシュは、唐突にそう呟いた。

騎士団の幹部達の突然の裏切りは、通常ではあり得ないほどのスピードだった。

それに、先ほどのカレンの様子。

あれは、何かと心の中で必死に戦っているようだった。

これらの状況証拠から導き出せる結論は一つだけ。

その言葉を予期していたように、扇は“ニヤリ”と笑い、頭のリーゼントに手を当てる。

そこを中心に“黒い霧”が発生し、辺りを覆った。

 

「そうだ!これが“サギサギの実”の能力。

 人を洗脳し、操る、オレの力だ~ッ!

 クハハハ、お前の“ギアス”ほど使い勝手は良くないがな!」

 

周囲を覆う黒い霧。

 

もし、ルルーシュが顕微鏡を持っていて、それを覗いたら悲鳴を上げていたに違いない。

その黒い霧は、小さな扇が集合して構成されていた。

いわゆる“扇菌”というやつだ。

ルルーシュの“ギアス”が視覚情報からの洗脳ならば、

扇の能力は“扇菌”による寄生だった。

その為に、洗脳するのには多少の時間がかかる。

 

「カレンの洗脳が甘いと思って、後をつけていたらご覧の通りだ。

 まあ、あの様子なら、問題なしってことかな。

 ククク、しかし、見事に振られたなルルーシュ~ッ!

 あいつはお前に惚れてたのによ~!

 まあ、安心しろ。カレンはオレが“2号”として可愛がってやるからよ!」

 

扇はそういって好色を顔に浮かべながら、下卑た笑いをする。

もはや、この海に敵なしの扇はその邪悪な色欲を隠そうともしない。

”騎士団のエース”もその欲望の対象の一つでしかなかった。

 

「ゲスが…!それが貴様の正体か?」

 

この“大海賊時代”において扇のような雑魚が生き延びるには強者に媚を売るしかない。

“良い人の扇さん”は扇にとって、生き延びるための擬態であり、

必要だからこそ、それを演じてきたのだ。

ブリタニアに意識を集中するあまり、扇のその擬態に気付くことができなかった自分が恨めしかった。

扇という視界にすら入らない虫けらは

体内で成長し、遂にはその内部から主人を食い殺す寄生虫に変貌を遂げた。

最初に駆除すべきはこのような獅子身中の蟲だったのに・・・。

 

「クハハハ、悔しいか?今まで散々、他人を“駒”として利用してきた

 お前が逆に利用されるのはよう~!“人の良い扇さん”か…。

 ククク、そうだ!

 お前の正体を教えてくれた“お人好し”が誰か知ってるか?

 教えてやるよ!お前の妹…ナナリーだ~ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

 

その名前を聞き驚きを隠せないルルーシュの表情を嬉しそうに見つめながら

扇は語り出した。

 

「まあ、あれは本当に偶然だった。お前が任務に向かっている間、

 後方支援を任されたオレは“斑鳩”の中を散策していた。

 そこでナナリーに呼び止められてお茶に誘われたんだ。

 まあ、オレは幹部であり、“ゼロの親友”を自称していたからな。

 何の警戒心もなく、誘ってきやがったぜ。その時だよ。

 今後のために、媚の一つでも売ろうと考えたオレは、

 自分がゼロの親友であり、いかにゼロを大事に思っているか熱演してやったのさ。

 妹の好感を得られれば、今後、何かと有利になるかもしれないからな。

 そしたら、どうだ?ナナリーの奴は急に泣き出して、自分の素性を語り出しやがったんだ。

 自分達がブリタニアの元皇位継承者だとな」

 

そう言って、扇は両手を組み、目を瞑る。

どうやら、その時のナナリーの真似をしているようだ。

その姿を見るルルーシュの瞳に殺意の炎が揺らぐ。

 

「一通り素性を話したあいつは最後に泣きながら言ったよ。

 ”どうか、お兄様を守ってあげてください。扇さん”ってよ~!

