ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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ゼロ処刑編
処刑前夜「嘘と誇り」


 

 

 

マリンフォードの海軍本部をモデルとしたブリタニアの海軍支部。

ブリタニアの全面援助で建てられたこの要塞の海軍からの影響は外装だけには留まらなかった。

その内部――この海域の犯罪者達を幽閉する留置場は、

あの「インペル・ダウン」を真似られて作られていた。

地下、5階を最下層とし、その危険度によって、各階層に犯罪者達を振り分け、

監視するこの留置場は、完成からただ、一人の脱獄囚も出していない。

その鉄壁の牢獄に“ゼロ”が投獄された夜、一人の潜入者が現れた。

 

時刻は夜になり、満月がブリタニア支部を照らす。

その光が届かぬ、暗い階段を潜入者は下りていく。その潜入者の登場に

1階フロアの囚人達は狂喜した。

この地獄に似つかわしくないその容姿は、

犯罪者達を好色に駆り立て、彼らは口々に卑猥な言葉を投げかける。

しかし、その歓声は看守の惨劇を目の当たりにすると、直後、悲鳴に変わり、

後は、ただひたすら沈黙するだけとなった。

フロアを下にいくほど、囚人の危険度は上がっていくこの留置場において、

3階フロアからの囚人は、“ブラック・リベリオン”において拘束された

“黒の騎士団”の団員達であった。

その彼らが、侵入者にむけた眼差しは、侮蔑ではなく、畏敬。

投げかけるその言葉は、憎悪ではなく、親しみが込められていた。

その中を潜入者は進む。

フロアを降りれば、降りるほど、強さを増す看守達など眼中にはなかった。

現れる敵を前に、右手を掲げ、たたこう呟くだけ。

 

「…弾けろ!」

 

それだけで、敵は“沸騰”し、大火傷を負い、床に倒れる。

その横を潜入者は悠然と進む。

その足は、ついに5階フロアに到達した。

このフロアにいる犯罪者はただ、一人。

先の“ブラック・リベリオン”の首謀者。

”大海賊艦隊”黒の騎士団の元団長。

彼の牢を前にして、潜入者は歩みを止め、ゆっくりと右手を掲げた。

 

 

 

「答えて、ルルーシュ。あなたは私に“ギアス”をかけたの?」

 

 

 

 

 

 

時刻はもう夜になっただろうか。

拘束され、牢に放り込まれてた後は、激しいショックと絶望により、冷静さを失っていた。

心を落ち着けるために瞳を閉じ、ただ時が過ぎることに身を委ねていたが、

いつのまにかに浅い眠りに落ちていたようだ。

仕方のないことだ。

ルフィ達と別れた後、不眠不休でこの海軍支部に潜入し、

海兵達に“ギアス”をかけた。その疲れが出たのだろう。

 

  必ずここに来ると思っていたよ…ゼロ。

  それにスザク君…よくやってくれた。また勲章が増えたね

 

脳裏に数時間前の映像が浮かび上がる。地面に組み伏せられた俺が見たのは、

微笑を浮かべ、冷徹に自分を見下す宿敵。、

その傍らで呆然と立ち尽くしている親友の姿。

――シュナイゼルの言葉。あれはブラフだ。

限られた選択肢の中で、俺が辿りついた答え。奴がそれを読んでいたのだ。

すでに海軍支部のどこかに身を潜めながら、俺達を見学していたのだろう。

まるで、演劇鑑賞に招待されたゲストのように。

スザク…あいつは、何も知らされていない。

シュナイゼルは、絶妙のタイミングで言葉というナイフに不信という毒を塗り、投げ放った。

俺たちの決意を殺すために。

全ては、シュナイゼルが仕組んだことだ。

奴はそれが出来る人間であり、

スザクは“嘘”をつける男ではない。――なにより、俺は、あいつを信じたい。

 

 ナナリーは必ず、スザクが助けてくれる!

 だから、もうなにも心配する必要はない。たとえ、俺の身に何があったとしても…。

 

 

 

(…そうだろう?カレン)

 

 

 

 

 

卜部さんが死んだあの日、私の中にある“疑念”が生まれた。

あの日、卜部さんは、“ギアス”に操られ、扇さんに襲い掛かった。

それを止めるために藤堂さんと四聖剣の仲間達は已む無く、卜部さんを殺害した。

それが、扇さんが私に話してくれた事実だった。

 

“ギアス”人の意思を操るゼロの能力。

 

私は、戦場において、何度か“ギアス”をかけられたと思われる敵に遭遇している。

どこか、生気がなく、うつろな目をしていた。そいつは私達を気にも留めず、

味方の陣地に突入し自爆テロを起こした。

あれは、人というよりも、人形の様に、戦う気概も、生きようとする意志も感じることはできなかった。

 

