残忍な描写、オリジナル設定が出てくるのでご注意ください
黒鉄本家の離れの一室で黒鉄厳を始めとし分家の当主が揃っていた。
「…あれはもう気が狂っている。黒鉄の家に害を為すだけだ」
黒鉄厳が眉間を揉んでいる。
「では処分なさると?」
分家の当主の一人に無言で厳が首肯する。この場では先程一輝の引き起こした事に対しての話し合われていた。そして一輝の処分について話し合われていた。
「私どもに任せていただいてよろしいでしょうか」
下座にいる男が発言する。彼の家は魔導騎士としてよりも病院経営が主であり自分の立場を少しでも良くしようとしての発言であった。
「任せよう」
厳がその男に向かって言い放つ。彼の家は病院関係を経営しているので上手く死亡診断をごまかせるだろうとの判断であった。その言葉をきっかけに全員座布団から立ち上がった。
昔、母から黒鉄の家には座敷牢があり外に出せないようなものがあるという事を聞いたことがあった。よく悪い事をするとそこに閉じ込めると言われた物であった。
一輝はそこに幽閉されていた。部屋の広さは4畳ほど周囲を固有霊装の展開を封印する紋が刻まれている。壁と地面はコンクリートで補強され扉は鋼鉄製であった。
「何故僕がこんな目に」
一輝の身体は拘束具で強制的に跪かされ後ろ手に拘束されていた。拘束具は昔の物で身体を締め上げ、体を痛みで苛ませる。その痛みが自分を閉じ込めた者への憎悪を煽っていた。
『…あれはもう気が狂っている。黒鉄の家に害を為すだけだ』
ふと父の声(というより思念だろうか?)が頭の中に響く。
『では処分なさると?』
それに対し父が無言の肯定を行ったのを感じとる。目の前が怒りで真っ赤に染まったように感じる。
「……父さん、あなたは僕を殺すおつもりですか?」
怒り、悲しみ、憎しみそういった感情が体中を駆け巡りそれに応じ体の拘束具が軋みを上げる。
「…………ただ、ただ僕は認められたい、愛されたい。ただそれだけしか望んでいなかった」
その呟きと共に拘束具を止めていたボルトや鋲が見えない力で引っ張られたのように弾け飛ぶ。
一輝はゆっくりと立ち上がった。
「あなたがそう言うのならばもう結構だ」
扉の前で立ち止まる。両の掌を合わせ、フォースを集中させる。両の掌に凄まじい密度の力が凝縮し密度を高めた。
一輝は右足を軽く引き体勢を安定させるとフォースによる砲弾を鋼鉄の扉に叩き込んだ。
座敷牢の外では男が二人監視についていた。しかし興味はもっぱら一輝から取り上げられたライトセーバーに向けられていた。
「すごいなコレ」
男がライトセーバーを起動させ軽く振る。
「俺にもやらせてくれよ」
もう一人の監視が声をかけた瞬間轟音が部屋中を震わし、座敷牢の鋼鉄製の扉が吹き飛ぶ。二人がぽかんとその扉を見る。何をどうしたのか鋼鉄製の扉が凄まじい力でひしゃげている。
「と、止まれ!」
座敷牢から一輝がゆらりと出てくるのを見咎めると監視がすぐに固有霊装を展開する。
「返せ」
一輝の一言共にフォースでライトセーバーが監視の手からもぎ取られ持ち主の下に戻り赤い光刃を展開する。
「厳様から手向かいするようなら死をも辞さんとの事だ」
その言葉を契機に監視二人が襲いかかった。
『座標交換(シフトチェンジ)』
監視の一人が固有霊装を媒介に異能を発動させる。その能力は文字通り座標の交換、擬似的な瞬間移動であった。これにより監視二人が一輝を挟み撃ちをする形となったがそれに動揺したような様子は見られない。ただライトセーバーを下段に構えただけである。
監視二人は目配せで合図しほぼ同時に斬りかかる。しかし一輝はそれに動じず目を閉じ構えたままであった。
『!』
監視二人が驚愕する。一輝は一人目の斬撃が届く前に刺突を叩き込み、間髪入れず姿勢を低くし体をを回転させ薙ぎを、攻守を両立させた攻撃でもう一人を黙らせた。
一輝は感情を伺わせない目で2体の死体を眺めた。一人はプラズマ刃で顔に大穴を開けられもう一人は両断され、断面が炭化している。