 クハハハハ、そんなことはしませ~ん!クーデターはその直後だよ。

 あのガキも可哀想だよな~。

 目さえ見えれば、秘密を知った時のオレの顔さえ 見ることができれば、

 気付くことができたのにな…自分が騙されたってよ~。

 クハハハ、まさに身も心も盲目ってやつだな!」

 

「――死ね!死ね!!扇~~ッ!!

 貴様のような外道に明日を迎える資格などない!

 よくもナナリーを…ナナリーの優しい心を――ッ!!」

 

ルルーシュの両眼は赤い光を帯び、“ギアス”の紋章が浮かび上がる。

無駄とわかっても止めることはできない。

ありったけの憎しみを込めて呪詛の言葉を扇に放つ。

それをサングラス越しで見る扇はより愉快そうに笑い、懐から何かを取り出す。

 

 

 

 

「ナナリーの心?ああ、もしかしてコレのことか?」

 

 

 

 

「――それはッ!?」

 

扇の手に握られている物、それは「千羽鶴」。日ノ本に伝わる工芸品だった。

一枚の折り紙から鶴を作り、それを千回繰り返してようやく完成に至る。

シンプルだが、時間と根気。

そしてなにより作り手の相手を思う心が必要なもの。

それをさも、つまらなそうに扇は見つめる。

 

「本当に暇だよな~あの目○ら。

 いくら時間を持て余してるからって、こんなもんを作ってるんだから。

 “皆さんの無事”を願って団員一人一人に作って配るんだってさ。

 これはその第一号。

 クハハハハ、うちの団員、何千人いるか知ってるのか?あのバカ。

 このゴミ、人数分作るのにどんだけ時間がかかると思ってるんだよ!?

 無理だよ!無駄だよ!無意味だよ~ッ!!

 だ・か・らさ~。こうしてやるよおぉぉぉぉぉーーーーーーーーッ!!」

 

「や、やめろ――ッ!!」

 

牢獄に“ゴキッ!”という鈍い音を響き、ルルーシュは苦痛に顔を歪める。

自分の鉄格子の前に投げ捨てられた千羽鶴――ナナリーの心。

それを目がけて襲い掛かる扇の踵から守ろうと投げ出した右手は千羽鶴と共に踏みにじられた。

 

「――グあッ…!」

 

「そうやると思ったよ…そう来ると分かってたよ!ルルーシュ~~~!

 クハハハ、読めるぞ!手に取るように!あの“ゼロ”の行動がよ~!

 だから!だから、お前は負けたんだよーーッ!!」

 

涎を垂らしながら、愉悦を顔に浮かべる扇ははしゃぎ出し、

千羽鶴と共にルルーシュの右手を踏みにじる。

 

「ケッ!何が兄妹だよ、カスが!

 ん?ああ、そうだ、他にもいたな“自称弟”が。

 あいつだよ!お前の“ギアス”に操られたあの偽者の、

 暗殺者で、護衛の…そうそう!ロロとか言ったな。あのクソガキ!」

 

「…!」

 

 

 

 

 

ロロ・ランペルージ。

ゼロを殺しにきたブリタニアの暗殺者。

“ギアス”を使い、洗脳した偽りの弟。

最後までそれを信じて、自分を救出するために命を投げ出した。

死に際の…安らかな笑顔が頭を過ぎる。

 

「お前が海軍に連行された後、

 任務から戻ってきたあのガキはオレに泣きついてきたんだよ。

“兄さんはどこに行った!?”ってよ~。

 泣きながら、死にそうな顔してさ。

 あんまりにも、惨めなので、オレは教えてやったんだよ。真実をよ~。

 ”お前はルルーシュの弟なんかじゃない。

 お前はギアスで操られてるだけのまったくの赤の他人なんだよ~“ってさ。

 そしたらどうしたと思う?」

 

 

 

 

 

   「兄さんの居場所を吐くかあの世に逝くか10秒以内に決めてください。

    10、9、(超早口)2.1…」

 

 

 

 

 

「…いつの間にか、ナイフを首元に当てられて脅迫されたんだよーーーッ!!

 クソッ!あの二重人格のクソガキめ!無機質な冷たい目で見つめやがってよ~ッ!

