ハイスクールD³   作:K/K

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宣戦、布告(後編)

 無防備と言える様子で現れたこの男こそが英雄派を総ている男であり、今回の事件の首謀者。それを知った途端、一誠は『赤龍帝の籠手』を装着し、木場は魔聖剣、ゼノヴィアはアスカロン、イリナは『擬態の聖剣』を構える。

 

「ああ、先に言っておくが下手に攻撃しない方が良い。この空間はとても脆く作ってある。そして、君たちがさっきまでいた店内と重なる様に存在している。もし、攻撃でもすればすぐにこの空間は破壊され、元の世界に戻ることになる。そうなった時、どんな巻き添えが起こるかは保障しないよ?」

 

 その言葉で攻撃することを封じられてしまった一誠たち。

 

「流石に無関係な人間が傷付くのは心が痛む」

「自分で巻き込んで人質にしておいてよく言うぜ!」

「だからこそ人質には生きていて欲しいのさ。俺は穏便に済むことを願っているからね。少なくともこの場では。それにこれは君たちへの信用とも言える。悪戯に無辜の人々に害を与えない、という信用さ。──それとも俺の目は節穴だったかな?」

 

 一誠や他の者たちが悔しそうに唇を噛み締める。思惑通りに動かされることに不快感を覚えるが、曹操が言った通り無関係の人達が傷付くのは一誠たちの望むことではない。

 上手く言い返せず睨むしかない一誠らの代わりにアザゼルが問う。

 

「お前が噂の英雄派を仕切っている男か?」

「彼には自己紹介したが、もう一度しておこう。曹操と名乗っている。三国志で有名な曹操の子孫──一応ね」

 

 ふてぶてしく名乗る曹操。周囲に仲間が潜んでいるかもしれないが、一人でこの多人数を相手に堂々としている。

 

「お前、ここに──」

「貴様!」

 

 アザゼルの言葉を遮るのは九重の怒声。その表情は幼子に不似合いな憤怒が浮かび上がっている。

 

「おやおや。妖怪の小さな姫君。何の御用でしょうか? 私如きでよろしければ何なりとお答えしましょう」

 

 慇懃無礼とはまさにこれと言わんばかりの態度。その丁寧さが逆に腹立たしさを感じさせる。

 

「ひとつ訊く! 貴様が命じて母上を攫わせたのか!」

「左様で」

「おのれぇ……!」

 

 犬歯を剥き出しにして呪詛を込めた目で曹操を睨む九重。先程までの怯えも母を奪った怨敵を前にすれば吹き飛んでしまう。

 

「母上をどうするつもりじゃ!」

「そのことで今日は報せに参りました」

 

 九重に相手に礼儀正しく接するが、返って九重の癪に障る。今にも飛び掛かりそうな九重の両肩に一誠がそっと手を乗せ、落ち着かせようとする。

 

「報せに? 随分と律儀じゃねえか。痕跡残さずに隠れていたくせによぉ。お陰で京都を楽しむ時間が減っちまったじゃねぇか──で? わざわざ言いに来るんだから耳寄りな報せなんだろうな?」

 

 二人の前にアザゼルが出て、曹操に嫌味を言う。本当ならもっと言いたかったが、それよりも報せの内容が気になっていた。

 

「ああ。我々は今夜、この京都という特殊な力場と九尾の御大将を使い、二条城で一つの大きな実験をする」

「実験だと……? それを堂々と俺達に言いに来たのか? 随分と舐めたことをほざいてくれるじゃねぇか……若造が……!」

 

 抑えていても抑えきれない怒りによりアザゼルの体から光の粒子が蛍火の如く立ち昇っていく。普段、教え子たちの前では見せない憤怒の表情が剝き出し殺意と共に曹操へ向けられる。

 苛烈な怒気と殺気を浴びせられて尚、曹操は涼風の中に立っているかと思わせる爽やか微笑を見せている。

 

「舐めているつもりは無いさ。やるべき事をやり、準備も完璧に終えたからこそ報せに来たという訳です」

「それが舐めているって言うんだよ。そんなことせずに勝手に始めていれば、要らない妨害も入らないってもんだろうが?」

「それじゃあ挑戦する意味が無い。苦難を超えてこそ人間として何処まで行けるか測れるってものですよ。その為の宣戦布告だ」

 

 悪魔、堕天使、妖怪たちに妨害されることを望み、それを挑戦と言い切る曹操。一誠たちは真っ直ぐに言い切る彼に得体の知れなさを覚える。

 

「そ、その為に母上を……? 母上は、母上は何もしてないというのに……」

 

 様々な感情で体を震わせる九重。そんな彼女を見て、曹操は顎に手を当てる。

 

「強いて言うなら……その存在自体が問題なのでしょうね」

 

 情け容赦の無い一言に耐え切れず一誠がつい口を挟む。

 

