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第二十話 少年天竜の冒険(前編)
岡本城まで戻った良晴一行。
結局、毛利軍は上田城を完全撤退。備中、高松城にて本陣を組み、良晴軍と睨み合う事になる。
「天竜.....大丈夫でしょうか?」
「...........」
十兵衛はただ一人備中に残った天竜を気にかけていた。性格には、暴君竜がとった行動を心配しているのだ。
『我が主はまだここから動かせない.....
ゆえに、其方達は先に備前戻っていてほしい。明日、拙者が責任を持って、主をそちらにお連れする』
「天竜は本当に大丈夫でしょうか?もしあのまま起きなかったら.....」
「...........」
「先輩?」
良晴は昨日より、ずっと黙って考え事をしていた。
「俺.....秀家に話すべきだと思う」
「!!?」
「なんだか、後々に付け加えられた言い訳のせいで、有耶無耶にされてたけど、直家を殺したのは事実じゃないか!しかも、それに対して悪びれる様子もなかった!
これは.....人として許されるものじゃない!」
「そんな.....天竜は.....」
「その後の弁解だって、ただの言い訳なんだ!『俺たちを気遣って、わざわざ引き離した?』そんなの嘘っぱちだ!
このままじゃ騙されてる秀家も可哀想だ!直家も報われない!」
「待つです先輩!もし真実を話せば、宇喜多家は確実に織田を見切る。今、宇喜多家を失うのは最大の痛手です!!」
「いや、ダメだ!これを見逃せばアイツはこれからも罪を繰り返す!ここで俺が止めなきゃ.....」
「綺麗事で何でも解釈すんなです!
確かに天竜の行動は『悪』ですが、それでも織田家のために動いてくれてるです!にも関わらず、先輩が織田のためにならない行動をするというのなら.....!」
十兵衛は刀に手をかける。
「先輩でも許せません!」
「十兵衛ちゃん.....」
たった一夜の間に2人の考えは大きく変化していた。十兵衛は己の天竜への気持ちに真正面から向き合い、彼の味方になってあげられるよう誓った。
一方良晴は、昨日の一連の事からあれが天竜の本性であると判断し、裏切られた怒りからも、彼を憎むという形になってしまったのだ。
「騙されちゃダメだ十兵衛ちゃん!
天竜さんは舌先三寸で人を騙す悪魔みたいな人だ!」
「誰が悪魔だって?」
良晴がビクッと反応し、振り返る。
すると、そこには若い天竜と暴君竜が.....
『我が主をお連れしました。
ただし、少々問題が.....』
「天竜!無事だったのですね!」
暴君竜の話も気にせず、天竜に近づく十兵衛。
ところが.....
「はじめまして。僕は勘解由小路天竜といいます」
「.......................え?」
「暴君竜さんから聞きました。貴方は明智光秀さんですね?」
「天.....竜.....?」
「あぁ、そうか。僕は羽柴秀長と名乗るんでしたっけ?これからよろしくお願いしますね」
「ちょっと.....ふざけやがるなです.....何を.....」
その時、暴君竜が口をゆっくりと開く。
『主は記憶を失われた。
性格には記憶も10年分戻ってしまったのだ.....』
「「なっ!?」」
天竜はなんともないように良晴に近付いた。
「君が僕の義弟だね?少し変だけどはじめまして」
『粗方の状況説明はした。幸い理解力は高く、順応性も高いために、問題はなかった』
天竜は良晴に手を差し出す。
だが、良晴は彼のその手を弾いた。
「あんた.....逃げんのかよ.....」
「ん?」
「そんな事で罪を逃れようとしてんのかよこの人殺し!!」
「先輩!!」
「何の事だか知らないけど、初対面の相手に失礼じゃないのかい?」
「んだとっ!?てめぇ!!」
良晴は怒りに任せて天竜に飛びかかる。
「分を弁えなよ」
だが、天竜は良晴の手を難なく掴み取り、捻り、反対にねじ伏せてしまったのだ。
「あぐっ!?」
「僕が君に何をしたかは知らないけど、いきなり飛びかかってくるのは感心しないよ。
仲良くしようよ良晴くん?」
天竜はそれを笑顔で言う。だが、目だけは笑ってなかった。
ただただ、不気味に.....冷たく濁っていたのだ。
「やめなさい天竜!!先輩の腕が折れますです!!」
「明智さんの頼みじゃしょうがないな.....」
「明智さん.....」
天竜は素直に良晴を開放する。
その時、十兵衛は悟った。天竜は本当に記憶を失ってしまった。以前の天竜は死んでしまったのだと.....