 あまりの恐怖でその場で失禁しちまったじゃねーか!クソ!クソ!」

 

その時の状況を思い出し、扇は怒り出す。

まるで復讐するかのように足に力をこめ、“グリグリ”と右手を踏みにじる。

完全な逆恨みである。

それをルルーシュは一言も発さずにひたすらに耐えていた。

 

 

 

知っていたのだ。

自分が何か反応することは、この変質者に快楽を与えるだけにしかならないことを。

だが、踏みつけられる痛みはスザクの時の何百倍も。

心を焼き尽くそうとする炎はカレンの“輻射波動”の何千倍もの熱を感じる。

ただ、屈辱に耐えることしかできない…それこそが最大の屈辱だった。

 

「お前の側にいないってことはあのガキはもう、この世にはいないってことか?

 あいつ、心臓が悪かったそうだからな~。海軍を襲撃した時にか?

 クハハハ、最後までボロ雑巾な、操り人形の哀れな人生だったな~ッ!」

 

 ――ロロ。

 

 

「お前らは俺が日ノ本を手に入れるための“駒”に過ぎないんだよ~ッ!

 “明日を迎える資格”とか言ったよな?

 クハハハ、明日、死ぬのはお前だろうよ!

 明日の調印式でお前は多くの観衆が見つめる前で、その首を落とすんだよ。

 この海軍基地には、そのための特設処刑場が建設された。

 お前は死ぬんだよ!ルルーシュ~~ッ!」

 

 

 ――こんな奴に…

 

 

「お前に…お前らに“明日”なんて来ないんだよ!

 この世界はオレの都合のいいように設定されてんだ!

 お前らに“優しい世界”なんてもんは永久に訪れないんだよ~ッ!! 」

 

 

 ――こんな奴に…!

 

 

「まったく、哀れな奴らだぜ。ん?そうそう…他にもいたな哀れな奴らが。

 “麦わらの一味”だったよな?船長は確か“麦わら”のルフィ。

 せっかく、グランドラインまで来て、一億ベリーまで成り上がったのに

 お前と出会ったおかげであいつの海賊人生は終わりだ。

 今、海軍とブリタニアが総力を挙げて探してるぜ。

 お前の“仲間”ってことでよ~」

 

 

 …ッ!

 

 

「大方、“ギアス”で操って駒にしたんだろ?

 念には、念を入れて、オレが今から出陣して

“麦わら”の一味の首をここに持ってきてやろうか?

“扇ジャパン”総帥のこのオレがよ~ッ!!ん…?」

 

白目をむき出し、嗜虐の快楽に悶える扇は、ルルーシュを苦しめるため、

思いつく限りの挑発を繰り返す。

その一つとして挙げた“麦わら”の一味討伐。

仕事嫌いの扇がこの時間に動くはずもない。

ただ、ルルーシュを挑発するために出したその提案の直後、

扇はルルーシュの変化に気付いた。

ルルーシュは顔を伏せ、肩を震わせていた。

 

「なんだ?なんだ~ッ!!ついに泣き出して…」

 

「…フフフ」

 

「あ?」

 

 

 

        ”フフフ、フハハハハハハハ――”

 

 

 

 

突如として、だが確かに、そして高らかに声を上げて――“ゼロ”は嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だよ~何が可笑しいんだよ…」

 

 

その笑い声に驚いた扇は後ずさりしながら、理由を尋ねる。

扇の声には怯えが混じり、自慢のリーゼントも心なしか萎れている。

 

“ゼロ”の笑い声。

 

ただ、それだけで、両者の関係は一変した。

扇は思い出していた。

ゼロが笑うという意味を。

それは――勝利の確信。

どんな絶望的な戦局であろうとも、その笑い声が響き渡れば、団員達の瞳には希望の光が灯る。

事実、ゼロが笑った後で、負けた戦いは一度たりともない。

しかし、敵となった今の立場において、

その声は、何と恐ろしく邪悪で薄気味悪いものか。

それは、まるで自分を地獄に誘おうとする死神の如く。

 

もはや、そこには元皇位継承者の脆弱な影はなかった。

そこにいるのは、紛れもなくブリタニア海を支配した“魔王”と呼ばれた海賊。

 