「お前っ!」

「九尾の狐は絵物語で語られるなら誰もその存在を否定はしない。でも、実在するとしたのならこの世から居なくなることを望むだろうね──普通の人間なら」

 

 そんなことは無い。とこの場で断じる者は居なかった。そもそも全員人間でも無いので言う資格すら無い。唯一、シンが人間という部類に入るがあくまで人間寄りなだけで体には魔人の力が流れている。そもそも思考が普通の人間から外れつつあった。

 

「そんな……そんなの……」

 

 曹操の言葉のショックで九重は上手く言葉を紡ぐことが出来ず、双眸に涙を溜めていく。

 

「いやいや、申し訳ございません。幼い姫君、貴女を泣かすつもりは──」

 

 曹操はそこで言葉を止めると、両手から光を放つ。黄昏の夕陽を彷彿とさせるその光は瞬く間に集束して一本の槍と化した。

 そして、その槍を払った時、影から飛び出した漆黒の巨影が繰り出す刃と衝突する。

 

「これはこれは。噂のオンギョウキ殿ではございませんか」

「貴様が奴らの頭か……!」

 

 オンギョウキの一撃を人の身で受け止めてみせた曹操。それだけではなくオンギョウキの奇襲にも真っ先に気付いていた。その時点で並外れた実力者なのが嫌でも分かる。

 

「──ああ、成程。影を通じて移動することが可能なのか。この結界の中まで入ってこれるとは便利だ。戦いの前に知れて良かった」

「ならば駄賃としてその首、頂く!」

 

 槍と刃が拮抗した瞬間、裂帛した音が空間内に響き渡り、無数の罅が生じ始める。

 

「これは……!」

「彼らには説明したけどこの空間は脆く出来ているんだ。こうやって俺達の鍔迫り合いで崩壊し出すぐらいに」

 

 曹操はそう言っているが、実際は一誠のドラゴンショットやアザゼルの光の槍級の攻撃でもしなければ結界は崩れ出さない。つまり、曹操とオンギョウキの一瞬の拮抗にはそれだけの力が生み出されたということになる。

 張り巡らされた結界がガラス片の様に落ち始め、結界内の光景が揺らぎ始める。結界から元の場所に戻り出す前兆であった。

 

「ちっ」

 

 オンギョウキは起こっていることを正確に把握し、舌打ちをして曹操から離れる。

 

「色々と早くて助かる」

 

 曹操は槍を一回転させ、肩に担ぐ構えになると柄で肩を叩く動作をする。

 

「では今夜。我らの祭りの参加を期待しているよ」

 

 最後まで余裕ある態度を崩さない曹操。

 

「……覚えておけ。その首、私が貰う」

 

 オンギョウキの宣戦布告に対し、曹操は──

 

「残念だが、俺の死は先約済みさ」

 

 ──謎の言葉を残し、突如発生した霧によって消えてしまった。

 曹操が消えると結界の崩壊は早まり、一際大きな音が鳴り響くといつの間にか元の湯豆腐屋にシンたちは戻っていた。

 

「──にしてもこういう店で湯豆腐食ったの初めてだけど、いけるな。なあ? ……おい、イッセー?」

 

 近くに座っている一誠に声を掛ける松田。

 一誠たちは何事もなかったかのように着席しており、曹操を攻撃したオンギョウキも煙の様に消えていた。

 

「どうかしたか? すっげー険しい顔になってんぞ?」

 

 湯豆腐屋に不似合いな一誠の表情に松田は調子でも悪くなったのか心配そうに尋ねる。

 

「……いや、何でもない。この後、どんな観光しようか真剣に悩んでいただけだ」

 

 松田に指摘され、慌てて険しさを緩める一誠。一誠の態度に少し疑問を持つも松田は深く聞くことはしなかった。

 松田は一誠のことに気を取られていたが、他の何人かも似たような表情をしている。

 

「ねえ、間薙君」

 

 表情筋を一ミリたりとも変化させていないシンに桐生が話し掛ける。

 

「どうかしたか?」

「何か嫌なことでもあった?」

「──そう見えるか?」

「ただ、なーんとなくそう思っただけ」

 

 表情は消していてもシンの身から僅かに匂い立つ殺気を桐生は敏感に感じ取り、恐る恐るではあるが気に掛ける。

 まだまだそういったコントロールが未熟であると再認識しながら、この感情を消すことは無いだろうと自覚する。

 強い殺意は魔人の糧になるのだから。

 

 

 ◇

 

 

 その日の夕食も終わり、シンたちはアザゼルに作戦会議のことを伝えられた。今夜行われる英雄派との戦いについての会議である。

 場所はシンと一誠たちの部屋。シトリー眷属たちも加わるので一番大きな部屋で行うこととなる。

 それでも十を超える人数が一室に集まるとかなり密集した状態であった。

 アザゼルが全員集まったのを見ると、作戦会議を始める。

 

