ルルーシュと麦わら海賊団   作:みかづき

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反逆者の最期

 

 

 

 

「あ~やっと落ち着いた!」

 

オレンジジュースを飲み干したウソップは心境をありのままに告白した。

彼がここに至るまでの道のりはそう長くなかった。

“ギアス”によって操られた海王類によって宴が行われた

あの浜辺に戻ったウソップが最初に目撃したのはジェレミアだった。

初見のウソップとってジェレミアはメリー号によじ登り、侵入してきた謎の敵。

それも、農夫に扮した正体不明の機械人間にすぎない。

捕まり、抱え上げられた時には、恐怖のあまり、声も上げずに気絶した。

数十分後。

ゴッドバルト農園で目を覚ますウソップ。

仲間達の顔を見て歓喜の声を上げるも、その後ろで微笑むジェレミアを見て再び気絶した。

そんな短くも濃密な過程を経て、

この場に辿りついたウソップは、ルルーシュが海軍支部に向かったことを一同に告げた。

 

「…なるほどね」

 

一人納得したナミは、

頭の上にクエスチョン・マークを浮かべる一同に哀れみを浮かべながら説明を始める。

 

「いい?この海域の三大勢力は“ブリタニア帝国”“黒の騎士団”そして“海軍”」

 

そう言って、机の上に三つのオレンジを並べる。

まるで子供に簡単な数学を教えるような光景だが、ルフィとチョッパーは真剣な顔でそれを見つめていた。

 

「この内、二つの勢力…”ブリタニア“と”黒の騎士団“が明日、同盟を結ぶわね。

 では、その護衛を勤めるのは誰?」

 

「…海軍だ!」

 

チョッパーはまるで犯人でも見つけたかのように興奮の声を上げた。

二つのオレンジから明らかに孤立させたオレンジを見れば、まさに 一目瞭然だが、

理解させることができれば、ナミにとっては何でもいい。

少し、離れたところから、ジェレミアが

オレンジジュースが注がれたワイングラスを片手に、ウインクしたのは気になるところではあるが…。

 

「そう!ルルーシュがナナリーを助けるためには

 三大勢力を相手にしなければならないの!その最初の障壁が“海軍”なの!」

「なるほど…!そーだったのか!!(ガーン)」

 

「遅せーよ(汗)」

 

いまさら理解に達したルフィをゾロがあきれ顔で見る。

その傍ら、ウソップが沈痛な面持ちで話し出す。

 

「…あいつ、最後に言ったんだ。“もう一度花火を見る約束”守れそうないって。

 まるでもう二度と会えないようなツラしてさぁ…。

 ナミ…あいつ大丈夫だよな?」

 

「…。」

 

ナミは答えられなかった。

この限られた時間の中で三大勢力からナナリーを取り戻すのは不可能だと知っていたから。

 

(…でも、ルルーシュなら、あいつの“ギアス”があれば、もしかしたら…)

 

 

少なくとも、可能性は生まれる。

ルルーシュの・・・他人の意志を奪い、操るあいつの魔眼。

あの恐ろしさは身を持って味わった。

そして、あいつの戦略。海軍を選んだのは正しい。

海軍はおそらく“ギアス”について知らないから。

ゼロの正体がルルーシュ皇子であることをブリタニアは知っている。

 

では、なぜいまだにそれを公表しないのだろうか?

ゼロの正体が敵国の皇子だと分かれば、反ブリタニア勢力の崩壊は必定だろう。

この秘密を公表することに関するブリタニアのメリットは計り知れない。

 

だが、彼らはそれをしない。

いや、それどころか、騎士団のクーデーターでルルーシュの身柄を押さえた後に、

保護するどころか、海軍本部に引き渡した。

ルルーシュを海賊“魔王・ゼロ”として処刑させるために。

つまりは、現ブリタニアにおいて、実権を握っている勢力は「行方不明の皇子」

であるルルーシュに生きていられては困るのだ。だから、ゼロの正体を隠した。

海軍はゼロの正体を知らない。おそらく、その能力である“ギアス”さえも。

 

――勝機は生まれる。

海軍に潜入し、警備の隙をつくか、海軍そのものを手に入れ、ブリタニアに戦争を仕掛けるか、

それは私にははわからない。

しかし、ルルーシュは必ず動く。

妹のナナリーを助けるために。

明日、きっと”何か”が起きるだろう。

 

 

そして――

 

 

 

「私達に出来ることは何もないわ。船を出しましょう!あいつの意志を無駄にしないためにも」

 

 

 

 

 

 

「ナミ!?」

「…!」

 

突然のナミの提案に驚きの声を上げるウソップ。

その横で押し黙るルフィをナミが決断を仰ぐような目で見つめた。

 

「ちょっと待てよ!!短い間だったけど、あいつは“麦わらの一味”にいたんだぞ!

 こんな別れ方があるかよ!!」

 

「そんな言い方は止めて!これ以外に選択肢はないの!迷ってる時間すら――」

 

席を立ち、詰め寄らんばかりのウソップにナミは苛立たしげ声で答える。

 

ナミは思う。

ウソップの言いたいことくらいわかってる。

出来ることなら、手を貸したい気持ちは同じだ。

だが、ルルーシュの次の行動が読めない以上、動くことはできない。

敵はこの海、全てと言ってもいい。

迂闊な行動は、即死に繋がる。

あいつだってそんな結末は望んでいない。 

ならば、事が起こる前にこの海域からの脱出。

それ以外に選択肢はないではないか…!