「…笑わせてもらった礼に一つ忠告してやろう。

“麦わらの一味”に手を出すなど止めておけ」

 

顔を上げたルルーシュの瞳から赤い光と“ギアス”の紋章が消えていた。

ただ、その瞳には、以前のように強い自信と確信に満ちている。

 

「扇、お前が何を企もうとも、どんな手段を使おうとも無駄だ。

 あいつは…ルフィは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          “海 賊 王” に な る 男 だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ?はあぁぁぁぁ~ッ!?」

 

「…だから、貴様のような雑魚では、はじめから相手にならない。諦めろ。

 というか死ね。自ら硫酸を被り惨たらしく逝け。」

 

“海賊王”

 

その想定外の言葉に驚愕の声を上げる扇。

今時の子供達ですら、そんなことは口にしない。

しかし、ゼロから…あの“魔王”と呼ばれた男からそのセリフが飛び出してきた。

さらには、“ギアス”が使えたなら、実行させていたであろう恐ろしい内容も。

 

「何より、俺が何の策も講じていないとでも思っているのか?

 フフ、すでに麦わら達はこの海域を脱出して、

 今頃は“ウォーターセブン”に着いているだろう。

 相変わらず無能で安心したよ扇。

 貴様が日ノ本を手に入れる?

 思い上がりも大概にしろ!せいぜい、シュナイゼルに駒として使い捨てにされるだけだ。

 そして、そんなことはエリアの民が…日ノ本人が許さない。

 扇…日ノ本人を舐めるなよ!!

 彼らは強い!

 それは共に戦ってきた俺が一番よく知っている。

 たとえ、俺が死のうとも、彼らは独力でブリタニアを倒し、いつの日か日ノ本を取り戻す!

 貴様は首が落ちるその日まで、砂上の城の中で怯えながら暮らすがいい!」

 

ルルーシュの言葉は続く。

ブリタニアの皇子が日ノ本人の力を信じ、

日ノ本人の売国奴を糾弾するというシュールな光景がそこにあった。

ルルーシュの顔には活力が戻り、得意の毒舌も復活した。

扇は黙っていた。

ルルーシュの弁舌に圧倒されたこともそうだが、

何よりも、その瞳に…強い確信を帯びたその瞳の力に沈黙した。

ただ、体を“ワナワナ”と震わせながら。

 

「…ククク」

 

「…フフフ」

 

「クハハハハハ――」

 

「フハハハハハ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             “ハーッハハハハ!!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が可笑しい~~~ッ!!」

 

「…フン」

 

笑い出した直後、白目を剥きだしながら逆キレするリーゼント頭。

そのノリつっこみに応じておきながら、

ルルーシュはそれをさも、つまらなそうに、まるでゴミを見るような目で見つめる。

扇は思い出していた。

クーデターを成功させたことを。ナナリーを売り渡したことを。

シュナイゼルから日ノ本の統治を認められたことを。この海の支配者となったことを。

 

(なのに…なのに…何だ!これは~~~)

 

二人の関係はあの頃に戻ってしまった。

何を考えているか分からない仮面の魔王に対して必死に媚を売っていたあの頃に。

きっと仮面越しに、このゴミを見るような目で自分は見られていたのだ。

 

「その目で…その目でオレを見るんじゃね~ゼロォォォーーーーーーッ!!」

 

助走をつけて走りだした扇は足を振り上げる。、まるでサッカーボールを蹴るように。

その足、憎しみが、ルルーシュに…ゼロに襲い掛かった。

 

 

 

 

「止めたまえ、扇君」

 

その声に反応し、扇の足がルルーシュの顔、1cm手前でストップする。

その声がした方向から一人の男が歩いてくる。

ブリタニア兵を従え、金髪で長身。高貴な身なりのその男は微笑を浮かべる。

 

「シュ、シュナイゼル様~~」

 

犬のような声を上げ、扇はシュナイゼルに近づいていく。

媚を売ったことを屈辱と感じていた男とは思えない反応。

モミ手はだんだんと速度を増し、今にも火を吹くそうになっている。

 