「今、二条城と京都駅を中心に非常警戒態勢を敷いてある。京都を中心に動いていた悪魔に堕天使、そして京都に住む妖怪たちにも協力してもらい二条城の観測を行ってもらっている」

「観測、ですか?」

 

 匙がその言葉に疑問を浮かべる。かなりの人数がいるのは分かっているのでてっきり英雄派の者たちを探っていると思ったからだ。

 

「残念だが奴らが『絶霧』で身を隠している以上発見することは困難だ。それに俺達の方から監視に留める様に指示してある。下手に手を出せば多くの犠牲が出る。何せ曹操は最強の神滅具を持っているからな」

「最強って……うぇぇ」

 

 最強。強力な神滅具の中でも更に上位の神滅具。匙の方はその言葉にすっかりと怯んでしまう。

 

「それってあの時に見せた槍のことですよね?」

「そうだ。『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』。神をも貫く絶対の神器であり、神滅具の代名詞となった原物。……俺も見るのは久しぶりだ」

 

 その名に劇的反応を示すのは、教会の教えが今も根付いているアーシア、イリナ、ゼノヴィアであった。

 イリナ曰く天界の熾天使たちすら恐れる聖槍。ゼノヴィア曰く神の子を貫き、その血で濡れた絶対の槍。

 アザゼルが言うに信仰がある者には絶大的な効果があり、槍を見つめてしまうと心を持っていかれるという。

 

「そんな由緒ある聖槍の使い手がよりにもよってテロリストとはな……」

「死んだ神が手招きしているのかもしれませんね」

 

 アザゼルのぼやきにシンが皮肉を言うと部屋の中の視線がシンに集中する。その目が『こんな時に不謹慎なことを言うなよ』と非難していた。尤も、そんな非難の目を浴びせられてもシン本人は平然としている。

 

「はっ。そういう冗談は嫌いじゃねぇぜ。──にしても『黄昏の聖槍』と『絶霧』という上位クラスの神滅具が二つも揃っているってのはどういうことだ? 普通なら誕生と共に分かる筈なのに……誰かが故意に隠した可能性が……?」

 

 ふとした疑問に自問自答を始めるアザゼル。

 

「何かしらの因果関係が発生しているのか? 神滅具の自体が神器のバグ、エラーの類だと言われているのに……所有者も含めて因果律でも起こっているのか? それともこうなる様に全てが集束している? イッセーやヴァーリの予想外の成長もそれと関係が……?」

 

 没頭すると話が長くなると思われたので、一誠が声を掛ける。

 

「あの、先生……」

「──おっと、悪いな。この話は後回しだ。先に話すことがあったな。でだ、観測している連中から二条城に不穏な気が流れて込んでいるという報告があった」

「不穏な気ですか?」

「そもそも京都は陰陽道や風水に基づいて創られた大規模な術式都市だ。それ故に各地に所謂、パワースポットというやつがある。有名な神社だったり地蔵だったりな。それこそ挙げればキリが無い程だ。そして、それらの気脈が現在乱されて二条城に全ての力が流れ込んでいる」

 

 話を聞くだけで危険な予感しかしない。

 

「そこで九尾の狐を使っての実験とくれば。何をするかは分からんが碌でもないことは間違い無い。今回の作戦の目的は八坂の姫を救出して奴らの実験を潰すことだ。その為の人選を今から発表する」

 

 まず名を出されたのはシトリー眷属であった。

 

「まずシトリー眷属は京都駅周辺で待機。このホテルをお前たちに守ってもらう。一応、このホテルは強固な結界が張られているが、敵にはその結界のスペシャリストがいるから安心出来ん。外部から英雄派の援軍が来てこのホテルの生徒を人質にする可能性もある。最悪の結果だけは避けてくれ。匙以外のメンバーで」

「お、俺以外ですか?」

 

 てっきり自分も守備を任せられると思っていたので匙は驚かされる。

 

「お前はグレモリー眷属と一緒に行動だ」

「龍王、ヴリトラの力が必要って訳ですね?」

「ああ。お前とヴリトラの相性は正直予想外のもんだ。はっきり言って今の段階で禁手、神滅具相手でも引けを取らない。だからこそお前の力が前線で必要だ」

 

 匙はブルブルと体を震わす。戦いの最前線に送られる恐怖から来る震えではない。アザゼルにここまで言わせる程に自分たちの実力が高く評価されていることに感動してしまっていた。

 抑えきれない喜びに打ち震えている匙の両肩に花戒と草下が手を置く。

 

「喜ぶのは良いけど無理しちゃ駄目よ、元ちゃん」

「そうそう。皆でお土産を買ってちゃんと会長に渡さないといけないんだから」

「分かっているよ、花戒、草下。俺もヴリトラもこんな所で死ぬ気なんてサラサラねぇ」

 

 そんな彼の背中をパシリと叩く二つの手。

 

「元士郎、気合いは結構だが空回りはするんじゃないよ?」

「危なくなったらさっさと逃げなさい。大丈夫、私たちが誰にも文句なんて言わせないから」

「気持ちだけは受け取っておくぜ由良、巡」

 