すると途端に涙が出てくる。あの天竜はもう帰って来ないのだ。
「えっ.....?」
天竜はそんな十兵衛に近付き、彼女を抱き寄せた。彼自身、自分が何をしてるのか理解してないようだった。
「あれ?何で僕.....あれ?」
天竜もまた涙を流す。
そうして、十兵衛はまた新たに悟った。
天竜は生きている!この少年の中で.....
ところが、良晴は彼を別の見方で見ていた。
これこそ天竜の口説き術。涙を流している彼の顔は、せせら笑う悪魔のように見えたのだ。
その後、とある別の問題が起きる。
そう.....とてつもなく大きな問題が.....
「その風呂敷は何ですか?」
天竜は何やら大きな荷物を持ってきていた。
「あぁ、これ?戦争を終わらせる秘密道具」
「道具?」
その時、風呂敷がもぞっと動く。
「!!?.....何ですか!?生き物ですか!?」
「まぁ生き物だね」
そうして彼は風呂敷を解く。
すると、
「あ.....」
「あ.....」
良晴も十兵衛も唖然としてしまう。
中身は拘束された人間だった。
「んー!!?んんー!!?」
「まっ.....ままままさか本物?」
「うん!」
「何故.....ここに?」
「拉致っちゃった♡」
その瞬間十兵衛はぶっ倒れてしまった。
風呂敷の中身は、足利義昭であった。
昨日の事。
「じゃかあしい!!このバケモン!!」
「死ね!!」
「あははははははははは!!!
弱い!弱い!!」
備中、高松城にて、吉川元春と小早川隆景の両川姉妹の攻撃を淡々と制する天竜がいた。
「ひゃあ!!
早く退治するのじゃあ!!」
足利義昭は怯えながら2人を応援する。
元春は愛刀の姫切を目にも留まらぬ早さでブンブン振り回し、
隆景は弓を武器のように扱い、時折り矢を放つ。だが、それでも天竜を追い詰められる様子は全くなかったのだ。
天竜の武器は例の鉄扇。
それを両手に2つ持ち、武器として扱っている。鉄扇は閉じていれば鈍器となるが、開けば途端に刃物となる。
某無双ゲームに登場する姉妹のようだが、本当に武術の達人が扱えば、これ程厄介な得物はない。
鉄扇は開けば、武器と同時に防具ともなる。片方の扇で敵の攻撃を防ぎ、もう片方で敵を切り裂く。
決して侮れず、かつ油断できない.....いつ喉元をかっさられるか分かったものじゃないのだから.....
「くそっ!くそっ!」
「くっ!!」
「あはははははははは!!!」
邪悪な笑みを浮かべながら、両川姉妹を追い詰めてゆく。
「僕の勝ちだ!」
両脇に回った姉妹に向け、扇を開く。
「ぎゃっ!?」
「うっ!?」
かろうじて武器で防いだが、2人はそれぞれ吹っ飛ばされてしまった。
「んじゃ。勝利報酬として貰うね」
「にゃーーー!!
放すのじゃ~!!このケダモノ~!!」
「将軍様放せバケモン!!」
「うるさいな~。ほいっ!」
「ぐあっ!!」
「姉者!?」
天竜が投げたそれは真っ直ぐと元春の喉元に突き刺さる。隆景が慌てて駆け寄るが、元春は自分でそれを抜き、確かめた程で、対した攻撃にはならなかった。
「は.....針?」
長さ約5寸。裁縫よりはむしろ布団などに使いそうな針である。
「きっ.....貴様!姉者に何を刺した!」
「毒針♡」
「「なっ!?」」
「安心して。即効性じゃないらしいから」
天竜は懐から5~6本の針を取り出し、語る。
「約1年かけて身体を病弱させ、不特定の位置に癌細胞を発生させる。基本は1本でこと足りるが、2本で症状を倍に.....できる!」
天竜が針をもう一本投げる。
「うっ!」
針が元春の胸に刺さる。
「姉者!!」
「はいこれで残り半年~。180日間だよん」
「くっ...........じゃかあしい!!