「扇君。これはどういうことかな?」

 

シュナイゼルは相変わらず、微笑を崩そうともせず、現状把握に努める。

 

「へへへ、実はうちの団員がゼロを襲おうとしましてね。

 そこを何とかこの扇めが止めた次第です。

 しかし、この薄汚いペテン師は相変わらずの演説を始めまして。

 それで、少しお灸を据えてやろうと思いまして…。

 まあ、つまりは“正義の制裁”を――」

 

「捕虜の虐待は国際法違反だと知っているかな?」

 

これまでの過程の説明、そして自己弁護を始めようとする扇の言葉を

シュナイゼルは制す。

笑ってはいるが、その瞳に冷徹な光が輝く。

 

「…バレなければ無問題では?どうせ明日には死ぬ男ですから」

 

その“ザ・犯罪者”の肉声を前にブリタニア兵達がざわめいた。

自分達の敵…“黒の騎士団”は数倍の敵に対して戦いを挑んでくる

強さと勇気を兼ねそろえた相手だった。

だからこそ、今回の同盟締結により、その脅威が消えることを

喜ぶブリタニア兵も多い。しかし、この犯罪者がそのトップに…!?

 

「扇君…この場は帰ってくれないかな」

 

シュナイゼルは相変わらず、微笑を浮かべる。

だが、その場の空気が一変したのは誰もが気付いてた。

その空気は扇の首に巻きつき、その息の根を止めようと動き始めた。

 

「へ…へへ、私はこれで失礼します。ゼロ!全てはお前が悪い!」

 

そう言って扇は部屋から逃げるように出て行く。

ゼロに対する最後の罵倒を置き土産にしながら。

 

 

 

 

 

 

 

(チッ!シュナイゼルの野郎!いいところで邪魔しやがって・・・!)

 

唾を吐き、悪態をつきながら、扇はもと来た道を戻っていく。

 

 

 

 せいぜい、シュナイゼルに駒として使い捨てにされるだけだ。

 

 

 

先ほどの、ルルーシュの…ゼロの言葉が扇の脳裏に蘇る。

いくら無能だからといって、扇でもそれくらいのことは予想できる。

“エリアの半分を陥落させた男”それがシュナイゼルの異名。

黒の騎士団時代においても、その戦略・戦術の高さを目の当たりにしている。

そのような男がイレブンである自分を部下として、仲間として信用するはずがない。

だからこそ、何度かの会見の時に、使ったのだ…悪魔の実の力を。だが――

 

(あの野郎…欲望ってものがまるでないのか?)

 

“サギサギ”の実の力は欲望に寄生して発動する。

しかし、シュナイゼルにはそれが見当たらない。たまたま、現段階において

それがないのか。生まれつきなのかは分からない。

だが、それがなければシュナイゼルを“駒”として操ることはできない。

 

「気持ちの悪い野郎だぜ…だが、時間はたっぷりある!そう!たっぷりとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…気持ちの悪い男だ」

 

扇が去った扉を見つめながら、シュナイゼルはそう呟いた。

見え透いた媚へつらい、時々、頭から湧き出るゴキブリのような黒い霧。

たとえ、シュナイゼルのように

感情の起伏がない者でも嫌悪を感じずにはいられない。

その後、シュナイゼルは部下を下がらせた。

 

”大海賊艦隊”黒の騎士団・団長“魔王”ゼロ。

ブリタニア帝国宰相・シュナイゼル。

何度も戦火を交えてきた二人のトップがこの部屋ではじめて二人きりで対面する。

 

「あのような男を部下にしたことがあなたの命取りとなった。

 我々の勝負を分けたのは“部下の差”といってもよいでしょう。」

 

「…。」

 

シュナイゼルの言葉に反論することができない。

初期メンバーでナオトの親友というだけであのようなゴミクズを幹部にした

自分が恨めしかった。

日ノ本型組織の限界を感じずにはいられない。

 

「そんなことを話しにわざわざここに来たわけではあるまい?本題に入れ。」

 

あのゴミに関する話題で時間を浪費することをルルーシュは避けた。

なによりも、シュナイゼルがここに来た理由が気になった。

何か…胸騒ぎがする。

 