 仲間からの激励を受けて匙の精神は大きく昂る。

 アザゼルとしてはその仲睦まじい様子を微笑ましく思うと同時に引き裂いて行動させることに罪悪感の一つも覚えるが、それを表に出すことなく作戦内容の続きを話す。

 

「そして、グレモリー眷属とイリナ、シンにケルベロスはいつも悪いがオフェンス担当だ。この後二条城に向かってもらう。シンのおかげで相手の戦力について最低限の情報はある。だが、それでも危険なことには変わらない。あくまで目的は八坂の姫を奪還することだ。それが出来たら速攻逃げろ。後のことは俺達に任せておけば良い」

「俺達、ですか?」

「ああ。今回の件で外部から助っ人に連絡を入れてある。各地で『禍の団』のテロを潰してきた実績のあるプロフェッショナルだ。魔人の封印にも携わったこともあるぞ」

 

 それだけ実績があるのならかなり有名な実力者だと思われた。

 

「そんな助っ人が……誰ですか?」

 

 木場が誰かと訊くが、アザゼルは何故か微妙な顔付きになる。

 

「後のお楽しみだ──と言いたいが実の所、連絡を入れてはいいがまだ返信が来ていない。……まあ、大丈夫だ多分」

 

 不安が若干残る言い方だが、皆はアザゼルを信じることにした。敢えて助っ人の詳細を語らないのは、これから戦う一誠たちが浮足立たないようにする為である。誰かが助けてくれる、という考え方自体は悪くないが度も過ぎれば神器の性能が鈍る。

 そこから大まかな指示を出した後、アザゼルは各自部屋に残って準備をした後にホテル前に集合することを告げ、解散となった。

 あれだけ人が居た部屋も今はシン、一誠、ケルベロスだけになっている。

 

「なあ……」

「何だ?」

 

 残された時間の間に一誠がシンに話し掛ける。

 

「今まで堕天使とか悪魔とかと戦って来たけど、今度の相手は英雄……何だよな?」

 

 一誠が改まったそんなことを聞いてきた。

 

「いや、何というかさ、俺が人間だった頃って英雄といえば羨望の的じゃん? 特に俺みたいな凡人側からすれば。別に俺は悪魔でドラゴンになったことには後悔していないけど、英雄っていうかヒーローからすれば俺達って都合の良い悪役だよな?」

 

 自分たちは正しいことをしているのだろうが、相手が歴史に名を残す英雄たちの子孫で人間であることのせいでモヤモヤとしたものを抱いてしまうのが伝わってくる。一誠の中では悪魔として人間と戦うことは自分でも軽く驚くぐらいに割り切れている。

 実は正義は正義じゃなく、悪は悪ではないのかもしれないというハッキリ区別出来ずにぐちゃぐちゃに混ざっているこの状況に対しての悩みと言える。

 

「どうでもいいことだ」

「どうでもいいって、おい」

 

 悩みをその一言切って捨てるシンに一誠は流石にムッとした表情となる。

 

「深く考える必要も無いだろ、今回の戦いは。連中の英雄(ヒーロー)ごっこに俺達が悪役で特別に付き合ってやる──ただそれだけのことだ」

 

 英雄派の企みや陰謀を英雄ごっこという皮肉で片付けてしまうシンに、一誠は呆気に取られたがすぐに笑い声を出す。

 

「ははは。こういう時のお前って本当に頼りになるなー。よっしゃ! じゃあ、いっちょ悪役らしく全部ぶっ壊してやるとするか!」

 

 吹っ切れた様子でいつもの調子に戻る一誠。

 

「その意気で頑張れ。『邪悪な赤龍帝(ダークネス・ウェルシュ・ドラゴン)』」

 

 いつぞやのレーティングゲームで出した名で呼ぶ。

 

「おい! 馬鹿にしてんだろ!」

 

 大きな戦いに挑む前とは思えない様な年相応にはしゃぐ二人であった。

 

 

 ◇

 

 

 シンたちが集合地点であるホテル前に向かう途中でゼノヴィア、イリナ、アーシアと合流する。ゼノヴィアの手には文字が記された布にくるまれた長い得物が持たれていた。文字の方は明らかに魔術関係のものである。

 二人の視線に気付き、ゼノヴィアが説明する。

 

「ああ、これか。先程教会から届けられたばかりだ。──改良されたデュランダルだよ」

 

 戦力が増強することは喜ばしく思える反面、いきなり実戦で新武器を扱うことに若干の不安を覚える。

 

「いきなり実戦投入かー。大丈夫なのか?」

「まあ、私とデュランダルらしいとも言えるがな。安心しろ、軽く握ってみたが感触は以前のデュランダルとは変わらなかった。上手く扱ってみせるさ……と断言したい所だが、もしものこともある。またアスカロンを使わせてもらうかもしれない」