誰じゃお前は!!」
「僕は勘解由小路天竜」
邪悪な表情を浮かべながら自己紹介をする。
「それと~。癌の位置と進行速度は陰陽術で操れるらしいんだけど、イマイチ分からないなぁ.....大人の僕はそこらへんをどうしてたんだろうねぇ。用法容量をお確かめの上、正しくお使い下さいってね!」
天竜は義昭を野良猫のように掴み、姉妹に背を向ける。
「待て!そのまま逃がすと思っての事か!」
隆景が天竜に矢を向ける。
「ほれ!」
天竜は手に持っていた義昭を盾にする。猫は首根っこを掴まれると大人しくなるというが、その通り義昭は大人しくなっていた。
「くっ!卑怯な!」
「自力で取り戻せばぁ~?
でもその前に元春ちゃんが病死するかもね?ちなみに解毒薬は僕しか持ってないよ?」
「くそっ!」
元春は床を拳で打った。
「あはははははははは!!!!」
そして時は戻る。
『主よ、やり過ぎだ!
将軍様を拉致するなど度が過ぎている!
そんな事をすれば毛利方が.....』
「将軍を取り戻すという名目を大義名分に攻め込んでくるだろうねぇ」
『だったら何故!?』
「君本当に僕のご先祖様?
だったら僕の策略も読めるんじゃあないの?」
『何っ!?』
「アホの義昭をそそのかして味方につければいい。そうすれば毛利はもう手も足も出ない。出しちまったら瞬間、将軍の名の下に朝敵にされてしまうからね」
「それは.....」
暴君竜は頭の中で思う。
従来の天竜は、悪心は内に隠す方だった。そして僅かながらも良心があった。
だが、この天竜にはそれがない。
恐らく10年間でゆっくりと形成されていったのだろう。
今の彼は腹黒というよりは純粋な悪のようであったのだった。
「なっ.....なんでそんな事.....」
「ん?」
「いくらなんでもおかしいよ!
足利義昭の意志を、毛利姉妹の意志を捻じ曲げやがって!」
「ふ~ん。まだ君と会って30分ぐらいだけど、なんとなく君の内心が分かったよ」
「なんだと!?」
「君は優し過ぎるんだね。相手が味方だろうと敵だろうと、相手を不幸にする事をとてつもなく嫌う。皆が皆、幸運になる事を望む。そのためなら、自らの不幸には気を止めない」
それは以前、五右衛門にも指摘された事である。
「でも所詮、そんなのなんて絵空事なんだよ」
「てめえ!」
「全員が全員幸運になる?あり得ないよ。幸運とは不幸の延長上にあるもの。不幸な者がいるからこそ幸運な者が生まれる。悪役を正義の味方が倒し、不幸にする事で、他者が幸運になる」
「違う!俺は.....」
「自分だけを不幸にするというのかい?」
「!!?」
「じゃあ君は僕の幸運の為に死んでくれるのかい?」
「なっ!?」
「できるかい?できるかい?
できないだろう?
人間など所詮はその程度!
口先だけにすぎない!
守る相手を選んで決める正義の味方だなんて、とんだペテン師だぁ。
あははははははははは!!!」
「この野郎!!」
良晴が天竜の胸ぐらを掴みにかかる。
だが、いとも簡単に投げ飛ばされてしまった。
「ぐあっ!?」
「僕に文句あるならいくらでも言いなよ。
聞くだけなら聞いてあげる。
でも邪魔はしないでね?
邪魔したら殺すから.....」
「くっ.....」
良晴は思う。
こいつは敵だと.....
翌日
「あれ?姉ちゃんもこの時代に?」
近畿まで戻って来た一行。
その道程で青蘭と出会う。
「今............なんて言った?」
「?.....姉ちゃん?」
「I LOVE MY BROTHER!!!!」
突然青蘭が大声を出して天竜に抱きつく。
「なっ.....なにすんだよ!?」
「あぁ、あの時だ!私が痴漢されてナーバスになってた時に、痴漢を代わりにボコボコに半殺しにしてくれた、あの優しい竜くんだぁ!」
この姉弟は根本的にどこかおかしいのかもしれない。
青蘭は愛弟に頬ずりをし、完全にキャラが崩壊している。
「だぁー!!気色悪い!!」
「何っ!?若返っただと!?」
「それを知らずに興奮してたんですか」
十兵衛が呆れた声を出す。
今、天竜らは信貴山城にいる。良晴は岡山城に残ったが、十兵衛はかろうじてついて来た。
そして義昭も.....
「わらわは将軍であるぞ!