今の二人は決して弱いわけではなかった一輝の異常な力を目にしたものが相応の使い手を配置していた。しかし一輝の絶望と怒り、哀しみは彼自身をより深い暗黒面に叩き落しフォースの力を増大させ、戦闘における短期的未来予知を可能としていた。
『陰鉄』
一輝の右手に夜の闇から形成したかのような長刀が現れる。
「?」
それを訝しげに見た。隕鉄はもっと黒硝子のような色でありこんなどす黒い物ではなかった。だがすぐにどうでもいいと断じ1階への階段に足をかけた。
魔導騎士の固有霊装とは自らの魂を具現化した物であり、その強度や形状は魂に左右される。極端な事を言えば魂の有り様や精神構造を変化させることが出来れば強度や形状を変えることが出来る。しかしそんなことはあくまで理論上の話である、だがその理論上の事が一輝の固有霊装に起きた。
形状はかつて憧れた曾祖父の『サムライ・リョーマ』の固有霊装と同じ日本刀、しかし刀身が彼の心の闇を反映したかのような黒々としたものになっていた。
離れの大広間には多数の分家の人間が詰めていた。彼らは全員先ほどから脊髄に鉄棒を突っ込まれたような怖気と負の感情に襲われていた。それにより誰もが精神の均衡を欠いていた。
そんな中大広間の襖が吹き飛ばされそこから固有霊装と赤刃の西洋剣を両手を携えた一輝がゆっくりと入り彼らを睥睨した。固有霊装の長刀からは鮮血が滴っている。
『殺さねばならない』
彼ら全員の意志は無言のうちに統一され、固有霊装を展開する。それぞれ刀、長槍、弓などを展開し一輝に向かい構える。
しかし彼はそれを嗤い怒号と共にフォースを解放した。
次の瞬間広間にいた全員が突風で飛ばされた発泡スチロールの如く外や壁に向け勢いよく叩き込まれた。
一輝は壁に叩き込まれた者達に目をやると彼ら全員に念を送った。
『殺し合え』
意識を保てたものは何とか反撃を試みようと身を起こすとある衝動に襲われた。
『誰でもいいから殺したい』
その欲求に従い一人が長槍を友の腹を穿つ、しかし友は腹に槍が突き刺さっているのを気にすることなく彼に刀で斬りかかる。
これと同じ光景が大広間で展開された。親子が兄弟が友人同士が互いに技量と異能の限りを尽くし殺し合う異常な光景が繰り広げられた。
「おおおッ!」
「…ぐゥううッ」
気迫と苦悶の声が響く大広間を眺めながら一輝は自分のフォースの能力を満足するのと同時に疑問に思った。一輝の洗脳は一般人には効きやすいが魔導騎士には効き目は殆どなかったはずである。しかしそんな事はすぐに頭の中から消えた。
「父さんに僕の実力を見せよう」
思い出したのように離れの奥に進んでいった。フォースの感知によると人は殆どこの離れにいて本邸には人が感じられない。
尚一輝自身は知る由もないが暗黒面のフォースで精神の均衡を欠いていたからこそ魔導騎士に洗脳が通用しただけである。
黒鉄の分家の一つである佐島の当主がフォースの砲弾で防御ごと吹き飛ばされる。彼は自分の固有霊装を失った事を悟り、探すもどこにも見当たらない。
「は?」
上を見上げると自分の固有霊装の短槍が浮かんでいるのを見たのが彼の人生最後の光景であった。念動力で高速射出された短槍は彼の心臓を貫いた。
黒鉄一輝はその屍を踏んづけて廊下を進んだ。
襖を開けた瞬間幾本もの矢が一輝に襲いかかるがフォースの防壁に防がれふわふわと宙を漂う。
「…そんなものでぇ!」
怒りが込み上げてくる。その怒りに従い防御に回していたフォースを解放し射手を吹き飛ばそうとするがテレキネシスの波動が減衰される。誰かが何らかの異能を発動させたのだろう。
「今だッ!続け!」
刀や小太刀を携えた男たちが数人畳を滑るようにして一気に一輝との距離を詰めようとする。
「この力に跪けッ!」
一輝がシスの稲妻を放つ。
「ガァァああッ!」
「おおオおおおァァあああああ!」
両の掌から膨大な紫電が発され一輝に向け殺到する剣士と後方の射手を焼き、悶え苦しむ声で広間が満たされる。
一番近くで雷撃を受けた剣士は人型の炭と化し、後方の射手は術の防御が間に合ったのか辛うじて生きていた。しかし動くのは非常に難しい。フォースライトニングは電撃の物理的効果を持つ、その上邪悪なフォースで編まれているのですぐに回復するのは困難であった。