「分かった。遠慮なく使え。そういえば──」

 

 一誠の視線がゼノヴィアとイリナを交互に見る。

 

「いつもの教会の戦闘服じゃないんだな」

 

 体に張り付く程密着したボディスーツではなく制服姿なのを指摘する。決してそれを残念に思っているからではない。

 

「ああ、それか。大丈夫だ。きちんと下に着ている。いざという時は脱いで動き易くする」

 

 ゼノヴィアが躊躇いもなく制服の上着の端を掴むと一気に捲り上げた。ゼノヴィアの言う通り、確かに下にボディスーツを着ていたが──

 

「はしたないから止めろ」

 

 ──シンがゼノヴィアの頭を軽く叩いて止めさせる。

 

「むうう……下着を見せている訳ではないぞ?」

「そのずれた発言をしている限り、何度も同じ目に合うと思っておけ」

 

 不満そうにしているゼノヴィアにシンが無表情のまま告げる。

 兄妹の様なやりとりに一誠たちは思わず吹き出し、そこへ合流してきた木場は皆が笑っている光景に首を傾げていた。

 

「あれ? 何かおかしなことでもあったのかい?」

「いやな、さっき──」

 

 緊張感とは無縁の雑談をしながらホテル前にまで来る。そこでは匙が他のシトリー眷属と言葉を交わしていた。

 

「全員集合か。なら行くとするか」

「皆さん、まだこのチームに入って間もない若輩者ですが、足手纏いにならないように頑張ります」

 

 先に待機していたアザゼルが全員揃ったのを告げる。アザゼルと同じく待っていたロスヴァイセは、やや緊張した面持ちながら謙虚な態度で軽く頭を下げた。

 準備は出来た。シトリー眷属たちを残して二条城へ向かう。

 空を飛んで行けば楽だが、まだこの時間帯でも外出をしている人々の数は少なくない。人の目があるので怪しまれないようにバスで移動する。学生がこんな時間に外出するのは目立つかもしれないが、引率する教師が居れば授業の一環として通報されることは無いだろう。

 戦う前の光景としてはシュールかもしれないが、一行はバス停の前でバスを待つ。

 待っている最中、シンは視界の端で何かが駆けていくのが見えた。確認するよりも先に反射的に手が伸び、捕まえる。

 

「ぐえっ!」

 

 後襟を掴まれてカエルの様な声を上げたのは九重であった。敵では無かったので襟から手を離す。九重は咳込んだ後、シンに怒鳴った。

 

「な、何をするのじゃ貴様! 窒息させる気か!」

 

 咳き込みと怒りで九重が顔を真っ赤にする。怒るのは当然かもしれないが、そんなことよりも訊くことがあった。

 

「おい、九重。どうしてここに?」

「赤龍帝! 私も行くぞ! 私も母上を救う!」

 

 そう意気込む九重。健気な決意だがアザゼルが渋い顔をしていた。

 

「裏京都で待っている様に言っただろ? お姫さん?」

「言われた……じゃが、母上の危機にじっとしてなどいられん! 頼む! 私も連れて行ってくれ!」

 

 真剣な表情で頼み込む九重。本来ならばレヴィアタンを護衛として傍に置いておく予定であったが、こうなるとそれも意味が無くなってしまう。

 アザゼルは暫しの間、黙考する。後のことを考えている様子であった。

 

「こうなったら仕方ねぇ。一緒に連れて行くしかねぇな」

 

 アザゼルは九重の同行を認める。

 

「いいんですか?」

 

 木場が小声でアザゼルに問う。場合によっては堕天使と妖怪の間でのトラブルに発展しかねない。

 

「妖怪連中呼んでまた勝手に動かれたら、それこそ問題だ。こんだけお転婆なら何度でもやりかねん。なら、なるべく目の届く所に置いておく方が良い。それにだ──」

 

 アザゼルは静かに周囲を見回す。

 

「八坂の姫さんが誘拐されて間もないのに、九重一人で出歩かせるなんて不用心な真似をするとは思えない。気配は感じられないが、きっと護衛のオンギョウキが何処かに潜んでいる筈だ」

 

 アザゼルに倣って木場や話を聞いていたシンも周りを見渡す。二人の感覚でもオンギョウキの気配は感じ取れない。

 

「まあ、確かにそうなんですが……でも、本当に居る──」

【居るから安心しろ】

「うわっ」

 

 思わず声を上げてしまった木場は慌てて口を押える。姿形の見えないオンギョウキの声が突然耳元で囁やかれたのだから無理も無い。因みにアザゼルとシンにも同じ事が起きており、声を上げることは無かったが顔を顰めていた。

 

「──ということだ。お姫さんの御守は凄腕忍者に任せておくぞ」

 

 そして、停留所へバスが到着し、バスへ乗る一行。特にトラブルも無く、やがて二条城に着こうとした時──

 

「へ……?」

 