卜部さんの水葬はその日のうちに行われた。

最後に正装に着せ替える作業は、私が行った。

藤堂さん達は、 たとえ任務といえど、仲間を殺めたことに自責の念を抱き辞退した。

藤堂さん達以外で卜部さんと最も親しかった隊長は私だ。

“ブラック・リベリオン”敗戦後を共に生き、あの人が目玉焼きに何をかけるかだって知っていた。

だから、私がやらなくちゃ。五番隊の隊員達の補助を伴い、作業に入る。

 

“疑念”はその時、生まれた。

 

卜部さんの体には夥しいほどに切り刻まれていた。

それは、藤堂さんと四聖剣によってつけられたものだ。

彼らの“決死”のフォーメーションから逃れるのは、私でも難しい。

それも、一体四の劣勢の状況においては…“ギアス”に操られているような状態では

きっと、一撃のもとに決着したはずだ。

 

…だが、体の傷は違う事実を訴えている。

この傷は、あのフォーメーションを何度も潜り抜けたことを物語っている。

腕や肩の傷は、急所への一撃を防ぐために出来たものだ。

胸の傷は心臓への斬撃を避けた時にできたのだろう。

額を擦りむいている。何度も倒れ、そして起き上がってきたに違いない。

全ての傷から、隊長としての意地…戦士の意志を感じる。

全ての傷は、訴える。“断じて操られてなどいない”と。

 

――頭が割れるように痛い。

頭の中に、小さな光が生まれ、それが黒い霧に押し潰されないように懸命に抗っている。

なにが“嘘”で何が“真実”なのか。

それが分かるまで、私は一歩も前に進めない…!

 

――だから

 

「答えて、ルルーシュ。あなたは私に“ギアス”をかけたの?」

 

右手を掲げたカレンは、苦しそうに頭を押さえる。

何ももたない右手。

しかし、それはマシンガンを向けられるより、遥かに危険であることは、

このブリタニア海に生きる者にとっては常識だった。

その危険な右手――“輻射波動”に襲われた敵は、“沸騰”し大火傷を負う。

その右手との距離が近ければ、近いほど、“輻射波動”の業火はその威力を強め、

ゼロ距離における攻撃は文字通りこの世界から“消滅”を意味する。

しかし、今日、その禍々しい凶器を向ける相手は、自分が命を懸けて守り通してきた主君。

かつての仲間だった。

 

「“ギアス”という力を使い…私の心を捻じ曲げて…従わせて――」

 

頭の中で黒い霧が渦巻き、その力を増している。それに押し消されないように

小さな光が懸命に足掻いている。頭が割れるように痛い…。

今にも倒れそうな身体。折れかけた心。

それを支えているのは、視界に入ったルルーシュの姿だった。

 

「フフフ…フハハハハハハハ」

 

「ルルーシュ-――ッ!?」

 

留置所にゼロの笑い声が響き渡る。

その笑い声を「嘲り」と捉えたカレンは怒りに駆られ鉄格子に詰め寄った。

その右手は赤く光り“輻射波動”の初動の段階に入る。

ルルーシュとカレンの距離はもはや1mもない。

その輝きはルルーシュの瞳を照らし、その瞳に映るカレンを赤く染めた。

口を閉じたルルーシュはただカレンを見つめていた。

静かに、昔を懐かしむように。

 

 

  スザクもそうだが、ここ数日は昔を懐かしむことが多い。まだそんな歳ではないのにな。

  カレン。君は覚えているだろうか?俺と初めて会った時のことを。

  ゼロとしてエリア11で活動を始めた頃のことだ。

  仲間を集めるために、俺が目をつけたのは、レジスタンスとして名を売っていた「ナオトグループ」。

  そして、その中で有名なのが「紅い月」と呼ばれる女テロリストだった。

  使えるならば“駒”として利用する、

  そう考えて近づいた俺は、結局カレンに“ギアス”をかけることはできなかった。圧倒されたのだった。

  その手に持っていた銃ではなく、その瞳に宿る強い意志、気高さに。

  そして、俺達は“黒の騎士団”を結成し、ブリタニアとの戦いを始めた。

  カレンは最も優秀な部下になり、背中を預けることができる唯一の戦友になった。

  “成田攻防戦”の時、土砂崩れを利用した俺の戦術は、ブリタニア軍だけではなく、

  多くの一般人の被害者を出すことになった。

 

  共に進みます。私は、あなたと共に

 

自分の戦いに…歩みに迷い、

立ち止まりそうになった俺の背中を押してくれたのは、君だった。

カレン、君がいてくれたから、俺は歩み続けることが出来た。

 