「…ルルーシュ様。先ほどシャルル皇帝がお亡くなりになりました」

 

 

 

 

 

「―――ッ!!」

 

一瞬、頭の中が白くなった。

倒すべき宿敵、ブリタニアの象徴、自分達を捨てた父親。

まるで走馬灯のように数々の映像が頭を過ぎる。

病気で床に伏せていたのは知っていた。長くないことも。

だからこそ、焦っていた。

なんとしても生きている間にブリタニアを倒したかった。

あいつを引きずり出して、

母さんのことを懺悔させたかった…ナナリーに対して謝らせたかった。

 

「さきほど、医師から連絡がありました。病死だそうです。

 それとあなたが追っていたマリアンヌ様の暗殺犯についてですが、

 あなたが倒した“ギアス饗団”のトップだったと判明しました。

 自分達の研究にマリアンヌ様が反対していたのが理由のようです。

 マリアンヌ様の死後、陛下がエリアの侵略を口にしたのも彼らの進言のようです。

 確かに…この頃から陛下は普通ではなかったように思います。

 不死についての研究を始めたのもこの時期からでした。」

 

自分が生きる理由。

母親の仇討ち。

その相手はいつも間にか倒していた。

その事実を前にルルーシュは声を失った。

仇を討った。

暗殺犯を殺し、皇帝シャルルは死んだ。

 

――だが、達成感はなかった。

ただ、喪失感だけが残る。

心の一部が欠落したように。

しかし、この事実を前にどうしても知っておかなければならない。

ルルーシュは顔を上げ、シュナイゼルを睨む。

 

「シュナイゼル。シャルルを殺したのは貴様か!?」

 

 

 

 

「…。」

 

シュナイゼルは黙ったままだ。

ルルーシュの質問の意図を見抜いたからだ。

皇帝が亡くなれば、ブリタニアを継ぐのは、ルルーシュとナナリーのどちらかになる。

しかし、その身柄はシュナイゼルが押さえている。

その存在を闇に消しさえすれば ブリタニアはシュナイゼルの手に落ちる。

皇帝がなくなった今、

シュナイゼルこそがブリタニア帝国の事実上の盟主となった。

ルルーシュがシュナイゼルの皇帝暗殺を疑うのは当然といえる。

 

「…いいえ、違います。ルルーシュ様。」

 

「…。」

 

しかし、シュナイゼルはいつもの微笑を浮かべ、手短に答える。

ルルーシュもそれに反論することはしない。

この場においてシュナイゼルの言葉を覆す証拠などない。

なにより、ブリタニアがシュナイゼルの手に落ちた事実は変えられない。

真実などもはや、何の意味もなかった。

 

「ルルーシュ様。あなたは私を誤解している。

 私はブリタニアを手に入れよういう野心などない。

 ただ、帝国宰相として最善の行動をとるだけです。今までも、

 これからも。そう、だからこそ…」

 

ルルーシュはシュナイゼルを見つめる。

そして考えていた。恐らく、この男は“嘘”をついていないと。

これまでに多くの海賊達を見てきた。

その目にギラつく野心を。

だが、シュナイゼルには、それがなかった。

対面してはじめてわかった。

この男が自分の宿敵となり得た理由を。

この男、シュナイゼルはどこか感情が欠落している。

だからこそ、自分以上に最適で手段を選ばずに行動することができたのだ。

シュナイゼルは言葉を続ける。冷たい微笑をうけべながら、その言葉を放った。

 

「だからこそ、あなたには死んでもらわねばならない。」

「…!」

 

「海軍本部にあなたを引き渡したのは、あなたに死んでもらいたくなかったからだ。

“インペル・ダウン”でおとなしくしてくれたのならば

 いつの日か皇帝として迎えることができたかもしれない。

 ――だが、あなたはこの海に帰ってきた。

 本当に残念です。ルルーシュ様。

 あなたが、“革命軍”傘下の海賊でなければ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

         “ドラゴン”の優秀な部下、ゼロでさえなければ・・・

 

 

 

 


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