 ──バスの中に居た筈の一誠は駅の構内に立っていた。駅には『京都』のプレートが掛けられている。

 あまりに自然過ぎる転送に一誠は夢を見ているのかと思ったが、昼間の湯豆腐屋のことを思い出してすぐに夢ではないことに気付く。

 

「くそったれ……またやられた……」

 

 また『絶霧』によって転送させられたこと、理不尽過ぎる『絶霧』の能力に腹が立ってくる。折角立てたアザゼルの作戦も初っ端から台無しにされてしまった。

 仲間たちともバラバラ。一誠も一人──ではなかった。

 

「こ、ここは地下のホームか?」

 

 九重が不安そうに一誠のズボンを掴む。偶々近くにいたせいで、一誠の転送に巻き込まれていた。

 

「ああ、昼間の湯豆腐屋でのことをまたやられたらしい」

「で、では、ここは別空間に創られた疑似京都なのか? うぬぅ……奴らを隈なく探しても見つからなかったのはここに潜伏していたのじゃな……恐ろしい技よ」

 

 九重の感想に一誠も同感であった。流石は上位神滅具と呼ばれる程のことはある。

 不意に鳴る音。その音に九重が驚いて一誠の足にしがみつく。鳴っていたのは携帯電話の着信音。こんな特殊な場所で携帯電話が通じることに驚くが、ミスではなく意図的に繋げられる様になっているのが分かる。

 着信表示されているのは木場の名であった。

 

「もしもし、木場か? 今どこだ?」

『うん。こっちは京都御所にいる』

 

 電話で互いの位置情報を交換する。この疑似空間がかなり広く作られているらしい。

 

「誰と一緒にいるんだ?」

『ゼノヴィアとイリナと一緒だよ。そっちは?』

「こっちは九重と一緒だ。不味いな……思っている以上にバラバラだ」

 

 シンやアザゼルが一人でも大丈夫だろう、という信頼があったが、もしアーシアが誰かと一緒ではなく一人になっていたらと思うと途端に不安に思う。アーシアには今も護衛としてギリメカラが影の中に潜んでいる筈だが、確実に守ってくれる、と言い切れない程怠惰なので余計に不安が増す。

 そもそもこの疑似空間に招いたのは『絶霧』の所持者。アーシアたちと『絶霧』の所持者との間にはそれなりの因縁があるので単独行動をさせられている可能性が高い。

 

「ここは──」

 

 そこまで言い掛け続きの言葉を呑み込んだ。英雄派と思わしきサングラスの男が静かにそこに佇んでいる。

 

「木場、後で二条城で合流だ」

 

 口早にそう告げ、携帯電話の電源を切る。そして、九重を守る為に一歩前に出た。

 

「九重。お前のお袋さんは絶対に救う。だから、俺の傍から離れちゃダメだぞ? お前を守れなくなるからな」

「う、うむ! 分かった!」

 

 これから始まる戦いへの緊張と、戦う男の顔付きになった一誠に九重は声を上擦らせる。

 

「相変わらずカッコイイな赤龍帝殿。俺のことは覚えているかな?」

 

 皮肉ではなく素直に称賛した後、自分のことを聞いてくるサングラスの男。

 

「見覚えは……ある」

 

 一誠の言う通り見覚えはあった。しかし、何処であったのかは思い出せない。

 サングラスの男は正直な返答に特に不快感を見せず、寧ろ納得する素振りを見せる

 

「まあ、そんなところだろうな。いや、雑魚だったあの時の俺ですら記憶の欠片程度覚えてくれたことに逆に礼を言うべきかもな。──でも、それじゃあ公平じゃない」

 

 サングラスの男がそう言うと男の足元から伸びる影が生物の様に蠢き、形を変える。その能力を見て、一誠はサングラスの男と何処であったのかを思い出した。

 

「思い出した……俺の町を襲撃してきた影使いの神器所有者……!」

「ご名答。ついでに神器の名は『闇夜の大盾(ナイト・リフレクション)』だ。覚えたか? それとも覚えていたか?」

 

 サングラスの男はペラペラと喋っているのだが、一誠は彼から余裕を感じなかった。笑みを浮かべているというのに、顔色は病人の様に蒼褪めている。よく見ると手足も震えていた。

 サングラスの男もそれを自覚しており、細かく震える手を見て、強く握り締める。

 

「曹操に頼み込んで手に入れたチャンスだ……思い出せ、思い出せ! あの時の悔しさ、怖さ、不甲斐なさを……! やれる……俺はやれるんだ……!」

 

 過去の敗北を糧に自らを奮い起こそうとしている。

 一誠からすれば不思議な気分であった。同格、格上扱いをされたことは過去にあったが、畏怖の対象として見られているのは初めてであった。

 

「そうだ……! 俺はやれる……俺は赤龍帝に勝つ! 薄汚い野良犬がドラゴンの喉笛を搔っ切る瞬間を見せてやる!」

 

 

 ◇

 

 