拘束するなど言語道断!死罪に値する!」
「分かった分かった。スルメ食うかい?」
「いらないのじゃ!!」
人質にも関わらず態度だけは大きかった。
「この事は信奈様には内緒で?」
「まだその人とは会ってないから確証はないけど、言っただけ無駄でしょ?ただただ混乱するだけだ。所詮人間は過程より結果を求める」
「..........」
まるで人間以外の生物のような口ぶりだ。
「終わった後に言えばいいんだよ。結果良ければ全てよしってね。後からぐちぐち言うのは駄目な君主だ」
「ちょっと天竜!」
「どうしました明智さん?」
「十兵衛と呼べと言ったでしょう!」
これでは、いつぞやの真逆だ。
「兎に角、もう他人の前で信奈様の批判はやめなさいです!下手をすれば反逆罪になりますです!」
「君の前ではいいの?」
「特別に許してやるです。
でも今回だけですよ!」
「いいな~。仲いいな~」
デレデレの青蘭がブツブツ言っている。
その時、
「あぁ!!天竜はん!!
新妻ほっぽいてどこ行ってたんや!!」
孫市だった。
「え!?.....誰!?」
「..........貴方の女房です」
「嘘!?僕、結婚してるの!?」
「えぇ。2回程」
「再婚したなんて私は聞いてないぞ!」
「まった、うちの旦那様は女子はべらせて!困ったもんやな!」
孫市はすっかり妻の顔である。
「ちょい待ち!それガチな話なの!?」
「.................そうです」
十兵衛が渋々答える。
「いくら正室の明智はんだって、旦那様独占するのは規則違反やで?」
「うえぇ!?明智さんとも結婚してるの!?」
「それは嘘です!!」
「待て待て!!あの女の時のような失敗がないよう天竜の再婚相手は私が決める!」
「誰やねん自分?」
「天竜の実姉だ!貴様こそ何者だ不審者め!」
「雑賀孫市、天竜はんのお嫁さんや。
小姑は黙っとき!」
「なんだと!?」
「勘弁してください!!」
若き天竜の脳がオーバーヒートを起こした。
大人の時の自分の女性遍歴を知り、すっかり自信を失ってしまった。少年天竜であった。
そんな彼をほっぽいて、向こうでは3人によるガールズトークが繰り広げられていた。
.....といっても、とてもガールのする会話ではないが.....
「人斬り!?」
「そうや。最近その被害が酷くなってきたんで天竜はんに伝えに来たんや」
人斬り被害はその昔、摂津の堺でも起きており、それは天竜によって速やかに対処されたが、それとは別物の人斬りらしい。大和国と紀伊国の境目にて頻繁に事件が発生し、夜間外出を控えるよう民衆に呼びかけているらしい。
「しかも被害者は皆、女性や」
「通り魔か。女ばかりを襲うとは許せん!
私自らがしょっ引いてやる!」
「相手はかなりの手練れらしいで?
斬り口があまりに鮮やかだったんやと」
「それなら大丈夫ですね。森水青蘭は天竜より強いです」
「ホンマかいな!?」
「まっ、姉だからな!」
「あの.....」
完全に追いていかれてる天竜である。
「そういや、天竜はん縮んだか?
髪も伸びとるし」
青蘭と同じく鈍感な孫市である。
「そっ.....そそそそんな事より!
僕の足元にいるのは何かな!?」
そこにはいた!
黒く、硬々しい、それが!
天竜はそれを見まいとかかんに上を向いている。
「なんや、ただのゴキ.....」
十兵衛が慌ててその口を塞ぐ。
「ただの..........コオロギです!」
「そうだよね.....そうだよね!
そうに決まってるよね!
そう願いたい!」
天竜が涙目で訴える。
「そうです!コオロギです!
ほら!.....リーンリーン.....
泣いてるでしょう!?」
「それはスズムシでは?」
「!!?」
青蘭に突っ込まれた。
「コオロギもアレと似たような種族。でも、移動手段はむしろバッタに近い。でもコレは、僕の足元を這って高速移動してるらしい」
「えっ.....えぇと.....」
「そしてコレは僕の足袋から袴へ移動をしているのだが!?」
「うぅ.....」
そして、そのGは羽を広げ、視線を合わせまいとしていた天竜の目の前へ飛んで現れる!