 

「…ナミの言ってることは一理あるぜ」

 

「ゾロ!?」

 

ナミとウソップの言い合いを離れたところから見ていたゾロがおもむろに、そう呟いた。

その言葉を聞いたウソップは、信じられない、といった顔でゾロを見た。

「あいつを仲間と認めるならば、その“覚悟”を受け取ってやるのが

 オレ達の役目なんじゃねーのか?」

 

「…!」

 

ゾロの短い言葉にウソップは反論できずに黙り込む。

短いが、その言葉は核心をつき、

何よりも、ロロノア・ゾロという男の生き方に繋がっているような気がした。

覚悟。

 

三大勢力を相手に妹を取り戻そうと決意した時からルルーシュはそれを受け入れたはずだ。

必ずナナリーを取り戻す覚悟を。

そして、約束を破ることになるかもしれないことを…。

ウソップに渡した脱出ルートを記した地図は、約束を破る代償であり、

ルルーシュの覚悟そのものだった。

 

「…そうは思わねーな」

 

ウソップが黙り、議論が終結に向かおうとする空気を壊したのはサンジだった。

初めて出会った時から、ルルーシュを嫌悪し、乗船に反対し、C.C.をめぐり料理バトルを展開し、

挙句は、靴の裏を丹念に拭くことになった男。

誰よりも、ルルーシュを嫌っていたはずのこの男が議論の終結を止めるために、

煙草を咥えながら“ツカ、ツカ”とゾロに向かって歩いていく。

 

「あいつが野心のために死ぬなら、勝手にしろだ!海賊らしいと笑ってやるさ。

 ――だが、そうじゃねーだろが!プライドだけは異様に高いあのバカが

 妹さんを助けるために命はろうとしてるんだ!

 覚悟だ!?その背景を察してやるのが仲間ってもんじゃねーのかよ!!」

「…ッ」

「――ちょ、ちょっと落ち着けよ!二人とも」

 

怒気を発したまま、ゾロに詰め寄ろうとしたサンジとゾロの間に

人型に変身したチョッパーが慌てて割って入った。

サンジには、その気はなかったが、チョッパーの行動が逆に場に緊迫感をもたらした。

チッと吐き捨て、ゾロから背を向けるサンジ。

それを最後に一同を沈黙が支配した。

 

爪を噛んで下を向いたナミは考えていた。

そもそも、海賊になろうとする者は野心家で当たり前、自己主張の塊で然るべきなのだ。

だからこそ、他の海賊や海軍相手に勇敢に戦い、時には人々に蛮勇を奮う。

全ては己が望みを叶えるために。それは、この“麦わらの一味”とて例外ではない。

いや、これほど個人レベルで野望を持った海賊団をナミは知らない。

個人の野望(ゆめ)を尊重することで生まれた絆。

“麦わらの一味”が自分達より遥かに巨大な戦力と戦い、

勝利してこれたのはそれがあったからだ。

そして、だからこそ、恐れてきた意見の衝突。

大海賊では起こりえない、個人の主張による対立、そして崩壊。

それが今、まさに起ころうとしている。

少数の海賊、特に“麦わらの一味”にとって“仲間”に関する意見の衝突はあまりに重い。

確かに、ルルーシュが“麦わらの一味”にいた期間は短かった。

しかし、一度、仲間と認めた以上、どう動くか――その決定は自分達に委ねられる。

 

ルルーシュを助けるか否か。

 

 

それにより、今後の“麦わらの一味”の仲間というものの在り方が決定する。

ナミは黙ったままだった。

予感していた。

この件における安易な選択は、後に必ず禍根となることを。

そして、その予感を共有するかのように、一同も黙っている。

時間にしては十分ほど…しかし、数時間にも感じるその沈黙は

勢いよくドアを開けて入ってきた仲間によって破られた。

 

「ロビン…。」

 

「――ハァ、ハァ」

 

ドアから入ってきたのは、ニコ・ロビンだった。

遺跡探索を生きがいとするこの一味のクール・ビューティ。

戦場ですら、優雅に佇むこの女が息を切らせるほど走るのは珍しい。

普段なら、それを肴に小一時間ほど雑談することができるのだが、

この雰囲気の中、誰一人としてそれを指摘しようとする者はいない。

ただ、肩で息をするロビンを見つめていた。

 

「…ロビン。ルルーシュは海軍に向かったそうよ。

 私達はどうするかを今、話し合ってい…」

 

ロビンに最初に話しかけ、途中でそれに気付いたのはナミだった。

ロビンの手には新聞が握られていた。

 

「ロビン、それは?」

「…号外よ。今、エリア11全土に配られているみたい」

 

呼吸を整えたロビンは、一同を押しのけ、テーブルの前に立つ。

その背中見つめる一同。ロビンは振り返ることなく、新聞を置き、それを広げた。

 

 

 

「彼の…ルルーシュの“戦い”の結果よ」

 

 

 

 

「な、なんと――!」

 

ジェレミアは声を上げた。

そこに写っていたのは見紛うことなき、主の姿。

 

「嘘…!」

 

ナミは絶句した。

そんなはずはなかった。勝負は明日のはず。こんな早く決着がつくはずがないのに!

 

「あのバカ…!」

 

サンジは吐き捨てるように呟いた。

第一面に写っている仮面の男に。

 

「そんな…」

 

ウソップは新聞を握り締める。

ほんの数時間前、こいつと一緒だった。こんな終わり方があっていいはずはない!

 

「ルルーシュ!」

 

ルフィはその男の名を叫んだ。

 

その号外は、明日の処刑について書かれていた。

そこには“ゼロの妹”に関する新情報はない。

その代わりに、処刑人、変更の報せ。

ほんの短い旅の仲間。

あの仮面の男が写っていた。

 

 

 

 

明日、”大海賊艦隊”黒の騎士団・元団長“魔王”ゼロの処刑執行――

 

 

 

 


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