 一方的に切られる一誠との通話。木場はそれを咎めることはしない。する余裕が無かった。

 一誠の許にサングラスの男が現れた様に、木場たちの前にも英雄派の刺客が姿を現していた。

 

「グチグチと文句を言っていたけど、やっぱり良い仕事をするね、ゲオルクは。こんばんは。そして、初めまして木場裕斗君。そちらの二人とは久しぶりかな?」

「あれで小言が少なかったら、お姉さんもっと好きになってたのになー」

 

 三人と対峙するのはジークフリートとジャンヌ。

 

「初めまして、だ。君のことについては色々と聞かせてもらったよ」

「やはり、お前だったのか……」

「ジークさん! まさか貴方が『禍の団』に付くなんて……!」

 

 三人の反応がジークフリートにのみ向けられているとジャンヌはわざとらしく涙を拭うジェスチャーをする。

 

「私も居るのに悲しいなぁ。お姉さん、泣いちゃうよ? ジー君は相変わらずモテモテで妬いちゃいそう」

「ふふ。まあまあ。大丈夫、僕一人で独り占めはしないさ」

 

 ジークフリートは複数帯刀している魔剣の中からグラムを引き抜く。

 

「お互いのことは既に知っていることだし、ここからは剣士同士剣で語ろうじゃないか。迅く、鋭く、激しく、ね」

 

 

 ◇

 

 

 バラバラに飛ばされたロスヴァイセ。彼女もまた二条城を眺めて自分の場所を確認していた。その隣ではケルベロスが座っている。

 

「いきなり出鼻を挫かれてしまいましたね……ここはアザゼル教諭と一旦連絡を──」

「待テ」

 

 連絡を取ろうとしているロスヴァイセを止めるケルベロス。彼はいつの間にか前傾になっており戦闘態勢に入っていた。それを見てロスヴァイセもスーツから鎧へ換装する。

 破砕音と共に地面へ降り立ったのはヘラクレス。ケルベロスの姿を捉えるとボキボキと指を鳴らす。

 

「よおー、犬ッコロ。再戦に来てやったぜ」

「グルルルル。今度コソソノ頭、噛ミ砕イテヤル」

 

 互いに威嚇する様に歯を剥き出しにしする。

 ケルベロスに注目していたヘラクレスであったが、傍らにいるロスヴァイセに気付いた。

 

「何だおまけも付いているのかよ。まあいい。二人──じゃなく一人と一匹まとめて相手してやるか」

「あまり甘くみない方がいいですよ? 北欧の魔術がどれ程のものかその身で体感してみますか?」

 

 おまけ扱いされたロスヴァイセ。戦乙女の誇りが傷付いたのか、普段よりも刺々しい口調で言葉を返す。

 

「よく見りゃいい女じゃねぇか。なら中身も良いかどうか確かめてやるぜ! 俺は外見も中身も拘る方だからなぁ!」

 

 拳を握ると巨漢ヘラクレスが二人へ襲い掛かる。

 

 

 ◇

 

 

「ここは……? イッセーさーん!」

 

 孤立したアーシアは一誠の名を呼ぶが返事は無い。周囲には薄い霧が掛かっており、自分が『絶霧』の領域内に連れて来られたのを理解した。

 

「──久しぶりだな。アーシア・アルジェント」

 

 霧の中から浮き上がる様に出現するはゲオルク。

 

「貴方は、ゲオルクさん……!」

「あの時の雪辱をここで果たさせてもらおう! さあ、ギリメカラを呼べ!」

 

 ゲオルクがそう言うが、アーシアの方は困った様子であった。

 

「どうした? 早くギリメカラを出せ」

「あ、あの……私、一度もギリメカラさんを呼び出したことが無くて……」

「な、何を言っている? お前と契約をしているんじゃないのか?」

 

 アーシアはギリメカラと契約して使役していると思っていたゲオルクは、違っていたことに動揺する。

 

「一応、私が預かっている形にはなっていますけど……」

「兎に角、ギリメカラを呼べばいいんだ! お前たち二人を相手にしなければ意味が無い!」

 

 若干必死な様子でゲオルクが言うので、アーシアも取り敢えずギリメカラを呼んでみる。

 

「ギ、ギリメカラさーん!」

 

 自分の影に呼び掛けてみた。返事は無い。もう一度、アーシアが呼んでみる。やはり反応は無い。

 

「ギリメカラは……そこに居るのだろう?」

「えーと……多分?」

「多分では済まんぞ! 居なければ俺が困る! 何の為にここまでお膳立てをしたと思っているんだ!」

 

 予定が大きく狂い始めていることにゲオルクは焦り出していた。仲間の要望をあれこれと細かい作業をしながら叶えたというのに、自分だけ上手くいかないなど納得出来る筈が無い。