「ぐうッ!」
一輝が生き残りの首を隕鉄で適当に掻っ切っていると踏んづけた死体だと思っていた者が声を上げた。
「……あなたは…」
一輝はその娘に見覚えがあった。
「…お願い、助けて」
年の頃はまだ20に届いてない。勝気そうな目とポニーテールに纏めた艶やかな髪が魅力的であった間違いなく美少女と呼べるだろう。
しかしその美少女に一輝の憎悪は掻き立てられた。彼が6歳の時分家の少年、少女が彼を剥き人として考えられる限り最悪の行為を行った。今一輝の前で赦しを乞う少女はその一人であった。
「……君は僕がそう言った時やめてくれたかい?」
一輝は笑い、プラズマ刃で少女の顔を焼き貫いた。
「この気狂いがぁッ!」
斬りかかってきた壮年の男性の刀をライトセーバーの柄で受け止めると隕鉄で瞬速の刺突を心臓に見舞った。
(……そう言えばこの人は金扇家の当主だったな)
そんな事を考えながら二人同時に斬りかかってくる剣士を斬り伏せた。
「…………一輝これはお前がやったのか?」
後ろから声が掛けられる数年は聞いてない声であった。
「王馬兄さんじゃないですか」
一輝がひらひらと手を振る。それと同時に負の感情が湧きあがり暗黒のフォースが体中を巡る。
「何故こんな事を!?」
「……兄さん、その質問ズレてます」
一輝は二刀を構えた。
王馬は連撃を繰り返すが一輝はフォースの未来予知と身体強化を駆使し互角以上に進めていた。
『真空波ッ!』
王馬が後退し伐刀絶技を連続してきた放つがライトセーバーで真空の刃を防ぎ隕鉄での薙ぎを放つが超絶的な反射で跳躍しそれまでであった。
「カッ!」
フォースの砲弾を撃ち込まれ壁に叩きつけられたところを『陰鉄』で昆虫の標本の如くピン刺しになった所をライトセーバーで四肢を切断する。
「ガァァアアアァァあっ!!」
プラズマ刃の痛みに王馬が叫ぶ。一輝はそれに笑みを深め掌で顔を掴み稲妻を放った。人肉の焦げる生理的な嫌悪を催す匂いが室内を満たす。
一輝は普段の兄とは想像もつかない姿に満足するが父がいないのを不思議に思う。もう離れは一周したはずであった。
「探してみるか」
そう言い目を閉じ軽い瞑想状態に入るとフォースを探知する。
「……」
数十秒後、目を開けると一輝は元の経路を辿りはじめた。
「父さん、ここにいましたか。こうでしたら最初からここで待っていた方が正解ですね」
「……私の過ちはお前が生まれた時に処分しなかった事だ」
黒鉄家現当主、黒鉄厳は固有霊装を抜刀し構える。次の瞬間には一輝との距離を一瞬で詰め刺突を繰り出す。
「ちっ!」
一輝はフォースで強化された身体で大きく後退すると念動力の砲弾を何発も撃つが厳も見事な体さばきで躱していく。外れた砲弾が床に大穴を開けていく。しかし厳の足場を的確に奪っていく。
「おオオッ!」
厳は驚くべきことにフォースの砲弾による弾幕に突っ込むことを選び突き進む。どういうわけか弾幕の隙間を縫い刀で切り払い。先程の高速移動術で右側面からの斬撃を放つ。
普通ならばそれは決まっていた。虚を突きフェイントを混ぜた突撃は完璧であった。しかし相手が悪かった。今の一輝はほぼ完全な未来予知を可能としている。
その一撃をライトセーバーで受け止めると固有霊装の展開を解除した手でフォースの砲弾を叩き込み壁に叩きつけた。
一輝は一瞬で壁まで距離を詰め厳の首根っこを掴み、その目を覗き込む。実の父の眼は恐れと困惑に満ちていた。そんな父に微笑みかけるとライトセーバーで胴を薙いだ。
その時後方で何者かの気配を感じ、一輝はゆっくりと振り返った。
短い銀髪にヒスイ色の瞳の少女が立ち尽くしてこちらを見ている。この惨劇を前に固有霊装の展開もしていない。
「珠雫か…」
「……兄様」
一輝を唯一慕ってくれていた妹がそこにいた。
父親と兄貴があっさりやられてたかもしれませんが一時的な超強化で勝ったと解釈してください。なお今話の一輝のチート的な強さは今回だけのブースとお考えください。
感想、批評お待ちしております。
余談なのですが感想にかなり助けられてます。当初はSW成分はフォースぐらいしか出す予定がありませんでしたw