 

 ――だから

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・君の心は君自身のものだ。ゼロへの忠誠も憧れも全て」

 

「う、動かないで!」

 

カレンに向かって歩き出すルルーシュ。

それを静止しようと声をあがるカレン。

両者の間の距離はカレンの掲げる右手のみになり、ルルーシュはその前で歩みを止めた。

 

「カレン、誇りに思っていい。君が決めたんだ。君が選んだのだこの…私を」

 

「…ッ!」

 

そう言ってルルーシュは再び、歩み始める。

カレンは腕を引き、ルルーシュとの距離は 鉄格子を挟むのみとなる。

離れようと身を引こうとするカレン。その右手をルルーシュは掴んだ。

 

 

  カレンのあの時の誓いを…誇りを守ることができるのは“ギアス”なんかじゃない。

  必要なのは“言葉”。それを伝える“覚悟”だけだ。

 

 

「グウッ!!」

 

「あ、ああ…!」

 

カレンはその光景に言葉を失った。

自分の右手を…この海域で最も危険な凶器を掴んだ

ルルーシュは、その右手を自分の胸に押し付けたのだ。

その右手――“輻射波動”は初動の状態とはいえ、

その高熱は、ルルーシュの服を焦がし、肉を焼く。

辺りに特有の嫌な匂いが立ち込める。

慌てて能力を解除し、離れようとするカレンの手をルルーシュは離さない。

ただ、その瞳のみを見つめ、言葉を続ける。

 

「…信じることができないか?」

 

「…ルルーシュ」

 

辺りを静寂が覆う。カレンの耳に聞こえてくるのは、自分の心臓の高鳴り、

そして、右手を通して伝わってくるルルーシュの鼓動だけだった。

 

 

 

 

(…思い出した。私はあの時、“ギアス”にかけられたんだ)

 

 

 

 

 

「待って!一方的過ぎるわ!こんなの!

 ゼロのおかげで私達、ここまでこられたんじゃない!彼の言い分も・・・!」

 

「離れろカレン!お前も死にたいのか?」

 

「“ギアス”だ!カレンも“ギアス”に操られているんだ~ッ!」

 

第四倉庫に呼び出された私達を待っていたのは、幹部達のクーデターだった。

幹部達は空ろな瞳と重火器を私達に向け、もはや話し合うチャンスすらなかった。

私は、即座に“輻射波動”を展開させて、ゼロの盾となる。

ゼロを守ることは親衛隊長としての任務。

ゼロはこのエリアの希望だ。私が守らなくちゃ・・・。

“輻射波動”の火力を最大に上げ、敵の武器を観察する。

マシンガンの他にバズーカ。

これほどの火力に私は耐え切ることができるだろうか?

できるだろうか…ゼロを逃がすことを。

 

(…無理だ)

 

“輻射波動”の持続時間はそう長くはない。

考えられる退路は全て塞がれている。罠に嵌った時に、勝敗は決まっていたのだ。

涙が出てきた。

心臓の高鳴りが聞こえてくる。

まるでそれは死神の足音のように感じる。

だが、逃げ出す気はなかった。命に代えてでも守るべき人がいたから。

…でも、聞きたかった。

何でもいいから。何か“言葉”を。

それを聞けば、聞くことができたなら、きっと私は大丈夫。どこまでも戦える!

 

だから、ゼロ!私に――

 

 

「…カレン、君は生きろ!」

 

 

光が私の中で膨らみ、あふれ出る。そして、黒い霧を打ち消した。

 

 

 

 

 

 

「カレン…?」

 

「ルルーシュ…私は…私は――」

 

カレンの瞳から大粒の涙があふれる。

カレンの瞳を覆っていた黒い霧は消え、その瞳に力が戻った。

全て思い出したのだ。

自分が“ギアス”にかけられたことに。

その“誓い”その“誇り”は間違いではなかったことに。

 

「私は、私は――ッ!?」

 

ルルーシュに言葉を投げかけるカレン。

その途中で何かに気付いたように視線を後ろに逸らす。

そして数秒間の沈黙後、

俯きながらカレンは話し出した。

 

「…私はあなたを信じることはできない。さよなら、ルルーシュ」

 

カレンはルルーシュに背を向け、歩き出し、扉の向こうに消えて行った。

 

「…さよなら、カレン」

 

そう呟き、カレンを見送ったルルーシュの瞳は怒気を帯び、扉を睨みつける。

 

 

 

 

「…監禁が趣味だとは聞いていたが、盗聴もそうだったとはな。

 お前の存在は途中で気付いた。出て来い!そこにいるんだろ?扇」

 

 


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