 もしかしたら、ここにはアーシアだけしかいないのでは。そんな不安をゲオルクが抱いた時、不意にアーシアの影から黒い煙がゲオルク目掛けて噴き出す。

 瞬く間に黒い煙に包まれるゲオルク。すると、アーシアの影からギリメカラが這い出てきた。

 

「ギ、ギリメカラさん! やっぱり居たんですね!」

 

 ギリメカラの存在に一先ず安心するアーシア。ギリメカラは特に彼女へ興味を示さず欠伸をしていた。

 

「全く……相変わらずふざけた奴だ」

 

 黒煙の中から聞こえるゲオルクの呆れとほんの少しの安堵が混じった声。黒煙──毒ガスが白い霧によって浸食されていき、最後には覆い尽くされる。

 

「だが、それで結構だ。その余裕を今から俺が剥ぎ取る……!」

 

 

 ◇

 

 

「俺って日頃の行いは良いと思うんだけどなぁ……」

 

 途方に暮れた様に匙は独り言う。

 

「そりゃあ、グレていた時もあったけどさぁ。ちゃんと反省して真面目にやって来たとは思うんだよ」

『お前の過去も断片ながら我も知っている。まあ、それとこれとはあまり関係は無い。そういう時もある、それだけだ』

 

 匙の裡に居るヴリトラが慰めの言葉を掛けた。

 自らの境遇に嘆きながら空を見上げている匙。彼の視線の先には夜空に向かって吼える、金色の獣──九尾の狐がいた。

 十メートル近い大きさの九尾の狐。広げられた九本の尾でより大きく見える。

 匙は特に何かをした訳では無い。転送された場所で偶然、八坂らしき人物を発見したので確認の為に声を掛けただけ。そうしたら、苦しみ出して女性の姿から狐の姿に変わってしまった。

 どう見ても正気を感じず、操られている目をしている。そして、その操られた目は匙を敵として見ていた。

 

「何かさぁ! 最近の俺ってデカい敵とばっか戦ってねぇか!」

 

 牙剝く伝説上の妖怪に、匙は泣き言を言いながらも自分も伝説の龍の力を顕現させる。

 

 

 ◇

 

 

「残り物には福がある、ってことわざも存外馬鹿にしたものじゃないみたいだ」

 

 二条城の本丸にて曹操は上機嫌そうに『黄昏の聖槍』を回しながら言う。

 彼の前に立つのはアザゼル。そして、もう一人オンギョウキが居た。

 九重の護衛として影に徹するつもりであったが、『絶霧』の転送によって引き摺り出された挙句に九重と引き離されてしまった。今更ながら曹操の前で一度姿を見せてしまったことを悔やむ。オンギョウキが影に潜むのが分かっていてきちんと対処をしていた。

 アザゼルとオンギョウキを前にしても曹操は至って平常である。

 

「やれやれ。随分と思い切ったことをしてくれるじゃねぇか」

 

 アザゼルはファーブニルの宝玉を取り出し、いつでも人工神器を発動出来る様にする。

 

「……この場所に八坂様が捕らわれているのか?」

「ええ、勿論。救いに来たのだからきちんと用意しているさ。実は居なかった、という意地悪なんてしない。ただし──」

「救いたければ自分を倒してからにしろ、という訳か」

「流石、話が早い」

 

『黄昏の聖槍』の穂先が金色のオーラに包まれ、力の一端を解放する。

 

「──おい、オンギョウキ。ここは協力して行くぞ。一人で勝てる様な生易しい相手じゃない」

「元よりそのつもりだ。あの聖槍の輝きを見て一人で勝てると思う程自惚れてはいない」

 

 自然に手を組むこととなったアザゼルとオンギョウキ。その光景に曹操は不敵に笑う。

 

「これは光栄の極み! 聖書に記されし、かの堕天使総督と唯一無二と謳われる本物の忍が戦ってくれるとは!」

 

 曹操の覇気に応じて聖槍の輝きは世界を染め上げる程に強くなっていく。

 

「この挑戦、受けよう! 人間として!」

 

 あくまで自分が挑む側とし、曹操は槍を構えた。

 

 

 ◇

 

 

 まんまと隔離されてしまったシンは周囲を確認する。二条城の近くなのは分かる。仲間たちと合流するのが優先すべきことだが、下手にうろついていると敵に見つかると思い、取り敢えず目立つ場所である二条城を目指すことにする。

 だが、その足が先を進むことは無かった。誰かの向けられた視線を感じ取ったからである。そして、その視線には明確な殺気が込められていた。

 小さな足音と共に姿を見せたのはその足音に見合った男の子であった。場違いな存在に思えるかもしれないが、その目から放つ殺気は間違いなく本物であり、シンに敵意を覚えているのが伝わって来る。

 男の子──レオナルドは足元の影を広げる。大きく広がった影は盛り上がり、姿形の統一されていない何十もの異形が形成されていく。

 英雄派が持つ()()()の神滅具『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』。それが生み出す無数の牙と爪がシン一人へと向けられる。

 

 




次回から戦闘回となっていきます。

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