「天竜!!」
天竜は白目をむいてその場に倒れてしまった。
「森水青蘭!!」
「私じゃない!このゴキは偶然ここに出ただけだ!」
「なんにせよ。ゴキブリが怖いなんて天竜はんにも可愛いとこあったんやな」
そう言って孫市はゴキを踏み潰してしまった。度胸があり過ぎるのどうかと思うが.....
5時間後、フラフラになりながらも意識を取り戻した天竜は重い足取りで信貴山城を発つ。
「何処にいくですか?」
「伊勢」
「なにしにですか?足利義昭も信貴山城においてきて.....」
現在彼女の面倒を見てるのは青蘭と孫市である。
「暴君竜に聞いた.....僕は滝川一益や九鬼嘉隆と知り合いだって.....」
「だから?」
「だから船借りる.....」
「船!?」
完全に意気消沈してる天竜から思わぬ言葉が出る。
「船で.....どこ行くですか!?」
「明」
「へぇ、明ですか.....................ふぇ!?」
まさか国外とは思わなかった。
「まっ.....まさか!!私と駆け落ちして明へ逃亡する気ですか!?いけません!私には信奈様と共に天下を取るという目標がぁぁぁ!!」
真っ赤になって暴走してしまっている。
「違うけど.....どうしたの明智さん?」
「うっ.....十兵衛と呼べと言ったでしょう!」
天竜は理由を話し始めた。
「足利義昭は僕らがいくら説得しても振り向いちゃくれない。なんせ将軍の位を奪われたんだからね」
「まぁ.....そうですね」
「だが、義昭はまだ子供だ」
「?」
「子供にとっての絶対の服従の存在って誰だと思う?」
「え?.....それは.............はっ!?」
十兵衛が気づき、天竜はニヤリとする。
「それは親!
彼女の場合は親代わりの.....」
「兄の前将軍、足利義輝!!」
「そう。明に逃げた彼を連れ戻して説得し、味方につければ.....」
「義昭も自然と味方になる.....
そうなれば毛利は大義名分を失う!?」
「そう。血も流さず平和に解決。
どうだい?僕の策略」
「.....完璧過ぎてぐうの音も出ません」
「いしししししし.....
初めてにしては上出来でしょ?
一回やってみたかったんだ」
彼は無邪気にそう言う。
十兵衛は不思議な感情で彼を見つめる。
姿形も内心も、もはや以前の彼とは別人のはずなのに.....
彼は若返っても天竜なのだ。
何も変わりはしない。
天才的で、主君でありながらいつも魅了されていた、良晴以上の恋心が芽生えた彼。
「これから船を借りて明に行く。
君も一緒に来てくれるかい
明智.....じゃなくて.....」
「?」
「十兵衛!」
そう言って彼は手を出す。
「大人の僕が君とどんな関係を持っていたかイマイチ分からないけど.....これから改めて作っていけばいいんじゃないかな?」
十兵衛は思わず吹き出していた。
天竜は元々、大人では無かったのかもしれない。少年がそのまま巨大化したような.....だからこそ、自分は好きになったのかもしれない。
「私が主君です。呼び捨てにすんなです」
穏やかに答える。
「あら?そうなの?」
以前の天竜とはもう会えないかもしれない。でも、「天竜」という存在は今目の前に。彼の中に。そして、私の中にある。
そう、それでいいじゃないか。
「これからよろしくです天竜」
「こちらこそ十兵衛」
そう言って握手を交わす。
「また呼び捨てにしやがったですね!」
「あははははは!」
ある少女が刀を振るう。相手はもう動かない。地面に骸として転がる相手に、少女は何度も刀を突き刺す。側では殺された女の娘らしき幼子が泣きじゃくっている。
ある少女は母親への攻撃をやめ、娘の方へ視線を移す。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!
お母さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「..........」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「五月蝿い」
少女は幼子の喉元に刀を突き刺し、黙らせた。その場が混沌と静寂に包まれる。
「足りない.....血が足りない.....」
そうしてもう一度幼子に刀を突き立てる。
「もっと.....殺したい.....
血がほしい.....」
月明かりが少女の顔を照らす。
「たくさん殺して.....
天竜様に褒めて貰わなきゃ」
少女の目は死んでいた。白い肌は血に染まり、より邪悪さを引き立てていた。
「次は姉上の番.....」
天竜の記憶後退。
それによる、良晴との対立。
十兵衛との関係向上。
そして人斬り.....
新章からヒートアップの二十話でした。
次回予告
少年天竜の冒険(中編)
~剣豪将軍との出会い~